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第14話:黄金の火種

 漆黒の騎士が塵となって消え、深層の赤黒い空に重苦しい静寂が戻った。

 あおいとしての姿を維持したまま、僕は膝をついて肩で荒い息を吐く。肺が焼けるように熱い。


(……レイ。雪城さんたちは……?)

『……大丈夫よ、蓮。三人とも命に別状はないわ。魔法省の救助隊も、すぐそこまで来ている。……さあ、顔を上げなさい。貴方は今、この国の「守護者」なのよ』

 レイの声には、先ほど取り戻した記憶の影響か、どこか遠い場所を見つめるような寂しさが混じっていた。だが、感傷に浸る時間は一瞬も与えられない。



 遠く、岩山の向こうから数条の眩い光が立ち昇る。

 正規のルート――魔法省が管理する転送ゲートを、規格外の暴力で突破して現れたのは、現代魔法の頂点に君臨する二人の賢者だった。


「おっはよー! ってか、ここマジで背景エグくない!? 空の色、超不吉でウケるんだけど!」

 爆炎を撒き散らしながら、一人の少女が舞い降りた。

 七賢者が一人、炎の魔女・不知火 煌々(しらぬい きらら)。

 派手な金髪をサイドポニーに結い、魔法衣をギャル風に大胆に着崩した彼女は、手に持った自撮り棒で「深層なう」と言わんばかりに周囲を撮影し始めた。

「あ、葵っちじゃん! お疲れ〜。マジ、一人でこれ片付けたの? 神すぎなんですけど!」

「……不知火さん。今は冗談を言っている状況じゃない。負傷者がいるんだ」

「えー、葵っち固いなー。あ、しおんぬ! 早くおいでよ、ここ魔素の密度高すぎて、お肌ピリピリするって!」

 煌々の後ろから、ガタガタと震えながら現れたのは、草の賢者・藤田ふじた 紫苑しおんだった。

「ひ、ひぃ……! き、きららちゃん、あんまり走らないで……! あ、葵さま……あ、あの、お怪我は……? 私、私……怖くて、もう帰りたいよぅ……うぅ…」


 二人が派遣された理由は明確だ。

 この深層に蠢く未知の軍勢を、その「圧倒的な殲滅力」で根絶やしにするため。

 紫苑が怯えながらも杖を地面に突き立てると、焦土から太古の原生林を思わせる巨大なつたが爆発的にせり出した。

展開てんかい――『深緑しんりょく千手大蛇せんじゅおろち』……!」

 紫苑の叫びに合わせ、無数のつたが翼竜を空中で捕らえ、その巨躯を粉砕していく。

 内気な性格とは裏腹の、暴力的なまでの植物の生命力。

 だが、その蹂躙の最中、煌々が楽しげに指を鳴らした。

「おっしゃ! 私も混ぜて! 展開――『爆華ばっか千輪咲せんりんざき』!!」

 煌々の放った火球が、紫苑が苦労して編み上げたつたの檻に直撃する。

 ドォォォォン!! という派手な爆音と共に、魔物もろともつたが盛大に燃え上がった。

「ちょ、ちょっとぉ! きららちゃん! 私の可愛い(つた)たちが……燃えてる、燃えてるよぉぉ!」

「てへぺろ! うっかり引火しちゃった! でも今のコンビネーション、マジえてない?」

 泣き叫ぶ紫苑を「てへぺろ」の一言で流しながら、煌々は次々と巨大な花火を空に打ち上げていく。一輪一輪が戦術核に匹敵する熱量を持ち、深層の影を一掃するその魔法は、まさに「動」と「静」の極致だった。


 その背後からは、黒いスーツに身を包んだ魔法省の面々が続々と降り立ち、手際よくかりんたちを救護していく。

 現場を仕切っているのは、魔法省の二大派閥の一つ、『穏健派(均衡重視の派閥)』に属する調査官たちだ。彼らは魔法資源を国際社会で平等に分配し、平和的な利用を目指している。

 しかし、そのすぐ後ろには、ギラついた目をした『軍拡派(力による統治を狙う派閥)』の面々が、手柄を奪わんばかりの勢いで控えていた。

「葵殿、ご無事で何より。……ほう、これは……」

 軍拡派の一人が、岩山の奥に露出した古代文明の残骸に目を止めた。

 レイが「大切なものは回収した」と言っていたが、それはレイ個人の物語にとっての話だ。

 実際、そこには、現代魔法の理論を根底から覆すような、結晶化した魔導回路や古代の設計図が山のように眠っていた。

「……素晴らしい。この『古代兵器』の残骸を解析すれば、我が国の軍事力は一気に十年は進歩する。他国を圧倒し、真の平和をもたらすための『抑止力』になるぞ!」

 調査員たちの狂喜した叫びが、焦土に響き渡る。


『……蓮、見て。あの男たちの瞳。……あれは、かつて私が歩んだ破滅への道よ』


 レイの意味深な発言が、僕の脳裏を冷たく刺す。

 資料を巡り、穏健派と軍拡派がその場で怒鳴り合いの議論を始めた。

 魔法資源の独占。兵器化への野心。利権争い。

 

 僕が死に物狂いで仲間を救った結果、掘り起こされたのは、世界を混沌へと叩き落とすための「黄金の火種」だった。

「……葵っち、なんか深刻な顔してない? お肌に悪いよ? あ、そうだ! 帰りにパンケーキ食べ行こ! 奢ってあげるからさ!」

 煌々が無邪気に僕の肩を叩く。

 だが、その無邪気な魔法の火が、いつか世界を焼き尽くす軍火に変わるのではないかという予感が、僕の心を重く沈ませた。

 

 僕の願った「平穏」が、遠い砂上の楼閣のように崩れ去っていく音が聞こえた。


こんばんは!よつばです!

しおん再登場!嬉しいですね。

新しい七賢者も出てきて盛り上がってまいりました!

次回もお楽しみに!

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