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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之肆『導師 車輪 魔王城』
71/267

第二話 666ばんすいどうII 『Eureka LIVE PARTY 1215』

「こっちであってるはずだよな……?」


 はーい、こちら現場のシュテンでーっすっと。

 手渡された地図を頼りに孤島を出て橋を渡り、そこそこの規模の大陸へと降り立った……はず。多分。この地図によれば。


 えっちらおっちらのんびりと。

 昼でもなんだかおっかない色をした空を眺めつつ、鬼殺しを背負って移動中。

 手許には貰った地図と、それからなんか……チケット?



『これ来て』


 居候先の女の子に突きつけられたそれは、どう見てもアイドルのライブチケットでした。いったいどういうことなのか俺にはまるでさっぱりなんだが、今それを言ったところで詮無いことなのはわかってる。


 魔界のライブってものに興味がないわけでもないしな。


 街道脇に赤黒い草が生えていたり、なんか草がうごめいて、これまたでかい虫を食べていたりとか、地上では見られない魔界ならではの光景を眺めつつ、そこそこの時間進んでいると。


「今日は楽しみでブヒなあ!」

「なんたってわれわれのアイドルのライブですからな、デュフデュフ!」


 三叉路やら十字路を通る度に、なんだかこういう輩と合流することが多くなっていた。目的地は皆一緒らしく、デュフデュフ言ってる連中と一緒に歩いているようでなんというかこうあれだ。俺もデュフデュフ言った方がいいんだろうか。


「あー、そぅだよなデュフ」

「誰だお前」

「誰だお前」

「ひどい」


 失敗した。

 オークとゴブリンのコンビに話しかけたんだが、あからさまに白い目で見られるだけだった。おのれ、俺とお前らと何が違うと言うんだ!

 ……何もかもが違ったな。サーセン。俺そもそもファンじゃねえしな。


「……ん?」


 と。そんなくだらないことに興じながらの道のりも、そろそろ終わりのようだ。ってのも、街の外壁らしき何かが見えてきたからだった。

 街にしては少し、狭い気もするが。道行く先にある建物と、それを取り巻くようにある露店の群れ。


「あ、目的地あれじゃん」


 地図に目を落とせば、ずいぶん可愛らしい丸文字で「ゴール」と書かれていた。ユリーカ的には俺があそこに行けばおーけーらしい。なんともまあ。


 その円形の壁に囲まれた建物の入口は、やたらと混雑していた。

 我先にと入ろうとする魔族たちを、必死に止めようとする係員的な連中の姿もある。何かにつけて列を作るのは日本人特有の文化だとは聞いていたが、それにしても無法地帯過ぎるだろう光景に一瞬呆ける。


「俺あすこ入ってくのやだなー」

「それでも向かってこそのファンだろうが」

「あん?」


 どやどやと俺の周囲を通り抜けていく魔族たちの中、ただ一人俺の隣に立ち止まって腕組みをした人物がいた。ずいぶんと恰幅がよく、二本の牙をむき出しにした男。ん? どっかで見たことあるな。


「ユリーカちゃんのファンである間、我らに魔王軍としての序列はない。彼女の元、ただひたすらに平等なファンなのだ。であればこそ、あの中に突っ込むのも彼女の笑顔に触れるための試練と言えるんだなこれが」

「良い笑顔で語ってんじゃねえよ。あと俺ファンじゃねえし」

「むっ。そうか、布教を受けたか。ならば彼女の魅力に触れるのも初めてだろう。今日俺はソロだしな、なんなら共に行こうじゃないか、強き鬼よ」

「そんな大仰に言うことじゃねえだろアイドルライブで……しかしお前さんどっかで見たことあるな」

「ふふふ、そうだろうとも。俺こそは魔王軍四天王が一人――」

「ああ、ハンバーガーだ」

「なんだとこの野郎!?」


 先ほどまでの、やたら威圧感こもった表情はどこへやら。潰れた鼻と鋭い牙のついた顔を驚愕に染め、俺を見るハンバーガー。ハンバーガーだと食べ物と混同するからバーガー屋でいいか。


「おまっ、ちょ、おいこの野郎!! 俺あれだぞ、四天王のレックルス様だぞ!?」

「や、まあうんそうかもしんねえけど、そう怒るなよバーガー屋」

「だからハンバーガーじゃ、って誰がバーガー屋だコルァ!!」


 "秤"のレックルス。

 まさか魔王軍四天王の三人目にこんなところで会うとは思わなかったな。

 ってかおいお前その毛皮のマント、背中にでかでかとユリーカがプリントされてるのはなんだ。お前あれか、アイドルガチ勢か。


「俺も今日一人だからよ、せっかくだから一緒に行こうぜ。ユリーカのライブがどんなもんなのか、楽しみではあるんだ」

「呼び捨て!? お前この野郎ユリーカちゃんを呼び捨てとかどんだけだコルァおい! 人をバーガー屋呼ばわりするだけでも業腹だってのにとんでもねえ奴だな!?」


 にぎやかなバーガー屋と一緒に道を行く。

 さすがに四天王で顔バレしてるからか、こいつといるとそれとなく魔族が避けていくな。混雑の中ではあるが、こいつぁ便利だ。


「つうかよ、なんでお前みてえにえげつねえ力持った鬼がこんなとこにいんだよ。魔王軍じゃねえだろテメエ」

「魔界観光」

「心の底からフリーダムな野郎だな!? おま、今の魔界あれだぞ!? 目茶目茶抗争激しくて半端ねえんだぞ!? 分かってんの!?」

「マジで!?」

「分かってなかったよこの野郎!! ……っても巻き込まれてもなんとかなるくらいにはテメエの力量はスゲエか。いやしかし、単騎でできることなんざたかが知れてんだからな? お前ユリーカちゃんのライブ終わったら大人しく帰れよ?」

「女の子に帰らないで! って頼まれてるもんでな」

「嘘でもホントでもむかつく野郎な!? お前な!?」


 バーガー屋と連れ立って、露店のある中を歩いていく。よくわからない爬虫類の焼いた奴とか、ヘンな色したドリンクとか、ちょっと遠慮願いたい。

 バーガー屋はなんか食べたり買ったりすんのかと思ったが、なんでもライブの前に飲食はしないらしい。


「なんてったってユリーカちゃんのライブだからな、そりゃ食いモンも最低限よ。最前列で応援するってのに、その最前列の熱があの子に伝わらなきゃ意味がねえってもんだ! 見ろこのプレミアチケットを!!」

「あ、おそろだ」

「クソがああああああああああああああ!! お前これ先行予約限定でしかも50000ガルドしてんだぞ!? なんでファンでもねえお前が持ってんだよおい!!」

「や、なんか貰いもんで」

「貰った相手ぶっ飛ばしてやる!! ふざけやがってユリーカちゃんの気分が少しでも落ちたらどーすんだ!!」

「え、ぶっ飛ばすっつったってな……」


 貰った相手、本人なんだが。

 そんなことを伝える暇もなく、鼻息も荒くバーガー屋はキレる。


「ああもう貰っちまったもんはしょうがねえ!! っつーか俺と会えたのがテメエの奇跡だ! 徹底的にライブ中の光棒(フラグメント)の振り方教えこむから覚悟しろ!!」

「え、や、いいです」

「いいからやるんだよテメエ絶対許さねえ!! そんな生半可な覚悟でユリーカちゃんのライブに挑むとか万死に値する!! 会場入ったらそのまま席直行だ!! グッズ購入する余裕すら無いと思え!! や、でもその様子だと光棒(フラグメント)も持ってねえじゃねえか!! ああもう!! テメエこの野郎テメエ!!」

「お前愉快な奴だな」

「誰のせいだよお前おいこの野郎!!」


 うがああああああ!! と吼えるレックル……じゃなかったバーガー屋。

 そんなこいつにふと、思う。


 ヒイラギ、元気にしてっかな。


 パスは繋がってる以上生きてるとは思うが、突然消えてしまった身だ。何も通じなかったしな。手紙とか書いたら届くだろうか。


「チケットを拝見します」

「あいよ」


 入口は頑丈な岩の門だった。結構でかい。聖府首都エーデンで見た奴の三分の一くらいはあるんじゃないだろうか。チケットを見せて門を潜った瞬間、明らかに空気ががらりと変わった。


「……おお」


 なんというか、熱気が凄い。

 円形のホールはまるで大学の講堂をそのままでかくしたかのようで。ステージの飾りはやたらと赤いが、まあそれも気にならない。

 というよりもホール周囲に垂れ幕として下がっている様々なポージングのユリーカと、ほぼ全員が同じピンクのタオルを首にかけているところ。それからなんというかそいつらが発する戦前の研ぎ澄まされた気迫のような何かが、会場を満たしていた。

 お、あっちにユリーカのグッズコーナーがあるな。へー、まあいいや。とりあえずどうしようかな。


 と踏み出したところで首根っこをつかまれた。


「どこに行くつもりだこの野郎」

「……あー、散歩?」

「ふざっけんなおいこらテメエ!! まず光棒(フラグメント)を買って!! タオルを買って!! そのまま席について練習に決まってんだろうが!!」

「あ、おい放せって」


 ずるずると、そのままグッズコーナーへと連行された。


 にぎゃー。















「違ァう!! そこはユリーカちゃんが『きみがあたしを好きって言ってくれるから、だからあたしもぎゅっとできるよアイラブユー!』にあわせて『ラブミーラブミーユリーカラブミー!』だ!! 光棒の振り方はこう!!」

「どうでもいいけどその歌詞お前が言うと絶望的に気持ち悪いな」

「言ってはいけないことを言ったな貴様ァ!!」


 開演までもう間もないらしい。

 俺とレックルス……じゃなかったバーガー屋は、最前列の中央地帯というベストポジションの席だった。そこでなぜか俺はユリーカの髪色と同じピンクのタオルを首にかけて、魔力を通すと光る不思議な棒を持って、バーガー屋の指導のもとライブ中の動きを練習していた。いや、半ば以上強制的に。


 お陰で周囲からは奇妙なものを見る目で……いや、なぜか微笑ましいものを見る目で見られている。


「お、レックルス様が新たな同士を生み出そうとしているぞ」

「あの妖鬼もきっとユリーカちゃんの魅力にやられてしまうはずだ」

「昔は俺もダチからああやって教えられたなあ」


 ……あれ、なんかファンに布教されてる友達みたいな扱いになってないかこれ。でも境遇的には間違ってないというこの不思議。


「ああもう!! そろそろ始まるってのにテメ、こら、ぼさっとするな!! こんなんで最前列の誉れをふいにする気か!?」

「や、そんなことを言われてもだな――」


 と、口論真っ只中にあったそのときだった。


 突然、周囲が何かの魔力に包まれて暗くなったのは。

 確かこれは昼夜反転の魔法だったか。特定区域内を夜にしたり昼にしたり出来る……大規模魔法。おいそれと発動できるものではないと思うんだが、すげえなユリーカ。というか周囲の入れ込み具合。


「始まる感じ?」

「黙ってろこの野郎!! ユリーカちゃんの登場シーンに備えて光棒構えておけ!! さっきやったとおりにな!!」

「……へいへい」


 ぴりり、と周囲の空気が張り詰めた。

 俺が手に持った棒も、魔力を通せば光るそうで。しかしながら上手く出来ないので、そういう人用に使い捨ての既に魔力の込められた奴を貰った。スイッチひとつで便利なもんだぜ。


 と、その瞬間比喩なしにステージの両サイドが爆発した。ちゃちなもんじゃない、人を殺せるレベルの奴だ。

 それと同時に蒼い魔力光がストリームとなって周囲に散る。

 うは、クオリティたっか。


「みーんなー!! 今日は来てくれて、ありがとー!!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 ステージの上に舞い降りたのは、天使だった。

 純白の衣装に身を包んだ、可憐という言葉を具現化したような存在。

 まさしくその言葉を擬人化すれば、このような容姿になるのではないかと、そう疑問なしに思えるような、そんな。


 バーガー屋を含めた、この会場に詰め寄せた魔族たち数千が一斉にピンクの光棒を振り回す。と同時に爆音で楽曲が流れ出した。あ、これバーガー屋に最初に教えてもらった奴だ。


「むげんの星にー!! 想いを込めて、さあ!! 行こうきみとあたしで、見果てぬ夢の先までー!!」

『HEY! HEY! HEY! HEY!』


 白のカチューシャをかけた天使が、手に持ったマイクのような何かを使って美しい旋律を奏でる。必要なのは彼女の美声、ただそれだけ。

 ミュージックにあわせて振られる光棒は、大量の魔族が集っているにも拘わらず淀みの無い一体感。開幕早々だというのに、凄まじい熱気が会場を支配する。


 その中心は、満面の笑顔を振り撒くたった一人の天使。


 普段の数割増しで可愛らしさを倍増した、ユリーカ・フォークロワだった。


「……うっは、すっげ」

「ユリーカちゃあああん!! ユリーカ、ちゃあああああああああああん!!」


 隣で狂喜乱舞するバーガー屋はさておき、これは確かに光棒を振ってしまうのも理解できるものだった。ついつい音にあわせて、聞いたこともない曲を一曲分、右腕が止まることはなかった。宙にただ、光棒を振るって。


 曲が終わった瞬間の熱狂にあわせて、ユリーカは心の底から楽しそうな笑みを見せた。


「あは……やっぱり楽しいねぇ……! 今日もライブが始まったよ!! みんな、準備は出来てるー!?」


『いええええええええええええええええええええええええええええええ!!』


 会場全体が破裂したかと錯覚するほどの音量。この場に集った一万もの魔族が一斉に叫んだのだから、それも無理はないものなのか。


「……ふふっ」

「あん?」


 光棒を持って、ただユリーカを見ていた俺のほうをちらっと見て、ユリーカは笑った。それが随分とまた愛らしく――


「おい見たか!! 今ユリーカちゃんが俺に向かって微笑んだぞ!!」

「……あー」


 なんというか。

 あからさまにライブの罠にはまった気がした。ユリーカが俺を見たかなんてのはわかったもんじゃないのに、怖ろしい場所だここ。

 バーガー屋はとても嬉しそうにユリーカの名前を叫んでいる。まあ、純粋なライブの楽しみ方はこうなんだろうなぁ。


「よぉっし!! 今日も元気に歌っちゃうからね!! みんな、よろしくねー!!」


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 宴はまだまだ始まったばかりだ。


 "あたしのところから離れたくなくしてあげる"


 ふと、彼女の言葉を思い出した。


「怖い怖い」


 確かに自信満々にあんなことを言い放つくらいには、あのアイドルは魅力的に映っていた。



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