声の主と涙の訳
「君がここに来るのは まだ早い」
「で でも気付いたら ここに居たんです」
「そうですか でも君には私の姿が影に
見えてますよね?」
「はい 影に見えてます」
「だからですよ」
人影がそう言うと 私はフッと意識が
失くなったのでした
意識を失った筈の私の頭に 先程 野原で
聞こえていた声が まだ頭に響いていた
それが何故頭に響くのか 誰の声なのか
直ぐに分る事になった
目蓋を開けると あの青年が心配そうな顔で
私の事を覗き込んでいたからです
目を開けた私に 青年は驚いて飛び退くと
「気が付きましたよ〜先生〜」
そう叫びながら 部屋から走り去って行った
そして白衣姿の40歳位の男性を引き連れ
診療所の廊下をドタバタと走りながら
帰って来て私を見るなり先生が叫ぶ様に
「いや〜 気が付いてよかった〜 三日間
ずっと眠ってたから 心配したよ」
え⁈ 3日も寝てたの?って言うか ネズミ
の姿で 倒れた筈なのに どうして元の姿に
戻れたんだろう?等と考えていると先生が
青年の方を見ながら
「彼が君をここ迄 運んでくれたんだ」
その言葉を聞き 私が青年の方に顔を向けると
頭をかきながら 照れ臭そうに顔を背けた
そんな青年を見て胸が痛んだ
それは私がこの人を殺めないと いけないから
もう 目を覚まさなくてよかったのに・・・
心で呟いた時 私の目から一粒の涙が頬を伝い
零れ落ちた
その私の涙を見た青年が慌てながら
「どうした?どこか痛む?大丈夫か?」
眉を顰め オロオロしながら 不安そうに
私を見る青年を目の当たりにして
一度は止まった涙が 今度はボロボロと
私の目から零れ落ちた
すると 青年はより一層パニクって 隣に居る
先生にしがみ付くと
「先生早く看て下さい!お願いします!
どうか お・・ね」
言葉はそこで途切れ 青年は泣き崩れた
その青年の両肩に 手を置き医者が口を開いた
「涙は辛い時や悲しい時にだけじゃないんだ
嬉しい時にだって 出るんだよ」
そう 言ったのでした




