カナシミプロローグ
短いプロローグです。本編も、もちろん書きます。
「ねぇ。シューヤはさ、神様っていると思う?」
少女は親しげに少年に話しかけて来る。
「なんだよ。藪から棒に」
少年もいつも通りに受け応えする。
「いや、ね。最近、ついてないなぁと思いまして…」
「知ったこっちゃねぇよ」
二人の男女は傍から見れば、付き合っている男女のように見えてもおかしくない。本人達はそんな自覚はないだろうが、どっからどう見ても仲の良いカップルだ。
「もう!いいから、質問に答えてよ!」
少女は、ふてくされて声を上げた。それに少年は少し笑いながら答える。
「悪い悪い。じゃあ、お前はどうなんだよ?」
「質問を質問で返さないでよ…」
「悪い悪い」
「さっきから、それしか言ってない!」
また、少女はふてくされたような顔をして声を上げる。それをなだめながら、少年は次の言葉を発する。
「まぁ、いいじゃねーか」
「よくない!」
少女は、少年に軽くチョップする。
「痛ってーな。んで、お前はどうなんだよ?」
少年は話題を元に戻す。
「私はね…。いると思うなぁ」
ここで少し、少女は悲しげな表情を見せる。
少年もまた、心配そうな顔をする。たまにこんな顔を見せるから彼女が心配なのだ。
「なんか、あったのか?」
「へ?いやいや!ないないない!私に悩み事があったら、シューヤなんて鬱病の末期だよ!」
「全く意味わからん例えだな」
少年は、心配して損したというような顔でがっくり肩を落とす。
「で、なんでいると思うんだ?」
「あー。だって、なんか最近思うんだよね。幸運も不幸も全部、平等にちゃんと私の前に現れんるだなぁってさ」
「お前さ、ホントになんかあった?」
また、少年は心配そうな顔をして少女に声を掛ける。その問いかけに対し、少女はあたふたしながら答える。
「だからないってばぁ!」
少し怪しげな顔をしながらも、溜め息を漏らして普通の表情へと戻す少年。
「でさ、シューヤはどうなのさ。いると思う?」
少年は少し悩もながらも、顔を横に振りながらめんどくさそうに答えた。
「俺もいると思うぞ。神様はさ」
少女は意外そうな顔をした。
「へぇ。てっきり、夢も希望もないシューヤのことだから、そんなものいるわけないとか言うだろうなと思ったてたのに…」
「前から思ってたんだが、お前から見る俺って何なんだ?」
「大切な人?」
はぁ…。と、少年は溜め息を体の中から吐く。これだからこの少女のことが大好きなんだよ、と。どんなことでも当たり前のように照れもせず、本当に心の底から思っている言葉を思った瞬間に発する。そんな彼女が少年は大好きだった。
しかし、少年は感情を表に出さない人間なのである意味、憧れているという感情もあるが。
「小っ恥ずかし事言うなよ」
「えー。でもホントの事だもん」
少女は、曇のない笑顔で少年にはにかむ。まるで、少年を空から永遠に見守っている太陽のように。
「分かったから、話を元に戻してくれよ…」
観念したような顔で少年は、少女に提案する。
「はいはい。で、何でシューヤみたいな夢も希望もない人が、神様なんて言う貴方とは掛け離れた存在を信じるの?」
「さっきの発言を今すぐ前言撤回しろ」
「冗談よ」
次は、無邪気な顔で笑う少女。彼女には笑顔がよく似合っていると思う。花に例えるなら、向日葵。どんなに暑い真夏日でも、凛と確かにそこにいると言う存在感を示している。
「で、理由は?」
少女は少年に笑顔のまま尋ねる。
「ほとんど、お前と一緒だよ。ほんとうの平等かはさておいてな」
少年はめんどくさそうに質問に答える
「じゃあさ」
しかし、少女の質問は続いた。
「不平等だったら?もし、神様が何にもしてない人にそれ以上の不幸を与えても、シューヤは受け入れるの?」
「変な事聞くなよ」
少年は、不思議そうな表情を浮かべて、また質問に答える。
「受け入れたくはないよな。だって、理不尽だろ。そんなの」
「でも、相手は神様だよ?勝てるわけないじゃん」
苦笑い気味に、少女は微笑む。
「勝てなくても俺は、抗うよ」
少年は彼女の笑みに笑みで返す。
「精一杯抗ってみせるさ。これでもかって言うくらい抗って、神様に言わせてやる。『もう、やめてくれ』ってね」
少年は中々見せないであろう、無邪気な笑みを浮かべ少女にニカッと笑う。
「…シューヤらしいね」
達観したような瞳で、いやあるいは諦めたような瞳で少女は少年を見る。表情は笑みのままだ。
「じゃあ、私も抗おうかな。神様って言う幻想めいた存在に」
これが、彼女の最後の笑顔だったと彼は未だ鮮明に覚えている。
彼女と彼は、この日二つの意味で「死んだ」。
短くて物足りないと思いますが、物語はこれからです。