第五章 真相吐露⑦
どれくらいベンチの上に座っていただろうか。
僕は、ふわふわと漂うような重いため息をついた。そして、わなわなと震える瞳で空を見上げた。重苦しく漂い、何の動きもない鈍色の雲を見ていると、まるで、時間の概念から取り残されたように、頼りなく宙を浮いているような感覚が、身体を包む。いつまでも無限の時を生きているような、そんな感覚。それは、永遠と呼ぶにはあまりにも頼りなかったが、永遠と呼びたいものでもあった。
しかし、この世界には、時間を量的に測る時計という機械が存在する。
僕はリュックの中に入ったケータイを取り出して、時間を確認した。驚いたことに、もう十五時を回ったところだった。常盤くんの話を聞いて学校を飛び出してから、六時間近く公園にいたことになる。
ケータイの画面には、新着メール四件の表示が出ていた。ぼうっとする手を動かして、メール受信BOXを開き、メールを確認した。
一件目は常盤くんからだった。
「先ほどは辛いお話をしてしまった申し訳ございません。でも、全て事実です。それは受け入れてほしいのです。それから、永井くんのこと、よろしくお願いします。お辛いかもしれませんが、どうか、どうか」
二件目は、美紀。
「おはよう。ご飯も何とか食べられるようになったよ。さっきお昼ご飯にチャーハン作って、一人で食べたの。私はもう大丈夫。明日からはちゃんと学校に行くから。心配かけてごめんね。ずっとそばにいてくれてありがとう。返信はいらないから! じゃあ、はるちゃんにちゃんと謝ってきなよ! 誠太、ファイト!」
三件目は――永井、だった。
「今野さんから、遠野くんが私に話したいことがあるんだと、聞きました。私も、遠野くんに話したいことがあるんだ。早く遠野くんの顔が見たい。今日も学校休んでいるみたいだけど、大丈夫?」
そして、四件目のメールを開いて、指がぴたっと止まった。メールの送り主は、時田だった。
「久しぶり、でもないかな? 永井さんに告白するときの、言葉とか、場所とか……相談したいことがあるんだけど、今日の放課後、いいかな? また前のファミレスで話を聞いてほしいんだけど、どうですか?」
僕は時田に返信メールを打って、送った。
「大丈夫だよ。じゃあ、文芸部の部室の前で待ってて」
ケータイをリュックの中に戻した。どうして時田にそんな返信をしたのか、僕は自分でも分からなかった。無意識だった。気がついたら、メールの文面が出来上がっていて、手が勝手に動いたかのように、送信ボタンを押していた。
時田のメールを見た瞬間、僕の心の中からある思いが湧き上がってきていた。ひどく荒々しく、乱暴で狂気に満ちた思いだった。腹の底がせり上がって、心臓はぎゅうっと握りしめられ、鼓動が激しく脈打ち始めた。呼吸が苦しくなって、息が荒くなる。力が漲ってくるかのような感覚。
そんな思いだった。
止められない。止まらない。もう、僕は僕ではいられない。気が狂ったように、もう僕の考えは理性を超えて溢れ出した。
そうだよ、永井を守りたいんだったら、時田を殺しちゃえばいいんだ。永井が死ぬ過去は変えられないだとか、そんなことは関係ない。だって、永井は時田に殺されるんだから、時田がいなければそもそも何も起こらないじゃないか。
美幸さんのときは、僕たちは何もしなかった。何もしないことが、過去を変えることに繋がると思っていた。でも、美幸さんはいなくなってしまった。
だったら、僕が自分の意志で永井の死の要因を消してしまえばいいんだ。誰もいない文芸部の部室で、僕が時田を殺してしまえば、誰も邪魔できない。この世界の構造がどうとかがあろうとも、僕の意志を捻じ曲げることなど、できない。現に、僕は今、時田を殺そうと考えることができている。
そうだ、時田を殺してしまえばいいのだ。簡単なことだったんだ。あまりにも簡単で、当たり前のことだったのだ。
どうしてもっと早く実行しなかったのだろう。




