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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之肆『導師 車輪 魔王城』
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第六話 666ばんすいどうVI 『半日遅ぇよバーガー屋』



「半日おせえよバーガー屋」

「うるっせえんだよ何で俺が死体処理させられてる挙げ句罵倒されてんだよ!! あとバーガー屋じゃねえって何度言ったら分かんだこのダボが!!」


 うぃーっす、こちら現場のシュテンでーっす。

 レックルスがのこのこ顔を出したので、つい遊んでしまった訳ですが。

 何でもユリーカに用事があったそうで、話の前に手伝ってもらってます。


 ……僕がちらかした死体の山。


「しかし……ユリーカちゃんを襲撃しようなんつー輩共が居るたぁな……その点についてだけは、テメエが居たことに感謝してやるよ」

「感謝は物で現すと好感度的には良いですよ」

「ぶっ飛ばすぞテメエいい気になりやがってこの野郎オラァ!」


 ぎゃーぎゃー言いながらも、別荘のガーデンに散らばった大量の死体を次から次にレックルスは"ゲート"に送り込んでいく。


 古代呪法・座標獄門。

 それがレックルスが固有で持つ古代呪法だ。……っつっても、どっかしらからゲートを開くことが出来る、くらいしか知らねえんだが。


「それどこに繋がってんの」

「海」

「死体処理の仕方がヤ○ザだ……」

「ああ?」


 何言ってんだこいつ、とばかりにちんぴらがするような表情を向けてくるレックルス。いやだってほら東京湾に沈めたりとかさ、死体処理に困って適当にぶち込むとかさ、もくずにされるとかさ、魔王軍○クザ説濃厚。


「んで、結局マジで何でユリーカちゃんと一緒にいんだよ」

「漂着した」

「は?」

「いや、ふっつーに海でクラーケンに殺されかけて漂着した。ユリーカが助けてくれたから、軽く恩返しもかねて云々。まあ詳細は追々」


 ぽかんとした顔で、レックルスは右手でゲートの操作をしながら俺を見た。上から、下まで。そして哲学者のような難しい表情になって顎に手を当てる。


「お前を倒せるクラーケンって何だ……」

「まー、色々あったのさー」


 や、疲労が無くても倒せたかどうかは分からんけどね。水中戦とかしたことないし。

 そういや思えば、ヒイラギと二人でボート乗ってた時にたまたま流れてきたホーンドルフィンもきっとあのクラーケンにやられたんだろうなあ。


「にしても、そういうことか。ってことは地上の魔族だろうし、挙げ句旅なんざしてんだったらユリーカちゃん知らなくても無理はねえか……」

「そういうこった。諸々事情はあるけどよ、純粋に旅を楽しんでる系妖鬼のシュテンさんだ。宜しくな」


 す、と手を伸ばす。握手をしようと掌を差し出した俺に、レックルスは鼻息を一つ鳴らして言った。


「バーガー屋呼ばわりをどうにかしたら宜しくしてやらんでもねえよ」

「無理なら仕方ない、か」

「ニヒルな笑み浮かべてんじゃねえよ肩竦めてんじゃねえよふざけたあだ名辞める方がどうして難しいんだこのダボ!!」


 地団駄踏んで怒り狂うバーガー屋。まあそう怒るなよ冷静になれよと言おうとしたところで、その間にもゲートを使ってどんどん死体の数を減らしていることに気づく。

 思っていたよりこいつ沈着冷静なタイプかもしれない。


「しっかし、この七百近い死体をお前が仕上げたんだとしたら本当に恐ろしいな。ユリーカちゃんのサポートに立つならまあ悪くねえ強さだが……もうちょっと人格的にマシな奴居なかったのかよ……もう精神変われどちくしょうが」

「やだよ俺食品業に携わる気ねーもん」

「だからバーガー屋じゃねえんだよテメエこの野郎オラァ!!」


 黒い球体……おそらくはゲートを圧縮したものを思い切り俺に向かって投擲してきた。流石にぶつかるようなヘマはしないが、こいつにとってレベル差はあまり関係ねえな。一発でもこれが当たれば、下手すりゃ上空何千ウェレトの場所にだって送り込むことが出来る。俺だって軽く殺され兼ねない。


「避けやがって。魔界二丁目に送り込んでやるつもりだったのに」

「恐ろしいこと考えやがる!?」

「お前みたいな奴は気に入られるんじゃねえかと思ったんだよ」

「恐ろしいこと考えやがる!?」


 魔界二丁目。そこに居るボスは、男が大好きな男だ。こっちの都合なんざ関係なく襲いかかってくる。無法地帯だ。あすこで敗北した時だけゲームオーバー画面のエフェクトが違う。どう違うかは言わないが、あれはグリモワールランサーの闇だ。


 ぼす、ぼす、と死体処理を続けていたバーガー屋が、一つため息を吐いた。

 それに気づいて周囲に目をやれば、目に見える位置にもう死体は無い。


「終わったんか」

「数もちゃんと数えてたしな。672体。それがお前が倒した魔族の数だ。尋常じゃねえなおい」

「これでどれくらい強くなれたか、だよなあ問題は」

「おいおいまだ強くなる気かよ……」


 白い目を向けられた。

 いや、だってよ、俺より強い奴なんざまだこの世界ごろごろ居んだぜ? 上限はまだまだ上のはずだ。やったらぁひゃっはー! レベル上げ超楽しかったしな。


 と、そんなことをしていると、上の方でばたんと何かが開く音がした。

 見上げれば、水色のワンピースを纏ったユリーカが窓からこちらを覗いている。


「二人ともお疲れさまー。クッキー焼いたからおいでー」

「お、さんきゅー」

「あ……ああ……ユリーカちゃんが……俺のために……く、クッキーを……」


 なにこいつきめえ。















「うめえ!! 本当にうめえ!! ユリーカちゃん、滅茶苦茶美味しいです!!」

「あ、あはは……ありがと……」

「鼻水垂らしながら喋るなよきったねえ……」

「なんだとこの野郎おい平然とユリーカちゃんのクッキーばくばく食ってんじゃねえよもっと有り難がれよ俺の反応の方が正しいだろうが天使がわざわざ手作りしてくれてんだぞ?!」

「ユリーカは飯も美味いよ。お前は知らないだろうけど」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 殺す!! こいつ何をぬけぬけと殺す!!」


 普段使ってるダイニングキッチンのリビングではなく、客間っぽい小洒落た一室だ。三人で円テーブルを囲むようにして座って、クッキーと紅茶を楽しんでいた。


 普段の野暮ったい灰色の上下ではなく、いつの間にか水色のワンピースに着替えていたユリーカにその理由を訪ねると、ファンの前では取り繕っているかららしい。

 可愛いでしょ、といつものように聞かれて、ああはいはい可愛い可愛いといつものようにあしらって。そのやりとりが終わった後のユリーカが、何だかとても楽しそうだった。


 そんなことはいいんだ。

 死体処理を任せたは良いが、レックルスは何でも今日魔王の使いとしてここに来ているらしい。その理由を、まだ聞いていなかった。


「で、レックルス。魔王様が何か用なの?」

「あ、そうでした。魔王様が、一度ユリーカちゃんに戻ってくるようにと。ドラキュリア卿とのこともそうですが、何でも一つ大きな話があるとかで――おい食いすぎだろテメエコラシュテン!! 俺が喋ってる時にここぞとばかりに四つも纏めてむさぼってんじゃねえよ!!」

「ほはへふぁふぉふぇおふぁふふぁ」

「なんつっっっってんだよコルァ!!」

「バーガーバーガー」

「絶対違ったろおいテメエこの野郎ダボが!!」


 いや別に最初から特に意味のある文字列は発していなかった訳だが。


「っつか、そんな話を部外者の前でしちゃっていいの?」

「もう半分関係者みたいなもんだろテメエは。ユリーカちゃんに害を為すつもりなら俺が手すがら魔界二丁目に送ってやるが」

「や、しません。ご安心を」

「……まあいいや。とりあえずユリーカちゃんも……ついでにシュテンも、俺と一緒にゲートで魔王城まで来てもらうことになる。ユリーカちゃん、準備が出来次第、言ってください」

「分かったわ。ありがとレックルス」

「でへへへ、いやあユリーカちゃんの為ならいくらでもぉ……!」


 やべえバーガーが硫酸ぶっかけられて爛れたバーガーみたいになってる。

 ……ん、待てよ?


「なあバーガー屋、お前のゲートってどこにでも行けんのか?」

「いや、俺が一度行ったことのある座標だけだ。どっか行きてえのか?」

「や……たとえばよ、"特定の人物の前"に移動することとか出来んのかなあと」


 ちらりとユリーカを見れば、浮かない顔だ。

 ってことはもうこれは聞いた話だったりするのかね。

 バーガー屋も案の定首を振って言った。


「今言ったろ? "行ったことのある座標"ってよ。人の前とか、知らない場所とかには行けねえんだよ。まあ他にも魔王城みてえに結界が張られてる場所の内部は無理だから、俺がゲートで案内出来んのは魔王城の前になるが」

「なるほどなあ……ん? 俺のこと魔界二丁目に送るって意気巻いてたってことはつまりお前さん……」

「聞くな」


 目をそらすバーガー屋。

 そうか、お前はもうユニコーンには乗れない体なのか。

 と、俺の哀れむ視線に気がついたか、大慌てでバーガー屋は否定した。


「逃げてきたからな!? ちゃんとゲート使って逃げてきたからな!?」

「ああうん、分かったよ。あこがれの女の子の前だもんな、言えねえよな」

「辞めろよそういうの!! おまっ、バカ、この野郎ほんとテメエこの野郎オラァ!!」


 ポカンとしたユリーカを置いて、ぎゃーぎゃーと言い合う俺とバーガー屋。

 だんだん涙目になってきたバーガー屋に、流石に辞めてやろうかと思った時だった。


「ぷっ……あは、あはは」

「ゆ、ユリーカちゃん!? 違うんです、これはッ……!!」

「ううん、違うの。……なんか、楽しいなって」

「は、はあ」


 俺の襟に掴みかからんばかりだった状態のままバーガー屋はフリーズした。なんて暢気に言ってるが、俺も久々に一瞬意味が分からなかった。どうしたユリーカ、混ざるか?


「シュテンがここまでレックルスと仲良しだったのも初めて知ったけど、……えっとね。あたし、魔王様に呼ばれた理由ちょっと予想ついてるの」

「そ、そうなんですか?」

「車輪にも導師にも、"直属の部下"がいない。本来、四天王とかを下につけるんだけどね。ヴェローチェは全部あたしの直属だと思い込んでるみたいだけど、あたしにもそんなつもりはない。けど、トップ3が組織的な力を持ってないのは良くないってことで、怒られるんじゃないかしら」

「……は、はあ」

「でね。二人が直属の部下になってくれたら……きっと毎日楽しいんだろうなって。あたし、思ったの。こんな風な毎日があるならもっと楽しいし……それで、あたしの夢さえ叶えば、それはとても幸せなことだって」


 そっと手を胸に当てて、瞳を閉じて楽しそうに語るユリーカ。

 レックルスはすぐにフリーズから解かれると椅子を立ち、ユリーカの足下に膝をついた。


「不肖この"秤"のレックルス、いつでも喜んで貴女の部下になりましょう。アイドルとしてではなく、貴女のお人柄にも、ずっと惹かれておるのです、俺は」

「ありがと、レックルス。あたしもこういうこと言う勇気が無かったから、なんかごめんね」

「め、めっそうもない!」

「良かったじゃあねえかバーガー屋」

「おいシュテン!! テメエも……ってそうか、テメエは旅の途中ってことだったか」

「まあな。悪ぃなユリーカ」

「ううん、ちょっとあたしも、今これを言うのはずるかったかなって思った」

「まあでもあれだ、バーガー屋を手元に置けるだけでも相当なんじゃねえか?」

「うん、頼りにしてる」

「あ、ありがとうございます!」


 頭を下げるバーガー屋、というか新しく出来た主従関係をぼんやりと眺めながら、ふと思うことが一つある。今ちょうど話題に上がった一人の少女、ヴェローチェさんについてのことだ。


 海の中で俺も死にかけたが、あの人だって魔力は殆ど残ってなかったはずだ。

 漂着したのは俺だけって話だったし、無事だろうか。

 いやまあ、あの人のせいで死にかけたんだけど。


「そういや、バーガー屋。導師の所在って分かるのか? ユリーカが呼び出されるなら、あの人も同じように来そうだが」


 そう聞いた瞬間、ユリーカの眉根がちょっと寄った。軽く不機嫌になる彼女とは別に、バーガー屋は何でもないような顔で……いや、バーガー屋という呼称にキレかけながら指をたてた。


「ああ、それに関しては別に心配いらねーよ」

「は?」

「まあお前がしらねえのも無理はねえが、この前の遠征失敗して、俺ぁゲートで部下連れて逃げたんだが……点呼取ったら導師居なくてな。まあ元々単独行動が多い人だったし、そうでなくてもほっつき歩くから仕方ねえっちゃ仕方ねえ話ではあったんだが……まあ当然敗北の責任に加え、何の戦果も残せなかったってことで――」


 



「――今あの人、地下牢に監禁されてっからよ」

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