1ー7 選ぶと言うこと
体力を測定するときに、シャトルランや、持久走。そういったものがある。
持久走では走る距離が決まっていて、その速さ点数が決まり、シャトルランには回数によって点数が決まる。
それらに共通するのは体力。ただただ走るという作業をこなす忍耐力。精神力。持久力である。
だがその時はみな、走りたくない、だとか、高得点をめざすぞ、とか。そういったことしか考えないだろう。
走らなければ死ぬ。なんてことは学生が味わうことはまずないだろう。
俺は今、命を天秤にかけて走っている。無論生きるためだ。
「はぁ・・・はぁ・・・ぜぇ・・・はぁ・・・」
仲間の一人が呼吸を乱し始めた。俺も人の事は言えない。額を流れる汗。体から染み出る汗がシャツによって吸い込まれ、それが不快感を醸し出すのだ。
「くそっ!まだ半分かよ!!」
先ほど俺と喧嘩をしたチビッ子が叫ぶ。その表情に余裕なんてありはしない。あるのは焦りと、恐怖だ。
俺達をストーカーしている護衛の数は八。そのうち三人が鎧とかを身に付けた重装備で、残りは身軽な格好の奴等だ。幸い弓矢を持っている者はいないため、近距離でしか攻撃はできない、と言うわけだ。
ここで補足をいくつかしよう。まず俺達が走っているのは山道。だが人の手によって整備された道を走っている。木々が左右にあり、その間にある一本道をただ真っ直ぐに走っている。
待ち伏せをしている奴等がいるのはまだ先だ。この一本道を走り続けるのは気が滅入る。
俺達が目指しているのはこの先にある小さな小屋。その中が俺たちのゴール地点だ。小屋の周囲には木々が生い茂っており、そこに待ち伏せはいる。
小屋に入り、息を潜める。護衛が小屋に入ろうとした所を一斉に叩く。その際俺達には僅な休息が与えられるのだ。
「護衛は・・・ちゃんとついてきてるな」
後方を確認する。そこには武装をした護衛がちゃんとついてきている。その表情に疲労は見えるものの、恐怖は無かった。あるのは俺達を殺したいと言う欲求。金を得たいと言う欲望。
全く、早くこの地獄から抜け出したい。それとシャワー浴びたい。服もちゃんとこっちの世界のやつにしないと・・・
突然走る音とは違う音が耳に入った。俺の右側だ。顔をむけると、仲間の一人が地面に倒れ混んでいる。しかも足を押さえて。
「おい!大丈夫か!?」
「畜生・・・足を捻っちまった・・・」
「おいどうすんだ!護衛の奴等はもう来てんだぞ!」
動揺が走る。ここで取るべき行動は見捨てる。それか一人が待ち伏せの所に行って連れてくる。それまでは四人で八人を押さえなければならなくなる。しかも一人は怪我人だ。勝ち目は無いだろう。
「・・・見捨てるしか・・・ねぇよな・・・」
チビッ子は歯を食い縛り、悔しさを滲み出す。そうだ。それがベストな選択だ。今の状況。俺達の状態。敵の数。それらを踏まえれば見捨てることなど当たり前なのだ。
他の奴等もその意見に賛同した。足を捻った男は痛みを堪えながらも立ち上がろうとするが、足に走る痛みに顔を歪ませている。
「頼む・・・見捨てないでくれよ・・俺、まだ死にたくねぇよ・・・」
「おい!あいつらもう来やがった!どうすんだよ!?」
「武器さえあれば戦えっけど、この状況じゃ・・・」
誰もが見捨てると言う選択を取りかけている。俺だってそうだ。こんなところで敗戦確定の戦いをするほどマヌケではない。
だがどうする。自分の目の前で、命の危機が迫っている奴を見捨てれるだろうか。そいつは懇願するのだ。助けてほしい。見捨てないでほしい、と。
・・・ああ。なんで俺は、こんな損な性格になっちまったんだろうな。
思い返せば俺はお人好しだった。困っている奴がいればとりあえず声をかけ、自分達で解決出来そうなら頑張って解決させ、自分達で出来なさそうなものは協力者を探したりした。
そのせいでよくからかわれた。女子を助けたときのみんなの反応は本当に酷かった。お前気があんのか!?なんて言った奴はとりあえずビンタをした。それでも懲りない奴は殴った。だが軽くだ。本気でやったら問題になるもん。
俺の中で葛藤が起こる。それもすぐ決着がついてしまった。ほんと、今後いいことありますように。
「おいテメー。あとでちゃんと報酬は貰うからな」
俺はそう言うと足を捻った男を背負った。体重はおそらく60近いな。まあ、なんとかなるか。
「おいお前・・・一体何を・・・」
「何って・・・こいつ背負って走るに決まってんじゃん。見りゃ分かるだろ?」
「はぁ!?お前正気・・・って、ヤベー。もうそんな遠くねえぞ!急げ!!」
その声と共に俺達は再び走り出す。無論俺もだ。だが足にかかる負担はかなり増加してしまった。体力も大きく削られる。だが俺は選択してしまった。助ける、と。
「ああやべーよマジ。体力の減りが・・・尋常じゃねーわ・・これ・・・」
息が切れる。声を出すのもツラくなり始めた。そもそも人を背負って走るなんて無謀だ。歩くならまだしも走るのだ。きっと一年分くらいの負担が膝にかかるのだろう。
「すまねぇ・・・ほんと、すまねぇ・・・」
耳には入るのは背負っている男の声。これが美少女の声ならいくらでも走れるのだろうか。俺だったら倒れるまで走る。こんな男じゃないなら。
「はぁ・・・ぜぇ・・・おいチビッ子!!まだなのかよ!!」
「うるせぇ!!チビッ子言うな!!小屋までは・・・見えた!見えたぞ!!あそこだ!!」
チビッ子が指差す先に見えたのは、木々が生い茂る所に建てられたボロい小屋。あそこが俺達のゴール地点だ。
「おい!あいつら小屋に篭るつもりだ!それまでに殺すぞ!!」
ああ、くそ。なんでこんな時に相手の士気が上がるんだよ。ほんと、嫌になってきた。
体が重い。足の筋肉が悲鳴をあげ、骨はミシミシと軋み始める。限界が近づいている。これ以上背負って走れば筋肉か骨が壊れる。そうなったらしばらくは歩けないだろう。
だが見捨てれない。ここまで運んだんだ。ここでこいつを捨てたら今までの苦労が何だったのかがわからなくなる。
俺は助けると選択した。最初は見捨てることも考えたが、結局俺は見捨てることが出来なかった。
ほんと、この甘い性格を直さないと、この世界では通用しないと思う。だが、自分の周囲の人間くらいは救いたい。
そして、俺達は小屋まで逃げ切った。チビッ子が扉を蹴りでぶち破り、中へ突っ込む。俺の前を走る全員が中へ入り、最後に俺が入った。
背負っていた男を下ろすと同時に、待ち伏せしていた奴等が護衛に襲いかかった。護衛達はこの瞬間罠だと気づいた。だが遅すぎたのだ。
俺達の仲間が一斉に襲いかかり、護衛達は一人、また一人と断末魔をあげて命を落としていく。
最後にたっていた男も必死に応戦したが、殺された。身体中に槍が突き刺さり、それが心臓に届き絶命した。
「よおオメーら。随分遅かったな。なんかあったのか?」
「クーガさん・・・それが、こいつが足捻っちゃって、んで、新入りが背負ってここまで来たんっすよ」
「何!?おいリーク!お前男一人背負って走ってきたのか!?スゲーじゃねーか!!」
「そう思うなら特別手当てください。まじで死ぬかと思いましたよ」
俺はそう言うとクーガに渡された水を飲む。渇きすぎた喉に水が染み渡り、それが胃の中へ吸い込まれる。
ああ・・・頑張ったな。俺。
「よし、片付いたな。じゃあ残りの所にいくぞ」
その号令と共に動き出す男達。俺達の仕事が成功した事で士気も上がっている。中にはテンションが上がりすぎて踊っている奴もいる。
こうして、俺は初めての仕事を成功させた。一人の命も救ったと言うことで、俺のその日の夕食は豪華になった。
無論、先ほど助けた男からは金を貰った。金貨一枚だ。もっとよこせ、と言ったら銀貨五枚追加してくれた。助けてよかった。
ヒロイン出したい。でももうちょっとだ。あとちょっとで報われるはず・・・