珈琲
入り口の門にもたれ掛かっている 青年の姿が
私の目に映った 青年はこちらに気付くと
嬉しそうに手を振り始めた
私は驚き その場に佇んだのでした
「退院 おめでとう〜」
青年が手を振りながら 駆け寄って来た
「どうして今日退院だって知ってたの?」
「看護婦さんが教えてくれたんだよ」
私の脳裏に あの看護婦の顔が浮かんだ
きっとあの人が教えたのね 私が黙ったまま
立っていると 青年は困った様な顔をして
「め 迷惑だったかな?」そう聞いてきた が
迷惑どころか 私はこの青年を探していたのだ
「いえ 迷惑なんかじゃないよ」
すると青年はホッとした表情を浮かべて
「よかった じゃあ行こうか」
そして二人は歩き出した
この時私は疑問に思った
本当にこの人が王子様なのかしら?
王子様なら女なんて 選び放題ぢゃない?
私なんて相手にも しないんぢゃない?
首を傾げて青年の横顔を見ると
「何? どうかした?」
私は慌てて 前を向いて
「いや 何でも無い」
でも 城での話が本当なら 私は・・・
それから 大した会話も交わさないまま
私の借りている マンション迄 帰って来た
そして立ち止まり 少し無言が続いた後
「それじゃあ」
青年は軽く手を上げて 歩き出した
私はその背中を見ながら 戸惑い そして
「よかったら お茶でもどう?」
すると青年はビタリと立ち止まると 勢いよく
こちらを振り向き 真っ赤な顔で
「え⁈ いいの?」
私は何も言わず ただ頷いた 本来ならば
「色々お世話になったお礼も兼ねて」
とか 言うべき何だろうけど
そんな事を 言える訳も無かった
何故なら私は 薬を・・・
まさかそんな事を私が考えてるなんて 思いも
しない青年は 嬉しそうな笑みを浮かべていた
そして先ず私が部屋に入り 片付けが終わる迄
表で待つように 青年に告げると
私が魔女だとバレそうな 変わった形の杖や箒
等を 見つからない様な場所に隠すと
後は適当に 押入れに詰め込んだ
そして玄関を開けて 青年を中に招いた
「お待たせ どうぞ」
すると頭をかきながら 照れ臭そうな表情で
青年が 部屋に入って来た
「お邪魔します〜」
「飲み物は珈琲でいいかしら?」
「 は はい お構いなく」
カップに珈琲を注ぎ 例の薬を取り出した
ゴメンナサイ 村の明暗が私にかかってるの
人差し指と親指で 薬を摘み珈琲の中に・・・
それだけで 私の任務は終わる
だが それが出来ない 薬を摘んだ私の指先は
次第に震えだして 汗が 額から流れ落ちた
ダメだわ 私にはどうしても出来ない
一息吐き 薬を摘んだ方の手で 汗を拭った時
「どうしたの?珈琲冷めちゃうよ?」
突然声をかけられて 体がビクッとした瞬間
薬を摘んだ指先が離れ 珈琲の中に落ちた
そして直ぐに薬は溶けて 珈琲の一部になった
私が佇み その珈琲を眺めていると
「珈琲のいい香りだけが するんだけど〜」
その声でハッと我に返ると
どうしよう どうしよう 薬が入った・・・
いや そうぢゃない これでいいのよ これで
自分にそう何度も言い聞かせると
私は 薬入りの珈琲をトレーに乗せて
首を長くして待つ 青年の元へと運んだのです




