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第2話:賢者『葵』の誕生

 あの日、雨の公園で銀髪の少女——レイと出会ってから、僕の日常は音を立てて崩れ去った。正確には、世界そのものが塗り替えられてしまったのだ。

 空に開いた『時空の裂け目』から溢れ出した未知のエネルギー、通称『魔素』。それが現代社会に満ちたことで、人類は火を灯し、水を呼び、風を操る術を手に入れた。政府は即座に『魔法省』を設立。世界は空前の魔法ブームに沸き返っている。

 ……けれど。



「……薄いわね。反吐が出るほど薄っぺらな魔素だわ」

 僕の部屋の窓際で、一匹の美しい青い蝶が、人の声で毒を吐いた。レイだ。彼女は普段、魔力を節約するためにこの姿で僕の肩や髪に留まっている。

「いいじゃないか、平和で。みんな楽しそうに魔法の研究をしてるよ」

「研究? 笑わせないで。あんなのはただの『漏れ出た残りカス』を弄んでいるだけ。本当の魔法を知っているのは、この世界で私と、私の魔素に適合した貴方だけよ、蓮」

 そう。僕はあの日、彼女と契約したことで、世界で唯一『真の魔素』を扱える人間になっていた。しかし目立ちたくない僕は表舞台には出ず、自分の知識を整理するついでに、匿名で政府の意見箱へ「魔法の効率的な計算式」をいくつか投稿していた。……それが全ての誤算だった。



「……大変なことになった」

 テレビのニュースでは、新設された魔法省の大臣が、興奮を隠しきれない様子で訴えている。

『……この匿名投稿者こそが、現代魔法の開祖である! 我々魔法省は、彼を最高位の魔導師「七賢者」の一翼として迎えたい!』

 

現代の魔法界には、明確な階級が存在する。

 魔素の出力に応じた10級から1級までのランク。

 そして、その1級の中でも特に突出した、世界を導く7人の頂点――それが『七人の賢者』だ。

 まだ魔法が発見されて数年。

 多くの人間が「10級(火を灯すのが精一杯)」で、教師クラスでも「5級」が関の山というこの時代に、正体不明の投稿者が提示した理論は、1級の壁すらも軽々と超えていた。


 スマホの画面を開くと、ネット上は一色に染まっている。

【朗報】魔法省、ガチで伝説の投稿者を探し始める

1:名無しの魔導師

 例の『理論ニキ』、ついに七賢者に指名されたぞwww

2:緑の魔導師

 妥当すぎる。あの計算式、現代科学を100年は追い越してるだろ。

3:魔導師に似た猫

 でも正体不明なんだよな? 掲示板にポロッと神理論投下して消えるとか、マジで何者だよ。

4:名無しの魔導師

 魔法省が特定に動いてるらしいぞ。逃げ切れるか?




「……逃げ切れるわけないだろ」

 僕は頭を抱えた。

 レイに教わった知識を少し整理して載せただけなのに、まさか国家最高戦力に指名されるなんて。

「さあ、行きなさい蓮。このままじゃ特定されるのも時間の問題よ。なら、自分から主導権を握りに行くべきだわ」

「無理だよ! 僕みたいな内気な高校生が、国のトップ連中の前に出られるわけないだろ!」

「……ふん。なら、少し『細工』をしてあげる」

 レイが蝶の姿から、一気にあの銀髪の少女へと実体化した。彼女は僕の胸元に手を置くと、いたずらっぽく微笑む。

「私の姿を貸してあげる。これなら、誰も貴方が『一ノ瀬蓮』だとは気づかないわ」

「えっ、ちょっと待っ——」

 次の瞬間、視界が真っ白な光に包まれた。体が熱い。内側から作り変えられるような、奇妙な感覚。光が収まり、鏡の前に立った僕は、絶句した。

 そこにいたのは、僕じゃない。レイを少し大人びさせたような、神秘的で、この世のものとは思えないほど美しい「銀髪の女性」だった。

「……これが、僕?」

『声も変えておいたわ。さあ、今日から貴方は「七賢者」の一人。名前は……そうね、「葵あおい」とでも名乗りなさい』

「無理無理無理! こんな姿で喋れるわけないよ!」

『安心なさい、貴方が口を動かせば、私が横からそれっぽい台詞を念話で吹き込んであげるから。貴方はただ、威厳たっぷりに立っていればいいのよ』

 こうして、政府の秘密会議室に一人の「賢者」が現れた。現代の魔導師たちが束になっても解析できない高度な魔法式を、指先一つ、無詠唱で組み上げてみせる謎の美女。その圧倒的な実力に、魔法省の重鎮たちは膝をつき、彼女を「七賢者」の一人として正式に承認した。

 ——一週間後。

 僕は自分の部屋で、泥のように眠りから覚めた。

 傍らには、国立魔法学校の入学許可証と、政府から発行された「一級魔法師」の極秘ライセンス。

「……もう、ヘトヘトだよ。なんで高校生なのに、裏で国家最高戦力なんてやらなきゃいけないんだ……」

『お疲れ様、蓮。でもこれで「魔法のルール」を貴方が握ったわ。あとは学校で「無能な10級」を演じていれば、誰も貴方が世界最強の賢者だなんて疑わないはずよ。平穏な日々を過ごせるんじゃない?』

 レイは再び青い蝶に戻り、僕の鼻の頭に止まった。

「……本当に、明日から平穏に過ごせるんだろうな?」

 僕は不安を抱えたまま、魔法学校の制服に袖を通した。

ここまで読んでくれてありがとうございます!

次回は学園編、頑張ってかいていきますので、感想や応援よろしくお願いします!

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