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零:goshawk

気が付いたら、僕は知らない街に居た。とてもにぎやかな街だ。

色とりどりの野菜や果物や魚が道中を埋め尽くしている。どうやら市場のようだ。

知らない人達がうじゃうじゃしている。

いつまでも道端に座っているのもなんだから、少し散歩してみる。

 そういえば……。何故、僕はこんな街に居るのだろう?

 僕は今まで何をしていたんだ? 僕は本当に存在しているのだろうか。

見慣れない街並み。見慣れない人々。皆僕が見えていないかのように、自然と避けて通る。

「よぉ、元気か?」

 後ろから声を掛けられたかと思ったら

「あぁ、お前は?」

 どうやら僕に向けて発せられた言葉ではないらしい。

「いらっしゃい」「こんにちは」 僕をすり抜けていくいろんな声。

 やはり、もう僕は存在していないのか……。

 人ごみをそれ脇道へ。大分疲れた。少し休もう。再び、地べたに座る。

見上げればそこには、青い空・白い雲・黄色い鳥。

しばしぼーっとする。頬をなでる風が爽やかで気持ちが良い。

 遠くを眺める。緑が綺麗だ。――突然、視界が遮られる。その物に焦点を合わせると、それは何と人だった。それも、年端も行かぬ少女だった。金のゆるいウェーヴのかかった長い髪、栗色の瞳、人形のような娘である。

「あなたも、自分の事忘れたの?」

 少女は悲しそうな目でそう、呟いた。

「此処は……そういう人のくる場所なのかい?」

「……えぇ。たまにいるの。あなた……自分の名前、わかる?」

 そういえば……。

「……わからない」

 そうだ、それもあったから、僕は“存在していない”と思ったんだ。

「そう……よほど強い“願い”だったのね。……来て。話をしてあげる」

 名も知らぬ少女だが、何故だか信じられる気がしてついてった。

 ……その少女が、とても愛らしかったからかもしれないのだけれど。



 着いた先は小さな、小屋のような家だった。少女はここに、一人で住んでいるらしい。

「座って。少し、吃驚(びっくり)するような話だから」

 本当に、吃驚するような話だった。


「私はリン。ここは失しモノ(ロストタウン)。記憶を失った人が来る所。“記憶の墓場”とも呼ばれているわ。ここには魔術師がいて、人の“願い”を叶えてくれる。その噂を聞いた人々が、いろんな国からやってくる。“願い”を叶えてもらった人はその代償として、“記憶”を奪われる。記憶を奪われたら自分の国には戻れないから、皆ここに居座る。そうやって出来たのが、この街。ここまではわかる?」

「何となく」

「あなたはlevel8ね。名前まで、失っているから」

「レベル……?」

「叶えてもらった“願い“が強ければ強いほど、その代償も大きくなるの。それは8段階に分けられ、“level”で表す。だから、8はもっとも、酷い段階」

「……そうなんだ」

 本当に何となくだけど、ここまでの話は理解していた。否、理解できる内容ではあった。だがしかし、これが自分の身に起こっている事となれば話は別だ。

「僕は一体、どうしたらいいんだ……?」

 思わず、本音が出た。

「……記憶を取り戻す方法は一つ。それは7人の魔術師にあなた(じぶん)を認めさせること。そうすれば、記憶を返してもらえるわ」

「7人? 僕が失くした記憶は8つじゃないのか……?」

「あなたが失くしたのはname(名前)、place(生まれた場所)、person(自分)、memory(想い出)、family(家族)、precious(宝物)、love(恋人)、with(願い)のはず。でも、残念だけど、今回叶えてもらった“願い”については自分で見つけるしかないの。でも大丈夫。記憶を返してもらう時に、各々の魔術師がヒントをくれるわ。それに、次の魔術師の居場所も教えてもらえるし」

「そうなんだ……。でも、肝心の最初の人の場所が分からないんじゃ……」

「わかるわよ? そのぐらいなら。私も魔術師のはしくれだから」

「え!? そうなの? じゃあ早く教え「でも」

 興奮した僕をなだめるかのように、彼女は初めて、僕の言葉の上に台詞を被せていった。

「でも、とても危険なの。魔術師と言っても彼らは人だから、良い人も悪い人もいるわ。運悪く悪い奴に捕まって、ボロボロになって帰ってきた人達を、私は知ってる。……だから、この街の人々は無理に記憶を取り戻そうとはしないわ。……あなたみたいに、名前まで失う人は、稀、だから」

「そう、なんだ」

 少しだけ、迷った。何故なら僕はこうして生きていて、このリン、という少女とも会話は成立する。更に、先程の彼女の言い方では、どうやら僕のように“記憶”を失っている人はこの街には大勢いて、しかも彼らもまた、普通に生活しているというのだ。だったら……。

 だが、それは所詮一種の気の迷い。僕の答えは最初から決まっていた。

「それでも、僕は行く。自分が自分じゃないまま生きるのなんて、嫌だ」

 リンに会うまで、自分はまるで生きていないんじゃないかとも思ってしまった、あの感覚。あんな思いを感じたまま生活するなんて、多分、僕には出来ない。

 僕の想いが真剣そのものである事を、彼女は理解してくれたのだろう。僕の顔と先程の言葉を十分に咀嚼するように間をおいてから、彼女は言った。

「そう……。わかった。じゃあ、一つテストをさせて」

「? 何をすればいいの?」

「私の、兄様に勝って。そうしたら、教えてあげる。兄様、ムハン兄様」

バサバサバサ……。

 羽音とともに現れたのは、目の赤い鷹だった。

 え? 鷹が兄? どういうこっちゃ。

 混乱する僕をよそに、鷹はしゃべり始めた。

「何だ、リン。もしかして……巡人(めぐりびと)か?」

「うん。……それも、level8」

「eightだと!? こんな小僧が……? 嗚呼、ついに、か……。」

「それで、兄様に案内役を頼みたいの」

「俺に? ……そういう事か。わかった。じゃあ、小僧! 表に出な。」



 言われたとおり外に出ると、鷹は人になっていた。成程、この人も魔術師ってやつなのか。

 ムハン、と呼ばれていた人は、背が高く黒の短髪の、目つきの鋭い青年だった。

「小僧。お前が記憶を取り戻す資格があるか、テストしてやる。ルールは簡単。俺からこの箱を奪ってみろ。範囲は、そうだな……この円の中だ」

 そう彼が言うと、地面に円が浮かび上がった。半径1.5mぐらいの円だ。

「時間は無制限だが、この円から少しでも出たら負けだ。わかったか?」

「はい」

確かに、シンプルなルールだ。了承した証として、僕も円の中に入る。

「では、始めましょう。Ready……Go!」

 箱は手のひらに収まるほどの小さな物。あれを奪う、というのは難しそうだ。という事は……あの人をこの円から出した方が早そうだな。よし、とりあえず。

「てぃっ」

 腹を目がけ上段蹴りを放つ。案の定、ひょいっ、とあっさりかわされる。円の縁ギリギリで踏み止まり、次の攻撃を仕掛ける。足元狙いのローキック、ジャブ、ストレート、アッパーカット……etc。だが、彼は相当戦い慣れているらしく、僕の攻撃は見事に全てかわされてしまう。

「ほら、どーした!? そんなんじゃ俺は倒せねーぞ!」

 くっ。次の策を練る為、いったん距離をとる。一応、今までの戦いぶりから彼から手を出さない事はわかっていたので、安心して作戦に集中する。

しかし、うぅむ。どーすれば……。ん? そうか、わかったぞ!

「では……本気で行きましょう。これで最後(ラスト)です!」

「おぅ、来い!」

 僕はぴょんっと跳び上がり、彼の頭上目がけて足を振り下ろす。それをムハンは横に飛んでかわす。そこですかさず、僕は彼の軸足をひっかけて倒そうとする。

「甘い!」

 ひっかかる寸前に片手をついて足を後ろに跳ばすムハン。今だ! 足が地を離れ、手が地面についている、という事は、今箱を守るものは何もない! 僕はすばやくスライディングしていた体を起こし、箱に飛びついた。

「くそ!」

 箱を上に上げてガード。目標を見失った僕は、そのままムハンにどーん。痛―――――。予期せず、僕の始めてにして最後の攻撃は、頭突きとなった。

 ……うぅ、頭がくらくらするよぉ。って、あれ……?

 僕はギリギリ円の中にいたが、僕に頭突きをくらったムハンは……

「勝負あり。兄様の負けです」

 ヤタ――――!!!

 喜んでぴょんぴょん跳ねる僕のそばで、ムハンは大の字にのびていた。頭の周りに星やらヒヨコやらが見えるのは……気のせいだということにしておこう。

 しばらくして、ムハンは起き上がった。

「……うぅ、痛ぇ。……しかも、負けてるし。チクショー。わーったよ。お前の面倒見てやるよ。……ほらっ、餞別だ」

「あ、ありがとうございます」

 ムハンが投げたのは、先程の箱だった。

「これからお前は7人の魔術師に会って、“お前”を認めさせなきゃならん。中には、俺みたいに勝負を挑んでくるような奴もいるかもしれん。」

「そんな時の為に、その箱にはあなたの役に立つ物が入っているわ」

「何が欲しいのか、念じてから開けな」

 僕の欲しい物、か……。誰かをいたづらに傷つけるような事はしたくないし……。無事に記憶を取り戻すのに、僕に必要な物……。

 パコ。ん? 何だこれ?

 箱を開けると、そこには丸い紫色の石がはめ込まれた、美しい装飾品が入っていた。

「お前……その首飾り……「は、元々剣なのよ。あなたが望むような形になる、ね。魔よけにもなりますから、かけておいては?」

「へぇー」

 確かに、箱から出すと、紐がついていてペンダント、というにふさわしい形をしていた。僕は言われたとおり、それを首にかける。これ……綺麗だなぁ。

「……そういや、お前の瞳も、紫だな」

「え? ……そうなんだ。鏡なんて見てないから、わかんないや」

 あはは、と思わず自嘲的に笑う。

「何だ。それならそーと早く言えよ。ほれ」

 ムハンさんがふわっと手を動かすと、どこからともなく手鏡が出てきた。中を覗き込むと、そこには藍色の髪をした少年が同じように、僕を覗き返していた。

 そうか……これが僕なのか……。

 しみじみと感慨にふけりつつ、自分の顔を頭の中にインプットしていると、ゴホン、と咳払いが聞こえて、僕は現実に引き戻された。

「そういや、小僧。お前、名が無いんだったな。リン、お前がつけてやれよ」

「私が? そうね……じゃあ、“アハト”はどうかしら?」

「アハト、か……良い響きだね」

「あぁ。良いんじゃないか? 分かり易いし」

 ? 何がわかりやすいんだろう? ……まぁ、いいか。()(かく)、名前が無いよりずっといいや。

「ありがとう、リン」

「どういたしまして」

「よし。じゃあ、今日からお前はアハトだ。(よろ)しくな」

「はい、ムハンさん」

「じゃ、早速行くか。最初の魔術師の所へ」




 こうして、僕の“記憶”を巡る旅が、始まりを告げた。



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