第11話:新宿の陽だまり 束の間のティータイム
新宿駅の改札を抜けると、そこは僕の知っている「東京」ではなかった。
駅構内には無骨な魔導杖を背負った探索者たちが平然と行き交い、巨大なビジョンには「本日のダンジョン混雑予想」が映し出されている。
「……すごい変わりようだな」
駅前の噴水広場。待ち合わせ場所で僕は小さく溜息をついた。
肩の上の青い蝶が、念話でくすくすと笑う。
『ふん。かつての都市が、今や「魔素の狩場」ね。人間らしい節操のなさだわ、蓮』
そんな会話をしていると、人混みの向こうから、見覚えのある三人が歩いてくる。
先頭でぶんぶん手を振っているのは、魔法具の天才・火野陽向だ。その後ろには、少し照れくさそうに笑う雪城かりん。そして相変わらず冷静沈着な星光雷翔の姿があった。
「おっはよー、一ノ瀬くん! 今日からついに実習だね!」
「おはよう、火野さん、星光くん。……雪城さんも」
実習は午後から。
僕たちは事前の打ち合わせを兼ねて、午前中は新宿のショップを散策することになった。
「見て見て! この『魔素増幅式ヘアピン』可愛くない!?」
陽向は、階級の差なんて気にせず雪城さんの腕を引いて歩く。
かりんさんは、今まで受けてきた仕打ちのせいか、最初は戸惑ったように身体を強張らせていたけれど、ひなたの屈託のない善意に当てられたのか、次第に「……それ、少し派手じゃない?」なんて、年相応の少女らしい表情を見せ始めていた。
一方で、僕とライトの男子二人は、彼女たちが次々と買い込む「戦利品」の袋を両手に下げ、数歩後ろを歩かされる羽目になっていた。
「……ったく。陽向のやつ、実習前だってのに浮かれすぎだろ」
ライトが呆れたように呟く。だが、その視線は文句を言いながらも、楽しそうに笑うひなたの背中を、どこか優しく追いかけていた。
「星光くん、火野さんのこと、よく見てるんだね」
僕が何気なく言うと、ライトは「あ!?」と露骨に動揺して赤く染まる顔を背けた。
「……幼馴染だからな。危なっかしくて見てられねーんだよ。あいつ、自分の魔力量の少なさを道具で補うことばっかり考えてるだろ。……いつか、無茶しなきゃいいんだが」
ぶっきらぼうな言葉の裏に透けて見える、ひたむきな保護欲。
(……いいな、こういうの。僕には縁のない感情だ)
蓮は静かにそう思った。
昼食の時間。駅ビルのレストランに入ると、陽向がパフェを頬張りながら、名案を思いついたように顔を上げた。
「ねえねえ! これからパーティ組むんだし、もっと親しくなろうよ! 雷翔とはずっとこうだけど、雪城さんも一ノ瀬くんも、まだ硬いっていうか!」
陽向の言葉に、雷翔が呆れたように肩をすくめる。
「……陽向、お前な。勝手に他人の距離に踏み込むなよ」
「いいじゃん! 私のこと、みんな『陽向』って呼んでよ! ね、雪城さん!」
急に話を振られた雪城さんは、スプーンを止めて戸惑ったように視線を泳がせた。
「火野さん、じゃなくて……ひ、陽向……さん?」
「さん、はいらないよ! 陽向、で!」
「……陽向。じゃあ、私のことも、かりん、って呼んで!」
雪城さんの頬は微かに赤らんでいた。陽向の屈託のない善意が、彼女には珍しかったのだろう。
「よし! 雷翔も、雪城さんのこと『かりん』って呼びなよ!」
「……っ、なんで俺まで! ……ああ、わかったよ。よろしくな、かりん」
雷翔は顔を背けながらも承諾した。彼は分析型らしく、パーティの連携を優先したのだろう。……まあ、隣で陽向がニコニコ見つめているせいもあるだろうけど。
そして、陽向の期待に満ちた視線が、僕に向けられた。
「一ノ瀬くんも! 蓮くん、て呼んでもいい?」
「……僕は、一ノ瀬でいいよ。その方が落ち着くんだ」
「えー? 一ノ瀬くんは一ノ瀬くん、か。……まあ、一ノ瀬くんらしいね!」
彼女はそう納得すると、別の話題に移る。そうして、他愛もない会話をしながら昼食の時間が過ぎていく。
結局、僕だけが「一ノ瀬」と呼ばれ続けることになった。
彼らの中に入りきらない、特別な一線。
肩の上の蝶が、満足そうに羽を揺らした。
『……ふん。それでいいわ。貴方を「蓮」と呼んでいいのは、この世界で私だけだものね』
レイの弾んだ念話を聞き流しながら、僕は最後の一口のコーヒーを飲み干した。
和やかな時間はここまでだ。
窓の外では、巨大な新宿ダンジョンのゲートが、僕たちを待っていた。
こんにちは!よつばです!
みんなでご飯、いいですね!私は家が学校と遠くあんまり友達とご飯とか食べたりしなかったから羨ましいー!
次回からはダンジョンに突入すると思います。楽しみにしててください!




