第6話:緊急招集(ブルー・オーダー)
一週間の臨時休校明け。
国立第一魔法学園の校内は、これまでにない異様な熱気に包まれていた。
「聞いたか? あの日の暴走、実は葵様が極秘で排除に来てたらしいぞ」
「やっぱりそうか! あの氷を相殺できるのなんて、七賢者くらいだもんな」
「いや、俺は見たぜ。銀髪の美少女が空を舞うのを——」
廊下を歩けば、根も葉もない噂話が次々と耳に飛び込んでくる。
大災害の前兆だ、いや新時代の幕開けだ。
無責任な憶測が飛び交う中、僕はフードを深く被り、壁際を這うようにして教室へ向かっていた。
(……みんな、好き勝手言ってくれるよ。葵が来たなんて、魔法省の公式発表でもないのに)
『ふん、滑稽こっけいね。自分たちが「残りカス」のような魔素で右往左往している間に、真実が目の前を通り過ぎているとも知らずに』
肩に止まった青い蝶——レイが、念話でこれ見よがしに鼻で笑う。
『ねえ蓮。いっそ今ここで、あの掃除魔法「清浄なる微風」でも放ってあげましょう? 噂がゴミと一緒に片付いて、少しは静かになるわよ』
(絶対にやめてくれ! 余計に目立つだろ……!)
レイの絶好調な煽りを受け流しながら、僕は自分の席についた。
だが、僕を待ち受けていたのは、有象無象の噂話よりもずっと厄介な「真実の目」だった。
「……一ノ瀬くん。少し、いいかな」
背後からかけられた声に、心臓が跳ねる。
振り返ると、そこには雪城ゆきしろかりんさんが立っていた。
あの日、暴走の渦中で僕が救い出した少女。
彼女は周囲の目を避けるように、僕を人気のない非常階段へと連れ出した。
「……あの日、助けてくれた女の子は、誰だったの?」
真っ直ぐな、射抜くような視線。
僕は必死に、いつもの冴えない僕を演じて口を開く。
「え……女の子? 何のことかな。僕はただ、君を助けようとして……」
「嘘だよ。私、見たの。君の隣にいた、あの綺麗な人を。それに……あの風。あれは十級の魔法なんかじゃない」
「……考えすぎだよ。きっと、暴走で見た幻覚じゃないかな」
しらぬ存ぜぬではぐらかすが、彼女の疑念は晴れるどころか、さらに深まっていく。
だが、その追求を切り裂くように——世界が震えた。
『——蓮、遊びは終わりよ。大気が鳴動しているわ』
「え……?」
『ひどく汚れた魔素が、一点に集束している。これは……来るわよ』
ドォォォォォンッ!!
遠く、隣接する大都市の上空。
青空がガラスのようにひび割れ、そこからどす黒い「何か」が溢れ出した。
同時に、僕のポケットの中でスマホが激しく震える。
魔法省からの極秘優先通知。
『緊急招集:東京都心部にて大規模な時空干渉を確認。一級魔法師ならびに七賢者各員は、直ちに出動せよ』
「……はぁ。本当に、めんどくさいことになったな」
僕は雪城さんに背を向け、深く溜息を吐いた。
平穏な日常を守るために、僕はまた、あの「葵あおい」という偽りの光を身に纏わなければならないらしい。
こんばんは!よつばです!
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回はついに新章突入。加速する物語、ぜひこれからも楽しんでいってください!




