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第15話:七天円卓会議

 深層からの帰還。

 ゲートを抜けた瞬間に肌をなでた、排気ガスと湿り気を帯びた東京の空気。それは、先ほどまでの地獄が現実であったことを、皮肉にも強く実感させた。

 地上では、無数のフラッシュと報道陣の怒号が待ち構えていた。

 未知の領域『深層』からの生還。そして『古代遺物』の発見。世界はこのニュースに、魔法が発見されたあの日以上の沸き上がりを見せていた。


あおいっち、しおんぬ! メディアはウチが巻いとくから、二人は先行きな!」


 不知火 煌々(しらぬい きらら)が自撮り棒をマイク代わりに、群がる記者たちの質問に答えていく。その隙に、僕はガタガタと震える紫苑しおんを促し、魔法省に向かう専用車両へと乗り込んだ。



 魔法省最深部。

 この国の行く末を左右する七人の頂点による合議体――『七天しちてん円卓会議』。

 重厚な石造りの扉を開くと、そこには既に「怪物」たちが揃っていた。


「ガッハッハ! 葵殿、災難であったな! 深層の騎士を単独撃破したと聞いたぞ! さすがは我ら七賢者のかなめよ!」

 豪快な笑い声を上げたのは、岩の賢者・大岩おおいわ つよし

 岩山のごとき巨躯を誇る大男だ。軍拡派の急先鋒であり、その魔法は地形そのものを武器に変える暴力の極致。


「剛殿、声が大きすぎます。……葵殿、紫苑殿、おかえり。君の無事な姿を見られて、僕の心も晴天のように晴れやかだよ。君の戦い、風の噂で聞いた。実に美しい戦いだった」

 眩いばかりの微笑みを浮かべるのは、風の賢者・一条いちじょう 颯真そうま

 「風の貴公子」と称される彼は、魔法の軌道すらも芸術的に彩ることに命をかける。派手で煌びやかな魔法を好む彼は、剛と同じく軍拡派に席を置いている。

 円卓の端には、雷の賢者が座るべき「空席」が一つ。雷の賢者が顔出すことは滅多にない。

 そして、中央には「じい」こと一条 氷介ひょうすけが、厳しい表情で座っていた。

 遅れて煌々(きらら)が到着する。

 

「……皆、揃ったな。雷の席は本日も空白だが……始めよう。これより、深層で発見された『古代遺物』の取り扱いについて協議する」


 会議は、開始早々に火花の散るような白熱した議論へと突入した。


「当然、この遺物は魔法省の軍事局で解析すべきだ! この回路があれば、我が国の魔導兵器は世界を平伏させる抑止力となる!」

 剛が拳で円卓を叩く。

「賛成だね。力なき平和など、飾りのないドレスと同じで無価値だよ。もっとキラキラした、圧倒的な力がこの国には必要なのさ」

 颯真が優雅に髪をかき上げながら同意する。

「そ、そんな……! 争いのために使うなんて、お、お花たちが泣いちゃい、ます……。もっと、平和なことに使うべきだって、私は……思い、ます……っ」

 紫苑が涙目になりながらも、震える声で精一杯の反対を唱える。

「ウチも同意見! 兵器とかマジ重いし、テンション下がるわー。もっとみんながハッピーになれるマジックに使おうよ!」

 きららも、ガムを噛みながら軽い口調で紫苑を援護する。議論が加速する。


「……葵殿。貴殿はどう考える?」

 じいの静かな問いかけに、視線が僕――葵に集中した。僕は賢者としての冷徹な声を、努めて低く響かせる。

「……遺物は『力』ではなく、『知識』として扱うべきです。仕組みも分からぬ力を振り回せば、斬るのは敵ではなく、自分たちの未来になる。軍事利用には反対します」


 議論は平行線を辿り、結局、遺物の調査は魔法省の直轄で行われることが決定した。

……最悪の展開だ。これで、軍拡派が裏で動く余地が生まれてしまった。



 会議が解散し、僕は煌々(きらら)からのパンケーキの誘いを「仲間が心配だから」と断り、すぐさま一ノ瀬蓮の姿に戻って病院へと向かった。


 病室には、三人の姿があった。

 雷翔らいと陽向ひなたは、包帯を巻かれながらもベッドの上で「あそこの連携、もう少しこうすれば良かったな」と、元気に反省会をしていた。


「あ、一ノ瀬くん! 来てくれたんだ!」

 陽向がパッと顔を輝かせる。

「……悪いな、一ノ瀬。俺が不甲斐ないせいで、お前まで危ない目に……」

 雷翔が済まそうに俯くが、僕は首を振る。

「そんなことないよ。二人が守ってくれたから、僕たちは助かったんだ」

 窓際のベッド。そこにはかりんが、一人で静かに夕暮れを見つめていた。

「……雪城さん」

「……一ノ瀬くん。……ううん、なんでもない。来てくれて、ありがとう」

 彼女は何かを確かめるような、深い視線を僕に投げたが、追求はしてこなかった。今はただ、生きて戻れた安堵を分かち合いたい――そんな空気が病室を満たしていた。




 帰宅。

 コンビニで買った和栗のモンブランをテーブルに置き、僕は大きく溜息をついた。

 リビングには、実体化した人型のレイが、静かに窓の外の夜景を見つめていた。

「……食べたかったんだろ? レイ」

『ええ、いただくわ。……蓮、魔法省の会見、見た?』

 テレビの中では、大臣が「新時代の幕開け」を声高に叫んでいた。

 レイはモンブランを一口運び、悲しげに目を細める。

「……レイ。あの宝石に触れて、何を思い出したんだ?」

 レイは長い沈黙の後、ぽつり、ぽつりと語り始めた。


 かつて、この星には今の数倍の魔素が満ち、魔法と精霊が人類と共存していた文明があったこと。

 そこでは不治の病はなく、飢えもなかったこと。けれど、人々の欲望がやがて、世界を二分する魔法戦争へと発展したこと。


『私の側にいた一人の老博士……あの方は、次の文明で同じ地獄が繰り返されないよう、魔素そのものを世界の理から切り離し、封印する計画を立てた。……私は、その封印を管理する「鍵」として、博士の手で大切に眠りにつかされたのよ』

 レイの言葉が、部屋の空気を凍らせる。

 その後のことは分からない。ただ確かなのは、文明は滅び、魔素は封印されたこと。

 しかし皮肉にも、現代の人類は、そのパンドラの箱を再びこじ開けようとしている。

「……惨事を再び起こさない、僕たちの責任、か」

『そうね。……蓮、モンブラン、もう一つ食べていい? じゃないと、明日からの世界が怖くて眠れそうにないわ』

 冗談めかして笑うレイ。

 だが、その銀色の瞳には、かつて見た滅亡の炎が、確かに映っているようだった。

 


 

 魔法が、再び牙を剥こうとしている。



こんにちは!よつばです!

ついに、七賢者のお披露目!

なかなか癖のあるキャラ達になっています!

詳しくは登場人物紹介2を見ていただけると幸いです。

次回からは新章に突入します!これからもどんどん更新していきますので応援よろしくお願いします。

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