893なおそうしき
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「くっそー、なんでなんだよ親父」
「落ちつけ、似羽毛。あれだけの抗争だったんだ。仕方あるまい」
「だって、助けがもう来ん、が遺言だなんて……おかしいですよ!俺たちがいるってのに」
「まぁ落ちつけって。毛根は親父の口癖だ。それより今日は全国から本毛の親分衆たちも葬儀にフサフサおいでだ。身内のわしらがツルっとしててどうすんだ」
「それにしても桂の兄さんはどうしてそんなに落ちついていられるんですか?」
「なぁに、俺はただ強い波風を立てたくないだけよ」
「そういえば、先代の葬儀、覚えてますか?俺のすぐ目の前に地元じゃ有名なスキーンのヘッドやってた輝の叔父さんが座ってたんすよ。あの人、若い頃はヘアピンカーブを連日攻めて、滑り散らかしてたって伝説っすもんね。で、坊さんの読経中、おっさんずっとウトウトしてて……ぼんやり、おっさんの後頭部を見てたらハエがどこからともなくやってきて、ワックスで撫でつけたおっさんの髪に潜り混んだんすよ。するとどうですか。ハエ野郎、まさかの阿弥陀頭から抜け出せなくなって、頭皮の強烈な油脂にやられてお陀仏ですよ」
「……あったな、そんなことも。輝にかかっちゃあ、ハエ野郎も本人が無意識に寝ているうちに殺されちまうわな」
「あっ、兄さん。あそこにおられるのは鶴家の親分じゃないっすか?さすがに貫目があるな。いつにも増して今日も光ってなさる」
「知ってるか?あの親分、むかしガソスタでバイトしてたんだ。小ぢんまりとしたスタンドを双子の兄弟で営んでた。他所からきた客には瓜二つの顔だが、地元客の目は誤魔化せねーよ。なにせ、兄貴の親分のほうは額の広さが毎日違ってたからな。一見客は欺けても、こちとらまでツンツルさせられるかってんだ」
「……親父が亡くなったからには、フロント企業のアデ・ランスはどうすんすか?」
「それについては卯寸毛の兄弟とも話してんだが、しばらくは組の預りになんだろう。どうせ跡目は若頭の黒粉の兄貴が継ぐだろうしな」
「そうっすか……。卯寸毛の兄さん、元気にしてんすか?」
「あぁ、あいつは変わらずツルピカ狂ってるよ。そういやあいつ、ガキの授業参観のとき、教室の後ろに貼ってある家族の似顔絵見ておったまげたっつってたなぁ。なんせ、ガキを挟んだ笑顔の親子三人の絵なんだけど、自分の額から上だけ紙が切り取られて、どっかから持ってきた商品のバーコードが貼り付けてあったってんだからな」
「あちゃあ、たしかにあの一糸乱れぬ毛をクレヨンで再現するのは無理っすよ。その坊や、未来はツルツル明るいっすね」
「おっと、俺らの番だ。似羽毛、焼香するぞ」
「へい」




