いつの日かの約束
やあ。
君がこの手紙を読んでいると言う事は、きっと僕は死んでいるんだろう。君と出会ってからというもの、ずっと君だけを見てきた。その事は君もよく知っていると思うけどね。
この手紙は、僕がどの様な理由で死んだとしても、必ず君に届けられるようになっている。それは、君にどうしても伝えておかないといけない事があるからなんだ。
とても楽しかった君との思い出を、ここでつらつらと書き連ねても、きっと万年筆が壊れる方が先だろう。だからあまり細かくは書かない事にするよ。でも、きっとこの手紙を読んでいる君の頭に、僕が浮かんできている事を願っているよ。
さて、さっき言った大事な話というのは、僕が死んだ事によって発生する遺産についての話なんだ。
子供の頃は、とても貧しかった僕だけど、いまじゃ高級車を何台も買え、中世の城のような家に住んでいるんだ。この家については、遺言状通り、最も近親者である僕の両親に所有権が移転する事になっている。
車についても、同じく両親に。
でも君についてもどうしても、何かしらのものをあげたかった。婚約をしたけど結婚式をあげる事が無かった僕からのささやかなプレゼントと思って受け取って欲しい。
スイス銀行の地下に貸金庫がある。君にはそこの全てをあげようと思う。これはあくまでも気持ちだから、受け取りたく無かったら、それはそれで構わない。それは君が決めて欲しい。
その他にも、結婚式の時に君の白く細い指にはめようとして買っておいた、3カラットのダイヤモンドの結婚指輪。それも君にあげよう。
いつも、僕は楽しい思い出というものをずっともらってばかりだったから、その分のお返しだ。
こんな事でしか、君に報いれなかった君を許して欲しい。そして君が好きだった人が、この世界に一人でもいた事を憶えていて欲しい。それでは
P.S.
僕の両親には、君の事を伝えてある。君が僕の両親にあって、この手紙を弁護士に見せると、きっと遺産分割を許してくれるだろう。