表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/15

第10話:沸き立つ世界 望まぬ脚光(スポットライト)

 都心の騒乱から数日。

 世界は、かつてない『黄金時代』の到来に沸き返っていた。

 新宿に固定された巨大な亀裂。その先にある未知の異界が、莫大な魔素資源を眠らせた宝庫――『ダンジョン』であると政府が公表したからだ。

 通学路の風景は一変していた。

 駅前には「ダンジョン探索者資格試験」の予備校が軒を連ね、スポーツ用品店だった場所には、魔力を通しやすい特注の合金武器を売る「武器屋」が看板を掲げている。


「……なんだかな。みんな、あれがどれほど危険か、もう忘れちゃったのか」

 僕は号外を配る人々の喧騒を避け、フードを深く被って歩く。

 10級以上の魔法資格さえあれば、誰でも一攫千金を夢見てあの穴に飛び込める。現代社会は魔法ブームで沸き立っていた。

『ふん。愚かね。毒蛇の巣穴をテーマパークだと思い込むなんて、人間らしい浅はかさだわ、蓮』

 肩の上のレイが、念話で冷たく鼻で笑う。

(……レイが珍しく正論を言ってる…。僕だって、あの場所には二度と近づきたくないんだから)

 そんな僕の「平穏」を願う心は、学園の正門をくぐった瞬間に粉砕される。



「――おはよう、一ノ瀬くん!」

 元気よく声をかけてきたのは、雪城ゆきしろかりんさんだった。

 あの日以来、彼女は僕のそばを離れようとしない。あおいの正体を探るためか、それとも別の理由か……最初は正直、胃が痛かったけれど、最近はこの執念深さにも慣れてきてしまった。

「あ、雪城さん。おはよう。……なんだか、今日は上機嫌だね」

「ふふ、わかる? 実はね、昨日届いたの。じゃじゃーん――魔法適性『八級』の合格証!」

 彼女は誇らしげに、胸元のバッジを見せてくれた。

 以前の暴走以降、彼女は自分の魔力を制御しようと必死に努力していた。これで、応用科の中で10級のバッジを付けているのは僕一人になったわけだ。

「おめでとう。すごいね、雪城さん」

「他人事みたいに言わないで。一ノ瀬くん、君も次の試験、絶対に受けなさい。君なら、10級なんてすぐ卒業できるはずだよ」

 ……困ったな。

 今の魔法試験の頂点にいる僕がその試験を今さら受けるなんて、あまりにも無意味だし、何よりもめんどくさい…。

 教室に入り、重苦しい予感を抱えながら席に着く。



 ホームルームのチャイムが鳴り、担任の教官が教壇に立った。


「――静かに。皆も知っての通り、魔法省から通達があった。本日より、応用科の授業カリキュラムを大幅に改定する」

 教官が黒板に、大きな文字を書き殴る。

 『ダンジョン実地攻略演習』。

「今日から君たちには、四人一組のパーティを組んでもらう。これから数週間、第一ダンジョンの上層エリアを実際に踏破とうはしてもらうことになった。……さあ、自由に組んでよし!解散!」

 

 その瞬間、教室内は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 実力者同士が目配せをし、有望な「前衛」や「後衛」の奪い合いが始まる。


(……はぁ。やっぱり、こうなるのか)

 僕は机に突っ伏して、溜息を吐いた。

 魔法適性十級。このクラスで最低ランクの僕を、わざわざ戦力として誘う物好きなんていないはずだ。


『あら、ボッチの貴方には酷な試練ね。……私を実体化させて、私の下僕しもべにでもなりなさい、蓮』

 レイが耳元で楽しそうに煽ってくる。

 僕は絶望的な気持ちで周囲を見渡した。……誰も僕なんて誘わないだろう。10級の荷物持ちなんて、エリートたちは足手まといだとしか思わないはず。

 いっそのこと。このまま余り物になって、適当な事務作業でもやろうか。

 だが、その淡い期待は、隣の席からの強い視線によって打ち砕かれた。


「一ノ瀬くん。……私たち、一緒に組むよね?」

 雪城ゆきしろかりんさんだった。

 あの日、銀髪の少女——レイの姿を目撃して以来、彼女の瞳には僕の正体を暴こうとする執念が宿っている。

「いや、雪城さん。君は八級に受かったばかりだろ? もっと実力のある人と組んだほうが評価も上がるし、安全だよ。僕みたいな十級と組むのは……」

「ダメ。一ノ瀬くんじゃなきゃ、ダメなの。……君の『本当の実力』、ダンジョンなら見せてくれるでしょ?」

 意気揚々と、それでいて逃がさないと言わんばかりに僕の袖を掴むかりんさん。

 

『あら、熱烈なプロポーズね。観念なさい蓮。あの子、貴方がボロを出す瞬間をハイエナのように狙っているわよ』

 肩の上のレイが、念話で楽しそうに煽ってくる。

 困り果てた僕は、なんとか彼女を説得しようと試みた。

「……雪城さん、落ち着いて。四人一組なんだよ? 僕たち二人じゃ人数が足りないし、十級の僕がいる班になんて、あと二人も入ってくれるわけが——」


「――あの! もしよかったら、私たちを仲間に入れてくれないかな?」

 弾けるような明るい声。

 振り返ると、そこにはクラスのムードメーカーであり、魔法具の天才として一目置かれる火野陽向ひの ひなたが立っていた。

 その後ろには、学園屈指の六級実力者、星光雷翔ほしみつ らいとまでもが、少し気まずそうに立っている。

「えっ……火野さんに、星光くん!? なんで僕たちに……」

「えへへ、一ノ瀬くんと雪城さんって、いつも二人でミステリアスな雰囲気出してるでしょ。だから気になってたんだ! それに私、実技は得意だけど理論が弱いでしょ? 理論の成績が優秀な一ノ瀬くんがいてくれたら百人力だよ!」

 陽向さんは屈託のない笑顔で、僕の「表向きの長所」を褒めちぎる。

 

「……火野がどうしてもと言うからな。別に、お前たちの実力を疑っているわけじゃない。……よろしくな、一ノ瀬」

 雷翔くんも、ぶっきらぼうながら右手を差し出してきた。

 

 クラス最強の分析役と、魔法具の天才。

 葵の正体を疑う美少女。

 そして、その葵本人である10級の僕。

 教室中の視線が、一気に僕たちのテーブルに集中した。

「おい、あいつら何であんなゴミと組んでるんだ?」「接待か?」「いや、何か裏があるんじゃ……」


(……終わった。これ以上ないくらい、目立つパーティになっちゃったよ……)

 僕の平穏な学園生活が、また音を立てて崩れ去っていく。

 レイは僕の頭の上で、満足げに羽を休めていた。

「……ああ。よろしく、三人とも」

 僕の意図せぬ形で、世界で最も「平穏」から遠いパーティが結成されてしまった。

こんばんは!よつばです!

魔法といったらダンジョンでしょってことで新章スタートしました。蓮の周りも賑やかになってきて嬉しい限りです!新章もどんどん更新していきますので、応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ