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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之弐『妖鬼 九尾 魔導司書』
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第八話 水の町マーミラV 『珠片、その力の反動』



「実験成功……!!」

「ははっ……ちょっと待てや魔導司書が珠片取り込むとか聞いてねえぞおい……」


 洒落になんねえ。

 俺の胸中を占める言葉はそれ一つだけだった。

 何だよそりゃあよ。女神さん、ふつうの人間は取り込むことができないんじゃなかったのか。


 それともなんだ、魔導司書レベルの化け物になりゃ別ってことか?


 戦慄を禁じ得ない俺の喉が、知らず知らずのうちにごくりと鳴った。

 地下二階。高低差十メートル以上離れているというのに、確かにあの野郎の威圧を強くひしひしと感じている。


 オールバックにした青髪が、こちらを見据え口角を歪めた。


「テメエが探す理由もよくわかった……力にしか目の向かねえ魔族らしいこった」

「いや、集めないと世界のバランスが崩れるからという至ってまともな思考回路からのものなんだが」

「ほう……? 確かにパワーバランスは乱れるかもしれねェが……そんな高尚な考えでやってたのか?」

「お前ちょっと魔族馬鹿にし過ぎだろモノクルハゲ」

「モノッ……!?」


 かっと目を見開いた。


 やっべ、挑発してどうすんだよ俺。でもモノクルハゲだろあれ。

 年齢俺と大して変わらんっぽいけど。


「……本格的にテメエは殺す」

「俺にも、お前を殺す理由ができちまったよ」


 珠片を取り込まれた。

 ぶっちゃけ、それだけなら正直問題なかった。フレアリールちゃんに一個上げてしまっているし、まあ一個や二個なら減っても女神も怒らないだろう。


 だが、相手が帝国書院となると話が盛大に変わってくる。

 魔導司書単体はどうだか知らんが、帝国書院中枢は世界征服したいマンの集まりだ。そんなところに珠片の存在がバレでもしたら、本格的にパワーバランスが崩壊しやがる。


「フッ……」


 デジレの野郎が跳躍した。

 一瞬で俺と同じ一階にまで上ってくる。

 黒のコートをはためかせ、モノクルをかけ直して大薙刀を構えた。

 俺とコイツの間には、先ほど俺が叩き割った床跡地があるのみ。


 しかし、本当にまずい。クチイヌの時のようにぶっ殺して珠片を回収するしか……いや、知られてしまった時点でもうそれは仕方がない。


 ……本気でまずった。


「来いよ、モノクルハゲ。脳天かち割ってやる」

「こちらの台詞だコックローチ」

「誰がコックローチだ!! これは触角じゃねえ立派な角だ!!」

「オレはハゲてねえ!! デコが広ぇだけだクソが!!」


 鬼殺しを構える。

 睨み合い、次の瞬間。


 消えた。


 今ッ!!


 鳴り響く金属音。

 ぶわり、と風圧が巻き起こる。


「ぐ、おっも……!!」

「ほぅ……力も増したな。……テメエを押さえ込める程度にはなァ!!」

「甘くみてんじゃ、ねェ!!」


 暴風すら巻き起こすほどの斧と大薙刀のぶつかり合い。

 純粋な技巧、さらに速度まで上回られた。


 だが、パワーだけは俺の専売特許なんだよッ……!!


 高速の横薙ぎ。

 デジレを弾き、半歩後ろに引き下がる奴に向かって振り下ろす。

 当然のように回避し、そのまま迫ってきたところを、大斧でカバー。


「させっかよ」

「テメエがな」


 大斧の柄をなぞるように襲いかかる鉄刃を、鬼殺しを跳ね上げることで排除。ついで鳩尾に蹴りを入れようとして、それを大薙刀の柄で防がれる。


 そのまま跳躍、上から鬼殺しを叩き落とす。

 瞬時に軌道を理解したか、最小限の回避と共に大薙刀が振るわれる。


「それをまともに受ける俺じゃねえんだよ……!」

「ツッ……!!」


 少し体勢を変えての落下。大薙刀を防ぎつつ、着地は低く。

 奴の顎に向かって下から蹴りで強襲。


「舐めるなッ!」

「はっ……!」


 すれすれで頭を動かして回避したデジレに、そのまま鬼殺しを振るう。大薙刀の反応が速く、直撃と同時に火花が飛び散った。

 同時に、すさまじい風圧。髪がなびく。


 力同士の応酬……互いに弾かれ、離脱。バックジャンプして退避。


「……フン、互角か。気に食わねえが」

「こっちの台詞だ」


 呆れたようにデジレが捨て台詞を吐く。一応互角という言葉には同意したが、ぶっちゃけまずいのは俺の方だ。


 あいつ、まだ神蝕現象(フェイズスキル)使ってねえしな。


「まあ、いい。純粋な体術で化け物妖鬼を上回ろうというのは些か……現実味がないかもしれねェしよ。だが、こいつがあれば話は別だ」


 瞬間、デジレの大薙刀が濃紺に染まり上がる。

 ゆらゆらと漂うように湧き出る強者のオーラは、先ほどまでのそれとは段違いだ。


 あー、これガチの死闘だ。

 グリンドルとか、比じゃねえわ。


 ――神蝕現象(フェイズスキル)【清廉老驥振るう頭椎大刀(かぶつちのたち)】――


 大薙刀を振るい、体を引き絞るような構えを見せるデジレ。


 こりゃ、俺もやるしかねえな。クチイヌとの戦いでやった、チャージを。


 ぐ、と鬼殺しを抜刀前のように後方へ。これが一番力がたまりやすい。

 充填する。覇気を、魔素を、己の持つ力の全てを。


 鬼殺しを振るうこの手に、腕に、足腰に。ため込む。ただ一撃を叩き込むそれだけの為に。


「行くぞ、クソ妖鬼」

「かかってこいや、モノクルハゲ」


 台詞と同時か動きが速いか。

 双方の距離がコンマも無いタイミングで縮まる。振るう大斧は唐竹割。逆にデジレは突き上げるようにその大薙刀を放った。


 凄まじい削音と共に、鬼殺しと大薙刀のぶつかりあった箇所に盛大な火花が散る。歯を食いしばり、これでもかというほど力を入れて奴の神蝕現象ごと叩き……潰すッ……!!


「なにッ……!?」

「テメエの神蝕現象も言ってみりゃテメエの魔力そのものだろうが……!! だったら、それを上回る力をぶつけりゃいいだけの話だ……ッ!!」

「聞いたこともねェよそんな対策……論理的には正しいとはいえ……そこまで隔絶した力を振るう奴なんざ居ねェよ……クソが……!!」


 まるでチェーンソーを鉄板にぶち当てた時のように、俺とデジレの間で音と力と光が交錯する。

 チャージのおかげか鬼殺しが切断されるようなことは無いが、それでもがりがりと刃が削れているのは目に見える。


 もうちょっとだけ耐えろ、鬼殺しッ……!


「はっ……オレの神蝕現象の方が上だったみてえだな、クソが!!」

「あああああああ!!」


 ぶわり、とデジレのオーラが増した。

 それと同時に鬼殺しが叩き切られるようなビジョンが脳内に広がり、一瞬日和った。それがまずかったのか、一気に壁にまで吹き飛ばされる。


「がっ……!!」


 ったー……。頭ぶつけなかっただけ幸いか。

 ちょっと呼吸が苦しいが、まだ大丈夫だ。

 デジレはといえば、大薙刀を横薙に振るったその姿勢のまま肩で息をしていた。ぎろりと俺を睨む瞳には未だ殺意が灯っており、こっちのする目だと言ってやりたくなる。


「テメエを殺して、研究分の結晶……珠片と言ったか? それを回収させてもらう」

「はっ……そうかよ」

「一個しか、取り込めないんだろう?」

「……まあ、こんな戦いしておいて俺が珠片を保持してるだけってのは……怪しまれるよなぁ……」


 はぁ……。


 魔導司書とはいえ、相手が珠片一個ならまだやれると思った俺が甘かったか。

 懐から出した、どす黒い色をした珠片を手の内で転がす。


「別に、取り込めねえって訳じゃねぇよ」

「あ?」

「ひっでえ激痛がするから、あんまり使いたくねぇだけだ」

「随分甘い奴だな」

「だがまぁ……魔導司書に珠片を渡すのはマズいしよ。超痛いのと引き替えにお前を殺すか、うっかりお前に殺されるかのニ択なら、前者だよな」

「その激痛に苛まれている間に殺してやるよ……」

「は、待ってはくれねえのか」

「王国騎士の間抜けと一緒にするなクソが」


 よっこいしょ。

 派手な外傷は負ってねえが、流石に打ちつけた背中が痛い。


 ぱっぱと壁の破片を払いつつ、立ち上がる。いやー、派手に研究院ぶっ壊れてんなー。


「お前が上位に殺されて、珠片の研究とか進められても勘弁だしな」

「研究院名誉院長を目の前にそんな台詞が出るか」

「名ばかりじゃん」

「そういう名誉じゃねえよクソが!!」


 人のことを毎度毎度うんこ呼ばわりしやがって。


 ……ふぅ。


 目の前には、石ころ。超痛い、石ころ。


「……覚悟決めるか」

「鬼でもそんなに痛ぇのか、テメエがヘタレなのか」

「ちょっと興味がありますね」

「誰がヘタレだハゲ」

「ハゲじゃねェっつってんだろうが!!」

「……ん?」

「……ん?」

「あらあら?」


 ……。


 ……。


 いつから居たよ。


 俺とデジレの間あたり、一歩引いたところにその人物は立っていた。


「ヤァタノオオオオオオオオオオオ!! テンメエどこほっつき歩いてんだよ何なの!? お前にとって職務は散歩がてら気が向いた時にやる程度の遊びなの!? 鳩に餌やるのと一緒!? 本気でぶっ殺すぞクソが!!」

「鳩……怯えて近づいてくれません……」

「しょげてんじゃねえそういう話してんじゃねえんだよ!!」


 何だろね、人が覚悟決めてさ、こう、ほら。一世一代の山場? 根性を示す舞台? そういうのに立ってるってのにさ。目の前で漫才始まったよ。どうすんだよこれ。


 俺とデジレ。割と一般人は軽く風圧だけで吹っ飛ぶような戦いをしていたはずなんだが、ヤタノちゃんにとっては割と平気っぽい。

 まぁ……そりゃそうだよなあ。

 珠片何個取り込めば互角に戦えるかね。ちょっと想像つかんけど。


 いつものように番傘を差して、俺を見るなりすっと真顔になった。


 ん?


「死闘の途中申し訳ないのですが、ここは双方矛を収めていただけますか?」

「はァ? 突然出てきてなにを訳の分からんことを……! 魔族を放置するに飽きたらず、俺にまで見逃せってのか?」

「有り体に言えばそういうことです。ちょっとした問題が起きました」

「問題?」


 問いかけると、デジレに向けていた顔を戻し、俺に向かって頷くヤタノちゃん。その表情はいつになく真剣で、何だかイヤな予感がする。


 こくりと頷いた彼女の口から出た言葉は、ある意味予想出来たことだった。


「はい。ヒイラギが帝都に拉致されました。私の権限では止めることは不可能です。行ってください」

「ヒイラギが?」


 あいつがそう簡単にやられるタマとは思えねェけど、なにひょっとして帰ってきたグリンドル的な? 魔導司書相手だと流石に無理か。


「おいヤタノテメエ……まさかたぁ思うが帝都の土を魔族に踏ませる気じゃねえだろうな……?」

「そうだと言ったらどうしますか?」

「……上等だクソロリ。お前を第三席から引きずりおろすことだけは、前々から考えててな。……司書権限執行妨害でぶっ殺す」

「そう、ですか」


 と思ったら漫才コンビの雰囲気が険悪だ。これは解散もありえる。

 なんて冗談を言ってる場合じゃあなさそうなくらいには、焦った方がいいのかもな。


 幸いヒイラギはまだ生きてる。それはパスのつながりが教えてくれている。っつか拉致っつったな。何の理由があってそんな……。


「行ってください、シュテン。わたしは、帝国書院に逆らうことはできませんから」

「おいクソババア、現在進行形で妖鬼殺害の任務が出てんだよ」

「この騒ぎの少しあとにその命令を聞いたことにします」


 俺に背を向けて、デジレと向き合うヤタノちゃん。

 まあ、行かせてくれるってんなら行った方がいいんだろうが……。


「なあ。一個聞かせてくれるか?」

「なんでしょう?」

「何故、ヒイラギを助けようとするんだ?」

「元々、肩入れする気はなかったのですが……ちょっと、思うところがありまして」

「それは聞かせてくれねーの?」


 くるりと彼女は振り返って、人差し指を自分の唇に当てると、小さく微笑んだ。


「ひみつ、です」

「そうか、秘密か。じゃあまた今度聞くわ」


 ならもう用はねえ。

 鬼殺しを担いで、懐に珠片をしまう。

 目指すは帝都。もうちょい道楽の旅を満喫したかったが、流石に拉致られて何されるか分からん以上助けたいとは思うよね。



 可愛い眷属だし。



















「待てやクソが!!」


 叫ぶデジレが、大薙刀を振るおうと跳躍する。

 すでにシュテンは一瞬で研究院を飛び出し、ついでに壁をぶち破って町を飛び出していた。

 だが、今のデジレにはそれを追いかけるだけの脚力が備わっている。

 舌打ち混じりにかけだそうとして、目の前に佇む童女の存在に気づいた。


 否、気付かされた。


「……残念ながら、通すことは出来ません」


 す、と。閉じられた番傘がデジレに向けられた。ヤタノは無表情。

 しかし、その小さな体躯に封じ込められた絶大な魔力が、ゆらりと彼女から立ち上った。


「……なぁおい、ヤタノ」

「なんでしょうか」

「何故庇う」

「……幼少の頃、化け物と呼ばれたわたしと一緒に遊んでくれたお姉さんを、庇わない理由なんてどこにも無いでしょう?」

「……そんなタマじゃねえだろテメエ」

「ほんとですよ?」

「ツッ……秘匿する気なら詮索はしねえが……」


 向こうは、覚えていないみたいでしたけど。

 少し寂しそうにほほえみながら、しかし視線は一秒たりともデジレから逸れることはない。

 あながちその理由も無いわけではなさそうだが、それだけであのヤタノが力を貸すとも思えなかった。


「よく、分かったよクソが」


 そんな彼女に対し、デジレはゆっくりと口を開いた。

 自然と口角が下がり、声色が若干ふるえている自分を自覚しながら。

 ヤタノ・フソウ・アークライト。どれだけ強いのかもよく分からず、飄々と第三席に居座っているだけだと思っていた彼女は。


「オレは今、珠片と呼ばれるマナの結晶を取り込んだ。その結果、力量は30%以上上昇したと言っていい……だがよ」


 ふぅ、と息を吐く。


「そのせいで、あやふやだったものがちゃんと見えるようになった。たとえば、目の前の相手の力量とかな。なるほど、テメエとオレとの間には、天と地ほどの差があることは、よく分かった」


 その力を意図的にかくしているだけだった。

 隠している"事実"を、デジレはようやくその目、耳、鼻、感覚の全てで認識することが出来る。濃縮されたオーラが、時折彼女がブレると同時に少しだけ、垣間見る程度には理解出来たのだ。


「やるつもりですか? わたしと」

「テメエとやり合う機会なんてそうそうねぇしな」


 身構える。

 弓のように引き絞り、矢のようにその大薙刀を放つ為に。

 濃紺のオーラが、シュテンに向けたあの時以上の濃度を持って舞い上がる。


「胸を貸してくれよ、第三席」

「お断りします」

「アァ!?」


 しゅん、とデジレのオーラが一瞬で消え失せた。

 まさか断られるとは思っていなかったという表情で、デジレはいらだち混じりにヤタノを睨みつけた。と、彼女はシュテンがぶち抜いて出ていった壁の外、遠くを見つめて呟く。


「何故庇う? と先ほど貴方は言いましたが、そう聞かれれば先ほどの答えは変わりません。ですが、"何故止めた?"という問いであれば、また話は違うのです、デジレ」

「何を言って……っ!?」


 す、とヤタノがデジレに顔を向けた瞬間だった。

 足下のバランスが一気に取れなくなったデジレは思わず膝をつき、突然の嘔吐感に口元を押さえ、視界が真っ赤に染まり上がる。


「がはっ……?」

「あのまま続けていれば、死んでいたのはデジレの方でした」

「……こ、れは……」


 まるで喉奥が焼け爛れるような激しい内蔵の痛み。

 脈打つような全身への痛みは、受けてきた訓練とは次元の違う激痛。肉体ではなく魂への激しい揺さぶりは、屈強の魔導司書でさえも地面に伏す他ないほどのもの。


「……おそらくですが、それはただの人間であればその場で死んでいたほどの劇物。わたしがそれを取り込んだら一瞬でお陀仏です。今その激痛で収まっているのは、貴方だから。……おとなしく寝ていなさい」

「が……く、そ……が……ッ!!」

「気を失わないだけ、立派です」


 止まない酷い鈍痛に、たまらず倒れたデジレ。しかしそれでも立ち上がろうと、床に爪を食い込ませんばかりに力を入れて体を動かそうとする彼の根性には感服せざるを得なかった。


「それに、シュテンは全力ではなかった。長期戦になれば、間違いなく死んでいましたよ」

「な、に……?」

「よく考えてみてくださいな。彼は妖鬼です。生身で驚くほど強いので忘れかけるところではありますけれど、妖鬼の本質は鬼のエネルギー……"鬼化"すらしていない状態なのですよ、シュテンは」


 全身の痛みを耐えながら、デジレは血走った目を見開いた。


 "鬼化"。


 それは妖鬼、ひいては鬼族の本質であり、彼らが畏れられる理由そのもの。


「鬼化していない妖鬼なんて、神蝕現象を使わない魔導司書のようなもの。……その状態でデジレとやり合うあたりが、やっぱり面白いですね」

「……」

「あら。……あとでベッドに運んであげますね」


 とうとう、気を失ったらしいデジレをみて。ヤタノは口元を着物の袖で隠しながら、穏やかに微笑んだ。

 彼の場合、命に別状はないだろう。とりあえず、無闇な殺生を行わずには済んだようだとほっとする。


「けれど、使わない理由は無いですよね。確かにあの技は膨大な魔力を食いつぶしますが、デジレに殺されていたかもしれない状況なら、出し惜しみする理由などどこにも……もしかしたら、まだ使えないのかもしれませんね。"鬼化"はソウルブーストのようなもの。魂依存のあの力を発揮するには些かシュテンの性質は人間に近い……」


 不思議と人間臭かったあの妖鬼を思いだし、ヤタノは一人思う。


 崩壊した壁の向こう、満月が照らす夜の空。


「若い妖鬼ですし……魂に何かしらのアクションが起きない限りは、任意には発動できないというのなら頷ける話です。グリンドルを完膚無きまでに打ちのめしたというから、"鬼化"を使ったのかもしれないと思っていたのですが……」


 そこまで考えて、詮無きことだとヤタノは首を振った。


「伝説の妖鬼シュテン。その名を冠するにはまだ少し弱いですが、今後が楽しみな若き新鋭。わたしが知っている伊吹山のシュテンは、鬼化を自在に使いこなしていましたよ? 貴方は、どのくらい強くなれるのでしょう」


 実に、わくわくするお話ですね。


 にっこりと、ヤタノは楽しそうに微笑んだ。

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