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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之伍『妖鬼 企業 吸血鬼』
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第二十六話 ネグリ山廃坑X 『どうして』




 アレイア・フォン・ガリューシア。


 やたらと気が強く、それでいてパーティに無くてはならない大切な後衛。


 カテジナ・アーデルハイド。


 一本気で騙されやすいところが多いが、一撃の大きさはパーティ随一。


 ヴォルフガング・ドルイド。


 寡黙で控えめな性格とは裏腹に、誰よりも仲間を守ることに特化したディフェンダー。


 ランドルフ・ザナルガンド。


 オールラウンドに誰よりも全ての技能を突出させた、当代最高の天才。





 アイゼンハルト・K・ファンギーニは、その全員の犠牲があって今ここに居る。

 最後には最高のパーティだと胸を張って言うことだって出来ただろう、仲間たちの犠牲の上に立っている。


 一年の思い出は今も死闘の記憶と共に鮮明に思い出すことが出来て、油断をすればつい手紙を書いてしまいそうになるくらいに、絆はとても深かった。


 死んでしまったことが信じられないくらいに、彼らはアイゼンハルトから見ても、とても強い人達だった。


 本当に、最高の仲間だった。


 だから、今目の前に居るのが幻影で、本人たちなどでは決して無いと分かっていても。


 ついうっかり、言葉を発してしまうのだ。


 最高の聖剣使いと、大親友であった天才に、つい話しかけてしまうのだ。


「どいてくれや、しませんか……!! ぼかぁ、大事な人を助けに行かなきゃ、ならないんだ……!!」


 青虹・偉天。

 赤と青の奔流が、伝説の剣と円月輪を弾き飛ばす。接触する度に散る火花が、どれほどの力同士でぶつかりあっているかを物語る。


「……」

「……」

「……ちく……しょうがあああ!!」


 分かっているはずなのに。

 言葉が通じないことくらい、理解しているはずなのに。


 それでも一年連れ添った、楽しく頼もしい仲間たちの姿形そのままに、彼らを彷彿とさせる武芸さえも見せられてしまっては。どうしようもなく、死んだはずの仲間が甦っているように……否、最初から死んでなど居なかったのだと思えるくらいに、アイゼンハルトの心を締め付ける。


「……」

「……」


 無言の連撃。

 円月輪による左からの攻撃を防げば、見事にかみ合ったタイミングで魔剣が振り降ろされる。紫電のようなものを纏う剣を弾き返し、その先から迸る閃光を回避する。


 すかさず放たれる円月輪と、アイゼンハルトの隙を突くように放たれる魔剣。


「……どう、して……!」

「……」

「……」

「どうして、幻影がっ……あの頃のきみらと同じっ……」


 美しいまでの連携を魅せつけてくるんだ。


 喉もとまで出かかった言葉を飲み込んで、テツは全力で双槍を振るった。


 弾き飛ばす。円月輪も、魔剣も……そして、よぎった雑念のなにもかも。


『私は、さ、最初から気づいていたぞ。お化けなど存在しない!』

『っつーかよ、アンデッド平気な聖剣使い様がどうして霊がダメなんだ。召喚してやろうか?』

『まあまあお二方、ぼかぁ怖いんで、やめてもらえやしませんか』

『! アイゼンハルトも仲間だったか! ……あ』

『この女墓穴掘りやがったぜ……!! アイゼンハルトがフォローに入ってくれたってえのに』


 いつしか、旅路での記憶が甦る。

 光の神子などというたいそうな名前を背負っていながらパーティ最下品(モストげひん)の代名詞だったランドルフ。聖剣使いとして除霊を専門にしながら、お化けがダメだったカテジナ。


 げらげらとあの日三人で笑い合った、その時の楽しそうな顔も覚えている。

 むくれっ面も、怒った顔も、嬉しそうな顔も、悔しそうな顔も。


「……」

「……」

「お前さんら……なんか少しは、表情出してくれても構いませんぜ……?」


 相対する二人は無表情。

 血の気が完全に抜け落ちたような、青白い真顔のままだ。目は自然にアイゼンハルトを追い、ただひたすら攻撃の為に腕を振るう。時折魔剣の力やエンシエント・ロードの力を行使しようとするのも、まるで組み込まれたアルゴリズムのようで。


「どうしてッ……」


 双槍を振るう。

 どうして、の次になにを続けたかったのか、自分でもさっぱり分からない。

 濁流のような激情が、次から次へと溢れだして、何から声に出していいのか分からなかった。そもそも、言葉を発したところで通じることすら絶望的だというのに。


 それでも訴えかけたくて、伝えたくて。


 アイゼンハルトは叫ぶ。その胸の内からどうしようもなくこぼれ出す想いを。


「どうしてお前さんらと戦わなくちゃならないんだッ――!!」


 共に旅した、仲間だというのに。


 と、その瞬間降り注ぐ大量の大薙刀。

 緊急回避よろしく後方に跳躍するランドルフとカテジナ。

 あいたアイゼンハルトとの間に着地する、一人の影。


 背中にはIの文字。

 帝国書院の、頂点。


「混乱するなアイゼンハルト。それは、ただの幻影だ」

「……お前さんのように、人を簡単に割り切れると思うな……!」

「悲しみも喜びも、その時だけの感情。……引きずることに何の意味もない」


 視線だけでアイゼンハルトを振り返り、そのまま彼は正面に向かって手をかざす。


「分断する」

「随分と、羽振りがいいじゃああらんせんか」

「言ったろう……私怨なのだと」


 巨大な魔法陣から、噴き出す凄まじい炎。

 ランドルフとカテジナの間を突き抜けたその炎はまるで壁のように燃え盛り、彼ら二人を分かつ。


「好きに暴れるがいい」

「お前さんに言われずとも……」

「そうか……それが本気の言葉なら、かまわない」


 純粋ナル正義・九つ連なる宝燈の奏を発動したアスタルテの瞳の中には、弐から拾までの数字が浮かんでいる。全力なのだと思い知るには十分のその力に気圧されたまま、アイゼンハルトは鎗を構えるしかなかった。


 あっさりと跳躍して、自ら作った炎の壁の反対側へと消えるアスタルテ。

 残されたのは、ランドルフとアイゼンハルトのみ。


「きみとはもう会えないのだと……ぼかぁ思っていたんですが……」


 双槍を軽く振って調子を確かめる。


「……」

「こんな形で、きみを見ることになるなんて、もっと思っちゃいなかったッ……!」


 円月輪の構えを見て、アイゼンハルトは前方に向かって跳躍した。

















――神蝕現象(フェイズスキル)【純粋ナル正義・九つ連なる宝燈の(しらべ)】――


 響きわたる祝詞に、シュテンは思わず身構えた。

 爆発的な魔力の奔流が、背後に居た現人神から流れ出す。


「なぁにお前……まぁだ上があったの……」

「別に、あの時が全力などと(やつかれ)は言った覚えはない。それに、この力はどちらかと言えば後衛仕様だ。一人で任務に当たる時には使わぬよ」

「あ……そ……」

「きみたち頼りだということだ」

「とことん利用する時は利用するつもりかテメエ!!」


 うがー、と吼えるシュテンに対して、アスタルテのほうはどこ吹く風だ。というよりもアスタルテ自身を凄まじい暴風が纏っており、おそらくは近づくことすら容易ではない。


「覚悟はいいか、グラスパーアイ」

「無視っすか。もう俺は前衛ケテーイな感じですか。そっすか」

「煩わしいよ、鬼神の影を追う者」

「この世全てが自分の庭だと思うなよ!?」


 好き放題やりやがって、とぶつくさ文句を垂れながらシュテンは鬼殺しを構えた。


「……よくもまあ偉そうにガタガタ抜かしやがって。ぶっ殺してやる!」

「吼えたな、コウモリ風情が」


 アスタルテの瞳に日輪が灯る。踊る数字は弐から拾。


 凄まじい覇気と共に、アスタルテは宙を舞った。


「行け、九つ連なる宝燈よ」


 それは、暴風だった。


「ふざけやがって」


 グラスパーアイが魔導を放とうとしたと同時、その風が彼を凪ぐ。


「っ!?」

国士無双(ナラビタツモノナシ)を混ぜた風だ。一瞬の魔封じにだけは、使いやすい」

「んのっ……!!」

「そして、一瞬あれば十分だ」


 魔導を封じられたそのたった一秒にも満たない時間の間に、アスタルテはグラスパーアイに肉薄した。迎撃も間に合わない、攻撃をそのまま受けるかと思われた瞬間、アスタルテは何かに気づいたようにバックジャンプ。


 今の今までアスタルテが居た場所を通過する、黒の閃光。


「……なるほど、貴様の操り人形から駆逐しないことには、やっかいきわまり無いという訳か」


 冷たい視線が、地上のアレイアへと注がれる。そのまま流し目で現状を把握したアスタルテが取った行動は、テツが戦うカテジナとランドルフを分断することだった。


「あいつ、神蝕現象を魔法と同等程度にしてばかすか使えるようになってんのかもしかして……っとと!?」

「せんぱい!」


 アスタルテの大立ち周りを観客視点で眺めていられたのも数瞬。

 ヴォルフガングのハルバードをもろに受けて、鬼殺しに罅が入る。


 ハルナが叫びと共にパワーアップ系の魔導をかけてくれたおかげで助かったが、体内魔力が活性化するよりも先にイヤな予感がしてハルナのほうを向く。


 詠唱をする隙なんざあったかと。


「あっ……」

「ハルナアアア!!」


 よそ見をしていたシュテンが悪かった。

 戦場において、今目を離してはいけないのは、アスタルテではなくハルナなのだと。


 アレイアの魔導が、黒の数十からなるレーザーが彼女に襲いかかる。

 術式をかけたその一瞬生じる硬直に的確にあわせてくるあたりは流石だとしか言いようがないが、ほめられるような余裕は皆無。


「――状況は不可解だが……きみは魔族である鬼神の影を追う者と仲間、と判断していいのか?」

「ぇ……?」


 その黒のレーザーは、あっさりとアスタルテによって……というよりもおそらくは四肢五体分かつ暗き刻限によって、ずたずたに引き裂かれて消滅した。

 魔導すらも切り刻むことが出来るということは、おそらくあれも魔素を分解する系統なのかもしれないとシュテンは目を細める。


「……礼は、言っとく」

「今だけは後衛を任せろと、言ったはずだろう? この最高の後衛に」

「どれだけ自信あんだよ、神様気取りか」

「残念ながら、(やつかれ)は神だ」

「ああそうかい!!」


 ハルナを助けられたことで、流石に文句を言うことも出来なくなったシュテン。

 翻ってハルナのほうは、アスタルテという人知外の化け物に見据えられて身動きが取れなくなっていた。


「ひぅ……」


 だが、アスタルテは彼女にあっさりと背を向けると、もう一度襲いかかってきたアレイアのレーザーをあっさりとその手から射出した斬撃の嵐で打ち消すと。


「きみは好きに魔法を使い、鬼神の影を追う者を援護するといい。それ以外のことは、(やつかれ)が全て片づける」

「……は、はい!」


 杖を握りしめて、気丈に前を睨むハルナ。少なくとも今、生きる為に勝つ為に、信じる以外の選択肢は存在しなかった。


「プロテクトアップ!!」

「サンキュー……ハルナ!」

「はいっ!」


 シュテンはシュテンで、ヴォルフガングを見据える。

 今アスタルテのことを考えるのは止めにして、目の前で起きている戦いに集中するしかない。


「集中……ヴォルフさんはどーされると嫌なのかッ……」


 ふぅ、と息を吐いた。

 妖鬼であるシュテンよりもでかいヴォルフガング。突然変異として共和国に誕生したハルバーディア。そんな彼を相手に、勝つ為には。


「……上、か」


 一撃、全力の振り降ろしを加える。

 ヴォルフガングがよろけた一瞬の隙にバックジャンプして、そのまま力を込めて空へと跳んだ。


「よっしゃあ!! 食らえ必殺!! 相手の弱点に漬け込むアタック!!」

「……!」


 全力で回転しながらの大斧の振り降ろし。

 明らかに右膝に重心をかけさせるその力の入れ具合に、さしものヴォルフガングも崩れ落ちる。そのまま脳天から一撃を加えようとして――一瞬攻撃を警戒してアレイアのほうを見た。すると。


「クッソガアアアア!!」

「……」

「魔導戦で、(やつかれ)に勝とうと思うなど百年早い」


 二人の魔導師を相手にかみさまが無双していた。


「……見なかったことにして、さらばだヴォルフガング! ほんとはサインほしかったよ!!」


 膝を地面についた状態でなにを出来るということもない。

 ヴォルフガングの脳天から大斧を振り降ろして、シュテンは。


「およ?」


 ヒットした瞬間、スカッ、と。攻撃がヴォルフガングをすり抜けた。

 と同時に、きらきらと粒子になって消えていくヴォルフガング。


 確かに当たった感触はあったのだが、とぐーぱー手を閉じて開いてを繰り返すシュテンは、消えていくヴォルフガングを見てふと息をするのを忘れた。


「……」

「……え?」


 小さく、先ほどまで一切表情筋の動かなかったヴォルフガングの口元に、小さく弧が描かれていて。


「…………ありがとう」

「……お、おう……?」

「…………ようやく、死の間際から解放される。アイゼンハルトを……宜しく頼む」

「あ、お……おう。いえあ」

「……フッ。変な奴に、負けたのだな」


 そのまま粒子となって、ヴォルフガングは消え去った。

 グラスパーアイが倒されたのかと思い、呆けた表情のままシュテンは向こうを見て、発狂しかねない表情で必死にアスタルテの魔導を回避する彼を視界に納めてゆっくりハルナの方へ視線を戻すと。


「はあ……はあ……やりましたね……せんぱい……」

「……」

「せんぱい?」


 緊張からか息も絶え絶えのハルナと目を合わせたシュテンは、ヴォルフガングの消えた場所を指さして。


「キエエエエエアアアアアアアシャアアアアアアアベッタアアアアアアア!!」

「……せんぱいがこわれた」


 なぜか興奮と共に奇声をあげるシュテンに、ハルナは白い目を向けるのだった。

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[一言] キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!! いや草
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