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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
『分岐 選択 並行世界』
232/267

エンディングフラグ:ヤタノ

五話連続投稿しています。こちら三話目です。



得票数 44票


 ――鎮めの樹海内部。戦場だった広場。


「さて、誰に話しかけようかな」


 軽く屈伸して周囲を見渡したシュテンの目にまず飛び込んできたのは、浅い呼吸を繰り返す重傷の童女だった。幸い、というべきかグリンドルによって介抱されてはいるものの、その命の灯の心もとなさは誰の目にも明確で。


『……いつか。いいえ、いつでも。わたしは必ず、貴方の助けになると誓います』


 脳内に甦る彼女の言葉と、今の状況を結び付ければ彼女の怪我の原因など単純明快だ。

 直接的な戦闘力が殆ど失われた状態で尚、きっと無理に無理を重ねてきたのだろう。


 足は気づけば動いていた。

 

「へいへいもしもしー!? ちょいと無事かオラァ!」

「うるさいです」

「あ、はいすみません」


 颯爽登場、と飛び込んだと同時に軽くあしらわれて凹む。

 絞り出すような声色での「うるさいです」は普段の何気ない罵倒よりも遥かに効いた。

 と、ヤタノの腹部に手を当てていたブロンドの青年がゆっくりと立ち上がる。


「……今のところ僕の方でやれる治療はこの程度が限界かな。シュテン、運搬は任せたよ」

「治療さんきゅーグリンドル……え、俺が運ぶの?」

「僕は僕で少し気になることが出来たからね。第三席の御守りまでしていられないのさ。なに。命に別状ない状態にまで引き上げられた以上、あとは設備の整った場所に連れていくだけだよ」


 長い金髪を後ろで縛りなおしながら、グリンドルはそう言ってすたすたと歩きだした。向かう方向にはやいのやいのと騒ぐクレインを筆頭とした光の御子の御一行。……どんな化学反応が起こるのかは分からないが、あっちはあっちで気になった。


「ジュスタもいるし主人公パーティ集結かァ? 俺ってばテンションぶち上がってき――」

「ちぇい」

「うごっ!?」


 興味に惹かれるがまま足を向けたその瞬間、小さな手がシュテンの足首を掴んでバランスを崩す。あわや顔面から大地まっしぐらかというところを寸前で踏みとどまって振り返れば、不機嫌そうにこちらを見る童女の顔がそこにあった。


「心配してきてくれたのでは?」

「おう、もちろん!」

「……ではどこに行こうというのですか」

「いや、ちょっと特殊な五人組が揃いそうだからつい……」


 呆れたような嘆息が耳に届く。


「……まあ、良いです。貴方がそういう人であることは、重々承知の上ですから」


 出来立ての切り株に背を預けながら、彼女は不貞腐れたようにそっぽを向いていた。

 拗ねさせてしまったかな、と思いつつ、シュテンはひっそりと彼女に忍び寄って両脇に手を差し込む。


「まあそういうなよ、っと」

「ちょ、それはやめなさい! やめてください!」

「グリンドルに運べって言われちまったからな」

「もっとやり方があるでしょう!?」

「肩車とか?」

「無邪気に頭掴んでねじ切ってやりましょうか」

「バイオレンスが止まらない」

「まったくもう」


 シュテンの顔辺りまで引き上げられて宙ぶらりん。

 ボロ布同然になってしまった着物をちらちらと気にして若干頬を赤らめる彼女の心の機微になど、当然この妖鬼が気づくはずもなく。


「せ、せめて抱き上げるならもっとこう……おあつらえ向きにわたしって華奢ではありませんか」

「確かに担がなくても肩に座らせるだけで」

「子供扱いの方向性から離れなさい」

「どうしろと」

「……そう、ですね。では」


 いつまでもこの格好で居るのはあまりに恥ずかしい。

 そのようなわけで、すっとその小さな指先でシュテンの右腕を差すと。


「まず、右腕の前腕が私の背もたれです。良いですね」


 肘を起点に、肩に近い方を上腕。手のひらに近い方を前腕と呼ぶ。

 その知識はかろうじてあったシュテンは、言われた通りに彼女の背を右の前腕で支える。

 すると必然的に左腕でどこかを支えないと、彼女は落っこちてしまうわけで。


「左腕は当然、わたしの膝下を通してください」

「……これっていわゆる」

「はい。別に構わないでしょう?」


 満足げな屈託のない笑み。それはまるで童女のようで、そうでありながら余裕のある女性のようで。若干照れ臭い感情を隠しつつ、シュテンは視線を周囲へと泳がせた。


「……あー、その。天照使えねえのに時間稼ぎしてくれたんだってな」

「はい。大変でした」

「ありがとな。おかげで助かったわマジで。前に言ってくれたこととかほら、あったじゃん? だからこう、マジなんだなー、みたいなことをちょっと思ったりしてな」

「本気です。大事な人だから守りました」


 言った通りでしょう? と小首をかしげて見せる彼女との距離は、普段よりもずっと近い。


『貴方がいつかどこかでわたしを助けてくれた時。この前、泥から救い上げてくれた時。こうしてわたしは、とても暖かいものに包まれるような、優しい感覚の中にいたような気がします。それは、まぎれもなく貴方の暖かさだった』


『……いつか。いいえ、いつでも。わたしは必ず、貴方の助けになると誓います。恩返しでもいい、罪滅ぼしでもいい、友達だからでもいい、そういう風に貴方が言ってくれた。だからわたしは、貴方を必ず。貴方のために、貴方の力になると誓います』


 王国に来る前、イブキ山で語らったあの時。


 やりきったヤタノの表情は、どれだけ疲弊していても眩しかった。


「大事な人だから、か……」

「はい。恩だけではなく」

「でも友達だからってわけじゃねえんだろ?」

「……分からない人ですね。他の可能性くらい分かるでしょう?」

「他の可能性だぁ……?」


 胸に抱かれた、童女が一人。


「母性?」

「……わざとと見ました」

「うるせえ! そんなもん言ったらこっぱずかしいだろうが! 落とすぞ!」

「……受け入れられないのなら、落としてくれてかまいません」

「ぬぐっ……」


 ふい、と小さく目を逸らされて。その瞳に宿った寂しさが、ほんの少しとはいえ垣間見えてしまって。

 シュテンは、盛大に息を吐いた。


「~~~、うし、じゃあ戻るか! とりあえず王都に行けばいいだけだしな!」

「ごまかさないでください」

「ごまかしてるんじゃねえよ。……落とさなかったんだ、察してくれ」

「っ……ちゃんと言葉にしてください」

「そいつはもう少し待ってくれや。俺ってばそういう経験皆無なもんでよ」

「向かう先は王都のホテルですか?」

「ほんとやめて!!!」




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