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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之陸『妖鬼 鬼神 共和国』
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第十八話 リンドバルマI 『擦れ違い』

 一方その頃、デジレとジュスタの二人組はリンドバルマの街に到着していた。


 共和国領の中でも中枢都市の一角、そして帝国からの攻撃も軽微且つレイドア州自体の力も強くなったこともあり、共和国領随一といって良いほどの規模の都市だ。


「ふへー、こんなにおっきくなったんだ……」

「なんだ? 昔とは違うのか?」

「ボク、そもそもリンドバルマに来るの二回目なんだよね。基本的にはストルムで命令受けて行動って感じだったし。もしかしたらボクたちのことなんか信用してないから街の構造知られるの嫌がったのかもしれないけれど」

「考えられる話ではある、か」


 相変わらず黒コートは肩にかけたまま、大薙刀を片手にデジレは街の外観を見上げていた。

 頑丈そうな鉄鋼の外壁は、帝国は帝都グランシルを想起させる。いや実際、それにあやかったものだろう。帝国にて使用されている魔鋼は外壁の素材として非常に優秀だ。

 教国聖府首都のそれよりも遥かに頑丈に造られているあの外壁は、いくら混沌冥月とはいえ単独の攻撃による破壊などはおそらく出来はしない。


 人の行き交う数は、ストルムの町などとは比べものにならない。帝都グランシルほどとまでは行かないが、それでも地方都市としては十分過ぎるほどに人口があった。

 その中に紛れるようにして、デジレとジュスタは歩みを進める。


「検問は……ないのか。ずいぶんと警備が緩いな」

「治安には安心出来ないね。……でも、忍の情報網さえあれば、何か起きてもすぐに飛んでいけるから余り関係ないのかも」

「忍術は火力こそないが、利便性の高いものは多い。……そういう意味では、忍の統治する街の統治は楽かもしれんな」


 ふん、と一つ鼻を鳴らしたデジレは巨大な外門を見上げながらその下を通過していく。おそらくは魔鋼で出来た橋を渡る間、きょろきょろと辺りを見渡すジュスタは少々挙動不審だったが、デジレに頭を叩かれるとすぐ保護者に噛みつく子供にしか見えなくなる。


「なにすんのさ!!」

「そうしてろ。煩わしいが、怪しさは減った」

「もうちょっとなんかあるだろ!? ねえ!?」

「もしあったとして、お前にそんなまわりくどいことをしてやるようなギリはねえよ」

「ぬぐぐぅ……!」


 周囲の目が微笑ましいものを見るそれに変わっているとはつゆ知らず、デジレとジュスタの珍妙な二人組はリンドバルマの街に入っていく。この街は三階層に分かれた所謂要塞都市であり、今入ることが出来たのは下層と呼ばれる区域だ。


 この区画は基本的に低所得民が暮らしているために、町中の空気はいつも騒がしい。

 とはいえ特別汚いということもなく、その辺りの公衆衛生や区画整理には気をつかっているようだった。


「もっとも、それが裏路地に回っても続いているかは知らんがな」

「……おのれ……デジレめぇ……」

「うるせえ」


 隣で拳を握りしめるジュスタを無視して、デジレはこのメインストリートを見渡していた。まず、街道がとても広い。大きな通りに武器屋や宿屋が置かれている辺り、街の人々も自衛手段は持っていると言っていいだろう。

 なのにも関わらず、デジレのような大きな武器を持った者が少ないのは、ここが共和国領である証拠。


 もし、街道で呼び子をしている少女や、往来の筋骨隆々な男、痩せた青年に、楽しそうに会話をしながら歩いている女性たちが持っている武器があるとすれば、それはおそらく暗器の類だ。


「忍ってのはそういや、ああいう時もやっかいだったな。変装も気配遮断もお手の物……そりゃ、街中に敵を入れることくらい平気か。自分の庭なら正々堂々戦わなくても確実に殺せる自信があるってことか」

「……変装、ねえ。ふーん……?」

「なんだクソガキ」

「……ねえ、デジレ」

「ああ?」


 周囲に気を配っていたせいか、デジレはジュスタの変化に気がつかなかった。

 何かを思いついたように悪い顔をする、暗色の瞳をした少女。イヤな予感を禁じえずに、しかしわざわざ取り合ってやると余計面倒になると判断した彼はさっさと酒場なりカフェーを探すために足を早めた。しかし。


「さっきボクの頭叩いて、怪しさを消すとか何とか言ってたよねぇ?」

「挙動不審なバカ連れて見張りの前なんか通れるか」

「あ、そ。つまりはボクをわざとただの子供に見せたんだ……覚悟しろよ」

「はぁ?」


 にやり。と暗い笑みを浮かべたジュスタ。

 広い街道のど真ん中で、不穏な会話をしていたせいか。それとも、大薙刀を担いだ、ただ者ではなさそうな男と妙に既視感のある少女のコンビに目がいったのか。

 何れにしても見てくれで目をひく二人組だ、今も余り大声で会話をするのは得策ではないはずなのに。


 次の瞬間、その不気味な表情から打って変わって、ジュスタの表情が屈託のない満面の笑みへと切り替わった。そして唐突にデジレの手を引いて走り出す。


「次はこっち見てみようよ、お兄ちゃん!」

「お兄ちゃん!?」

「えー、だめなのー?」

「て、テンメェ……!」


 見事だと、デジレは素直に感服した。

 いや、お兄ちゃんと呼ばれたことなどではない。そんなことでは勿論ない。

 純粋に、目の前の少女の完全演技にだ。


 今の彼女は心のそこから、(デジレ)が一緒に来てくれないことを寂しがる天真爛漫な妹のそれにしか見えない。後ろ手を組んで、つま先を立てて俯く姿に周囲の視線が突き刺さる。


「ぐっ……ふざけやがって。さっさと酒場なりなんなり探すんだよクソが」


 やっていられない。それがデジレの正直な心情だった。

 だからこそ、"妹"の演技をする彼女をおいてさっさと歩き出す。


 だが。


「ふ、ぇ……ひっく……」


 ……イヤな予感がした。


「うわあああああああああああん! お兄ちゃんがぁ……お兄ちゃぁん……! 行っちゃやだぁ……!!」


 さびた蝶番のように振り向けば、ぺたんと地面にへたりこんで、人目もハバカらず大泣きするジュスタの姿があった。これにはデジレも青筋プッチンプリン。

 だが、周囲は先ほどまで一緒だった青年が"お兄ちゃん"だと推測してか、非難の目を向けてくる。ジュスタの容姿はまだ十と少し。それに普段の空気とは違う甘ったれな少女のような雰囲気を纏って天下の往来でぎゃんぎゃん泣かれれば、さすがにこれを置いていく訳にはいかなかった。


「おい兄ちゃん。何をしたかは知らんが、さすがに可哀想じゃねえか。許してやれって、お兄ちゃんだろう?」

「お兄ちゃんじゃねえ……!!」


 突如肩を組んできた、通りすがりのツナギ姿の親父に、頬をひきつらせながら否定する。その瞳に籠もった尋常ではない怨念に、モノクル越しとはいえ親父は悲鳴を上げて飛び下がった。街道で起こった、往来をふさぐような騒ぎにデジレも頭が痛い。


 仕方なしにジュスタの元へと戻ると、彼女は相変わらず嗚咽を漏らして潤んだ瞳でデジレを見据えた。


「お兄ちゃぁん……」

「このッ……クソガキッ……!」


 しかし、周囲の目が痛い。

 これ以上この場に居る訳にもいかず、デジレはジュスタを担ごうとした。

 が、ジュスタは身をよじって嫌がる。どうしろと。


「……おんぶがいい」


 その台詞が聞こえたのか、「可愛い妹さんだ」だとか「あれは甘え上手だねえ」とか、帝国書院書陵部魔導司書第二席に向けられるようなものでは到底あり得ないなま暖かい言葉がデジレの背を突き刺す。下手な殺気よりも遥かにダメージのでかいそれ。

 そのうちハゲるのではないだろうか。


『ひゃっはー! モノクルパゲパゲー!!』


 幻聴が聞こえたので絶対にハゲてなどやるものかと決意を新たにしたデジレ。


 それはともかく、どこまで小馬鹿にすれば気が済むのだこのクソガキは。

 今にもちぎれそうな血管と共に、彼女の首根っこをひっつかむ。そして小脇に抱えると、急いでその場を撤収した。人目につくようなところにこれ以上居ても仕方がない。


 ささっと裏路地に駆け込み、脇の荷物を捨てる。


「ぎゃん!?」

「……とんだ恥かかせやがってこの野郎」

「いたたっ……ふんだ。あれだけ子供扱いしたんだから、子供になるくらい我慢しなよ」

「なぁにがお兄ちゃんだ」

「お兄さまがよかった?」

「そういう問題じゃねえんだよクソが」


 頭が痛い。


 それなりに高く造られた石の住宅群の間にある小道を、デジレとジュスタは進んでいく。しばらく大通りにでるとジュスタの演技でヒドい目に遭いそうなこともあって、とりあえずはと適当に歩いていた。そこそこに複雑な隘路だが、デジレにとってはそんなものは関係ない。歩いた歩数と角度を計算し、脳内に地図を組み上げていく。


「……そういや、さ」

「あ?」

「初めて会った場所も、こんなとこだったよね」

「教国の路地はもう少し整理されていた。ここまで雑多じゃなかったな」

「そうだったかな。ボク、木箱にぶち込まれたことしか覚えてないや」

「そりゃおつむの問題だろうが」

「なんだと」


 軽くあしらわれて、頬を膨らませるジュスタ。

 そんな彼女を後目に、さくさくデジレは進んでいく。


 と、狭い裏道を行くジュスタの足がふと止まった。

 見上げるのは、建物の先に見える細くて狭い空。

 思い出すのは、数ヶ月前の記憶。


「自分でもびっくりしてるんだよね」

「何がだ」

「デジレと一緒にこうやって歩いてること」

「こっちはいつ置いていけるかずっと考えてるが?」

「でも置いていかないじゃん。さっきも、無視して行けばよかったのに」

「……何が言いたい」


 "さっき"を思い出して機嫌がさらに降下したデジレは、苛立たしげに振り返る。

 そんな彼の凄まじい怒気を受けても動じず、肩を竦めてジュスタは言った。


「ボク、演技でも人に甘えるのなんて久々だったよ」

「だから何だクソガキ」

「……別に、真意をくみ取れなんて言わないけど。やることは変わんないしね、お兄ちゃん」

「路地裏なら人の一人や二人死んでいてもおかしくないか」

「待ってよ!!」


 少し甘えたように笑うジュスタのその表情を演技だと割り切って、デジレは無表情で大薙刀を抜く。慌てて首を振るジュスタだが、その真剣味にかけた顔つきに毒気を抜かれてデジレはため息をつくしかなかった。


「忘れんなよクソガキ。テメエが故郷の真実を知りたいというから共に居る。それだけだ」

「……うん」

「何を少し感情溶かしてんだクソが。その程度の恨みしかないなら、元々復讐なんざ向いてねえんだよ」

「っ……そ、それとこれとは違うじゃん!」


 呆れた視線を向けるデジレに対して、ジュスタは真に激情を露わにする。

 どこか食い違った会話。まだまだ年端もいかない子供であったジュスタにしてみれば、突き放された気分は拭えない。しかし、元々からそういうドライな関係でしかなかったというのも確かな話だ。元々、目の前の男は仇でしかないのだから。


「真に仇が居るなら、力を尽くせばいい。だが、それで怒りのよすがを失い情に絆されてしまえば、そいつは結局"復讐なんて何も生まない"なんつー甘ったれた考えしか持たなくなる。……そんな奴を、オレは何度も見てきた」

「ボクはそんなんじゃない!」


 怒りを露わに、思わず勢いで踵を返したジュスタは走り出してしまう。

 そんな彼女の後ろ姿を見て、デジレは呟いた。


「……それが悪いことだとは、オレは欠片も思っちゃいねえよ」


 心情の吐露は、当然ジュスタには届かない。別に届いてほしいとも思わなかったし、彼女の感情に対して説得じみたことをするのはデジレのポリシーに反していた。

 だからこそ、特に彼女を追うつもりはなかった。だが。


「……っ」


 駆けだしていたジュスタの前の空間がぶれる。

 その瞬間にはすでにデジレの姿は消えていた。


「う、わ」


 飛び出す飛針。襲撃だと気づいた時にはジュスタはすでに対応出来ない。

 が、彼女の目の前でデジレが大薙刀を一閃。

 ぶれた空間ごと周囲の設置物が軒並み吹き飛び、暴風の後にはデジレとジュスタの二人しかいない。弾き飛ばされたであろう、空間に身を溶かしていた曲者は軽く一回転して着地した。


「……おやおや、誰かと思えばジュスタ姫ではありませんか。こんなところに、何のご用で? もしや……ストルムの忍と内通でも? 手前の御仁は存じませんが、相当な手練れの様子。襲撃でも仕掛けるおつもりかな?」

「初手で殺しを仕掛けたような奴がご挨拶だな、クソ野郎。二度と立ち上がれねえように背骨砕いてからきっちり尋問してやるよ」

「血気に逸るとろくなことがありませんな、お互い。なに、ジュスタ姫がこんなところに居るのであれば首でも持ち帰れば、一人の鼻つまみ者を処分出来ると思ったまで」


 ゆらりと、前かがみになった鎧の男。見た限り、"特導兵"と呼ばれる連中の一人と見て間違いないだろう。しかしそれにしては随分と、覇気の度合いが違う。


「……レイドアの忍の生き残りか?」

「さて、ね。忍たる者、あまり簡単に名乗るのも面白くない」

「そうか」


 肩にかけて居た黒いコートを、デジレはジュスタに投げつけた。


「わぷ!?」

「もってろ。十秒で殲滅する」

「……ほぉう、なるほど確かに凄まじい技量だ。だが……この狭い領域は我らの本分。そう易々と殺されるとは思わないことだ」

「……言ってろ」







 とくどうへい の ゲンブ が あらわれた !▼



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