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第8話:落日の学び舎 銀の代行者

 都心の空が割れたその時、国立第一魔法学園もまた、阿鼻叫喚の地獄へと変貌していた。

 校舎の壁を食い破り、異界の尖兵たる『双頭の魔狼オルトロス』たちが、次々と演習場へと雪崩れ込んでくる。

「逃げろ! 止まるな、正門へ向かえ!」

 教官たちの怒号が響く。逃げ遅れた低学年生たちは、飢えた獣の牙に晒されていた。




「……っ、雷翔(らいと)、右から来るよ!」

「わかってる! 展開――『放電小球(スパーク・ボール)』!」

 彼の名は星光雷翔(ほしみつ らいと)。彼が放った雷撃は、迫りくる魔狼の鼻先を焼く。だが、その威力では、一瞬の隙を作るのが精一杯で、決定打には至らない。でもそれで十分だ。

「今だよ、陽向(ひなた)!」

「お任せ! ヒナタ式・火炎弾(フレイム・ショット)、発射ぁ!」

 火野陽向(ひの ひなた)が愛用の可愛らしい桃色の小銃を引き絞る。

 放たれた凝縮火球が魔狼の眉間を叩き、爆ぜた。彼女は八級という低い魔力量を、自作の魔法具による「変換効率」で補っている。幼馴染の二人は、背中を預け合い、押し寄せる獣たちを泥臭く退けていった。


 しかし、戦況は一瞬で絶望へと塗り替えられる。

 演習場の土を跳ね上げ、地中から這い出したのは、魔狼とは比較にならない魔圧を放つ巨大な影――『黒鱗の邪蛇(ダーク・サーペント)』。

「……あんなの、聞いてないぞ。……っ、展開、展開ッ! 放電――」

 焦るライトの術式が乱れる。六級の彼が放つ雷撃は、蛇の硬質な鱗に弾かれ、虚しく霧散した。

「ちょっと、これやばくない」

 希望は消え、戦場は絶望に包まれていった。



 場面は変わり、中庭の隅。

 そこでは、雪城かりんが、逃げ遅れて足に怪我を負った下級生の少年を庇い、独り立ちはだかっていた。

「……大丈夫。私が、守るから」

 かりんの指先は、小刻みに震えていた。

 かつて自分の魔力暴走で他人を傷つけたトラウマ。今また、強大な魔素が彼女の内で荒れ狂い、視界を白く染めようとしている。

 逃げ出したい。けれど、背後の少年の体温を感じるたび、彼女は自らの心を奮い立たせる。

「……展開! 氷の(アイス・ウォール)!」

 彼女は必死の防御魔法を、幾重にも展開した。

 だが、邪蛇はその鎌首をもたげ、圧倒的な質量で氷の壁を粉砕せんと突進してくる。

 

 パリンッ


薄い氷が、触れた瞬間に砕け散った。

「あ……」

 死の予感に、かりんが強く目を閉じた。



(……はぁ。蓮、後で最高級のモンブラン、三つは買いなさいよね。私の出張費、高いんだから)



 その瞬間、熱を奪われた大気が、静寂に包まれた。

 かりんが恐る恐る目を開けると、そこには、あの日、蓮の隣にいた銀髪の少女が立っていた。

 葵あおいの紺色の髪とは対照的な、月光を溶かしたような銀色の長髪。

 蓮から魔力の大半を預かり、一時的に実体化したレイだ。

「……うるさい蛇ね。私のティータイムの邪魔をしないで」

 レイは「展開」の号令すら必要としない。

 彼女が虚空を指先でなぞった瞬間、邪蛇の周囲の魔素が――「拒絶」された。

 レイは踊るような優雅な所作で、指先を邪蛇に向けた。

「凍てつきなさい。静止した時間の中で(ゼロ・アイシクル)」

 刹那、邪蛇の足元から巨大な氷の結晶が爆発的に成長し、その巨躯を一瞬で呑み込んだ。

 結晶の中で、邪蛇は細胞の一つひとつまで凍結され、彫像と化す。学園内の邪蛇が次々と。

 そして、レイが軽く指を鳴らすと、その彫像は音もなく崩れ、ダイヤモンドダストとなって空に舞い上がった。

 圧倒的な蹂躙。

 静寂が戻った中庭で、かりんは自分を救った少女の、冷たくも美しい横顔を脳裏に刻みつけた。

(……銀色の髪。あの日、一ノ瀬くんと一緒にいた、あの女の子……!)

 紺色の髪を持つ賢者・葵とは別人。しかし、蓮の隣にいた少女と同一人物。

 かりんの胸に、拭いきれない「疑惑」の種が深く、深く植え付けられた。

 レイは一瞥もくれず、再び青い蝶へと姿を変え、戦火の消えた空へと消えていった。


こんばんは!よつばです!

最近の悩みは技名を考えることです。技名、どうしてもなにかの作品と被ってそうだったり、ダサかったりでなんだかんだ言って時間がかかります。センスが欲しい…

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