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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之伍『妖鬼 企業 吸血鬼』
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第二十五話 ネグリ山廃坑IX 『葬魂幻影』


「テツ……神蝕現象解除しろ」

「っ!? シュテンくんが十分に戦えねえってえのは分かりますが」

「ちげえ。アレイアもカテジナもありゃ本体じゃねえ、幻影だ。闇魔力を介して作られた幻影が放つ魔導は全部闇魔力に変換される。お前の神蝕現象(フェイズスキル)は、ほぼ効果を発揮しねえ」

「っ……!! とことん使い勝手が悪いもんで」

「俺も昔よくそう思った」

「えっ?」


 ンヒィ!! 現場のシュテンでっす。

 いやもうマジやっべえことになってるから。なにがやばいって後方でドヤ顔でふんぞり返ってる社畜ヘッドがやばい。野郎ぶっ殺してやる。


 二度とそのニヤけたツラが出来ねえように! バラバラに切り刻んで! すりつぶして! 日にかわかして! こなごなにして! 土にうめて! 上からションベンかけて! それから掘り起こして! ひっぱって! のばして! ひきずりまわして!


 ってこれ違うゲームだ。


 にしてもにしても。


「……」

「……」

「……」

「……」


 あー……っと。


「はうあーゆー?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……元気そうでなによりです」

「白目剥いてる余裕はないとぼかぁ思うんですが……」


 シュン、と何かが収束するような音がして、体にあった圧迫感が消えた。

 テツの神蝕現象(フェイズスキル)の効果がおそらく消えたんだろうとは思う。


 さて。


「ハルナ、サポート頼むぜ」

「は、はい!!」


 背後でいつでも守れるようにしながら、鬼殺しを構える。

 隣に最強が居てくれるのは頼もしいが、俺が足を引っ張るわけにゃあいかんからな。


「闇魔力と"光の神子"の特性は同居しない。現人神もまた然りだ。聖剣は反転して魔剣になる。アレイアの魔法は基本的に水だろうが炎だろうがなにが飛んできても闇属性だ。それを頭にたたき込んで戦え」

「シュテンくん、やたらと詳しいのは何ででしょうや」

「まあ色々な」


 ランドルフは全盛期ほどの力は絶対に出せない。

 それ以外の三人も戦いやすくはなっているはずだ。ノーマルカテジナの聖剣なんざぶっぱされたら俺下手すりゃ一撃で溶けるしな。おっかね。


「闇耐性強化、その他バフ魔法をかけていきます!」

「頼もしいですなあ、ハルナ嬢」

「……まさか、テツさんがそんなに強いなんて思いませんでした……! しかも、魔導司書だったなんて……!」


 目をきらきらさせて、ハルナは言う。


「……ひょっとしてアイゼンハルトだって気づいてないんじゃね?」

「ま、知ってもプラスになることなんざ一つもありませんや」


 こそこそと二人で会話して、改めて幻影に相対した。


「さぁ、かかってこいや紛い物共があ!!」

「……!」

「……!」

「……!」

「……!」

「う、嘘です! おひとりさまずつ! おひとりさまずつお越しください!!」

「シュテンくん……」


 ランドルフとカテジナ、ヴォルフガングが地面を蹴った。

 アレイアの周囲に魔法陣が展開される。


 あきれかえるテツは、しかし向かってきた彼らを見て歯を食いしばると。


「偽物が……ぼくの仲間を汚すなッ……!!」


 一閃。

 カテジナの魔剣と青虹がぶつかり合う。火花が舞い散る一瞬にランドルフが背中から襲いかかった。が、カテジナの力を利用してスライドしたテツが返し手で青虹を打ち払う。


「……!!」

「んだコルァ!! 気合いが足りねえぞ!! 腹から声ださんかい!!」


 おっかねえ!! 気づいたらマジでヴォルフガングが目の前に居たよ。

 つばぜり合いってえのは厳しいな……っつか重っ。ゴリラかよ。

 瞬間、体内を魔素が駆け巡る。


「なんぞ?」

「シェイド・プロテクト!」

「やるじゃねえかハルナ!!」

「はいっ!」


 俺とテツ、そしてハルナ自身にかかった闇魔力に対する耐性向上魔法。


 調子は悪くない。


 これなら行けるかもしれない。


 そう思った、直後だった。


「……」


 降り注ぐは大量の黒い炎。

 闇属性にいくら耐性ができたからといって、あれを食らう訳にはいかない。

 S級ブレイヴァー、尋常じゃねえなクソが!!


「ハルナ!!」

「大丈夫っ、です!」

「テツ……は大丈夫そうだな」

「ちったぁ心配してくれても、かまわないでしょうや……!!」


 ランドルフの幻影とカテジナの幻影。王国と教国のトップを相手に、テツはその二本の鎗を巧みに使って立ち回る。弱体化しているとはいえ……ちょっとテツさん強すぎませんかねえ。


「オォオオオラアアア!!」

「っ……」

「悪ぃなオッサン!! パゥワーなら俺の方が上らしいぜ!!」


 強引にヴォルフガングを弾き飛ばす。

 奴の弱点は膝だ。右膝。矢を受けてしまってな的なサムシングだったことは覚えてる。なら右膝を踏ん張らざるを得ない状況にもっていけばッ……!!


「うぉ!?」

「アレイアをフリーにしちゃあダメですわ! シュテンくん、頼みます!」

「んなこと言ったってッ……!」


 黒の奔流が右頬を掠めた。混沌冥月ほど太いビームじゃあねえが、拡散するレーザーほど避けにくいものはねえ。アレイアをフリーにするのは恐ろしいが、だからと言ってヴォルフガングとアレイア同時に相手するほどのキャパはねえし、なによりハルナはたぶん一撃貰ったらその時点でアボンだ。そんなことにさせる訳にはいかねえ!


「じれったい、じれったい! おのれ、ランドルフもカテジナも……下僕にしたら雑魚とかほんっとうに使えねえ……!!」

「あ?」

「しかし五対三ならまた話も変わろう……!! この手で葬ってくれるわ!!」

「こんなタイミングでテメエまで出てくんじゃねえよ!!」


 グラスパーアイがじれてきたか、前へと躍り出た。周囲を旋回する風の刃が、中々近づかせてくれそうにないが……しかし。

 ふ、と視界の端を掠める影。


「ランドルフとカテジナを……下僕と言ったか……!!」

「ちっ!!」

「あ、おいテツッ!!」


 ランドルフとカテジナを置き去りにして、現れたグラスパーアイに凄まじい速度で偉天が投擲された。バウッ、と風が弾かれたような音と、空気の変動が肉眼で見えるほどのその威力。

 だが辛うじてそれをグラスパーアイは回避した。

 よろけてバランスを崩したが、そこに追撃をするような暇はない。


「っ!」

「……」

「……」

「ランドルフ!! カテジナ……!! 邪魔をするのは、辞めてくれやしませんかッ……!!」


 ランドルフもカテジナも、意識がないとはいえ百戦錬磨の実力者だ。

 偉天の投擲によって一本になってしまった鎗を操り、テツは二人をいなすことで精一杯だ。


「まあ空中だし、いつか偉天も落ちてくんだろ……って思うしか今はできることがねえな!!」


 ヴォルフガングのハルバードは、ぶっちゃけ鬼殺しよりも質がいい。

 打ち合う度に鬼殺しが悲鳴をあげるのがわかるくらいってえのは、今までは無かったことだからな……ちょっとまずいどころの話じゃあねえんだが。


「食らえッ!!」

「テメエマジ引っ込んでろ社畜ヘッドォ!!」


 そこに社畜ヘッドが妨害とばかりに風と炎の矢を降らす。二百年経ってもろくなことしねえなこの野郎。


「……」

「で、お前さんも併せてくるなよ頼むから!!」


 クロスファイアとばかりにアレイアの魔導が縦横無尽に襲いかかる。まるで格子状の檻に閉じこめられたかと思うくらいには、こいつらの弾幕が激しい。

 ヴォルフガングに一発くらい当たらねえかなと思ったが、五英雄の連携は健在だ。背中に目でもついてんのかってくらいにブラインドとして良い仕事しやがるから、ヴォルフガングがずれたと思ったらその背後から魔導が飛んでくることもしばしばだ。


 やめろばか。ふざけるな。


「ていうか一撃も入れらんねえ……!!」

「一撃すら入らず凌いでるシュテンくんも中々でさぁ……!!」

「このままじゃジリ貧なんだけどねっ!?」


 ランドルフとカテジナ相手に鎗一本で戦ってるテツさんもだいぶおかしいんだが、本当にやっかいで他人頼りな古代呪法作りやがったなあの社畜。


「プロテクトアップ!!」

「さんきゅーハルナ!!」

「助かりますぜハルナ嬢!」

「え、へへ……!」


 一時的な防御力増加。

 防御と簡単に言っても、別に攻撃を食らってダメージが減らずに済むだけじゃねえ。

 結局んところ硬化作用があるってこたぁ、ふんばりも効きやすくなるってことだ。

 狙ったようにそんな魔法かけてくるあたり、やっぱり才能あるなあの子。


「……なるほど、そこのガキから殺せばいいわけか」

「テメエ本当に外道な」


 す、とグラスパーアイがハルナを指さした。何のサインかと思いきや、四人の英雄がハルナを一瞥する。おいおい嘘だろ、優先ターゲット変えられるのかよ。大人しくガンガン行こうぜにしてろよ。


「ひぅ……!?」

「ダイジョーブダイジョーーブ。シュテンさん居る、テツ居る、お前居る。ダイジョーブ」

「え、あ、は、はい!!」


 とは言ったものの、まずいな。


 ヴォルフガングのハルバードがそろそろ本当にきつい。

 ……アレイアは?


「……」

「案の定ハルナ狙いか。ハルナ、今更逃げるこたあ多分無理だ。攻撃食らわないのを第一に立ち回れ。最悪サポートは後回しだ!」

「え、あ、でも」

「おっけーおっけー。きみに死なれるのが一番困る。大丈夫先輩死なない。あすこのアスパラも死なない」

「は、はい!」


 詠唱の隙を突かれるのが一番困るんだよ。


「……!」

「お前パゥワー増してねぇ!?」


 が、と上段からの振り降ろし。慌てて防いだは良いが、両足が軽く地面にめり込んだ。ってか重い。おっさん重い。クッソ、どうにかしねえと。ああハルナはいいから心配そうにこっちを見るんじゃあない。いいからアレイアの魔法から避けるのに集中しなさい。


「シュテンくんッ!!」

「あん? うのぉ!?」


 慌てて跳躍。カテジナの魔剣から直線状の波動が迸る。

 おっかねえ……っとと!?


「ヴォルフさん容赦ないっすね!!」

「……!!」

「ちっ!」


 一撃も貰わずに今のとこ済んでるがじり貧。相手さんに疲労ってもんがあるのかもわからん。その上でこの人数の不利と、完全な格の差。……おのれ、打開策が。社畜ヘッドに良いようにされるのは癪なんだがな……!!


「あ、ありがとうございます!」

「なぁに、それが仕事だ!!」


 ヴォルフガングが隙を見てハルナに攻撃をぶちかまそうとしたのは、流石に焦った。慌てて弾き飛ばしたが、鬼殺しからイヤな音がする。これ、本当にまずいんじゃにゃーの?


「テツ!!」

「わかってまさぁ!!」


 カテジナの魔剣から迸る波動は、完全にハルナ狙いのそれだ。

 青虹でその剣を弾き、空中へと狙いを外す。


 これが続けばダメージは貰わずに済むってわかってるんだが、問題はっ――


「葬魂幻影に疲労などという概念はない! くたばって死ね!!」

「テメエさえぶっ殺せばワンチャン的なのがあればいいなァ!!」


 次々に射出される炎と風の矢を打ち払う。

 あいつふんぞり返ってあれしかやらねえ……けど今んとこあれをやられるのが一番うぜえ。


 アレイアの魔導、社畜ヘッドの魔導、この二つの弾幕をかわしながら、俺はヴォルフガング、テツはカテジナとランドルフを止めなきゃならねえ。ハルナはおそらく一撃貰ったらジエンド。クソゲー過ぎる。


 グラスパーアイが近づいてきてくれたら、それこそチャンスがくる可能性もあるんだが……空中に座しているあたり、やっぱりあいつさえ死ねばこの幻影は消えるんだろうし。


 とはいえ、テツも鎗一本のせいで劣勢。俺もヴォルフとアレイアからハルナを守らなきゃいけなくてじり貧。ハルナに至っては格の差が尋常じゃなくて詠唱する隙なし。


 クレインくんたち、援護に来てくれればまた話は別なんだが。


 と、その時だった。


「受け取れ」


 声。


 同時に、テツの足下に突き刺さるは赤の短鎗。間違いなく、"偉天"。


 援軍か、助かった。なんて振り向いたのがまずかった。


「何でここでお前なんだよ!!」


 グラスパーアイよりも、遙かに高みから俺たちを見下ろす、一人の人間。

 否、人間とは呼べないかもしれない。なぜなら奴は、ランドルフと同じ現人神。


「アイゼンハルトと"鬼神の影を追う者"が居てこのていたらくか。随分と、無駄なことをしているようだな、きみたちは」

「今忙しいんだよ帰れ!! 帰ってくれ頼むから!! お前の相手までしてる暇ねえんだよ!!」


 偽らざる本音である。


 だが、奴はその黒いコートをはためかせて哂う。

 見下したように、せせら笑うように。


「それは、断る。(やつかれ)にはね、許せないものが三つあるんだ」

「ああ!?」


 ヴォルフガングとの打ち合いに必死になってるこっちの身にもなれってんだ。

 ハルナはやべえ奴の登場に呆然としちまってるし……けど、テツはあっさりと偉天を抜き取って応戦してるあたり肝据わってんなあおい。


「こんなところまでこのタイミングで来るのか、アスタルテ・ヴェルダナーヴァ」

「……貴様が、これを?」

「何の話だ?」


 と、会話に割り込んできたのはグラスパーアイ。

 その声に気づいたか、ゆっくりとそのまなざしを彼に向けるアスタルテ。


 冷えきった視線と、いらだちの籠もった瞳。

 その交差は一瞬であった。


(やつかれ)は許せないものが三つある。その一つが、死者への冒涜だ。……その上でもう一度聞こう。貴様が、これを?」

「葬魂幻影のことを言ってるんだとしたら、そうだ! 私が、わざわざ作り上げた"敵の再利用"! 二年前の敗北は、いわば吸血鬼派……ひいては私の躍進の為!! この術によって、貴様らに復讐を果たす!」

「……そうか。よく分かった」


 ふぅ、とアスタルテは一息吐くと。


「今回、(やつかれ)は私怨でここに来ている。英雄らしくない、実に良くないことだ」


 ばさり、と指輪を掲げてアスタルテはグラスパーアイを見据えた。

 グラスパーアイのほうはといえば、アスタルテの散々な言いように腹を立てた様子で彼を睨む。


「英雄だとか、死者への冒涜だとか、テメエが言えた口か? 戦争を起こしてる時点でテメエは大量の死人をいたずらに作ってんだ、同じ穴の狢なんだよ。英雄気取りがうざってえ!! 私は魔王軍躍進の為に戦ってる、貴様になにを言われる筋合いもねえ!!」

(やつかれ)は帝国を守るために英雄となった。勘違いをするな。そして、コレ以上、(やつかれ)を怒らせるな……吸血鬼」

「帝国の英雄? テメエのせいで何人の帝国人が死んだんですかねえ……!? 偉そうにほざくような高尚な精神、テメエみてえな英雄気取りが持ったふりしてんじゃねえ!!」

「……148552人」

「ああ!?」


 怒鳴り散らすグラスパーアイに、アスタルテが答えたのはよく分からん数字のみ。

 噛みつこうとする彼よりも先に、アスタルテは言葉をとうとうと続ける。


「148552人だ。この五十四年間と百八十四日、(やつかれ)の指揮で散っていった勇敢な戦士たち。(やつかれ)のそれよりもずっと大事な命を張って、帝国の為に殉した、高潔な魂たち。たとえ歴史が彼らを忘れようと、墓に骨が埋められることがなかろうと、(やつかれ)だけは絶対に彼らを忘れない。彼らの犠牲があって初めて帝国が成り立っていることを、彼らが戦った証を、(やつかれ)だけは忘れない」

「……テメエ」

「グラスパーアイ、と言ったな」


 す、と細められたアスタルテの瞳。


(やつかれ)は、高潔な死を弄ぶ輩を絶対に許さない。最高の魔導司書の怒り、身をもって知るがいい」


 指輪が、光輝く。


 と、その瞬間ちらりと俺のほうを見た。


「アイゼンハルト、"鬼神の影を追う者"。今回に限っては"私怨"でここに来ているが故、きみたちに害を為さないと誓おう。故に、この最高の後衛に身を任せて存分に暴れるがいい」

「あ? やだよ怖ぇ」

「……その証拠に、(やつかれ)の全力を……''私怨''の力を、存分に見せてやろう」


 なにそれ、全力って。


 お前。今まで全力じゃなかったの。


 という俺の疑問よりも先に、神蝕現象(フェイズスキル)が、発動した。






――神蝕現象(フェイズスキル)【純粋ナル正義・九つ連なる宝燈の奏】――





 きゅうけつき の グラスパーアイ が しょうぶ を しかけてきた!▼

(専用BGM『共闘戦線:帝国の支配者~BOSS BATTLE GRASPEREYE~』

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