表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
『分岐 選択 並行世界』
233/267

エンディングフラグ:ユリーカ

五話連続投稿しています。こちら四話目です。



得票数 57票





 ――鎮めの樹海内部。戦場だった広場。


「さて、誰に話しかけようかな」


 軽く屈伸を繰り返しながら思考すること数瞬。

 あたりを見渡せば見知った顔が幾つも幾つも。誰から声をかけても構わないし、何なら男泣きにうずくまっているモノクルハゲを煽る最大のチャンスでもある。


 そうと決まったら話は早い。さてどう料理してやろうかと思案を始めたその時だった。


「……やっと、会えたよ?」


 ぎゅ、と着流しの袖を引く感触と、耳に聞き心地の良いソプラノボイス。

 まるで感じなかった気配に驚いて振り向いた瞬間、懐に飛び込んでくる見知った少女。


「うぉっと!?」

「……久しぶり、シュテン」

「ユリーカっ……、あー、その、さっきはありがとうな」


 胸元から聞こえるのは、か細くも優しく、救われたような小さな声。

 驚きついでに挙げた両手が行き場を失ってふらふらと空を泳ぐ。


 彼女の背から見える黒い六翼は、しかしこの世界にあって焼け焦げたような跡は一切見受けられず。むしろ服にところどころついた泥や裂傷が気になったが、あの戦いのあとだ。きっと奮闘し続けてくれたに違いない。

 感謝こそすれ、心配や詮索は無用だった。


 ありがとう、との声に、胸元にすりつけられた顔がふるふると横に振られる。

 女耐性の無いシュテンにとってはどう反応していいのかまったくわからないこの状況。

 背に手を回すのも何かが違う気がして、特に意味もなく両手は浮いたまま。


「……あー、その、なんだ」

「……ん?」


 小さな顎が、とんとシュテンの首の下あたりに乗せられる。上気した頬とともに自らを見上げるこの少女に、何から話せばいいのか脳内で順繰り巡る言葉の羅列を並べ替えて。


「こっち、来れたんだな」

「……そうだよ。来たよ。あれからずっと、叶えたかった願いが叶ったんだ」

「そう、か。なんで、たぁ言えねえな」

「うん。言わないで。そんな、分かり切ったこと」


 はにかむように、口元が弧を描く。

 幾ら向けられる好意に実感がわかなくとも、ここまでのことをされて気づかないはずもない。何よりも彼女には、一度言われているのだ。この上なくまっすぐに、勘違いしようのないほどに。


『好きだったのに!』


 彼女の口から聞こえたあの台詞は、忘れようにも忘れられない。

 だからきっと、彼女は――とそこまで考えてシュテンは首を傾げた。


 あれ? 好きだったのに?


 そして、若干甘い空気が形成されつつあったはずの状況に入った亀裂に、シュテンが口を開くよりも先にユリーカが気づく。


「どうしたの」

「いや、まだ好きなの俺のこと」


――古代呪法・車輪転装――


「くたばれえええええええ!!」

「ちょちょちょちょ洒落にならん洒落にならん洒落にならん!!」


 突如出現した二本のカトラスを、これまた二本の鎗(第一神機草薙)を持ったシュテンが慌てて飛びのき凌いでいく。散る火花と共に迸る小さな滴の意味に気づけないほど鈍感ではないが、仕方ないじゃないかああいう空気苦手なんだつい逃げたくなるんだよ。


「しんっっっじらんないもう!! ほんとにもう! どれだけあたしが!!」

「悪かったっていやほんと、俺みたいな没個性のどこがいいのか分からねえし」

「没個性……?」


 こいつは何を言ってるんだ? と小首をかしげるユリーカの瞳から光が消えている。

 まるでどこぞの幼女が大変なことになっていた時を思い出させる剣呑な雰囲気にシュテンが身構えていると。


「……はーあ。ま、いいか。シュテンがバカなのは今に始まったことじゃないし」


 そう、カトラスを消失させた。


「ずっと、好きだよ」

「――」

「こう言わないと分からないもんね。シュテンはアホだし。でもいいの。それでいいの。だって、あたしはそうやってアホなことしてるだけで皆を笑わせてくれる貴方が好きだから」

「……お、おう、なんだこのむず痒い感じは」

「とぼけない」


 ずい、とシュテンの胸に人差し指を突き付けて。

 不満そうに半眼で、口走ったことへの羞恥からか若干頬を染めて。

 それでも目を逸らすことだけはせずに、彼女は続ける。


「だから、あたしはこの世界に来られて本当に良かった。シュテンに会えるって分かって、本当に嬉しかったんだから」

「ああもう照れ臭いわ!! やめろやめろ! なんか会わなかった間にやけにこっぱずかしいことばっか言うようになったな!!」

「それだけ想いを募らせてたのよ?」

「だからやめて!! ほんと!! すみません!!」

「……ふふ。しょうがないなぁ」


 でも。


「ねえ、シュテン。やめる代わりに交換条件がありますっ」

「なんだ、何とでも言え!」

「連れていって。あたしも、一緒に」

「……旅に?」

「うん。廃坑で戦ったのも知ってる。共和国の首都で色々あったのも知ってる。イブキ山で何かがあったってことも聞いた。それで、今回も。……あたしは、それを聞いて思ったの。どうして、あたしは貴方の隣に居ないんだろうって」

「……」

「寂しかったよ。外に出られない自分を恨んだ。でも、もう、大丈夫。大丈夫だから、あとはシュテンが嫌じゃなければ。あたしは、ずっと一緒に居たい」


 いいよね?

 拒絶するなんて許さない、とばかりに少女は微笑む。

 旅は道連れ世は情け。シュテンの旅路に、出会いと別れと再会あり。


 なら、再び出会えば否はない。


「ああ。当たり前じゃねえか。ユリーカと外を旅するのも久々だしな。大歓迎だ。……けど、聞きてえことがあってな」

「なぁに?」

「……そもそもなんでここ居られてるんだ?」


 結局、そのことについての説明はなかった。

 わざとなのか、それともあまり関心がなかったのか。

 思い出したように彼女は目を見開くと、しかしその表情は次第にいたずらっ子のそれになっていく。


 まるで用意していたかのように、シュテンのアイドルはくるりと一回転すると。

 人差し指を頬に当て、問いかけるように挑戦的に微笑んで。


 屈んでシュテンの胸元で、とどめとばかりに上目遣いでこう言った。

 



「あなたの探し物はどこでしょうっ」


没個性系人外転生主人公()

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ