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紅蓮  作者: R a bit
1/1

気炎万丈

長くなりそうなのでここでは簡潔に一つだけ、この作品単体で理解が問題なくできる事を目指します。そしてこれは『鈴音』のリメイクではありません

人と突如大気と共に存在するマナと呼ばれるエネルギーに適合した生物魔物との生存をかけた第一次、第二次魔人戦争を超え、利き腕の一部の血管に置き換えられた魔力回路を通して魔力とし、魔物と同じようにそれらに適応した人類が文明を発達させた今、人類の生存権は4の大国に分けられていた。政治の国である春の国、兵士の国である夏の国、平民の国である秋の国、商工の国である冬の国。そのうちの夏の国は歴史をたどれば各国から行き場を失った人々の逃げ場に過ぎなかった。そこが大国と呼ばれるようになったのは今より200年前、春の国の王家の血を持つ春間輪回(はるまりんね)が国王になってからと言って差し支えない。彼女の政治と呼ぶには憚(はばか)られるような行動によって夏の国は実力主義の風潮が強まっていた。そんな背景を以てして、夏の国に留まらず全世界、いや人類史を紐解いても横に並ばられることのない絶対的な強者がいる。同じく春の国の生まれである灰神楽(はいかぐら)夢幻(むげん)。これはそんな人類最強である彼女が二人の養子兼弟子を迎えた事から始まる物語だ。


夏の国の城下町から幾分か離れた片田舎、その中でも一際静かで煉瓦造の家々が並ぶ中時代に逆行するかの様な屋敷が建っていた。何を隠そうそれが灰神楽夢幻の住まいである。襖で仕切られた部屋を2つほど通過すると辿り着く、各種武器が壁に立て掛けられている畳張りの広い空間。その中心に灰頭(はいのこうべ)紅蓮(ぐれん)は後頭部を抑えてうつ伏せに倒れ伏していた。

「紅蓮、少し焦りが出過ぎているぞ。」

「んな事言われたって落ち着いてられる場合かよ!鈴音に先越されてばっかだってのによ!」

燃えるような赤髪の青年がそれと同じくらいの心情を爆発させるも、それを見下ろす艷やか長い黒髪を靡かせる女性は冷静に言葉を返す。

「武道と言うものは正しき心なくして歩めるものでは無い。妹弟子に威厳を示したい気持ちは分からないわけではないが、自身の心に勝てぬ者が師を超えれるなどと思わぬ事だな。」

12年前、夏の国の国境近辺で夢幻はまだ5歳の紅蓮を拾ってきた。実力主義の夏の国における騎士とはつまり防衛団(ギルド)に所属する元冒険者等の日銭を稼ぐ仕事である。夢幻もまたその一員であり、紅蓮はその背中しか大人というものを知らなかった。今こうして近接戦闘の鍛錬を行っているのも、国立の魔導学園に通うことのできない紅蓮がこれから一人で生きていく術を身につけるためだ。そして彼が今焦燥感に駆られている理由はその魔導学園にある。春夏秋冬の4つの大国、通称四季国では各国で定められた試験に合格し『魔導師』の資格を得たもの、それに許可を得たもの、又は国立の魔導学園に通う生徒、防衛団の団員のみ魔法及び魔術の使用が許可されている。そしてその魔導師に彼の妹弟子で彼より5年の程後に拾われた少女、鈴音が今日最年少魔導師の称号の掛かった試験に望んでいた。魔法の才能の無く、それ以前に使う機会のなかった紅蓮にとってそれは単に祝福することの一つに過ぎない。問題は鈴音が魔導師を志した理由が紅蓮に先の許可を与える為なのだ。これまで己の肉体一つで強さを追い求めてきた紅蓮にはそれが如何にもいたたまれなかったのだ。

「そう言ってこの十年間技の一つも覚えさせてくれなかっただろ、鈴音にはあんなにあっさりと指導してたってのによ。流石の俺も焦るってもんだ。」

「それは…お前が知る必要のない事情が大人には有るんだ、分かってくれ紅蓮。」

「俺はもう17だ!いつまでも子供をあやしてるつもりかよ。」

拾われた恩も含めて紅蓮は夢幻を深く尊敬している。今日の今日まで妹弟子への贔屓に対してもそれなりの納得を以て耐えてきたが、今はそうもいかない。夢幻も夢幻で何も紅蓮に嫌がらせをしているわけではない。本当に彼に知らせずにいる、否知らせられない事情がある。お互いにこの微妙な空気に耐えられず、紅蓮は部屋を出た。



太陽が真上を通過して少しばかりたった頃、それ自体が発光しているかのような色素の全く無い雪の様な髪を波打たせながら件の人物、紅蓮の妹弟子である鈴音が普段より一段階元気よく帰宅していた。

「やりました夢幻さん!見事な満点合格です!」

「あぁ──いやおめでとう鈴音、そうだな今夜は鈴音の労いのためにも外に食べに行こうか。何か食べたいものはあるか?当然値段は気にしなくていい。」

「でしたら城下町にまた新しくお店ができたようですよ、夢幻さんも偶には魚じゃなくて牛や豚などを試してみませんか?紅蓮は─」

鈴音が目を移したのは日がな紅蓮が日光浴をしている縁側だったのだが、そこには誰かが居た形跡すらなかった。さっきのやけに歯切れの悪い夢幻の返答も併せて鈴音は今の事態を把握した。夢幻に視線を戻すも彼女もまた目を伏せて首を横に振るだけだった。

「道に迷わない限り帰っては来るだろう。ただそれまでに人様に迷惑をかけていなければ良いんだがな。」



同刻、夏の国の中心水無月(みなづき)城一階、夢幻の予感に最悪の形で応えるように紅蓮はそこに居た。本来王城の内部に平民が好き勝手入る事は出来ないのだが、事夏の国では違う。城の一階から二階は防衛団(ギルド)の本拠地となっており、優雅な外装と違って内部は活気と熱気、そして殺気に満ちていた。過去に一度来たことが有ったがその時の記憶が何かの間違いだったと思う程に今日は人が多い。興味本位で人込みをかき分けると、台風の目のようにすっぽりと人の居ない空間に出た。人の居ないというのには少し語弊があり、正しくは横並びに人が複数名並んでいて、それを避けるというよりも取り囲むように人が集まっていたのだ。決闘でも始まるのかと思ったが、囲まれた複数名の内横に並ばずその他の前に只一人立っている生気のないやつれた男が口を開いたことで紅蓮は現状を把握することができた。

「試験開始予定時刻より5分を過ぎたが未だ一人欠員がいる、最終確認になるがこれよりここにいる14名で入団試験を始めるが問題ないな?」

年に4度行われる防衛団(ギルド)の入団試験、偶然遠出をした日がまさにその日で、受験する予定だった一人が5分を超える遅刻をしても現れず、今日は偶々本当に奇跡的に紅蓮は前進に焦がれていた。

「すみません俺です!遅れました!」

気づいたころにはそんな事を口走っていて、試験監督役と思われる男と数秒目が合いすぐに列に並ぶように促された。


沸騰した頭では正しく道のりを思い出せなかったが、紅蓮とその他の受験者は長い壁の連なる広いだけの殺風景な場所に移動していて、そこでも試験官の指示によって再び横並びに立たされていた。

「一次試験は至極単純だ。ここから凡そ50m先に的が出現する、3秒以内に壊せ。始め。」

男が手を叩くと同時に本当に少し先の空間が歪み、そこから人の背丈ほどの的が出現した。視認すると同時に紅蓮は的の前に構えを取ったまま移動し、その流れのまま手本のような正拳突きによって木製の的は拳の大きさの穴をあけて腕を通る様に貫通した。残り1秒も残らない頃に2つ左に立っていた人物もまた両の手の短剣によって的を切り捨てていた。再度試験官の男が一次試験終了を告げる頃には他の受験者の有り様が見ることができた。当然だが戦闘をするだけが防衛団の団員じゃない。後方支援役に前線で敵の攻撃を受け止める役割を持つ人もいる。故にこの入団試験は結果を出すことが目的ではなく、資質を見極めるために行っている。

そうして二次、三次と数々の試験を通過し、紅蓮の頭が完全に覚める頃には全ての試験が終了していて、どこかの壁に右手に紙を握り締めたままもたれかかっていた。やがて記憶が確かなものになって、紅蓮はその紙に書かれている内容を思い出した。成績も悪くなく替え玉もバレなかった、その上で紅蓮は今回の入団試験に落ちていた。悔しさややるせなさよりも、今は自分の愚かさに変な笑いすら生まれていた。

「何してんだろうな、俺。」

「あぁ全くだ一体今まで何してたんだかな。」

何処かで聞いた気がする声が誰に向けたわけでもない紅蓮の一人事に返答した。見上げるとそこに居たのはフードを深くかぶった疲れた目をした男だった。直ぐに紅蓮は目の前の男がさっきの試験官だと気づいた。

「灰頭紅蓮、春の国出身、5歳の頃に夏の国の領土近辺で灰神楽夢幻に拾われ以降夢幻の初めての弟子となる。か、この国に生まれた男が一度はそんな事を妄想するだろうな。」

「何で俺のことを…」

「名乗るのが遅れたな。俺はアイシス・ハルマ、夢幻とは一時期とあるパーティでの仲間でなお前のことは聞いていた。今お前は自分だけ前に進めない事にやけになっている、そうだな?」

アイシスと名乗る男は紅蓮に向けて手を差し出し、こう言った。

「俺が夢幻に一泡吹かす方法を教えてやる。アイツを出し抜いて、ちゃんと送って貰ってからもう一度ここに来ると良い。防衛団(ギルド)は灰頭紅蓮、お前を歓迎する。」

握った手は見かけによらず力強く、紅蓮はそこから何かを受け取ったような気がした。



その日灰頭紅蓮は夢を見た。

誰かが何かを頼んでいる。

いつも見るいつも忘れる夢、その中で確かに鮮明に覚えていることが有る。

「鈴音が君らの師である灰神楽夢幻を殺すことになる。君にはそれだけでも覚えておいて欲しいんだ。」

一応注意勧告すると今回においてのみ他作品(鈴音)を読んでいた人にのみ向けて以下を認めます。


先日唐突に打ち切りみたいな終わり方をした私の処女作『鈴音』、2023年11月(確か)の時より主人公が交代する事だけは決まっていたんですが、例にもれず過程の部分が肥大化して収集つかなくなったので泣く泣く刀寿が名指しを発動するまでの数話の内容をカットしました。鈴音は春夏戦争で元より終わるつもりでしたが、最終話の前に設定を開示するくらいにはもう少し書くつもりでした。当然のようにこれは勉強の息抜きの『君のソナタ』の息抜きの『過程(以下略』のリメイクの息抜きに書くつもりなので圧倒的に不定期です。あとこの作品は3人称視点で書くので地の文が多くなります、苦手な方は慣れて下さい。

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