第3話:孤独な十級
国立第一魔法学園の正門前は、まるでお祭りのような騒ぎだった。
高く掲げられたテレビ局の超指向性マイクや、中継車のアンテナが林立し、リポーターたちがカメラに向かって声を張り上げている。
『——はい! こちらは今、世界中から熱い視線が注がれている国立第一魔法学園前です! 先日発表された新たな七賢者「葵」の出現を受け、次なる天才の誕生を予感させるこの学園には、連日多くの報道陣が詰めかけています!』
その喧騒けんそうを横目に、僕はフードを深く被って通り過ぎる。
まさか、その「熱い視線」の張本人が、今まさに目の前を素通りしているなんて誰も思わないだろう。
(……レイ、あの中継車、邪魔なんだけど。歩きにくいよ)
『ふん、人間は騒がしいわね、蓮。あの中継アンテナに雷でも落としてあげましょうか? 面白い映像が撮れるわよ』
「絶対にやめて! 放送事故どころか大惨事だよ……!」
校内に入れば、そこはさらに露骨な格差社会だった。
魔法省が威信をかけて設立したこの学園では、胸元のバッジの数字がすべてだ。
僕は試験で、完璧に「平均的な十級」を狙って回答したはずだった。目立たず、理論科の隅っこで静かに過ごす。それが僕の計画だったのに、なぜか結果は『魔法応用科エリートコース』。
『自業自得ね。貴方の書いた術式証明が、現代の採点システムには「未知の超天才」に見えたのよ』
案の定、教室での扱いは最悪だった。
七賢者・葵に憧れるエリートたちが集まる応用科において、十級の僕は「システムのバグ」か「裏口入学」としか思われていない。
「おい、見ろよ。十級のゴミが紛れ込んでるぜ」
「葵様みたいな天才が生まれるクラスに、あんな不純物が混ざるなんてな」
昼休み。
居心地の悪さに耐えきれず、僕は購買のパンを持って中庭へと逃げ出した。
そこは、バラ園の裏手にある、スマホの電波も入りにくい静かなベンチだった。
しかし、そこには先客がいた。
「——ねえ、聞こえてる? 十級のくせに応用科に居座るなんて、図々しいのよ」
数人の女子生徒が、一人の少女を取り囲んでいた。
中心で芝生に座り込み、肩を震わせている少女。彼女の胸元にも、僕と同じ『十級』のバッジが揺れていた。
「……ごめんなさい、私……わざとじゃないんです……」
『あら、蓮。あそこの猿たち、私が消してきてもいい? ランチの邪魔だわ』
レイが耳元で物騒なことを囁く。僕は慌てて小声で応じた。
「やめてよレイ! ……っていうか、2人っきりできる時以外で話しかけるなって言っただろ!」
そのやり取りが聞こえたのか、いじめっ子たちが一斉にこちらを向いた。
「なによあんた。……ああ、さっきの事務ミス君? 類は友を呼ぶってわけね。……ふん、行くわよ。十級の空気を吸うと頭が悪くなりそうだわ」
冷ややかな視線。
彼女たちは鼻で笑い、捨て台詞を残して去っていった。
静かになった中庭。僕は、倒れていた彼女に手を差し伸べた。
「大丈夫……?」
「……ありがとう。君も、十級……なんだね」
彼女の名前は雪城かりん。
彼女は魔法なんて興味はなく、普通の生活を望んでいたのに、入学試験で「何かの間違い」で高い数値が出てしまい、無理やりこの学園に入れられたのだという。
「私、魔法なんて使えなくていいのに……」
力なく笑う彼女。僕は同情した。けれど、僕の隣の毒舌精霊は、全く違うものを見ていた。
『……ふん。蓮、アレが見えないの? 彼女の中に眠っている魔素の奔流……あれは「現代の魔法」という小さな器には収まらないほど巨大だわ。ストローでダムの水を排出しようとしているようなもの。今の未熟な理論じゃ、彼女の力を一ミリも引き出せなくて当然よ』
レイの冷徹な指摘に、僕は息を呑んだ。
つまり、彼女は「無能」なのではなく、この世界の誰も「彼女の正解」を知らないだけなのだ。
「……一ノ瀬くん?」
不思議そうに僕を見つめるかりん。
彼女は、自分がどれほどの「爆弾」を抱えているか、まだ何も知らない。
国立第一魔法学園
魔法応用科:エリートが集う。主に魔法を実践活用することを目的とする。
魔法理論科:魔法の研究を行う。魔法の才能がなくてもいいため幅広い人が集まる。




