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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之弐『妖鬼 九尾 魔導司書』
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第六話 水の町マーミラIII 『あんだよやんのかモノクルハゲ』

 水の町マーミラ。

 その中心にある噴水から、南方に向かった先に一つの大きな施設がある。白く塗られた全体が、月明かりに反射して青白く怪しげに輝いていた。


 この町のそこかしこを走る細い水道が、さわさわと心地よい音を響かせている中で。

 大きく扉を蹴り開くけたたましい騒音が、その調和をぶち壊した。


「魔族が町に入るだぁ……? っざけてんのか……!」


 果たして扉の前に立って居たのは、表情さえ何とかなればとても知的な好青年であった。蒼く靡く髪はオールバック。かけたモノクルは鋭い目つきと相まって切れ者の印象を抱かせ、すらっとした長身がさらにそれを引き立てていた。


 ところが担いでいるのがデカい大薙刀ということと、凶悪に染まった表情がどちらかと言えばキレた者というイメージを感じさせる。


 帝国書院書陵部魔導司書第五席。帝国書院研究院名誉院長という肩書きをも持つ彼を、帝国で知らぬ者は殆ど居ない。

 そして、彼が大の魔族嫌いだということも。


 冷静沈着にして研究院の若き頂点。部下に慕われ、それでいて甘やかさない"冷えた情熱"のような男。だが魔族は嫌い。


 その理由は誰も聞かないし聞けない。魔族というワードが出ただけで、彼の顔は今のように切れ者からキレた者に変わるからだ。


 魔導書(おおなぎなた)を担いで外へ飛び出した第五席の表情は、その時点でさらに歪んだものとなっていた。


「……何故貴様がそこに居る」

「あら。いけませんか?」

「魔族見逃して良い訳がねェんだよクソロリが」

「ふふ……そうですか」


 食えねえ奴。

 盛大に舌打ちをした第五席の正面に立つ、同じように得物を肩にかけた人物。とはいえ大薙刀を担ぐ彼とは違い、件の彼女は開いた番傘を優雅に肩に乗せるのみ。たおやかな笑みも相まって余裕を感じさせる彼女に、第五席のフラストレーションはさらに高まるばかりだった。


「あのマナの結晶体? でしたっけ。研究はどうですか?」

「分かってて言ってそうで本当に癪だが……これから調べるところだ」

「では、今からどちらへ?」

「魔族狩りに決まってんだろうが」


 肩に大薙刀をかけ直した途端、鈍い金属音。第五席だけが使用している、内部に特殊な金属を埋め込んだコートが原因である。魔導司書の制服である黒のコートを改造した、彼独自の礼装。


 臨戦態勢一歩手前の彼を上から下までゆっくりと見つめたその童女は、「あらあら」と口元に手をやって驚いた雰囲気。


「何があらあらだハッ倒すぞ」

「いえ……研究の方が楽しそうですのに」


 ぶちっ。


 何かが切れた音がした。


「研究のが楽しいに決まってんだろうがバカかテメエは分かるか未知の存在を解き明かすそのロマンというものがだいたいな貴様がさっさと駆除してればオレは今でも充実した研究ライフを送れていたはずなんだこのオレの相棒(おおなぎなた)も魔導研究の役に立てて咽び泣くところだったんだよそ・れ・がこの有様のせいであの凄まじい魔素を内包する謎めいた物体のほんの少しも解き明かせないまま生殺し状態で仕事に出なきゃならなくなったしかもその理由がどぅわいきらいな魔族をテメエとグリンドルのクソが見逃したり返り討ちなんつう魔導司書の風上にもおけねえ失態を犯したからだ後少しの時間さえあれば結晶と結晶の感応現象を間近で観察することができたはずだ何も手がかりがなかったところに差した一筋の光明を試すその一歩手前にまで来ることが出来ていたはずだ一切合切の反応を見せなかった謎に包まれたオーパーツを手に入れた興奮以上のものが味わえるはずだったんだそれなのに貴様らのせいで全てがおじゃんだ分かるかオレの今の感情が怒りと焦燥とでない交ぜになり苦しみすら覚えているオレの気持ちが貴様に分かるのかヤタノ・フソウ・アークライトオオオオオ!!!」

「はい、ヤタノです」

「返事を期待してんじゃねえんだよマジで殺すぞお前!?」


 ぜえ、ぜえ。息を切らして睨みつければ、笑顔で健やかなお返事がかえってきた。この状況を彼の部下が見れば、失禁どころではすまないだろう。それくらい、放つ覇気は凄まじいの一言だった。


 だが流石は第三席。彼のそんな憤りを込めた怒声もどこ吹く風。

 番傘を傾けて微笑みとともに綺麗な会釈。


「……でも、未知のマナ結晶ですか。一切の反応が見られない、と?」

「ああそォだよクソロリ。どんな魔導実験を繰り返そうが、試しに他国の魔法を試してみようが何も受け付けない。暴発や消滅のようなアクションがある方がまだ研究者的にはマシなんだ。スクロールに0以外の数値を一切打ち込めねえ悶々とした感情のまま出てきちまった」

「なるほど……でもマナの結晶であることは間違いないと?」

「物質的には魔素以外の何物も感知出来ない純度ほぼ100パーセントの代物だった。だからこそどうなってんのかさっぱり分からない」


 研究者的には、その道の質問をされるのは嫌ではなかった。相手がどんな人間であろうとも。どれだけ長く生きていても、ヤタノは研究者ではない。当然そのあたりの知識量は若き名誉院長の方が上であった。


「そうですか。もしかしたら、むしろ世界から抽出された魔素の凝固体なのでは?」

「……それも考えはした。だが、もし凝固体だというのならば、魔素の波を当てて分解しないはずが無い。……いや」

「マナの結晶と見られるほどの高純度魔素凝固体なら、魔素の波を当てても効果が無いのは当たり前のことかもしれませんね」

「違う。あれは、凝固体なんかじゃない。抽出された魔素の純結晶……それも外殻が無い状態の超高密度不定形魔素結晶だとしたら……!」

「あらあら……」


 可能性は、あった。

 自然と、大薙刀を掴む手に熱がこもる。あれはただのマナの結晶ではない。世界そのものから抽出され、不定形なマナが"たまたま"高密度な集合体を形作り、外皮膜もないままになっているとしたら。

 あの結晶は固体にして固体ではなく、触れることは出来てもそれは高密度のマナそのものに触れているだけであの固体そのものに触れている訳ではない。浮かぶマナそのものだとしたら。


「常識を覆す……凄まじい代物が出来る……!! あれをテーマに論文を書き、帝国全土に向けて発表すれば、我が国の魔導はさらなる高みに上り詰めることが……!!」

「あ、あの。テンションをあげるのはいいのですが」

「うるせえ!! 世界をさらにリードする研究が目の前にあるんだ!! すぐに戻って研究だ!! てめえもその番傘で助手紛いのことくらいはしてもらうぞ!!」

「いえ、ですから……えっと。デジレ、聞いていますか?」

「なんだよ!?」


 戻ってどんな実験をすればどんな結果を生んでくれるだろう。やることは山積みだ。欠けていたピースがようやく見つかったような、晴れやかな気分。すぐにでも実験に入りたいが、安全性を考慮して研究室に戻ってからやることを大量にピックアップしていた第五席――デジレのコートの裾を、ちょんちょんとヤタノが引っ張る。


 苛立ちを込めてコートを引っ張り彼女の手を逃れるが、何か言いたげな視線がとても鬱陶しかった。早く戻りたい気持ちを抑えて彼女を睨みつければ、す、と研究院の門のほうを指さすヤタノ。


「お客さんです」

「おお、ヤタノちゃんじゃねえかおひさ~……でもねえか。元気しとぉや!」

「ちゃん付けはやめてくださいと何度も」


 比喩抜きに、デジレの動きが停止した。


 あれは、何だ。


 研究の躍進を夢見て早く戻ろうというこのタイミングで。今なら暴れ無い限り放っておいてもいいかなとほんっっっのちょっっっっぴりでも思った矢先に、わざわざここを帝国書院113支部研究院と知ってか知らずか無法にも入ってきた、男。


 黒き二本角の、妖鬼。


「まあぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおく!!!!!!」

「お、おお? どなた?」

「デジレ・マクレインです。魔導司書の、第五席」

「あ、どうもご丁寧に、妖鬼のシュテンです……ん? 魔導司書? やばくね?」


 ふるふると怒りに、憤りに思わず震えすらこみ上げてくる。

 何故この状況なのだ。討伐依頼は確かに出ていて、探す手間が省けてラッキー? そんなバカな話があるか。あとちょっとで、あとちょっとであの謎の魔素結晶の反応が見られるかもしれなかったのに。感動を間近に控えていたのに。


 その思いが目の前の、危機感の欠片も無い妖鬼に向かって炸裂する。


「このクソ鬼が!! なんつうタイミングで来てんだよふざけんなこのオレの研究欲が満たされるぎりぎりのラインを二度も踏みにじりやがってああクソが!!」

「え、ああごめん取り込み中だった? 俺も魔導司書と対立とかやだしまた来るわ」

「帰るな!!!!」

「ええっ……?」


 心底嫌そうな顔をする妖鬼。だいたい何の用だというのか。

 デジレは魔導書(おおなぎなた)を構え、妖鬼を睨みつける。


「何を陽気に帰ろうとしてんだ……帝国書院の敷居を跨いでおいて、生きて帰れると思うなよ……!!」

「……え、笑うとこ?」

「陽気に妖鬼が帰るんですって。面白いですね、デジレ。ふふっ」

「まとめてぶっ殺してやろうか!?」


 隣で上品に笑うクソロリに対する怒りと合わせて、デジレの覇気が沸き上がる。


「オレとそこのクソババアに、テメエに対する討伐依頼が出てる。だからよォ――」


 矛先を下に向け、体を半身に捻り、柄を強く握りしめた右手とは別に左手をゆっくりなぞるように添える。まるで引き絞られた弓のようなその構えは、彼が殺しを行う前動作。


「――さっさと死ねやクソ魔族!」


 風がデジレの足元に波紋を生んだ。

 瞬間彼の姿が消え、同時に彼の居た場所の石タイルがぐしゃりと潰れる。


 金属音が鳴り響く。


 ぎりぎりと、火花の飛び散る鍔迫り合い。


「……へぇ。ただの魔族じゃァねえとは思ったがよ……!!」


 常人には全く追えなかったであろう今の一瞬。

 だがヤタノには見えていた。音をも置き去りにするデジレの一撃を、余裕を持って大斧で受け止めたシュテンの姿が。


 上から叩き潰そうとする大薙刀と、ただ受け止める大斧。一歩間違えば両断されるのはシュテンだというのに、力関係はまるで逆だった。


 気を抜けば弾かれ壁にまで飛ばされる。

 脳裏を掠めたその予感に、抜け目無く力加減を操って上空に舞い戻るデジレ。


 追ってくるかと思ったが、余裕を持った着地を許された。


「……っぶねえな」

「言ってろ、割と余裕だった癖によ……!!」


 力で魔族に負けることは、往々にして人間にはあり得ること。

 だがデジレにとっては違った。神蝕現象抜きで魔導司書がやりあえば、間違いなくデジレが随一の技量を誇る。その秘訣は技巧と速度と力、全てを重ね合わせた重撃。


 それが力だけで跳ね返された。

 いくら魔族嫌いとはいえ、力量まで見誤る愚か者は魔導司書には存在しない。


「おいヤタノ……手伝え」

「……ヤタノちゃんどっか行っちゃったけど」

「あんのクソロリがああああああああああああああああああああ!!」


 怒髪天を突く勢いでの叫びが町中に鳴り響く。

 振り向けば、先ほどまで居たはずの着物童女はどこにもいない。

 姿を眩ます隠蔽の技能は凄まじいと思ったことはあったが、それに怒りを感じたのは初めてのことだった。


「……どいつもこいつもふざけやがって」

「いや、俺も捜し物だけ終わったら帰るからさ」

「捜し物ァ?」

「神秘の珠片っていう、このくらいのマナの結晶」

「渡す訳ねえだろうがクソが!!」

「ええっ!?」


 なぜ!? とでも言いたげな妖鬼の表情に盛大に舌打ち。

 なるほどハナから目的はそれであったかと、もう一度魔導書(おおなぎなた)をシュテンに向けるデジレ。


「あんな素晴らしい研究対象をわざわざ……ツッ、魔族如きに分かるはずもねェか。おい妖鬼、今から殺すぞ」


 ふぅ、と一つ息を吐いたデジレは、もう一度構えを取った。

 その瞬間、言いようもない覇気の旋風が彼を中心に巻き起こる。



 ――神蝕現象(フェイズスキル)清廉老驥(せいれんろうき)振るう頭椎大刀(かぶつちのたち)】――



 濃紺に染まり上がる大薙刀。

 凄まじいオーラの噴出と、爆発的な覇気の増加。

 知的であった翡翠の瞳は朱に染まり、シュテンを見据える。


「魔素ってのァ、生物にも染み着くものだ……おいクソ鬼、じゃあ生物のどこに浸透するものだと思う?」

「……知らんが」

「答えは細胞だ。人間や魔族に限らず、生物の細胞全てに魔素は宿る。それも、一蓮托生するほどの依存度をもってな……」


 じりじりと焼け付くような音が聞こえる。

 その音源は、まさしく彼の持つ大薙刀。見れば、大薙刀の纏う濃紺のオーラと通常の空気の境界線が、まるでじりじりと削り合うようにうごめいている。


「魔族は、体内を占める魔素の率がほかの生物よりも格段に高ぇんだよ。魔獣もそうだ。ああ、魔族も魔獣も、同じ害獣……オレらを踏みにじる支配者気取りのゴミ共はみんな……っ!」

「っ!?」


 一瞬の攻防だった。格段に素早さを増したデジレの刺突。打ち払うよりも回避のほうが早いと踏んだシュテンがステップで避けようとしたその時。


「オレの神蝕現象【清廉老驥振るう頭椎大刀】はその強者に対する絶対的覇者ッ!! この世に存在するあらゆる魔素ッ!! その全てを触れた瞬間分解すんだよッ!!」


 凄まじい勢いで薙払われた大薙刀。

 シュテンの耳を掠めた瞬間、勢いよく彼の耳と頬から血が吹き出した。


「があああああ!?」

「触れた瞬間と言ったが……オーラにだ。オレの魔導書(おおなぎなた)に触れたらなどとは一言も言ってねェよ」

「ぐっ……!!」

「はッ!!」


 鬼殺しを振るう。

 大薙刀と接触した瞬間、まるでチェーンソーでも当てられたかのようにがりがりと刃が削られていく。


「ま、それだけじゃねえんだがこれで十分だろうが……その大斧、魔導具か。そんなに魔素を持った武器でオレとやりあうたァ……不運だったな!!」

「と、思うだろ?」

「あぁッ!?」


 凄まじい膂力で放たれた鬼殺しを防ぐのに必死だったデジレの鳩尾に強烈な蹴りが入った。

 その勢いたるや玄関にまで吹き飛ばされるほど。壁に盛大に穴を開け、デジレは地滑りするように転がった。


「ぐほっ……」

「パワー勝負なら負けねえってのッ!!」

「クソがッ……!!」


 地面にもんどりうって叩きつけられたデジレの視界に影。

 慌てて転がり回避した途端、大地に亀裂が走る。すぐ横すれすれを鬼殺しが打ち砕く。


「テンメェ……人の大事な研究院にッ……!!」

「珠片くれればそれで良かったんだが……さすがに痛みで俺も怒ったわ」

「ふざけッ……!!」


 口汚く罵ろうとしたその瞬間だった。今の鬼殺しの一撃で、おそらく盛大に罅が入ったせいか足下が崩れる。


「地下一階にッ……!!」

「あん? 地下あんのかここ」

「何暢気に落ちてんだよッ!!」

「珠片の反応下なんだもんよー」

「反応ッ……!? あの結晶が何か波を放っていた形跡はどこにも――」


 あえなく落下する二人。

 打ちつけられたのは通路の多い地下一階の一角。


「あ、もう一個くらい下か」

「馬鹿がッ!! やめろおおおお!」



 と、そこでシュテンは何かを感じたように無表情でもう一度床を砕く。


 亀裂。粉砕。落下。


「こんの野郎ふざけんな!! オレたちの大切な研究施設を!!」

「ここまでやるつもりは無かった。持ち合わせのガルド全部やるから許せ」

「許せるかよクソが!!」


 どれほどのパワーをもってすれば、ただの一撃でフロアを打ち砕くことなどができるのか。その凄まじさに対する戦慄と同時に、理不尽な魔族に対する怒りは天井知らずに沸き上がる。


 しかし、仮にも"世界最強"を誇る帝国書院の魔導司書が、神蝕現象まで発動してこの有様だ。これではもうグリンドルのことを悪くいえるはずもない。


 だん、と地面に足を着いた。今度はお互い、無様な着地などは見せない。


「第五席!?」

「う、わわわわわ!!」


 突如天井が砕けたかと思ったら空から人影が降ってきた。それだけでもとんでもない事態だというのに、キレると怖い第五席がボルテージMAX、そして対面には輪をかけて凄まじいオーラを放つ妖鬼。

 失禁し気絶する研究員が多発する。


「ああああ……!! オレたちの大切な実験機器が……マジで許さねェ……!! テメエだけは絶対に許さねェ……!!」

「うわ」


 シュテンはあたりを見回して、それから正面で血の涙を流すデジレを見て、謝るよりも先にそんな言葉がでた。


 ど真ん中をぶち抜いて落ちてきたらしく、研究施設はぼろぼろ。

 と、足下に何かが転がっていた。どす黒い、石ころ。


「反応が……!?」


 おそらくシュテンが来るまでは変色していなかったのだろう。

 シュテンの握るどす黒い色をした珠片に目を丸くしている。


「じゃ」

「あああああああああああああ!! 逃げんなクソ虫があああああああああああああああ!!」


 その一瞬の隙を突き、シュテンは空高く跳躍した。

 だが、そのシュテンの表情が曇る。


「……ん? もう一個の珠片も、そこにあんのか?」


 シュテンが珠片を見つけると、次に近い珠片へと瞬時に反応が切り替わる。シュテンはおそるおそるゆっくりと珠片を懐にしまってから、一階に着地して下を覗き込んだ。


「……変色……魔族の接近による変化……違う……超高密度不定形魔素結晶……捜し物……異常な強さの妖鬼……」


 地下二階。怯える研究員たちのど真ん中で、デジレが輝く珠片を握りしめて居た。そのつぶやきの内容に、シュテンは戦慄する。


「おいおい……まさか自力でこれがどんなものか気づくってのかよ……?」


 そんなシュテンを差し置いて、デジレの脳内では高速で仮説が組み上がっていく。


「実験体はオレでいい……実験予測は……超高密度魔素の体内結合による超強化……」


 ぶつぶつと呟く内容に、嫌な予感が隠しきれずにシュテンは彼から視線をそらせない。


 その瞬間だった。デジレが、凄惨な笑みとともにシュテンを睨みつけたのは。





「違うかよ、クソ妖鬼」



 同時に、彼は珠片を喉奥に飲み込んだ。


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