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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之壱『妖鬼 放浪 一人旅』
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エピローグ 岩場の穴蔵 『契約、或いはそれ以上の何か』


 うっすらと、意識が深海から浮上するような感覚が体を包み込んだ。

 ここはいったいどこだろうか。

 上へ行く、上へ行く。てらてらと太陽が照らす、綺麗な淡い光の方へ。


 進んで、進んで。


 水面上に浮かび上がった、と思ったその瞬間。


 視界が、開けた。


 天井は、やたらとごつごつした岩で出来ていた。夕日が差し込んできて少し眩しい。だが、このオレンジ色の日差しが不思議と俺は嫌いじゃない。


「……ここは」


 上体を起こそうとすると、やけに体が軋んだ。だが、それ以上に今までよりもずっと体が軽いような気がする。

 俺は、今まで何をやっていたのだったか。


 ……ああそうだ。グリンドルとの戦闘中に、珠片を胸の中に叩き込まれて、それであのヤバい痛みの中で……無我夢中でグリンドルと戦っていたのだったか。


 グリンドルを殺さなかったことにもほっとしたが、それ以上にあれだ。神蝕現象(フェイズスキル)の恐ろしさを身を以て実感したよ。


 なんだよあれ。そりゃ帝国だけダンチでチートなはずだよ。あれで一番魔導司書中最弱とかバカかよ。いや、珠片二個目のおかげで何とか倒すことは出来たけれども。


 しかし、出来ればもう二度と吸収したくない。珠片怖い。軽くトラウマになりそうだ。


「……で、そのあと俺、倒れて……」


 で、何で岩場にいるんだったか。

 とそこまで考えて、岩場の癖にやけに寝床がふわふわしていることに気がついた。


 ちら、と横に目を向ければ、なんか顔を真っ赤にしてそっぽを向いたままの九尾が居た。とすると、俺が寝ているのはあれか。尻尾か。


 うわすげえもふもふしてる。狐ってもっとごわごわしてるもんじゃん。何、良いシャンプー使ってるとか?


「……起きたならどきなさいよ」

「まだ寝てる」

「どけ」

「うぃっす」


 さすがに飛び降りるとまだ体が痛むので、ゆっくりと彼女の尾から降りる。軽く腕の調子を確認しようとして右肩にふれると、布を巻かれているようだった。


「あ、わざわざ手当なんてしてくれたの」

「な、何よ。迷惑?」

「いや、ありがとな。そこまでしてくれるとは思わなかった」

「一応助けられたんだから当たり前じゃない」


 助けられた、ねえ。たまたま通りかかって、物見遊山テンションでグリンドルと相対しただけ、なんていえない空気だわなこりゃ。

 表面上は確かに助けたことになるんだろうが……いや、偶然だったとしても感謝の気持ちは受け取っておくか。別に害があるわけでもなし。


「……ん?」

「っ!?」


 なんだか体に違和感。

 だがそれ以上になんかおかしいのは九尾。

 俺がちょっと声をあげただけでびくって反応したし、さっきからそっぽ向いたまんまで一切目をあわせようとしねーし。


 疑問に思って彼女を見ても、本当につーんとした空気のまま。


 なに。俺悪いことかけらもして……あ、したわ。盛大にさっき尻尾もふもふしたわ。けどどう考えてもそれが原因じゃないだろこれ。


「なあ九尾」

「な、なに?」

「目ぇ、合わせろや」

「…………べ、別にそんな理由どこにもないでしょ」

「何を隠してんだお前」


 泳ぐ泳ぐ、視線が泳ぐ。


 あまりにもあからさまなその態度。

 ならまあ、俺も俺でさっき感じた不可思議なものの正体を探るだけだ。


 ……。


 ……。


 ……なんか、あれだ。魔力だ、原因。


 でも、魔力の何がおかしいんだ?


 ……ん、これは。


 ………………ん? んん?


「俺のじゃねえ魔力が混ざってる!!」

「びくっ!」

「びくっ、じゃねえよどういうことだおい! どっかで感じたことあると思ったらあれだぞ、これテメエの狐火から感じた魔力だぞこれ!」


 さっぱり分からないが、どうやらそれ以外にも変に体外にパスが繋がってるような感覚がある。どこに繋がってるかといやあ……


「おい、こっち向け」

「いや」

「いやじゃねえよ説明しやがれ駄尻尾が」

「駄尻尾?!」


 心外だとばかりに勢いよく振り向いた。

 その顔にずいっと近寄る。

 勢いよく引かれるかと思いきや、なんか顔を赤くして目そらしやがった。


 おい本当に何したんだテメエ!


「……け、けんぞく」

「あ?」


 ぽそり、と目をそらしたまま呟いた九尾。

 眷属ァ?


「だ、だから! 眷属契約したの! あんたの魔力が死にそうだったから私の眷属にして魔力供給してあげようと思ったの!!」

「あ、なに。助けてくれようとしたの。なら最初からそう言えば…………ん? 思った?」


 それなら体外に繋がるパスにも納得だ。だが、それなら俺に魔力が戻った今切っちまえばいいじゃん。

 そんな思いを込めて彼女を見れば、なんか凄く顔を真っ赤にしていた。これお兄さん知ってるぞ。羞恥って奴だ。


「……だから……あんたが……強すぎて」

「あ?」

「ぎゃ、逆に眷属にされちゃったの!! この私が!!」


 ……。


 それって。


 ぶっ。


「ああああああ笑ったわねこの駄鬼いいいい!!」

「誰が駄鬼だ。ご主人様と呼べよ」

「誰が呼ぶもんですかこのスカポンタン!!」

「ほー、身を呈して眷属たる貴様を守ってやったこの我に向かってその態度か」

「なんか途端に偉そうになったわね!? ほ、ほんっとふざけた男!!」


 ごめん、超おもしろい。


 つまり、彼女は善意で俺を助ける為に眷属契約をしてくれたは良いものの、珠片を二個も取り込んでる俺の強さを"従える"ことができずに逆に眷属にされてしまったと。


 はっはっはっは。


 いや、超おもしろいじゃん。


「お腹抱えて笑うほど!? 転がって笑うほど!?」

「はっはっはっは!」

「む~か~つ~く~!! こ、これでもあんたよりずっと長生きなんだから!! 敬いなさいよ! 敬意を払え! 敬意を払え!」

「わ、我が眷属様におかれましてはお年の割にこうちょっと残念なところがおわしますわね。ぷぷっ」

「盛大にバカにしてるし! ほんとはあんたが目覚めるまでに切っておくつもりだったのにいいい!! いいからさっさと契約切りなさい!」

「はっはっはっはっは。やだ」

「はあああああああああああああ!?」


 やだよ。何で契約切らなきゃいけないのさ。

 何でそんな目ん玉飛び出すほど驚いてんだよ。


「だっておまえもこれから帝国いくんだろ?」

「そうだけど!? だから何!?」

「俺も帝国いくから。ほら、旅は道連れっていうじゃん。ぶっちゃけ一人旅寂しかったんだよね」

「あんたの事情なんか知らないわよ!! なんでついていくことになってんのよ!!」

「いやまあ、すべては己の失態ということで一つ。ほら、眷属ってことはあれでしょ。俺が死んだらお前も死んじゃうんでしょ? 心配だろ?」

「いっちいちムカつくわねあんた本当にいいいいいいい!!」


 むきゃーむきゃーと叫ぶ九尾。

 楽しそうで何よりだし、別に嫌がってるようにも……ん? ガチで嫌がられてる?


「おい九尾、おい九尾」

「なによ!?」

「そんなに俺と一緒やだ?」

「なっ……べ、別にそんなことを言ってるわけじゃないでしょ!?」

「あ、うん、じゃあおっけーです」

「は!?」

「契約切るのやーめっぴ」

「あああああああああああ!! もう! こいつむかつく! こいつほんとむかつく!!」



 だってほら。


 愉快な旅の仲間ができて俺は凄く満足だし、すてきだと思います。


 ああ、そういえば。

 結局今の今まで聞いてなかったことが一つだけある。


「おまえ、名前なんていうの。俺シュテンね」

「あり得ない速度で話題変えたわね!?」

「……で?」

「……ヒイラギ。ヒイラギよ」

「また俺の天敵みたいな名前しやがって」

「あんたより早く生まれてるっつってんでしょ!?」


 むきゃー! とばかりに怒りを露わにする九尾――改めヒイラギ。


 彼女が帝国にどんな思いを秘めているのかとか、これから俺たちの前にどんなもんが立ちふさがるのかとか。


 魔導司書がうじゃうじゃ居る場所にいくわけだから、考えなくても凄く萎えるっちゃ萎えるんだけど。それでも珠片集めの旅……あと12個。


 今までの一人旅よりも、なんだか楽しくなりそうだ。


「ねえちょっとシュテン、何一人で空見て笑ってんのよ」

「いや、夕日が綺麗だなーと」

「あんた、そういうキャラなの?」

「何でそんな微妙な目に晒されなきゃいけないんですかねえ!?」


 体も何とか動くし、今日はここに野宿して、明日から帝国に行くとしましょうか。


 ま、何はともあれ。


「これからよろしくな、ヒイラギ」

「なんか凄く釈然としないけどね……もういいわ」








 はくめんきゅうび の ヒイラギ が なかまになった!▼

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