魔王倒すとかだったらどうしようとかほざいてたら、言霊の加護でほんとに倒すことになっちゃいました
───知らない世界の風が吹いていた。
立ち尽くすしかできない俺だけれども、考えることくらいならばできる。アニメや漫画のような世界でしか見たことのない色鮮やかな髪色の数々。俺が今着ている、無駄に彩度の高い青色のジャージからは懸け離れたような、現代世界の言葉で表すと民族衣装のような服装の数々。間違いないのではないか?これは、これはこれはこれは。異世界転生?召喚?というやつなのではないか??
「いやぁまじか」
でもそうとしか考えられない。
「いやいや待って。だって、前世でやりたいことなんてまだ山ほどあったんだけど!?普通に悲しすぎないかなぁ!」
前世、俺はまだ高校生だった。高校3年生。全然まだ人生の赤ちゃんみたいな感じ。まだ彼女だってできたことがないし、友達だって会えなくなるのは寂しい。なにより、俺は声を大にして言える。パパとママに会えなくなるのはとんでもなく、とーーんでもなく寂しいって。
「俺、なんかの交通事故とかに巻き込まれてたっけ…うぁぁ…今頃ママとパパ、和也も陸も、みんな悲しんでるのかな。はぁぁぁ…」
道ばたに頭を抱えてうずくまった。なんだか涙が零れそうになる。というか、もう既に半泣き状態。通り過ぎる人達がジロジロとこちらを見ている気がするが、そんなことを気にしていられないほど、俺のメンタルは下がっている。よくよく考えて、世の異世界転生系の主人公たちは、初日泣かずに頑張れてたな!?俺なんかもう無理だけど…!?無理なんですけど!?
「もう、みんなと会えなかったらどうしよう…」
鼻水を啜りながらそんなことを呟く。と同時に、シャララララランという音がどこからか聞こえた。
「やっぱ異世界系のお約束として、魔王倒せないと帰れませんとかなのかなぁ。そうなったらほんとに嫌すぎるんだけど…」
空を見上げ、呟く。と、またシャラララランという音が聞こえた。
「ぅぁぁぁ!!もう!!なっっっっんだよさっきからこの音!!真剣に悩んでんだぞこちとら!!!」
聞こえた場所が分からないため、空に向かって反射的に叫ぶ。心が不安定な時というのは、何をされても苛立つものだ。しょーがない。
「あぁ!!見つけました!!見つかりました!!」
とにかくイライラと不安と悲しみと…。色々な感情がぐっちゃぐちゃに混ざっている時に、またどこからともなく声が聞こえた。
「よかったです〜!お会いできなかったらどうしようかと思ってました!私が!!」
誰だか知らないが俺の目の前にいきなりやってきて、いきなり両手を掴んだ。そして、握手…とはとても言えないような感じで、とんでもない勢いで上下に振る。
……修道服のようなものを身に纏った、腰までの長さである金髪の女性。切れ長の緑色の目も綺麗だし。いや、顔の造形整いすぎてないか!?さすが異世界。
「……?じっと見つめてどうしましたか?あ、まさか私のこと惚れました?惚れちゃいました?!」
真っ直ぐな瞳で、屈託のない笑顔で。そんな普通聞かないだろうってことを聞く彼女に思わず右足を一歩後ろに引く。
「あの、初対面ですよね?」
恐る恐る聞いてみると、女性はキョトンとした顔で
「はい!初対面です!いや、正確には初対面ではないか…いや!そんなことはどうでもいいのです!!やっぱり!私は天才かもしれないです〜」
満面の笑み。手を前で組み、ルンルン陽気な様子で、リズミカルに横へ揺れた。
「えっと、なんだかよく分かりませんが人違いではないですか?」
「…人違い??そんなことはありません!!ナカガワ ショウさんですよね?!」
「な、なんで俺の名前知って…え、こわ…怖いんだけど。帰りたいよママパパ…」
女性に呆気に取られてどこか行っていた、寂しいという感情がまた戻ってきてしまった。
「あーーごめんなさいね!でも大丈夫!帰れます!帰れますよ!!」
「……え?」
思いもよらない言葉に、一瞬思考が停止した。
「え。え、え、え、え??か、かかかか帰れるんですか…!?」
嬉しい。とてつもなく嬉しい。頬が思わず緩んでしまう。信じられない。本当に帰れるのか。ありがとう異世界。さらば異世界。
「すぐ帰りたいんです!そんな今すぐとか言いませんので!もう少し市場…?とかこの街並み…?とか色々見てみたいし。1時間…いや、3時間後に帰ることとか可能ですかね?」
「いやいやいや。そんなすぐは無理です!無理ですよ〜」
彼女はそんなに笑うかってくらい大爆笑しながら答える。…なるほど。今日中はさすがに無理か。
「え、じゃぁ1日とか…?もしかして1週間とか準備にかかります?」
はたまた左右に揺れながら、彼女は俺に笑みを浮かべながら話し続ける。少し目を泳がしながら。
「あーいやーー。それは…ショウ様次第ですねぇ…」
「お、俺次第…??」
脳の処理が落ち着かなかった。口を半開きにして彼女のほうを見つめる。そうすると、彼女は威勢のいい声でとんでもない言葉を口にした。
「はい!魔王倒さないと帰れませんので!!」
*
「よくぞ来てくださいました!ナカガワショウ殿!!」
なんだか俺、めっちゃお城みたいなところにいる。てか誰だよこの小太りのおっさん。玉座みたいなところに座ってるから、めっちゃ偉い人なんか?王様か?え?さっきの美少女どこいったよ。
「急にすまんな。驚いているだろう。事情はルーチェから聞いているかね?あの、君を連れてきた金髪の彼女」
あの変な人、ルーチェっていうのか。てか、事情も何も、帰れませんって言ったあとにとりあえず私についてください〜えへへ〜うふふ〜みたいな感じでここに連れてこられただけなんですが!?
「……イエ、ナニモ」
「おおそうか…。すっかり事情は知っていると思っていたが。まぁ、彼女はそういうところがあるからな。しょうがないな…」
それはもう顎にある大層なおヒゲをいじりながら、王様らしき人は呟いた。率直な感想は、「あれ?この王様意外と優しいんじゃね?」ですね。
「ルーチェを呼びなさい。彼女から説明してもらったほうが早いだろう」
王様らしき人が、騎士らしき人に命令をすると先程の彼女がやってきた。
「お呼びでしょうか陛下!」
……陛下か。やっぱり王様だったんだな。まぁ、これで王様じゃないほうがおかしいけれど。
「すまんな。ショウ殿に、経緯を説明してはくれないかな?」
「あぁ!そうでしたそうでした!説明するのを忘れておりました。申し訳ございません!!」
彼女は、王様に向かって深々と一礼。その後くるりと方向を変え、俺の目を真っ直ぐに見た。
「大変失礼いたしました!先ほどは、私の天才ぶりにすこーしばかりハイテンションになってしまいまして。申し訳ございませんでした」
そしてまた、深々と一礼。落ち着いた物言いに、数時間前までの印象とガラッと変わる。なんだ。しっかりとしてる人じゃん。
「改めまして!私の名前はルーチェ・ヴィオラルと申します。お名前だけでも、お顔だけでも、ぜひぜひ覚えてくださいね!!あ!私はもうお名前覚えていますよ〜ナカガワショウ様ですよね!うんうん」
うーーん。前言撤回かもしれない。ちょっと元気すぎるな。あの、異世界で見る物静かで綺麗で、一挙手一投足が惹きつけられるような魅力のある人はどこにいるんだ?
「はい!てことで、説明をさせていただきます。かつて、この世界には魔王という存在がいるんですね。その魔王は、まぁとにかく、あれやこれやと魔物を増やしてしまうわけで、人々はとてもとても困ってしまうんです。まぁ、それが1000年くらい前の話です」
1000年…?え、てことは
「じゃぁ今はもういないってことじゃん。」
「いえ。今さっき復活しました」
「え?今さっきって…今さっき?」
「はい。今さっき。ちょーど3時間くらいまえですかねぇ…」
ほんっっとにさっきじゃないか!え、俺が街らしきところをうろうろしてたときにそんな大きな出来事があったんかい。
「で、そんなさなか、私は天からお告げを受けたわけです。この街にいる、ナカガワショウという異世界人が、魔王を倒す力を持っている…と!!」
彼女は自信ありげに、ドヤ顔をかましながら発言した。
「姿形もお告げそっくり!!キョロキョロしてて挙動不審だったので、ぜったいそうだろうなーって確信しながら話しかけました」
「あー…いや。俺、さっきこの世界来たばっかなんですけど。そんな俺が魔王倒す?力?とか持ってるわけないと思うんですけど。やっぱり気のせいじゃないですかね?」
「なにを仰るんですか!周りの人からは感じられない明らかなオーラが私の目には見えていますよ!ほら!赤い赤い!」
「ほらって言われても分かんないですって!!俺にはオーラとか見えないんだから!」
「あぁそっか。」
「…っていうか、今のところ俺にはメリット一切ないですよね!?俺は今すぐにでも、魔王討伐なんか他の人に任せて帰りたいんですけど」
「…まさか、ほんとは帰れるけど、こちらの事情で討伐できるまで帰させませんとかそういう感じですか?そんなの嫌なんですけど」
「いやいやいや。そんなことは断じてございまん!!本当!!本当です!!ね!陛下!?」
「お…おぅ……そう…なのか??」
「異世界人が迷い込んでしまうのは、今回が初めてではないんです。まぁ…50年に1度くらい?くるんですがぁ」
髪の毛をくるくるといじりながら話を続ける彼女。
「異世界に戻れる祠?みたいなので儀式行って送り返してるんだけど〜ね。まさか!まさかの!!その祠に魔王が居座ってるんですよ」
うあ……最悪だ…。え、なんで?
「理由は分からないんですけど。まぁ、祠のところが気に入っちゃったんですかね」
「てとこで、魔王を倒さないと帰せない。帰れないんです。いやぁ…不運が重なっちゃいましたね。ドンマイ」
ほんっっとに最悪すぎる…え?だって、戦うとかさ。現代社会でそんなのなかったもん。
「てことで、パラメーターとかスキルの鑑定が私できるのでやっちゃいますね〜どれどれ」
手を顎に乗せながら、前のめりになって彼女は俺のほうをじっと見つめる。
「……!?」
暫くすると、彼女の顔色が段々と悪くなっていくのが分かった。そして、全く血色感のない顔で
「ショウ様!!もう…もう何も言葉を発さないほうがいいです!!」
「…急にどうしたんですか?別にそんな…」
「ああああ!!!もうほんとに!!変なこと口走らないでください!!ショウ様には、言霊の加護がついています!!」
「言霊…??それってどういう」
「死ぬかもと言ったら死ぬということです…」
あまりにも耳を疑うような言葉の羅列に、一瞬思考が止まった。そして、彼女は加護の説明文でも読んでいるのだろうか。そのままじっと見つめ続ける。
「あぁ……。なんですかこの加護。初めて見ましたよ…」
え?何その呪いみたいなやつ。怖すぎるんだけど。え…もう喋りたくないんだけど!?……ん。てかあれ。え?ちょっとまって。数時間前の言動を思い返してみると、何やら何だか、口に出していた気がする。
『やっぱ異世界系のお約束として、魔王倒せないと帰れませんとかなのかなぁ。そうなったらほんとに嫌すぎるんだけど…』
汗が止まらない。え?これ、俺のせいでとんでもないことになってるんじゃないか…?知らなかったじゃ済まされない案件だぞ。やばい。心拍数が止まらない。
「………っ!!責任を持って!!!魔王を倒します!!!」
今できることはこれだけしかないと思い、宣言。そして、土下座をかました。
「顔を上げてください…!きゅ、急にどうしたんですか…!?でも、とてもとてもありがたいです!!お願いしますね!」
……なんだよこの加護。もとい呪い。なんだか床に涙が零れ落ちそうだった。でもしょうがない。責任は取らなきゃいけないから。でもやっぱり…
「お願いだから、魔王なんて倒したくない…勝手に消滅してください…元の世界に帰らせて…」
このくらいの小さな嘆きくらいは許されるだろう。だって、こんな知らない異世界で、こんなことになって、弱音ひとつも吐かないなんて方が無理なものだ。あぁ…。なんでこんなことになってしまったんだ…。俺、ちゃんと食べた皿とか出してたし、洗濯物だって畳んだりしてたのに。
シャラララララン
「うあー!何なんだよこの音!!!人がしんっっけんに悩んでる時に!!もう!!」
普段ならきっと何ともない些細なことが、少しの量でも簡単に一気に膨らんでしまう。そんな中、外から明らかに忙しない足音が聞こえてきた。そしてドアが開かれた。
「陛下…!!!至急お伝えしたいことが!!大変なことが起こっています!!」
呼吸が浅く、汗が多い。明らかに走ってきたであろう今ドアから入ってきた騎士が話を始める。そうすると、王様が明らかに顔色が悪くなっていく。血の気が引くとはこのことか。
「何?どうした?まさか…国で魔王が暴れ出したとか…!?」
「い、いえ。その逆です…魔王が、消滅しました…!!」
──は?いや。どういうことだよ。さっき魔王が復活した言ってたやん。そんなことあるないな。
「え?え、え??そ、そんなことあるの?え?ほんとに?」
ちょっと。王様も
なんでこんなことになって…あぁ!言霊の加護。俺が帰りたいとか言ったから?思わぬ発動だけど、全く意図してなかったけど。とにかく良かった。本当によかった。ふと目線を横にそらすと、ルーチェが姿勢を正し始めた。そして、
「ショウ様…短い間でしたがありがとうございました!!」
きっとこれからヒロインになる予定であったはずの少女が、満面の笑みで挨拶をした。なるほど。これで俺の異世界生活はこれで終了。らしい。




