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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之拾『終演 閉幕 大団円』
263/267

EX.1 RPGは裏ボスまでやるのが流儀(後編)

お好きなボス戦BGMとご一緒にどうぞ。

ボクは『魔神の血を継ぐ者』を聴きながら書いてました。




「行くよ……僕の全身全霊を賭けて!」


 武器を抜くと同時、もはや五人にとっては馴染んだセリフと共にクレイン・ファーブニルは身構えた。


 強敵との戦いの時は、いつも己と周囲を鼓舞するような言葉と共に前線を駆け抜けていたクレイン。その彼をして、今目の前に居る敵は最大の壁と言っても良い。


 最初にして、最大。


『なにか、ご用でしょうか……』


 ハルナの震える声を思い出す。


『いや、ただ届け物をな』


 そう答えただけで、感じた強烈なプレッシャーを思い出す。


 合わせて思えば、きっとあの頃から。敵意などというものは無かったのだろう。

 あの頃の自分たちに余裕があれば、どこか困ったように『鍵を手渡すだけなのになー』くらいの気持ちで居た彼に気付けたに違いない。




 ――最初の行動はジュスタ。


 パーティ最速は伊達ではない。糸を手繰り、クラス:ミッドナイトとしての力を如何なく発揮したその動きは、フィールドが平面であろうと関係はない。

 放つ糸は絡みつく、跳躍したジュスタは空、鬼神が次の動きに移る前に、その行動速度を封じにかかる。


 ――続くはグリンドル。


 帝国書院書陵部魔導司書第十席。

 栄えある帝国の頂点、その一角たる実力は、あらゆるパラメータにおいてトップクラス。ジュスタにはぎりぎり劣るものの行動速度は十分。

 起動した三つの宝珠がうねり、味方の支援と同時に鬼神へと牙を剥く。


 ――援護を受けたクレインが動く。


 光の神子としての恩恵を十全に使用し、さらにグリンドルによる緑の球体(バフ)も貰った。だが、まだ足りない。これでは足りない。鬼神に挑むには、何もかも。

 だからこそ叫ぶ。激励する。味方の底力を発揮させる為、リーダーの扇動が全力で味方を鼓舞していく。


 ――そして、リュディウスが駆ける。


 動き始めこそ鈍重な剣士の足捌き。しかし、みるみるうちに加速し、握りしめた大剣を振りかぶる。

 ジュスタが抑えた。グリンドルが速さをくれた。クレインによって、振り絞る力も大幅に飛躍している今。初撃を一撃入れることこそが、何よりも大きな意味を持つ場面。

 乾坤一擲、その巨大な剣を振り下ろす。


 ――さらに、ハルナが祈り願う。


 相手は圧倒的な格上だ。精錬女皇(ティターニア)の力を以て、一切の油断なく攻撃を当て続けることが出来なければ敗北は必至。

 だからこそ更なる仲間の実力の底上げを狙う。

 今まさに斬りかかろうとしているリュディウス、次の一手で攻撃に移るクレイン、更なる罠を仕掛けにかかるジュスタ、状況を見てあらゆる不測の事態に備えるグリンドル。その全ての動きを支援するフルバックこそが自分であると。

 手始めにリュディウスの命中精度を飛躍的に上げるところから、戦いは始まる。


 一瞬で戦況が動き出した。

 正面から向かう者、三次元的に動く者、立ち止まり、魔導を行使する者。


 それぞれがそれぞれの役割を理解し、十全に利用して向かってくる"人"の強さ。



「いつか、この光景を背から眺めていた」



 紡がれる言の葉は鬼神。

 張りつめた空気が暴発するような、気炎の籠ったこの戦場においていっそ場違いなほどの、物思いにふけるような小さな呟き。

 誰の耳に触れることもなく、刃の風切り音に圧し負けて立ち消えた鬼神の感慨はしかし、彼の心境をこれ以上なく物語っているものだった。


 戦う五人の勇者たち。

 彼らの頼もしい背中を眺めながら、コントローラを握っていた自分。

 手に汗握ったこともあった。ふいの涙にコントローラを手放したこともあった。

 あんまりな展開に投げ出したこともあれば、握ったまま眠りこけてしまったこともあった。


 色んなことがあった。楽しかった。


 目線を向ければ、リュディウスが真向から突っ込んで来る。

 気が付けば腕を糸で絡み取られ、ジュスタが「しめた」とばかりに口角を上げている。

 後方ではハルナが瞑目し魔導を唱え、グリンドルが全力を賭した瞳で鬼神を見据え。


 そして、クレイン・ファーブニルが咆哮する。


 ジュスタで妨害し、ハルナで支援し、リュディウスに攻撃を任せ、グリンドルがどんな行動にも対応できるよう備えさせ、そしてクレインがその全ての力を増幅させる。


 "自分が操作していても、きっとそうしただろう"。


「ああ、なんて」


 握りしめるは大斧。

 睨み据えるは景色。


「なんて、格別の浪漫だろうか」


 多くの場所を旅してきた。

 この世の全てを網羅したとは思わない。

 けれど、それなりに色んな景観を目にしてきた。


 だがこれは。

 でもこれは。


 これほどの絶景は、これ以上の絶景はあるだろうか。


 今これを見てしまって、他の全てが霞まないだろうかと不安になる。


 だって。

 だって、だって。


「――初めて会った時に舞い上がってしまうくらい、俺は」


 お前らに、憧れていたんだから。




 

「行くぞ、シュテン!!!!」

「覚悟してよね!!」

「いっきますよー、せんぱい!」

「さあ、始めようか」


「貴方を超えます、シュテンさん!!」








 今。憧れが、挑んでくる。

 









 きじん シュテン が しょうぶ を しかけてきた!▼

BGM【漢の浪漫一気通貫、宵酒浪漫併呑す妖鬼の本懐ここにあり~GRAND BATTLE~】













 裂帛の気合と共に斬りかかったリュディウスは息を飲んだ。

 初撃を与えることこそが正義と信じて振り抜いた大剣は、道半ばにして挫折を味わった。


 見開く瞳の先には、着流しに食い込む程度で留まってしまっている己の刃。


「うっそでしょ」


 糸を操るミッドナイト(ジュスタ)は、呆れたように呟く。

 後方の精錬女皇(ハルナ)は驚きに目を見張った。


 おそらくは毛ほどのダメージすらも通っていない鋼のような筋肉。

 二人を埋め尽くすは動揺。


 クレインもハルナもジュスタもグリンドルも、全員が乗せた力の増幅。

 その全部を込めたリュディウスの初撃は、いともあっさりと弾かれた。


 だが。当のリュディウスは笑った。

 鬼神の反撃が来るより先に、反動を利用して飛び下がる。

 分かっていたのだ。こんなものではないということくらい。

 自分たちがぶち当たる最後の壁は、首が痛くなるほど高いということくらい。


 だからこそ、司令塔たるグリンドルは、当たり前のことだとばかりに顔色一つ変えない。

 リュディウスの目は期待に満ちる。そうだ、そうでなければ張り合いがない。





 鬼神 は ちから を ためている !▼





 グリンドル・グリフスケイルの瞳から、目の前の光景はそう見えた。

 リュディウスの初撃を受けて尚、深く重い呼吸は鬼神が溜める力の証。


 元来攻撃を耐えるという行為は集中力を削ぐものではあるが、境地に達した地の神にとってこの程度の一撃は、こらえるにすら値しないのかもしれない。


 ――力を溜める。物理攻撃に置いての一呼吸。

 自らの力を練り上げるその行為は、次の一撃の威力を倍増させる大きなファクターだ。鬼神の一撃なれば猶の事、ただでさえ重い一撃が、一撃必殺の域にまで昇華するのは想像に難くない。


 極まった戦いというのは、どれだけ相手を妨害出来るかという点に焦点が置かれるものだ。

 本来であれば、先述のように"力を溜める"工程を、攻撃による乱気で崩さねばならなかった。


 だがその一撃の重さがこちらに無かった。


 だから鬼神の思い通りに、"溜める"という行為が行われている。


 拙い、とグリンドルは小さく眉根を寄せる。

 だがそれでもこれは想定内だ。


 こんなものではないだろう。鬼神という者の強さは。


『……ふむ、きみが報告にあった妖鬼かな。そこの九尾よりも数段強そうだ』

『やあやあ魔導司書さん。まさか、その中でもグリンドルさんとは恐れいったよ』

『ほう、僕を知っているのか』


 初めて会った時は、そう脅威だと認識はしなかった。


 だが、二度目の邂逅にして既に違った。

 タロス五世に命じられるがまま、第七席(・・・)と共に挑んだ時にはもう、自らを遥かに凌駕する存在として認識していた。


 そして、更なる邂逅を果たした時。


『これは間に合ってないのでは?』

『お、お前ら!?』

『やっほーシュテンくん! 本当はさっきもこの山に居たんだけどね、きみの関わる案件は手出し無用っぽい! って言われちゃってたから殆ど手伝えなかったんだ』

『だけどね! ヤタノ・フソウ・アークライトがこの事件に巻き込まれてる……ううん、そもそもの原因になってるなら話は別! これはあたいたち帝国書院の問題でもあるっぽい! アスタルテさまをがくがく揺らして説得して、はるばる往復してきたよ! 間に合ってよかった!』

『ベネっち、お前……』

『その呼び方アホっぽいから辞めてって言ったっぽい!!』

『なんで僕まで引っ張られてきたんだ……否、そうか、第三席を相手取るのに第八席では心許なさ過ぎるからか』


 圧倒的格上存在である、ヤタノ・フソウ・アークライトと正面切って戦う鬼神がそこに居た。


『――僕は魔族を討伐せねばならないと思っている』

『第八席に、妖鬼と九尾を助けようなんて言われた時は気でも狂ったかと思ったよ。いや、元々彼女は魔族も嫌いじゃなかったみたいだけどね。それでも、帝国書院の、それも書陵部がやることじゃない。なのに、なんでかな』

『――ああ、やっぱり、そうなんだろう』

『――突然連れてこられた場所では、人間が人間に操られて戦わされていた。魔族はその不憫な少女を友達だと言い切って、全力で手を差し伸べていた』

『尊いと、思ったんだ。種族にとらわれず、手を取り合うその様が。いつかのベネッタがシュテンを助けた気持ちが分かった。何のことはない、魔族だからとか人間だからとか関係なく助け合えるんだって、それを見せつけられて初めて、僕は』


 その姿に。どうしようもなく胸を焼かれたことを覚えている。


 そして理解させられた。だから、この男は強いのだと。


 だからきっと、魔王城突入の前に想ったのだろう。


『思えばきみたちとの出会いから全てが始まったのかもしれないな』

『ん? 何がだ?』

『僕にとっての、欲みたいなものかな』

『そりゃ光栄な話だ。期待してるぜ、お前らのチームワーク』


 目の前の男は、自分にとっての一つの"始まり"だ。


 そう考えると、勝てる気はしない。

 けれど不思議と負ける気もしない。


 だから。


――神蝕現象(フェイズスキル)【大いなる三元素】――



 彼が始まりなら、彼で終わらせよう。




 グリンドルが行使する赤い球体が四方八方からシュテンを襲う。

 ジュスタの三次元機動、正面からのリュディウス、ハルナの後方支援、クレインの範囲攻撃。その間を縫うように、グリンドルの神蝕現象は縦横無尽に駆け巡る。


 ただでさえ緑の球体で仲間を強化し、白の球体で鬼神の魔素を奪い続けているのだ。その上で赤い球体で行動を妨害していれば、相当に鬼神の力は削いでいると言っていいはずだろう。


 だがそれでも。

 それでも尚、


 鬼神 は ちから を ためている !▼



「ちょっとちょっと!! これ拙いんじゃないの!?」


 ジュスタは焦ったように声を張り上げた。

 人は本能的に恐怖を感じると、胸を縛り付けられるような感覚に囚われる。

 大声を出してしまうのはその反発と言ってもいいだろう。


 攻撃が通らない。そのくらいは、今までもあった。

 妨害が効いていない。これもまあ、あった。

 だが、こちらの攻撃を無視してバフを積み続けているなど、恐怖対象以外の何物でもない。


 ジュスタは特殊なステップを踏んで回避能力を高めてはいるが、当たってしまったらどうなるか分かったものではない。

 重い一撃。当たらなければ問題ない。そんな成長をしてきたのが彼女だ。

 だが、鬼神の戦いは彼女も良く知っている。


 溜めて、重くて、速いのだ。

 まざまざと見せつけられたのは一度や二度のことではない。

 それこそ、自分が懐いて付きまとっている男との戦いは、異次元ともいうべき闘争だ。


 だから五人の中で一番、鬼神の攻撃を警戒していると言っても過言ではなかった。


「はあああ!!」


 糸を行使し、せめて攻撃力を下げようと試みる。

 自分の力がどの程度通用するのかは分からない。だがやるしかない。


「……ほんと、しかたないなあ!!」


 ――そもそも、鬼神の討伐という名目で"光の神子"の依頼でここに来ていることを、他の面々はお忘れではなかろうか。


 ジュスタとて、大真面目に殺そうとしているわけではないにせよ。

 それでも彼らのように"なんか半ば楽しんでる"のはちょっと理解が出来ない。


 大剣を振り回すリュディウスの咆哮など特に顕著だ。

 長いこと一緒に旅をしているから分かる。あれは、滅茶苦茶楽しんでいる。

 

 そうだ。

 旅を、してきた。

 この五人と。目の前の鬼神と。

 そして、その鬼神の仇敵と。


『……デジレ・マクレイン』

『あぁ゛? あんのモノクルハゲ次会ったら蜂の巣にしてやらァ』

『急に機嫌悪くしないでよ』

『いやもう挨拶というか習慣というか恒例というかお約束というか。あいつに対して罵詈雑言を吐くのは俺にとっては生理現象と同じなんだよ』

『……いいけど。ボクはあの人が、悪い人には思えないんだ。昨日聞いた話が全て、本当だったとしても』

『悪い奴じゃぁ、ねぇだろうさ』


 船の中で、鬼神と、そんな話をした。


『シュラーク!! おいシュラークてめえ!!』

『――オレが想像していた百二十倍は面倒な事態になってやがるな、クソが』

『も、モノクルハゲ!?』

『誰がモノクルハゲだクソ妖鬼がァ!!』

『わわわ! やめてってば!』

『離せクソガキ!』


 リンドバルマでは、慌てて争いを止めたりもした。


 ぶっちゃけた話をすれば、目の前の男に対する敬意などは殆ど無い。

 決して、他の四人がいうほどの聖人などではないと分かっている。


 けれど。

 彼が居たからこそ、自分やその周りがずっとずっと楽しくなったのも事実で。


 だから、仕方なく。仕方なく、鬼神や四人の楽しみを盛り上げてやるのだ。

 せいぜい。自分に出来るくらいのことで。


「ッ!! 来るよ、リュディウス!!!」


 叫び声を上げる。

 

 ――人は本能的に恐怖を感じると、胸を縛り付けられるような感覚に囚われる。大声を出してしまうのはその反発と言ってもいいだろう。


 ――しかしまた、人は気分が高揚すると、内からこみ上げる熱い感情を吐き出したくなる。大声を出してしまうのは、その発露と言ってもいいのだろう。 






 鬼神 の 攻撃 !▼






 その瞬間。

 四人の視界からリュディウスが消し飛んだ。


「ぐっはああああああああああ!!」


 振り下ろされた大斧。大地に入る亀裂。ハルナの背後から響く、炸薬が破裂したような音。

 慌てて振り返れば、岩に叩きつけられたリュディウスがずるずると重力に従ってへたり込んだ。


 リュディウス は 倒れた !▼


「ほ、本当に一撃だーーー!?」


 ハルナのクイックヒールがリュディウスに飛ぶ。

 しかし、リュディウスが戦線を外れたその一瞬が命取りだ。

 クレインが何とか凌ごうとカバーに入っても、ものの数秒も持ち堪えられない。


 だからこそ、割って入るのはグリンドルだ。

 遊撃戦力のグリンドルが、拳で鬼神の大斧をいなす。


 ハルナは吹き飛んだリュディウスを復活させ、すぐにバフを積み上げて戦線に引き戻すのが使命だ。


「あーもう!! せんぱい強すぎない!?」

「今更の、ことだろう……!」


 ハルナのツッコミに、意識を取り戻したリュディウスは苦笑いだ。


 それもすぐのこと。リュディウスは大剣を片手に駆けだし、ハルナは強めの防御強化を全体に施していく。


「これでもか! これでもか!」


 ハルナが放つ魔導の強化には、際限が無い。

 回数を重ねるにつれ、一度のバフでの強度そのものは落ちていくが、それでもバフを掛ける回数は多ければ多いほどいい。


 相手にデバフを掛けつつ、味方にバフを掛け続けるそのバランサーこそが、精錬女皇に求められる戦いの中での役割だ。


 相手の魔素を吸収し、魔導を唱えて味方の力を増し続け、倒れたらすぐにカバーリング。


 このメンバーの中で、最も忙しいのが彼女だろう。


 魔導でのバフは掛け続ければ掛け続けるほど強くなる。

 だが、一つだけそこには落とし穴がある。


 味方が意識を失ったり、体力が尽きたりすれば――掛けたバフはゼロに戻る。



 鬼神 の 攻撃 !▼


 グリンドル は 倒れた !▼



「また一撃いいいい!?」


 泣きそうになりながらハルナは復活の魔導を唱える。


 すぐさま立ち上がったグリンドルは戦線復帰。最早慣れたものではあるが、ことこの裏ボス鬼神に対して一秒の戦線離脱はあまりにも大きい重みを持つ。


 バフがゼロに戻ってしまうともなれば猶更だ。


「強いのは知ってたけど! 知ってたけど! せんぱい容赦ない!!」


 容赦しろー! と泣き喚くハルナの魔導で、次々仲間には強化が施される。

 リュディウスなどは、彼女の努力が水泡に帰すこともあり、意識が飛ぶと罪悪感すら覚えるものだが――グリンドルは気にしない。だって飛んじゃうものは仕方ないし。


「うがー!!」


 後方支援が一番気迫を込めた咆哮を吐き出しているのはさておき。


 ハルナの魔導は留まるところを知らない。

 魔素はまだまだ潤沢だ。それに、常にシュテンから魔素を奪い続けている。


 精錬女皇。

 クラスチェンジの最終段階。

 その元となる精錬術士(リファイニスト)になった時のことは、今でもよく覚えている。


 精錬術士になるか、聖神官になるか。大きな分岐点に立っていた。


 頼りない自分。助けたい相手。切迫した状況。


 選んだのは、"相手の魔素を奪い取る""人を強くする"そんなことが得意な、精錬術士の方だった。


 何故か、なんて今更だ。そっちの方が、皆の力になれると思ったから。

 誰かを護れる自分になれると思ったから。


『あの人、頭に角なんてつけちゃって……イケてないわねぇ……』

『え!? そういうアレな視線だったの!? だっせえ的サムシング!?』

『こんにちは、えっと……シュテンさん』


 まともに会話したのは、これが最初。

 こんな話から始まったのに、気づいたら導かれていた。


『ま、頼れる奴がいねえってんならいつでも相手してやるよ。あいつらに話せねえようなことがまた有ったら……そんときゃこのシュテン先輩を呼ぶといい。な?』

『あ……。はい! ……シュテンせんぱい!』

『え、マジで呼ぶの!?』


 せんぱいと慕う目の前の鬼神はいつも頼り甲斐があって、あの頃のハルナとは大違いで。だからこそ、色々相談も持ちかけた。


『精錬術士はハルナに別の技術が求められるからな』

『むむっ、それは初耳です』

『聖神官は味方に魔法をいつでもかけられるようにしていればいいから、今までの立ち回りでいいんだが。精錬術士となると……』

『あそっか。敵にも常に魔法かけて妨害出来なきゃだめなんだ』


 そうそう、と頷いていた彼を覚えている。

 教えてくれたその人に今、学んだことをぶつけている。


 鬼神から魔素を奪い続け、妨害しながら周囲を強化し、そして回復役もこなす。

 大変だけど――



 鬼神 の 攻撃 !▼


 グリンドル は 倒れた !▼



「ああああもおおおおおお!!」

「……っ、ふう。次も頼む、ハルナ」

「次なんて無い方がいいんだけど!?」



 鬼神 の 攻撃 !▼


 ジュスタ は 倒れた !▼



「ジュスタちゃんまでええ!?」

「……う、く。カス当たりでもこのザマか。……ありがと」

「が、頑張ってぇ……!!」



 鬼神 の 攻撃 !▼


 リュディウス は 倒れた !▼



「魔素、いくらあっても足りないんじゃ!?」

「……すまない、ハルナ。助かる」

「う、うん。ほんと頑張って!」



 鬼神 の 攻撃 !▼


 クレイン は 倒れた !▼


「く、くれいーーーん!」

「……っはぁ。シュテンさんは、強いなあ!」

「楽しそう!!!! 良いから頑張って!?!?!?」


 ――大変だけど。


『サポートすることはできるけど、自衛できないからいつも護衛が必要だし、そこまでするのなら回復もできるクレインさえ居れば、あたしは要らないんじゃないかってたまに思う』

『とくべつ頭が回るわけでもないし、旅の助けになるような技能を持ってるわけでもない』

『そりゃあ、一通りの繕いとか野外調理くらいはできるけど、そんなものあたしがやらなくたって誰でもできる』

『だから、せめて元気であろうって』

『年下を相手にしてきたあたしだから、場の空気だけは何とか読める。暗くならないように、元気に前を向いてみんなが歩けるように、それだけはがんばってきた』

『でも、別にそんなのが要るかどうかって言われたら口ごもるしかないし』

『ちょっと半分くらい、心の中が欠けていたような、そんな気がしていた』


 あの頃の頼りなかった自分はもう、どこにも居ない。


「こらーーー!! せんぱいがどれだけ強いったって!!」


 吼える。そして、仲間に力を分け与える。


「あたしの大好きなみんなだって、めっちゃ強いんだからーーー!!」


 今はもう、勇気をもらうのではない。


 むしろ、みんなに勇気を送る、そんな精錬女皇だ。


 今日はそんな自分を、あの鬼神に見せつける。


 気合一閃、魔導をこの手に。



 鬼神 の 攻撃 !▼


 グリンドル は 倒れた !▼


 鬼神 の 攻撃 !▼


 ジュスタ は 倒れた !▼


 鬼神 の 攻撃 !▼


 クレイン は 倒れた !▼



「いやああああああああああああ!!」







 鬼神 の 攻撃 !▼


 リュディウス に 60000 ダメージ !▼


「っ……!! まだだ!!!!」


 唯一、その一撃を受けきった青年が気を振り絞って大剣を振るう。

 たった一撃。されど一撃。重すぎる大斧の一振りを、しかしリュディウスは耐えきった。それが、何よりの勲章だった。


『この俺を見ろ、魔王!! 光の神子だけが脅威だと思ってんじゃねえぞ!!』


 魔王との戦いを思い返す。あの時の気炎は今も消えることはない。

 鬼神をして、リュディウス・フォッサレナ・グランドガレアが眼中にない、ということはないだろう。ないだろうが、だからこそ猶更だ。


 鬼神は初めて会った日からどういう訳か、歯牙にもかけない実力の自分たちを甚く買ってくれていた。


『俺たちが努力すれば、魔王を打倒しうる存在になると思えるか? 俺たちは……魔王軍と戦えるほどにまで強くなれるだろうか』

『なれる』


 あの時の力強い即答を、覚えている。


『……お前らのレベル上限はまだまだずっと先だ。もっともっと強くなれるさ。……物語は、まだ序盤だ』

『……物語は、まだ序盤……?』

『ま、本来なら俺やヴェローチェさんやらと遭遇するのはもっと先だったってことだよ。壁にぶつかる必要はない。まだ猶予はいくらでもある。もっと、強くなる時間がある』


 今にして思えば。まるでこの旅路を見透かしたかの口ぶりは、いったい何だったのだろう。分からず仕舞いではある。だが、それでいいとも思った。


 王国王子としてではなく、ただの剣士リュディウスとして重要なのは。


 あの時が物語の序盤だったとすれば。


 きっと今こそが、終盤クライマックスなのだから。


『クレイン・ファーブニルが魔王を倒すその日まで、俺はどんなことがあろうとお前らの敵にはならない。安心しとけ』


 そう、いつものように頼れる笑みを浮かべた鬼神。

 約束は果たして守られた。


 思うに。


 クチベシティでの下らない茶番はきっと、わざわざ鬼神が、自分たちと戦う為に誂えたものなのだ。


 己惚れではない。

 あれだけ、鬼神はリュディウス達によくしてくれた。

 強くなるまで見守ってくれた。その意味は、クレインだけが魔王を倒せるからだと思っていた。だがきっと、この男に限ってそんな高尚な目的だけということは、無かったのだ。


「強くなった俺たちと戦う。そこに何の意味があるのか、俺には全く分からない」

「――」

「だが!!」


 鬼神と目を合わせ、血反吐を零しながらも大剣を振り上げリュディウスは叫ぶ。


『もし。もし出来たらさ。今出来たらさ。見学させてもらえないか? 三度しかないクラスチェンジだ。俺が立ち会えるとすれば、このタイミング以外にないかもしれないんだ。な? な?』

『見学する意味があるのか……?』

『俺の生きる理由の一つだ』

『そこまで言い切るのか!?』



「気持ち悪いくらい俺たちのクラスチェンジなぞを見たがったお前のことだ!! なんかよくわからん、お前だけが得をする意味があるんだろう!?」

「そうだ!!!!」


 鬼神は獰猛に笑って大斧を振り上げる。真向から大剣で迎撃する。

 火花とともにリュディウスは吹き飛ぶ。

 だが、踏みとどまる。行ける。柄を握りしめ、再度鬼神へと突っ込んでいく。


「ならば、俺も勝手な理由で戦わせて貰う!! この俺を見ろ、鬼神!! 今日、お前を超えてみせる!!!」

「よっしゃこおい!!!」


 ハルナを始めとした仲間のデバフ、バフ、回復、ようやく状況が整ってきた。

 ここまでくれば、押し切れるかもしれない。

 序盤を乗り越えれば、格上だろうと押し勝てる。そうやって、今までも戦ってきたのだから。


 確かな手ごたえを感じながら、リュディウスは――




「ところでリュディウス」




「HPが半ばを切ったらよぉ」




「ボスってのはよぉ」




「半端なく強化されるのがお約束ってもんだよなあ!!!!」





 鬼神 は 鬼神化 を 使用 した !▼

 鬼神 の 物理攻撃力 が ぐーんと 上がった!▼

 鬼神 の 物理防御力 が ぐーんと 上がった!▼

 鬼神 の 行動速度  が ぐーんと 上がった!▼



「おおおおおおおおおおおおおおお!!」



 

 鬼神 の 攻撃 !▼


 リュディウス は 倒れた !▼




 纏うは強烈な覇気。

 山頂から突き抜けるほどのプレッシャーは、敵対する者の心を折らんとする。


 必死に味方を支援し続けていたハルナも、倒れては立ち上がってきた仲間たちも、この強大な力を前にしては足が一歩踏み止まる。


 高い、壁だ。

 鬼神、地の神、今まで彼らを導いてきた者の全力。


 魔王も魔神も倒したというのに、その軌跡が児戯のように思えてしまうほどの圧倒的な力の奔流。


 極めつけに、耐えて耐えて回復してという完璧なサイクルをようやく完成させたリュディウスが倒れたのだ。

 このままでは雪崩のように瓦解してしまう。


 だがそれでも。



 クレイン・ファーブニルは光の神子だ。



 どんな絶望的な状況でも、抗うことを約束された少年は、未だに潰えない瞳の希望と共に真向から立ち向かう。


「本気のシュテンさん……いくよ、みんな!!」


 その激励は正しく、"激励"だった。

 攻撃力と防御力を底上げするだけのものではない、心を奮い立たせるリーダーの鼓舞。


 誰もが立ち上がり、まだ諦めないと拳を握る為の希望の光。


 だからこそ、鬼神も大斧を容赦なく振るう。

 鬼神化し、強化された圧倒的な力でもって、光の神子一行を倒しにかかる。


 だが、クレインにとって。目の前の男は決して"力"だけの存在ではなかった。


『王子の名にかけて、必ず世界を救う!!』

『さあ、最後の旅が始まるよ! クレイン、準備は良い!?』

『……ああ!! クレイン・ファーブニルは光の神子だ!! 世界を滅ぼす魔王を倒して、今度こそ平和をもたらそう!!』


『これが見たかったんだ』

『そ。……あの子たちも、立派になったものね』


『シュテンさん!! 行きましょう!! 僕たちで世界を救うんです!』



 共に世界を救った仲間。中でも一番世話になった相手――クレインは鬼神のことを、そう認識している。


 グリンドルも、ジュスタも、鬼神とは縁があった。


 ハルナやリュディウスは猶更。


 けれど、クレイン・ファーブニルは。彼にとっては、一番。


『あの魔神に攻撃を届かせるにゃぁ、魔素を断ち切る力が必要ってことでさぁ。そこまでは、シュテンの出番はないんですわ』

『"精錬老驥振るう頭椎大刀"と、"国士無双"。そして、もう一つ――』

『僕が、行きます。シュテンさん!!』

『おお、クレイン!』


 だからこそ。

 最後の最後。誰もにとって一番の危機だったあの場面で、力になれたことが何よりも嬉しかった。

 お前が居れば何とかなる。と。他でもない鬼神に言われたことが。




『俺は、実はお前の生き別れの兄なんだ』

『ええ!?』

『嘘だ』

『で、ですよね……まず種族から違うし……』

『実は俺が弟なんだ、お兄ちゃん』

『ええ!?』

『嘘だ』

『なんなんですか!?』


 始まりは下らない出会いだったけれど。


『妙な感じがして来てみれば、何故か四天王がこんなとこに居やがるし。せっかく交友を持てた光の神子はピンチだし』

『貴様、何者』

『通りすがりの……絵描きの客だ。な? クレインくん』


 種族の違いなんて関係なく、苦しい時にはいつも笑顔で駆けつけてくれた。


『それとも、相手になりますかー?……鬼神の系譜を持つ妖鬼』

『お前ら、しんどいだろうけどさ』

『……シュテン、さん?』

『どうする……つもりだ……シュテン……』

『やー、俺がやられちゃった後に、お前らがここに居たら俺がやられちゃう意味はないわけよ。だから頑張って逃げてくんね?』


 それがたとえ、自らにとっての窮地であっても。

 どんなに厳しい状況であっても。


『……え、な、なんで貴方が……!』

『よぉ、クレイン。リュディウスも……あとハルナちゃんとジュスタちゃんだったな。久しぶり。んで――』

『――助太刀、要るかい?』


 次に出会えば、また笑顔。

 なればこそ、どんなに強い使い手よりも、そう。



「まさしく。僕は――」



 思わず笑った。笑みがこぼれた。

 まるでいつかの、いつもの、目の前の憧憬のように。




 ――僕は今。憧れに挑んでいる。




 だから、ただの力などではない。


 何よりも勝ちたい、超えたい、認められたい。


 そんな相手だ。




「だから、何でも使って勝ちますよ、シュテンさん!!」












 戦いは苛烈を極めていた。

 殆ど同じことの繰り返しに近い均衡状態。

 四人を前に、一撃一殺を繰り返すシュテン。それをハルナを始めとしたバッファーの魔導で凌いでひたすらシュテンの体力を削る。


 ハルナ以外の魔素はとうに尽き果て、ひたすらシュテンから吸収した魔素をハルナが使い続け、シュテンが倒れるのを待つような拮抗。


 シュテン自身もそれを分かっているからこそ、がむしゃらなことはせずひたすらに同じ戦い方を続ける。

 だがクレインたちの集中力は疲れ知らずだ。何度倒されても、必ずこの壁を超えるのだとばかりに立ち向かって来る。


 シュテンにとって、"挑んでくる"敵というのは珍しい。

 弱い魔族は逃げていき、大半の人間は蹴散らしておしまいだ。


 だから、こうも真向から連携を駆使し、リスク度外視で精魂尽き果てるまで戦いを続けようとする敵は初めてに近かった。


 だからといって負けてやる道理はない。

 裏ボスをそう簡単に倒されてたまるか! という心情も勿論ある。


 だが、それ以上に――。




 しかし何事にも終わりというものは訪れる。


 シュテンの魔素が尽きるよりも、ハルナの魔導が尽きるよりも早く。


 まず、グリンドルの魔素が尽きたことによる歯車のズレが起きた。


 リュディウスが倒れたところをカバーしようにも、魔素の足りない魔導司書では限界がある。ハルナの魔導が届くよりも先に、まずグリンドルが力尽きた。


 そして、リュディウスが復活した頃にはクレインがカバーに入っており、範囲攻撃型の彼とジュスタの相性が良くない。


 ジュスタの糸が上手く機能しないせいで、鬼神の行動速度は倍増。グリンドルが復活すると同時、クレインとジュスタが倒される。


 リュディウスが前線に戻ったと同時、グリンドルも復活するものの――リュディウス一人に鬼神のフルスペックの攻撃が殺到し敢え無く瓦解。


 どれだけジュスタのデバフに助けられていたのか痛感するより先に、グリンドルに攻撃が――


 といったところで事件は起きた。


「仕方ない、これを使おう」


 グリンドルは懐から、|万能薬《HPもMPも全快するやつ》を取り出した。






「お前それは反則だろおおおおおおお!?」





 鬼神が吼えた。




「何がダメなんだ!!!」

「おま、ボス側はなぁ!! アイテムの恩恵ゼロで戦ってんだぞ!? それを、お前、お前お前お前お前!!!」

「持っているものをフルに使って何が悪いんだ!! 僕たちはずっとそうやって戦ってきた!!」

「ぐっ……た、確かに……!!」

「使わせてもらうぞ、鬼神シュテン」

「……………………わかった」


 しぶしぶ。






 しかし結果は変わらない。


 そんな万能薬が幾つも残っているはずもなく。

 アイテムを使う暇も、そうあるはずもなく。


 万能薬が尽きた頃に、光の神子一行の力は尽きた。


「お金半額貰ったりはしないから安心しろ」


 その鬼神の台詞を最後に、



 めのまえ が まっくら に なった ……▼

















 ゆっくりと意識が浮上し、瞼が勝手に開いていく。


 現世なのか彼岸なのか。ここはどこだろう。

 そんな思考と共に視界を意識に取り込んでいけば、息を飲むくらいに美しい満天の星々が目に入る。


 軽い夜風が頬を撫で、痛む身体を無理に起こしてみれば。

 どうやら意識を刈り取られたままに、ここに放置されていたらしい。


 とはいえ傷口という傷口は塞がっており、何かしら魔導の治癒を施して貰えたらしいことは分かった。全快したわけではないのか、回復魔導の種別によるものか、魔導の行使は出来なさそうな体感ではあるが。


「お、起きたか」


 声のした方に目を向ければ、クレインに背を向けた状態で胡坐をかく、着流しの男の姿があった。


 山頂の、ちょうど崖淵。山からジャポネを一望できる唯一の場所。

 杯と瓢箪が、彼の隣に仲良く鎮座していた。


「……なんとか、覚めました」

「そりゃよかった」


 まあ座れよと、自分の隣を指さして。


 シュテンはこちらを振り向かないまま、ゆっくりと杯を手に取った。


「飲むかい?」

「じゃあ、せっかくなので」

「お? 成人もしてないのに?」

「したんですよ。ついこの間。というか、分かってて勧めたんですか」


 笑いながら、隣へ。

 すると、瓢箪から酒を注ごうとしていた彼の手が、いつの間にか止まっていた。


「シュテンさん?」

「ん、ああ。悪い悪い。……そうか。成人したのか。……本当に、物語は終わったんだなあ」

「へ?」


 ほらよ、と手渡してくる杯。香る芳醇なアルコール。


 一気に呷って、唸る。ここまで美味しい酒は、中々ない。


「おう、一気飲みしてぶっ倒れるなよ」

「大丈夫です。僕、酒は強いので」

「へえ。そいつは知らなかったな」

「……? 言ってませんしね」

「はは、そりゃそうだ」


 しばらくの間、夜空を肴に無言で酒を酌み交わしていた。


 悪くない、空気だったとクレインは思う。

 それこそ、鬼神の言うところの"浪漫"に相当するくらいには風情というものがぎゅっと詰まった時間だ。


 けれど、その雰囲気に酔うでもなく。かといって酒に酔うわけでもなく。


 顎を撫でたシュテンは、一言ぽつりとつぶやいた。


「なあ、クレイン」

「なんでしょう」

「……お前、光の神子としてこれから先忙しくなるんだよな」

「はい。でもこれも使命。むしろ、魔王討伐の方が光の神子の使命としては異例ですから」

「そっか。その通りだ。確かにな。そっちのが異例、だよな。……リュディウスやらグリンドルやら、ジュスタもきっと、忙しくなるな」

「そうですね。僕自身、こうしてみんなで会えたのも久しぶりです。あ、ハルナも功績が認められて、冒険者協会の方で立場が出来たのか……日々頑張ってるみたいですよ」

「そうか。そりゃあ、最高だ」


 一口、傾けて。


「クレイン」



 鬼神はようやく、クレインの方を一瞥した。


 その瞳は優しくて、心の底からクレインたちの将来を喜んでいて。

 それでいてどこか、別れを惜しむような、そんな色に満ちていて。


「また、挑んできてくれるか」


 だから何だかクレインは。ここが分岐点のように思えた。












「勝つまで、何度でも」













 そうか、と返した鬼神は何だか。とても嬉しそうに見えた。


 このやり取りを。鬼神ではなく、クレイン・ファーブニルは。



 今までで一番の、"浪漫"だと感じた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 最高に浪漫!!
[一言] BGM:ペル◯ナ3ED『キミ◯記憶』 全話楽しく読ませていただきました 中でも一番好きな話だったので、感想をここに置きます ここまで綺麗にまとめている小説は中々に見ないものです 物語の始…
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