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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之肆『導師 車輪 魔王城』
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第十四話 ティレン城I 『このボクがね!!』

 ティレン城内メインストリート。

 煉瓦作りの町並みが広がる、どこか暖かみのある大通り。

 客引きと呼べるほどの呼び子の声はなく、どちらかというと客の方からのんびりと店に出向くことが多い、アンティークな香りのするそんな街。


 その中をまっすぐ歩く二人の人影があった。

 一人は楽しそうに鼻歌交じりにスキップしながら町並みを見て回る少女。

 鮮明な桃色のナチュラルボブに、かわいらしい純白のパフスリーブ。下には黒のフリルミニスカート。誰もが振り返るほどの魅力的な少女は、むしろこの街の虜になっているかのように心地よさそうに散策していた。


 もう片方は、そんな彼女の後ろを歩く青年。

 少女とは対照的に黒い髪を長くのばし、その上から三度笠を被っている。

 着流しに下駄、どこか極東風の雰囲気を感じさせるその風貌。


 面白い組み合わせの見ない顔二人組は、周囲からも注目の的であった。


「……と、ここ曲がるみたい」

「おっけさんきゅ」


 多くの人が行き交うメインストリートから、しばらくして二人は脇にそれた。

 満足な区画整理がされていないこの街は、一歩道をはずすととたんにごちゃごちゃとした路地になる。しかしそんな中を、少女は迷うことなく先導していった。


「泣く子も黙るティレン城塞、ねえ」

「一見そんな風には見えないけど、ちゃんと城塞都市として機能してる。兵士が多いのもそのせいね。検問も結構厳しいし」

「空飛んでくる魔族に無警戒な時点でお察しだろ」

「空飛べるような魔族、多くないから。しかも紛れ込むとしたら人型でしょ? ほとんどいないわ、そんなの。というかそんなのが紛れ込んだ時点で敗北決定なんだしいいんじゃない?」

「そぉかなあ」


 ヴェローチェも、ヒイラギも、吸血鬼のフレアリールちゃんも余裕で飛んでたんだけど。という言葉は飲み込んで。


「……と、ここね」

「あん?」


 さくさくと路地を進むことしばらく。

 煉瓦作りの細道の中、小さな看板が下がった一軒の店を見つけた。


『シャノアール魔導具店』


「……商売あがったりじゃねえの?」

「失礼なこと言わないの。そもそも魔導具店は副業らしいから。ここの軍に、魔術師として登録されているみたいだし」

「システムがわかんねえ」


 首を傾げるシュテンをおいて、ユリーカは堂々とその店の扉を開く。

 からんころんとベルの音がして、シュテンもひょっこり後ろからその店をのぞき込んだ。店内は明るくない。テーブルや椅子といった家具の上に、調度品のように様々な物品がところ狭しと並んでいる。


「おいおいこれ全部魔導具じゃねえか」

「……流石に野ざらしにしているとは考えにくいし、誰かがくるのを待ちますか」


 ふん、と鼻息とともに腰に手を当てるユリーカ。

 その時だった。


「やや! お客さんかい!?」

「うぉ」


 カウンター奥の扉から、勢いよく箒が飛び出してきた。

 店内を飛び回る箒の上にまたがって、一人の青年が二人を見据える。

 軽く一回転して飛び降りると、彼はユリーカとシュテンの前に着地した。


「ふむ、少しこの箒は調整が必要なようだね」

「あの」

「ああようこそ魔導具店へ。最近は店からものを盗もうとする不届き者が多いからね、今も裏で張ってたんだよ。そしたら店員がくるまで待ちそうな勢いだったからね、こうして来たという次第さ。このボクがね!!」


 キラリと輝く眩しい白い歯。

 茶髪をかきあげ、店員の彼は高らかに笑う。

 げんなりした表情のユリーカとは別に、案の定この男はおもしろいものを見つけたという風な笑顔を浮かべて店員に向き直った。


「世知辛い世の中だなおい」

「世界はいつだって世知辛いことばっかりさ。それでもやっぱり守らなければならないものがある。だからこそ立ち上がり、戦うのさ。このボクがね!!」

「俺たちシャノアールって人を探してるんだが」

「このボクだね!!」

「希代の天才と謳われる最高峰の魔術師、それは?」

「このボクだね!!」

「ティレン城最後の要として期待されるこの街における最強は?」

「このボクだね!!」

「檻を使わずに家畜を育てるのは?」

「ホウボクだね!!」

「……やるな」

「きみこそ、初見でここまで合わせてきたのはきみが初めてだよ」


 がしぃ、と固い握手を交わすシャノアールとシュテンだった。


「……で、このボクを探しているんだったね。大事なお話かい?」

「大事といえば大事だが、まあどっちかというと俺たちから聞きたいことがあるだけだ。んなに警戒しなくて大丈夫だ」

「これは失礼、けどきみら結構覇気隠してるし、ぶっちゃけ魔族だろう? 警戒しない方がおかしいってものさ! ここは魔族禁止だし、何より倒されるわけにはいかないからね、このボクがね!!」

「希代の天才魔術師じゃなくて、シャノアール・ヴィエ・アトモスフィア個人に用があるんだ。この俺がね!!」

「そうか! そいつは何よりだ! ではお茶を入れよう! このボク……ではなくタリーズがね!!」

「それは誰だね!!」

「ボクの娘さー。養女だけどね!! ……タリーズ、おいでー」


 ノリノリのシュテンの隣で、もう疲れたように嘆息するユリーカ。

 そのコンビをおいて、シャノアールは自らが出てきた奥の扉に向かって声をかける。

 すると、小さな少女がとてとてと駆け寄ってきた。


「……あん?」

「……」


 ぺこり、と頭を下げた少女だが、シュテンが気になったのはそこではなかった。


「……角?」

「タリーズは、きみと同じ妖鬼だからね!」

「おいおい……ちょい待てや。何で俺が妖鬼だって分かってんだよ」

「研究の成果ってところかな。このボクのね!!」


 きらりと輝く眩しい白い歯。……ではなく、シュテンの視線はタリーズという少女に向いていた。両サイドから突き出た二本の角は、明らかに彼女が鬼族であるという証だった。


「……ま、バレてんならいいか。屋内だしな」

「……」

「そうそう、お茶お願い。奥の部屋で話すから、タリーズも一緒にね」

「……」


 こくこくと頷いて、彼女は引っ込んでいった。

 タリーズを見送ったシャノアールは、さあ行こう、と二人を招き、奥の部屋へと連れ出した。

















「……」

「お、悪ぃな、さんきゅー」

「……」


 四角いテーブルを挟む二つのソファ。その一方に隣合わせに腰掛けたシュテンとユリーカは、対面にゆったりと座るシャノアールと向き合っていた。

 目の前に出されたお茶に礼を言うと、給仕にいそしんでいたタリーズは心の底から嬉しそうに微笑んで、ぺこりと頭を下げて扉の奥に消えていく。


 ここは談話室、というのが一番しっくりくるだろうか。そこそこの広さはおそらくこの場に数人が集って会話を行うことを前提として作られたような雰囲気。


 希代の天才とまで謳われるシャノアールのことだから、様々な相手とこうして話をすることが多いのかもしれない。


「……えっと。まずは自己紹介かな。あたしはユリーカ。堕天使。こっちがシュテン、シャノアールの言った通り妖鬼。訳あって二人で旅してるんだけど、その"訳"っていうのに貴方が関係してくるから訪ねさせてもらったの」

「……なるほどね。改めてボクがシャノアール・ヴィエ・アトモスフィアだよ。ティレン城嘱託、魔術師筆頭。まあそんなたいそうな肩書きを持ってるけど、簡単にいえばティレン城の壁だよ壁」


 はは、と軽く笑うシャノアール。

 お茶に口をつけて、随分と美味そうに頬を緩めた。

 そんな彼を見て、シュテンは切り出す。


「おうし、よろしくな。……んで、タリーズだっけ。あの子……どうしたよ」

「……そうだね、まあ深くは言えないけど、別に人見知りとか恥ずかしがり屋って訳じゃないよ。特に、君らに対してはね。安心してくれていい。今は店番に向かってもらった」

「……喋れないのか?」

「失語症、って奴だ。残念ながら魔法薬学は専門じゃなくてね。どうやったら治せるのかとか調べてるんだけど、先天性じゃないとだけ言っておこうか」

「……なるほどな」


 先天性ではない。ということは、ほぼ何かしらのショックがあったせいで言葉を発することが出来なくなったと見て良いだろう。……つまりそこは、簡単に触れていい場所ではない。

 ユリーカもそれを察したか、軽く頷いてシュテンに言葉の続きを促した。


「……まあ今はそれについてはいいか。とりあえず、単刀直入に話させて貰うぜ? いいか、突拍子もねえ話だが」

「ふむ。ある程度の突拍子のない話には耐性があるよ。なんたってボクが一番突拍子もないことをやっているからね!」

「未来からきました」

「ナンダッテー!?」

「……シャノアール、おまえさんなかなか面白いよな。未来に連れて帰りたいくらいだ」

「……いやいやいやいや本当かい? すごく行きたいよ? 何ならナウだよ。このボクの知的好奇心が疼きに疼きまくっているよ!?」

「んでまあ、この時代にはお前さんに用があって来た訳だ。シャノアール、お前さん今魔王軍に接触されたりしてねえか?」

「さてね」


 シュテンの言葉に、シャノアールの雰囲気ががらりと変わる。

 細められた瞳には、真剣のような鋭さが感じられて。


「……それが、どうなるというんだい?」


 ぶわり、と彼の体から魔力が放出された。

 変性魔力、闇魔力。ヴェローチェのそれと同じ、畏怖の概念を持つその力は、かつてヴェローチェがクレインを気絶させたものの、数倍は強力な"力"を有していた。


 まさしく威圧。

 シャノアールの知る限り、これを受けて恐怖を覚えなかった者など一人しかいない。


 だというのに。


「あー、シュテン、これあれよ」

「……あー、そうだな。シャノアールの話を聞くにゃ、俺たちがぶっちゃけねえと筋が通らねえな。ちょいと長くなるが、こっちの話聞いてくれるかいシャノアール」

「あ、ああ。それはもちろんさ。じっくりと、聞かせてもらうよ」


 肩を竦めて、呆れたような台詞を口にする少女と。ぼりぼりと、開いた胸元を掻く青年。彼らの中のどこに、畏怖の感情があっただろうか。


 それはもう、けろりと。

 あっさりとかわされて。逆にシャノアールの方が興味をひかれるほどのこと。


 だからこそ、聞くに値する。


 シャノアールの行動が、未来にどんな影響を及ぼすのか。


 その答えは、シュテンではなくユリーカの方から発せられることとなった。


「お宅の孫娘さん、魔王軍で育っちゃったせいで性格歪んでます」




「……は?」




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