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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之拾『終演 閉幕 大団円』
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EX.1 RPGは裏ボスまでやるのが流儀(前編)

おひさっ



 裏ボス――という概念をご存知だろうか。


 古き良きJRPGにおいては最早通念的な存在となった、常軌を逸する力を持った敵である。


 "常軌を逸する力を持った敵"、と一口に言っても様々あり、無論多くの敵キャラがこれに該当することだろう。


 しかしだ。


 裏ボスを名乗る者たちには大きく分けて二つの共通点がある。


 一つは、主人公が物語の最後に倒すラストボス――通称ラスボスよりも秀でた何かを持っていること。

 それは類稀な耐久力であったり、読み合いを強制する一撃であったり、今までの戦いを覆すようなギミックであったりと様々だ。


 ラスボスより全てが秀でていなくともいい。

 しかし、必ずラスボスより優れた何かを持っている。

 これが、一つ目の共通点だ。


 そして、二つ目。

 これが何よりも大事な"裏ボス"の共通点。


 即ち、"別に倒さねばならない理由はない"。


 主人公たちの目的、その障害として立ちはだかるラスボスと違い、裏ボスは物語にとってはおまけ。蛇足。居ても居なくても良い存在だ。


 にも関わらず、一つ目に上げたように"ラスボス級に強い"。それはもうハチャメチャに強い。


 俺自身、何度コントローラーをぶん投げたことかと思う。


 最弱モンスターの色違いの癖、バカみたいに強かったアイツとか。

 寒い山の頂上でひたすら待ってる赤いのとか。

 クソ長ぇダンジョンの最下層に居るドラゴンの骨とか。

 訓練所の番人のじじいとか。お前が異界に落ちろ。


 メジャーofメジャーな連中だけでもこれだけ居る。

 JRPGにどっぷり浸かった同志なら、他にもあれこれと思い出すヤツが居るだろう。


 ちな、俺がこの世で最もしんどかった裏ボスは某氷霊窟のアイツ。なんで難易度最大で始めちまったんだろうな。



 ともあれ、何故ここまで滔々と裏ボスについて語っていたのかと言えば、だ。



「……この世界、裏ボス居ねえんだよなあ」


 ころん、とソファに転がる。


 ヤタノちゃん大暴れ事件の際に真っ二つになったこの山の半分を、晴れて俺は譲り受けることになった。


 付いた名前は大江山。

 ヤタノちゃんが【大地に恵む慈愛の飽和】を使ったタイミングで、大きな川が出来たんだが。せっかくだから、それを記念に残しておくかというアレだ。


 ヤタノちゃんはものっそい渋い顔をしていたが。



 で、その大江山は俺の山ってことで割と好き勝手させて貰ってるんだが、いかんせん暇だ。

 テツとミネリナの結婚式でも上げるか。


 思い立ったが吉日とばかりに、二人宛の招待状をいそいそと書き始める。


 と、その時だった。


「は? 裏ボス?」


 駄尻尾お部屋エントリー。


「何それ、またあんたの与太話?」

「おーおー与太話で悪かったな、そうだよ与太だよ、この世で誰も理解出来ねえ与太だよチクショウ」

「ふぅん」


 ナチュラルに俺の足を持ち上げて、ソファに腰かける駄尻尾。

 そのままシートベルトか、ジェットコースターの安全装置かのように俺の足を膝の上に降ろした。出られなくしてやろうか。


「で、なによ裏ボスって?」

「よぉし、良いだろう話してやるからその耳かっぽじってよく聞けよ! 尻尾に山ほど耳かき付けやがって!」

「これ尻尾!!! ぼんてんじゃねーから!!」


 などと供述しており。


 っつっても、こいつに裏ボスの話をしたところで別に理解はされねえんだよな。

 いや、この世の誰にも理解はされねえんだが。


 ――ならまあ、聞いてくれるだけこいつが一番マシか。


「裏ボスってのはな、要は超強ぇ敵だ。クレインくんが冒険するこの世界において、魔王やら魔神よりも強ぇかもしれない存在」

「………………へえ」


 納得したようにヒイラギはこっちを見た。

 本当に分かってんのか?


「別に、そいつを倒すことで何かが得られるとは限らないってのがこの話のミソでな? 一種腕試し以上の意味はねえんだわ」

「要は、倒しても倒さなくても良い、強い相手ってこと?」

「そういうことだ。でまあ、この世界に該当者が居ねえなと」

「…………ふぅん」


 シャノアールを今更けしかけるのもアレというか、なんか謹慎中らしいし。

 っていうかそもそも魔界の連中はクレインと戦うことを嫌がってる。 

 そりゃそうだよな、今人間界の代表とやり合ったら、また問題が巻き起こる。


 となると最高なのは、やっぱアイゼンハルト・K・ファンギーニその人なんだが……テツくんって全然バトルジャンキーでも何でもないから、後輩に全力で戦えってのはちょっとこう、申し訳ない。

 多分頼み込んだら引き受けてくれそうなんだけど、裏ボスやってくれって頼むのも妙な話だし。

 あと、ミネリナの視線が痛すぎる。テツにストレス与えるようなことしたらあっちの皇女の方が怖い。


 くそう、前作主人公が裏ボスとか、それこそ王道なんだけどなあ。



「色々考えた結果、やっぱ帝国書院に殴り込み仕掛けるのが一番良いと判断した」

「馬鹿の考えることって、本当にろくなことにならないわね」

「じゃあ、行くか」

「行くか!!!!!」


 炎のハリセンが俺の足を引っ叩く。

 いてえなこのやろ。


「どこをどう取ったら今のを賛同だと思えるわけ!?」

「だって他に候補が無いもんよー」


 ぶーぶー。


 俺がヤジを飛ばしていると、ヒイラギは額に手を当てて大きくため息を吐いた。


「……そんなのより、もっと手早い方法があるわよ」

「マジで!?」

「むしろ最初からそれしか思いつかなかったまであるわ」

「マジかよヒイラギ愛してる!!」

「はぁ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」













 グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~

 巻之拾 終演 閉幕 大団円














 クレイン・ファーブニルは光の神子だ。


 全ての旅路に終止符を打ち、日記にはきちんと終わりを告げた。

 これからの自分には、旅人としてではない、新たな人生が待っていると。


 別れは辛い。仲間たちとの旅は楽しかった。


 けれど、出会いがあり、別れがあるのが人生ならば。

 またの再会を夢見て、たまに思いを馳せるのも浪漫だろう。


 そう、笑顔で旅路に背を向けたはずだった。



「のが、どうしてこうなってるんだろうね」


 クレイン・ファーブニルは今、ジャポネの港町であるクチベシティに居た。

 埠頭でぼんやりと水平線を眺めながら、ぽつりと独り言ちる。


 事の発端は教国聖府首都。光の神子として人々を導く務めに戻ってから、十日と経っていないその日に事件は起きた。



『――お、大江山の鬼神を討伐せよ、ですか?』


『……ああ。既に何人もの冒険者(ブレイヴァー)が返り討ちに遭っているらしく、こちらに御鉢が回ってきたのだ』


『いや、でも、大江山の鬼神は……』



 困り果てた四神官に呼び出されたかと思ったら、まさかの討伐依頼。

 それも、"大江山の鬼神"と来た。


 該当者が一人しか居ない。


 クレインは頭を抱えた。


「――とうとう、この時が来たか」


 しかし、同行者の面構えは精悍であった。


「……リュディ?」

「かつて。――俺は、ヤツと約束をした」


 埠頭でクレインの隣に並び立ち、腕を組むその青年は、他でもない王国の王位継承者候補。


 この世界を旅し、また一皮むけた王国最高の剣士その人だった。


 そして、何物にも代えがたいクレインの相棒でもあった。


「約束って?」

「クレイン・ファーブニルが魔王を倒すその日まで、決して敵対はしない、と」

「……そうか、そっか。言ってたね。そんなこと」


 水平線から視線を投げ、ジャポネの中央に聳える双子山へと目を向けるリュディウス。片割れの大江山こそが、此度相対する者の居城だ。


「……不思議と、魔王よりも恐ろしく感じるな」

「で、でもどうしてシュテンさんの討伐依頼なんて」

「それは、僕が説明しよう」


 この埠頭は、待ち合わせ場所であった。

 クレインが定めた、仲間との。


 軍靴の音を鳴らし胸を張って歩いてきたのは、いつも通りの制服に身を包んだ青年だった。


 帝国最高機関、帝国書院書陵部。魔導司書第十席。


 グリンドル・グリフスケイル。


「グリンドルさん! 来てくれたんですね!」

「? 呼んだのはキミでは?」

「そうだけども!」


 呼ばれたから来た。その姿勢が頼もしくて破顔するクレイン。

 リュディウスはだいたいを察して口を噤んだ。


「鬼神シュテンはこの周辺の街に多大な迷惑をかけているらしい。本来なら公国の管轄だが、殆どの冒険者(ブレイヴァー)は太刀打ち出来ない。となれば、クレイン。光の神子に声がかかるのも至極当然だと思わないか?」

「……で、でも、シュテンさんを討伐なんて」

「クレイン」


 討伐依頼を出されるような悪い人ではない。

 そう信じて呟いたクレインの言葉。だが、遮るようにリュディウスが言う。


「グリンドルの台詞をよく聞け」

「へ?」

「"多大な迷惑"なんて、むしろあいつのやりそうなことだろう」

「あ、あはは……」


 そう言われると、反論が出来ないクレインだった。


「クレイーン!!!」


 ど、と背部にのしかかるような衝撃。


「やあ、ハルナも来てくれたんだね」

「もちろんだよ! えへへ、またみんなで会えたね! 思ったより早かったかも!」


 すん、と鼻を鳴らす彼女は、別れの際に誰よりも泣きじゃくった少女だ。

 こんな、十数日ぶりの再会でもやはり嬉しいのか、感極まったように表情を歪めている。


 クレインも苦笑しながら、ゆるりと彼女を引きはがした。


 飛びついてくれるのは嬉しいが、この二年ほどで彼女も成長しているのだ。

 身長が伸びれば、体重も増える。そして、女性らしい体つきにもなってくる。

 誰かこの天真爛漫な少女に情操教育を施してくれと、クレインは空を仰いだ。


 しかし、ろくな大人が居なかった。



「でもでも、聞いてよクレイン。せんぱいったら悪い人になっちゃったんだよ!」

「ええ!?」


 その一言に、クレインだけでなくリュディウスとグリンドルも反応する。


 彼女の言うところのせんぱいとは、鬼神シュテンに他ならない。


「街の人がみんな、『あいつは私の大事なものを盗んでいきました』って言うの! 『盗んだものは全部大江山にあります』だって! よくないよって、怒らないと!」

「……そうか」


 クレインは歯噛みする。

 グリンドルも目を伏せた。

 リュディウスは少し神妙な顔をしていたが、戦う気は満々であった。


「あ、揃ってるね」


 そこに、最後の一人が合流した。


「ジュスタちゃん!!」

「抱き着くな!!」


 ハルナが神速で飛び掛かった。

 ジュスタはひらりと身を躱した。


 勢いあまってハルナは地面にぶつかった。


「ひーん」

「泣かないでよもう。……ええっと、ひさしぶり。みんな」


 バツが悪そうに手を上げるジュスタに対して、皆の反応は温かい。

 笑顔で応対する彼らに、ジュスタはくるっと背を向けた。


「じゃあ、行くよ。鬼神シュテンの討伐だっけ? まあまあ無理だとは思うけど」

「不可能を可能にするのも、胸が熱くなるってもんだ」


 胸を張るリュディウス。

 ジュスタは胡乱気に振り向いた。


「リュディウスっていつからそんな毒されてんの?」 

「最初からじゃない?」


 ハルナは呑気にそう言った。







 一行はクチベシティに入ると、街の雰囲気に妙なものを感じ取った。

 活気はいつも通り。しかしどうにも、視線を感じる。

 それも、街の皆からだ。


 そういった第六感に敏感なジュスタは眉をひそめたが、他のメンバーはどこ吹く風。判定に失敗でもしたのだろうか。


 ともあれ、クレインはやはりシュテンの凶行が信じられないらしく、ひとまず聞き込みを始めると言い放った。

 先に話を聞いていたハルナは、自分の言葉が信じられないのかとぷりぷりしていたものの、やはり彼女自身もあまり信じたくはないのだろう。

 しぶしぶといった感じでついていく。


 その二人から少し離れ、背中を眺めるのがリュディウスとジュスタだ。


「……どうでも良いと思うんだがな」

「リュディウスの"どうでもいい"は完全に"とりあえずシュテンと戦いたいからどうでもいい"、ってことでしょうが」

「あいつがただ悪事に手を染める訳がないだろう」

「一番シュテンを警戒してたヤツがこれだよ……ハルナとクレインは簡単にシュテンを信じすぎだー、とか言ってたリュディウスはどこに行ったの」


 リュディウスは茫洋と虚空を睨んだ。


「……あれで実は世界征服を狙ってました、とか言われたら、もう、俺の負けで良い」

「……まあ、わかる。そのくらい"無い"わ、うん」

「だから、やり合える口実が出来たくらいの心持ちで良い。旅を終えた俺たちにとって、一番分かりやすい壁じゃないか」


 ――それぞれ、立場というものがある。


 光の神子。王位継承者。忍の姫。魔導司書。

 ハルナとて、今回の功績を買われて然るべき立場に置かれるかもしれない。


 そんなメンバーが、立場を考えずに戦える相手、時期、場所。


 もしかしたらこれが最後かもしれないと、薄々予感はしていた。


 だから。


「どうでもいいんだ、俺は」

「そっか」


 彼ら二人の視線の先で、町人にクレインが話しかける。


「あの、本当に鬼神に襲われたのですか?」

「んぇ? あー、ちょっと待ってくれ」

「あ、はい」


 クレインの顔をまじまじと見つめた、露店の商人らしき人物は、がさがさと懐を漁って何か、皮のようなものを取り出すと。

 それを見つめて、言った。


「えーっと。はい。あいつは私の大事なものを盗んでいきました」

「……そんな」

「盗んだものは全部大江山にあります」

「……そう、ですか」


 肩を落とすクレイン。いそいそと皮のメモを仕舞う商人。

 ハルナも口元に手を当てており、その後ろでグリンドルが「見損なったぞ……!」とか言ってる。


「で、それよりうちの商品見ていかないか?」

「すみません……かならず、かならず説得してきますッ……!!」


 困惑する商人の手を取って、クレインは熱く言い放った。




「……なあ、ジュスタ」

「……なに」

「ハルナがさっき、妙なことを言っていてな」

「うん」

「街のみんなが、『あいつは私の大事なものを盗んでいきました』『盗んだものは全部大江山にあります』って言ったらしいぜ」


 ふう、とジュスタは息を吐いて。





「少しは疑えよ」




 珍しくストレートに毒を吐いた。
















「せんぱいを許すなー!」

「許すなー!」


 拳を突き上げたハルナに呼応するのは、グリンドル第十席である。


 クレインは何だか妙に落ち込んでおり、リュディウスは全員を無視して、一人わくわくしていた。


 ジュスタは思う。


 最後の冒険、これでいいの? と。



 大江山の山中は静かで、時折細い渓流のせせらぎと、吹くそよ風と木のざわめきだけが耳を打つ。


 それがまた妙に雰囲気を作っているというか、どこか神聖さすら感じさせる。


 新緑の美しい、木漏れ日の空の下。


 まるで最初の頃のダンジョンか、始まりの街周辺の森か。


 薄暗さとは無縁の温かさと、一匹の魔獣ともエンカウントしない清浄な空気。


 獣道にしては広い一本道を、五人はさくさくと登っていた。



「……なんか、昔を思い出すね」

「ハルナを拾った当初のことか」

「捨て猫みたいに言わないでよ!」

「事実そうだったろうが」

「うぅ……」


 凹むハルナを、弄るリュディウス。

 その光景がどこか懐かしくて、クレインは笑った。


「確かに、ボクを追ってた頃のお前らって、そんな感じだったよね。緩かった」

「魔王との戦いが見えてくるにつれて、僕たちも必死になっていったからね」


 さらさらと、小川の水音が耳に触れる。

 ちゃぽんと魚が一匹跳ねた。


「僕はあまり、キミたちの昔を知らないからね。良かったら、聞かせてくれないか?」

「グリンドル、ここダンジョンの真っただ中だよ?」

「まあいいじゃねえか」


 ジュスタの忠告に、しかしリュディウスは首を振った。


「多分、警戒する必要なんてねえよ」

「なんでよ」

「あいつはそんな無粋なことしねえよ。多分、これは」


 爽やかさすら感じる山の中。森林浴を十二分に満喫できるような、柔らかな道のり。


「わざわざ俺たちに作ってくれた、最後の冒険だろうよ」

「……うわ」


 毒されてる、とジュスタはリュディウスを睨む。


 けれど、一理あるとも思っていた。

 こんなに魔素が充満している場所なのに、魔獣が一匹も出てこないのも。

 こんなに強い霊脈なのに、息苦しくもなんともないのも。


 よく考えれば、不自然なダンジョンだ。


 清浄を目指して作られた異空間。

 その結果、どうしようもなく神聖さが同居してしまっている。


 それがこの大江山というダンジョンだった。



 冒険者協会(ブレイヴァーズ)で踏み込み禁止区域扱いされているのも頷ける。


 それだけ、異常なのだ。この場所は。



「じゃあ、話そう!」



 手を打ったハルナが、笑顔で言った。


 いつか敵対したグリンドルに、自分たちの楽しい旅路の話を。

 思えば、これだけ協力してくれた相手なのに、お互いのことをよく知らない。


 このまま、よく知らないで終わるのは嫌だ。


 そんな素直な感情。


 彼女の心の発露は、はじけるように仲間内に染み渡って。


 それから、山の頂上に至るまで。




 これまでの軌跡を、一つ一つ語り合った。












 日が落ちる頃になって、ようやく五人は山頂へと辿り着いた。


 そして彼らは見る。


 こちらに背を向け一人立つ、男の姿を。


 背には大斧。足には下駄。笠を被ったその風貌。

 風に靡く、着流し。


 山頂の先の先から、おそらくは雄大な景色を眺めているその背中。



「……っ、シュテン、さん」



 その威圧、その気迫。その、覇気。


 中腹の長閑さとは一線を画す張りつめた緊迫感は、まさしく鬼神のソレだ。


 ジュスタは思わず一歩下がり、グリンドルは生唾を飲み込んだ。


 ハルナは少し身構えるように錫杖を構え、そしてリュディウスは楽し気に口角を吊り上げる。


 そこで気づいた。この山頂には、"何もない"と。


 ただの広場だ。遮るもの、邪魔な障害は何一つない。


 まるで、戦いの為に誂えられたフィールドだ。



 ゆっくりと振り向いたその男は、笠を外して、人好きのする笑みを浮かべた。


「ようこそ、クレインくん」



 一歩、歩き出す。



「いつ、来てくれるのか。とても楽しみにしていたよ」



「きみは、この世界を旅して、何を見てきた?」



「たくさんの出会いを経て、何を感じた?」



「この最高の世界できみの中に芽生えた何か……そのすべちぇ」







 ……。






「ちょっとタイム」

『出来るかあああああああああああああ!!』


 全員のツッコミが、山頂に響き渡った。






「うるせえな!? おま、俺が滅茶苦茶リスペクトしてるラスボス兼裏ボスの人の台詞だったんだよ!! ちょっと弄ったけど!! 滅茶苦茶かっこいいんだよ!! かっこいい、はずだったんだよ!!」

「滂沱の涙を流すんじゃねえよ……」

「くそ、せめてチャンピオンのシュテンがフレアリールを繰り出すところまではやりたかった……」

「何を訳の分からんことを」


 さしものリュディウスも力が抜け、呆れたような目をシュテンに向けている。


 地団駄をふんで涙を流すシュテンの姿は、なんというか哀れだ。


 ハルナは、「黙ってればかっこいいのにな、せんぱい」と残念そうに目を伏せた。


「ええい、それより!! 戦いに来たんだろ!?」

「そ、そうですよ!! 街のみんなの大事なものを返してください!!」

「よぉし良いだろう! 俺を倒せば、街の人たちに協力して作ってもらっげふんげふん、奴らから奪ったスゲエ強いアイテムをくれてやる!」

「勝負だ、シュテンさん!!」



 クレインが棒を構える。

 グリンドルがグローブを嵌める。

 ハルナが魔導を詠唱し、

 ジュスタは仕方なさそうに糸を仕込んだ。


 そしてリュディウスが大剣を握りしめ、




「第一神機・草薙、展開――」





 鬼神が、大斧を引き抜いた。





「さあ、始みょう!!」

『もう黙れ喋んな噛むなら!!!!』






 きじん シュテン が しょうぶ を しかけてきた!▼

BGM【漢の浪漫一気通貫、宵酒浪漫併呑す妖鬼の本懐ここにあり~GRAND BATTLE~】

宣伝っちゃ宣伝。

ボクの先輩がシナリオ書いてるswitchのRPG『OCTOPATH TRAVELER』みんな宜しくな!!

八人の主人公の冒険が交差する、ドット絵が美しい最高のRPGだよ!!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] カッコよく裏ボスムーブキメようと思ったのに、噛んじゃうのは大誤算でしたねwww
[良い点] 裏ボスは浪漫!!
[良い点] 笑い有りの終始ワクワクする浪漫物語をありがとうございます [一言] 主人公が真っ直ぐなところあってか、わかりにくいところはなく、気持ちよく読ませていただきました! 特に旅の仲間が終盤にな…
感想一覧
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