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Cause and Effect

Music:Manufactura - Burning Embers (MNFCTR & Lucidstatic)


(当晩、ヴィコの別荘)


「……フフ……ホフ……フフ……ホフ……」


ヴィコ・ファルコーネ(Vico Falcone)のいびき声が別荘奥おく主寝室しゅしんしつからつたわってくる。ひくく、ながく、リズミカル(りずみかる)で、満腹まんぷくになっておく熟睡すいしゅくするヒグマのようだ。このこえあつかべつらぬき、午前二時ごぜんにじぎのしずまりかえった別荘のなかで、奇妙きみょうでうっとうしい背景音はいけいおん形成けいせいしていた。


オズワルド・チェスターフィールド・コボルト(Oswald Chesterfield Cobblepot)は客室きゃくしつのベッドによこになり、天井てんじょう見上みあげながらひらいていた。部屋へやなかくらく、カーテンの隙間すきまからそとのセキュリティーライトのうすつめたいひかりすこれているだけだった。布団ふとんやわらかく、まくらはふっくらとして、マットレスのささえもちょうどく、どのてんからても彼の粗末そまつ賃貸屋ちんたいやよりはるかに環境かんきょうだった。


だが彼はねむれなかった。


じると、焚きたきびそばた怪しい(あやしい)光景こうけい一気いっきおそいかかってくる——ヴィクトリア時代じだい亡霊ぼうれい透明とうめいなスカート、戦場せんじょう亡霊ぼうれいかたいダンスのステップ、インディアンの祭司しせい髑髏どくろのようなかお……そしてもっと鮮明せんめいなのは、サルヴァトーレ・マローニ(Salvatore Maroni)の一家三口さんかこうだ。プリアのサリーがほのおれた瞬間しゅんかん、彼女のほおからながした二筋ふたすじ血涙ちるい、ラージュがあたまげたときあなだらけの眼窩がんか……一つ一つの細部さいぶが、あかえるてつまちまぶた内側うちがわきつけられたようで、じるたびにけるように再現さいげんされる。


彼は猛地もうどがり、むねはげしく起伏きふくし、ひたいにはまたほそかい冷汗れいかんかんだ。のどかわいていたく、まるで砂漠さばくかぜ一晩中ひとばんじゅうたったようだ。


みずまなければ。こころなかる、恐怖きょうふと怪しさ(あやしさ)がざった寒気さむけしずめるために、現実的げんじつてきなものが必要ひつようだった。


しずかにベッドからり、あかかりをつけずにスリッパをき、ドアをけた。廊下ろうかはさらにくらく、尽頭つじまり階段口かいだんぐちにあるナイトライトだけが微弱びじゃくひかりはなっていた。ここではヴィコのいびきこえがさらにはっきりこえ、まるでない産業騒音さんぎょうそうおんのようだった。


ペンギン(Penguin)はつえをついて、できるだけおとてずにゆっくり階段かいだんりた。オークの階段かいだんは彼の体重たいじゅうかすかに、ほとんどき取れないような creakきしみおとてた。リビングルームは真っまっくらで、家具かぐ輪郭りんかく暗闇くらやみなかうずくま怪獣かいじゅうのようだった。記憶きおくたよってキッチンの方向ほうほう、あるいはキッチンのセンターアイランドとウォーターディスペンサーがあるはずの方向ほうほうへ手探り(てさぐり)ですすんだ。


ゆびがついにつめたいカウンターのふちれた瞬間しゅんかん、リビングルームの反対側はんたいそくかげから、突然とつぜんひくく、平穏へいおんで、前触まえふれのないこえひびいた:


手伝てつだいが必要ひつようですか、コボルトさん?」


「えっ!」


ペンギンはこんかれるようにおどろき、つえからとしてガタンとおとて、自分じぶんもヒックリとこしろそうとした。心臓しんぞうはげしくね、のどからそうになり、手忙脚乱てまぐさにカウンターにつかまってからだささえた。


暗闇くらやみなかで、たかせたかげがソファチェアーからゆっくりがった。ヴィクター・ザス(Victor Zsasz)だった。彼は濃色のうしょくのパジャマをて、坊主頭ぼうずあたままどかられた微光びこうしたつめたい輪郭りんかくかべ、かおには依然いぜんとしてなに表情ひょうじょうもなく、うごくロウ人形にんぎょうのようだった。


「ザ……ザスさん!」ペンギンはむねて、心臓しんぞうが手のひらにドキドキとちつけるのをかんじた。「あなた……どうしてここにいらっしゃるんですか?吓死おどろかされました!」


ヴィクターは彼の最初さいしょ質問しつもんこたえず、かがんでゆかちたつえひろげてペンギンにわたした。動作どうさ平穏へいおんで、甚至じしん礼儀正れいぎただしいとえるかもしれない。「ねむれない。ヴィコさんのいびきが」。簡潔かんけつ説明せつめいし、こえには一蓮托生いちれんたくしょうなみもなかった。


ペンギンはつえけ取り、こころかないが、あたまはやまわった。ヴィコの寝室しんしつ別荘べっそう反対側はんたいそくにあり、ヴィクターの客室きゃくしつからは程遠ほどとおい。そのうえ、いびきこえ穿透力とうでつりょくつよくても、そんなにとお距離きょり数枚すうまいかべへだててヴィクターの部屋へやまでとどくはずがない。彼はうそをついている。


恐ろしいおもいがペンギンのこころをよぎった:ヴィクター・ザス、このファルコーネもっと冷酷れいこくな殺しころしや万物ばんぶつ無関心むかんしんきている死神しにがみ……彼もたのだろうか?焚きたきびそばるべきではないものを?


このかんがえはペンギンに奇妙きみょうな「同盟感どうめいかん」をかんじさせると同時どうじに、さらにふか不安ふあんおぼえさせた。もしヴィクター・ザスまで影響えいきょうけるのだとしたら、地堡えんたいごう……そのダンス……到底とうていなにかくしているのだ?


彼はヴィクターがビルトイン冷蔵庫れいぞうこかい、とびらけるのをた。冷蔵庫れいぞうこ内部ないぶひかりが彼の蒼白あおじろかお空洞くうどうらした。ヴィクターはペットボトルのみずり出してせんけ、おおきくくちけてんだ。喉結のどむすびうごいた。彼の動作どうさ機械的きかいてき正確せいかくだった。


ペンギンのこころなか圧迫感あっぱくかん恐怖きょうふしおのようにしていった。彼は場所ばしょ急需きゅうすしていた。相手あいてがヴィクター・ザスであっても。


「ザスさん……」ペンギンはかわいたくちびるをなめ、こえ極端きょくたんひくくして试探したんした。「あなた……今夜こんや焚きたきびそばで……なにか……ええと、特別とくべつなものをませんでしたか?ダンスをしているひとたち以外いがいのものですよ」。


ヴィクターの動作どうさがほんのわずかにまった。非常ひじょうみじかく、ペンギンが幻覚げんかくだとおもうほどみじかかった。そのあとボトルをしたろしてせんじ、からだけた。冷蔵庫れいぞうことびらまり、リビングルームはふたたくらくなり、かげなかには彼の蒼白あおじろかおがぼんやりとえるだけだった。


特別とくべつなもの?」ヴィクターはり返し、口調くちょう依然いぜんとして平淡へいたんだった。「ヴィコさんがダンスをしている姿すがたは、そうですか?とても滑稽こっけいです」。


彼は本題ほんだいかららしている。ペンギンはこころなかでさらに確信かくしんした。彼はヴィクターをあばくつもりはなく、またあばけなかった。だが確認かくにん必要ひつようだった。「自分じぶんだけが狂人きょうじんではない」というゆがんだ慰め(なぐさめ)が必要ひつようだった。


「ええ……はは、そうですね、ヴィコさんのダンスはとても面白おもしろかったです」。ペンギンはどこかぎこちなくわらい、彼のはなし沿って敷衍ふえんしたあと話題わだい一転いってんさせ、「幻覚げんかく」や「錯覚さっかく」を共有きょうゆうするような迂回的うかいてき方式ほうしきで言った。「私は……最近さいきんつかれすぎたのかもしれません。わるくなりました。焚きたきびはげしくれたとき、あの……あのほのおいろすこわってえたり、ふるふくかげとおぎるのをたようながしたり……けむりかたちがそうえたのかもしれませんね……」。はなしながら、ヴィクターの反応はんのう注意深ちゅういぶか観察かんさつした。


ヴィクターはその一動いちどうもしなかった。暗闇くらやみなかで、ペンギンは彼の具体的ぐたいてき表情ひょうじょうけられなかったが、きん張した沈黙ちんもくかんれた。それはヴィクターがたいせる空洞くうどう無関心むかんしん沈黙ちんもくではなく、……おさまれた、表面ひょうめんしたなにかががっている沈黙ちんもくだった。彼は甚至じしんヴィクターがからだよこしたろしたゆびが、極端きょくたん轻微びじゃくまるまったのをた。


見間違みまちがえただけです」。ヴィクターがやっとはなはじめた。こえはさっきよりもひくく、生硬せいきょうで、一蓮托生いちれんたくしょうたしかな口調くちょうだった。「ほのおほのおのままです。かげかげのままです。私はそんな怪力乱神かいりきらんしんしんじません」。


はなわると、ペンギンにはな機会きかいあたえることはなく、ボトルのみずって、平穏へいおんだが(ヴィクターにとっては)すこいそいだ足取あしどりで階段かいだんかい、がって二階にかいかげえた。


ペンギンはそのち、にはつえにぎりしめていた。リビングルームには彼だけがのこり、とおくからヴィコのないいびきこえこえた。


ヴィクターの反応はんのうは彼の推測すいそくをほぼ証明しょうめいした。この殺しころしやたのだが、みとめない、甚至じしん……おそれているのかもしれない?


このかんがえはペンギンにさらにふか寒気さむけかんじさせた。ヴィクター・ザスまでおそれるもの……


自分じぶんとヴィクターだけがえたのだろうか?アルベルトは興奮こうふんしてあそんでいたし、ヴィコも熱中ねっちゅうしてダンスをしていたし、ソフィアはただリラックスしているようにえた……彼らはなにづかなかったのだろうか?地堡えんたいごうの人々(ひとびと)は?ルイス(Louis de Pointe du Lac)、馮鋭徳(Feng Ruide)……彼らはっていたのだろうか?そのダンスは、故意こいだったのだろうか?


かんがえればかんがえるほど、さむかんじた。心理的しんりてきさむさではなく、現実的げんじつてき物理的ぶつりてきさむさだった。十二月じゅうにがつ砂漠さばく深夜しんや別荘べっそう暖房だんぼうではこころそこからひろがる寒気さむけはらえなかった。ふるえて、いそいでウォーターディスペンサーのそばき、おおきなコップにつめたいみずをいっぱいそそぎ、ゴクゴクとんだ。冷水れいすい食道しょくどうとおり、刺激的しげきてき清明せいめいさをもたらしたが、ほねずいまでつめえた寒気さむけしずめることはできなかった。


リビングルームにもうてなかった。ここはひろすぎてくらすぎて、いつでもかげから存在そんざいすべきではないものがあらわれそうだった。


つえをついていそいで客室きゃくしつもどり、ドアをめ、甚至じしん無意識むいしき施錠せじょうした(ヴィクターのようなひとにとってこのかぎ無意味むいみだとっていたが)。ふたたびベッドによこになり、布団ふとんからだをしっかりつつみ、あたまだけをした。



(馮愛冶の夢中漫游むちゅうまんゆう


地堡えんたいごう児童寝室じどうしんしつ。馮愛冶(Feng Aiye)はやわらかい布団ふとんまるまり、呼吸こきゅう均一きんいつだ。彼は「ねむって」いたが、意識いしきやわらかいさかなのように、そっとからだからすべし、無数むすう意識いしき記憶きおく破片だんぺん構成こうせいされた広大無辺こうだいむへんゆめうみはいった。


彼は今夜こんやすこ好奇心こうきしんがあった。ソフィア・ファルコーネ(Sofia Falcone)というファルコーネのお姉さんは、ほか大人おとなたちとはすこちがってえた。彼女の身上しんじょうには沈殿ちんでんしたものがあり、単純たんじゅんかなしみやいかりではなく、さらにふかくて、かさぶたができてもにじきずのようだ。てみたかった。


意識いしき轻轻ささやかうすいミントのキャンディと消毒水しょうどくすい混合こんごうした匂い(におい)のするゆめとびらを「けた」。馮愛冶は「はいって」いき、このゆめなかでは彼は透明とうめい観察者かんさつしゃで、だれも彼にづかなかった。


最初さいしょに「」にはいったのは、あたたかくあかるい光景こうけいだった。ペンギンのははであるフランシス・コブ(Francis Cobb)の粗末そまつだが整然せいぜんとしたリビングルームだ。ソフィアはふるいソファにすわり、フランシスのはなしみみかたむけてき、かおには辛抱強しんぼうづよく優しい(やさしい)笑顔えがおかべていた。フランシスはくどくどとはなし、わかときにイタリアでたオペラのはなし、サボテンの若芽わかめの様々(さまざま)な塩漬しおづけ方法ほうほうはなし、時折ときおり記憶きおく曖昧あいまいになって中断ちゅうだんし、困惑こんわくした表情ひょうじょうかべた。


「……とき々、きゅうにさっきおうとしたことがおもせなくなるの」。フランシスは照れくさそうにわらい、自分のあたまかるたたいた。「いたのね、やくたなくなった。医者いしゃは……早期発症そうきはっしょうなにだかたわ?ああ、早期発症型認知症そうきはっしょうがたにんちしょうだったわ。くとこわいけど、じつ単純たんじゅん記憶力きおくりょくわるくなっただけよ」。


ソフィアはばし、轻轻ささやかにフランシスのシワだらけのこうかさね、こえやわらかくした。「大丈夫だいじょうぶですよ、フランシスさん。おもせなくても無理むりしないで。あなたはなしていたオペラも、サボテンの塩漬しおづけ方法ほうほうも、とても面白おもしろかったです。オズワルドはあなたのようなははがいて、とてもしあわせですね」。


ゆめ画面がめんあたたかかったが、馮愛冶はソフィアのこころおく一筋ひとすじつるつねきんちょうしているのをかんれた。それは「い」、「病気びょうき」、「うしなうこと」といった概念がいねんたいするふか共感きょうかんであり、甚至じしんすこしの恐怖きょうふだった。彼女はこの場面ばめんさがしていたのは、おそらく陪伴ばんはんだけではなく、時間じかん侵食しんしょくあらがう慰め(なぐさめ)だった。


そのあとゆめ前触まえふれもなく、はげしくわった。


あたたかくあかるいリビングルームは一瞬いっしゅんくずれ、ゆがみ、退色たいしょくし、わってあらわれたのはつめたく、蒼白あおじろで、すような蛍光灯けいこうとうひかりちた廊下ろうかだ。金属きんぞくのドア、観察窓かんさつまど拘束着こうそくぎ、ぼんやりとしたおそろしいさけこえ、それに……電気ショック装置でんきしょっくしょうち作動さどうするときの、きばるようなブーンというおとだった。


Arkham Asylum(阿卡姆精神病院)だ。


ソフィアのゆめなか姿すがたすこわかくなり、さらにもろくなった。病院着びょういんぎて、独房どくぼうつめたいすみまるまり、眼神がんしん空洞くうどうで、からだくすり恐怖きょうふ微微びびふるえていた。白衣はくいかおのはっきりしない「医者いしゃ」がはいってきて、記録用紙きろくようしち、口調くちょうは優しい(やさしい)が拒否きょひできないもので、くるったような質問しつもんをし、彼女の無意識むいしき呓語ごいご、コントロールできないふるえを一つ一つ記録きろくした。


画面がめんくだけ、様々(さまざま)な虐待ぎゃくたい断片だんぺんひらめいた:無理むりくすりまされたあとはげしい嘔吐おうとともうとうとり、長時間ちょうじかん隔離かくりによる感覚剥奪かんかくはくだつ幻聴げんちょうほか患者かんじゃ狂暴ぼうぼうさけびと鉄門てつもんたたおとあたまなかり返しひびいた……さらにもっとふかいところには、監視窓かんしまどから彼女をつめる、ちちであるカーマイン・ファルコーネ(Carmine Falcone)のつめたく、失望しつぼうした、まるで失敗しっぱいした作品さくひん評価ひょうかしているかのようながあった。


恐怖きょうふ屈辱くつじょく絶望ぜつぼう、裏切り(うらぎり)……実体じったいしかけた濃厚のうこう感情かんじょうゆめ核心かくしんからしおのようにせ、傍観者ぼうかんしゃである馮愛冶をおそった。


「あ!」馮愛冶はひくさけんだ(ゆめそうで)。意識いしきかれたように、猛地もうど痛苦つうくつ狂気きょうきちたゆめからした。


彼は「ゆめうみ」のふちに「いて」いて、すここころかなかった。冷静れいせいつよそうにえるソフィアお姉さんのこころおくに、こんなおそろしい地獄じごくかくされていたのだ。はいっていったことを後悔こうかいはじめた。


ほかのものをなければ。平穏へいおんなものをて、さっきかんじたおもやわらげたかった。


彼の意識いしき方向ほうほうえ、ふるいタバコ、帳簿ちょうぼのインク、そして古風こふうなアフターシェイブの匂い(におい)がするべつゆめ領域りょういきに「およいで」いった。サルヴァトーレ・マローニのゆめだった。


ここの雰囲気ふんいきはまったくちがった。上品じょうひんかざられ、やわらかいひかりちた書斎しょさいだ。マローニとエステバン(Esteban Vihaio)がかいってすわり、なかには精巧せいこう木製もくせいのチェスばんかれていた。二人ふたりはどちらもゆったりしたホームウェアをて、神情しんじょう集中しゅうちゅうして平穏へいおんだった。チェスばんうえでははげしい戦闘せんとうつづいていた。マローニは「キング」のこまにぎり、まゆせ、エステバンはゆっくりと湯気ゆげったおちゃった。


馮愛冶の透明とうめい姿すがた書斎しょさいすみあらわれた。しばらくチェスの対局たいきょくていたが、すこ退屈たいくつかんじ、こころふたた跃動やくどうはじめた。今夜こんや焚きたきびそばでのダンスをおもし、ちちがこのしゅのダンスが「れいなぐさめ」甚至じしんれいつうじる」ことができるとはなしていたこと(ちち神秘的しんぴてきはなして、真偽しんぎ半々(はんぶん)だったが)をおもした。


彼はふた人の老人ろうじんそばき(当然とうぜん彼らは彼をなかった)、比划ひかくはじめ、よるた「Calonarang」のダンスの基本的きほんてきな手振り(てふり)とステップを真似まねした。「おどり」ながら、ゆめ意識いしきで「メッセージ」をつたえた:「マローニおじいさん、エステバンおじいさん、これて!これはCalonarangっていうの!爹地(お父さん)が、上手じょうずひとがこのダンスをおどると、ちかくにみちからなくて退屈たいくつなお化け(ばけ)さんたちをもっと退屈たいくつしないようにして、甚至じしん……くべき場所ばしょれてってあげるかもしれないよ!」。


彼のつたえたメッセージは子供こどもっぽい誇張かちょう神秘しんぴざっていたが、核心かくしん意味いみはだいたい間違まちがっていなかった。


マローニとエステバンはどちらもなにかをかんじたようだ。チェスを動作どうさめ、馮愛冶が「おどって」いる方向ほうほうをぼんやりとたが、彼らはなにえなかった。


そのあとゆめわった。


書斎しょさいかべ透明とうめいになり、うすくなり、焚きたきびあたたかいひかりとその奇特きとくなバリとう音楽おんがくがぼんやりとにじんできた。馮愛冶のダンスの「誘導ゆうどう」によって(あるいはもっと多くは馮愛冶の独特どくとくゆめ霊媒能力れいばいのうりょくりたため)、ふた人のうすかげが、焚きたきびひかりなかでだんだんあらわはじめた。


マローニの呼吸こきゅう一瞬いっしょうまった。彼はプリアをた。彼女がもっとあいしたたから青色せいしょくのサリーをて、笑顔えがおは優しく(やさしく)おだやかで、記憶きおくなかにまみれたおそろしい姿すがたではなかった。彼はまたちいさなラージュもた。虎頭虎脳こととのうで、うれしそうにダンスの動作どうさ真似まねし、かおには純粋じゅんすいよろこびがあった。彼らはなにはなさず、ただわらっていた。姿すがたすこ透明とうめいで、ぼんやりとした音楽おんがくわせて轻轻ささやからいでいた。


一方いっぽう、エステバンもひと人のかげた——質素しっそなロングスカートを気品きひんがあるラテンけい老婦人ろうふじんだ。それは彼がくなった多年たねんつまだった。彼女は彼にわらいかけ、眼神がんしんには生死せいしえた優しさ(やさしさ)と理解りかいがあった。


なみだ無声むせいでマローニとエステバンのいた目尻めじりからながちた。だがそれはかなしみのなみだではなく、巨大きょだいな慰め(なぐさめ)、さとり、そしてふかおもいがざった複雑ふくざつ感情かんじょうなみだだった。彼らはくなった最愛さいあいひとがこんなに平穏へいおんうつくしいかたちで「あらわれ」たのをて、たとえそれがゆめなか幻影げんえいであっても、会話かいわができなくても、こころなか長年ちょうねんにわたるすようないたみをいやすのに十分じゅうぶんだった。


馮愛冶は「ダンス」をめ、ふた人の老人ろうじん満足まんぞくした哀しい(かなしい)表情ひょうじょうて、こころなかにも奇妙きみょう達成感たっせいかんかんじた。そっとこのゆめから退のがった。


つぎはどこにこうか?彼は「いて」いて、周囲しゅういゆめ光点こうてんの匂い(におい)を感知かんちした。硝烟しょうえんあせの匂い(におい)があり、それでもあかるいあたたかさにつつまれた沈静ちんせい堅実けんじつな匂い(におい)が彼をきつけた。謝天名(Xie Tianming)だった。


好奇心こうきしんから「はいって」いった。


このゆめ単純たんじゅんあたたかかった。キレイで整然せいぜんなキッチンで、まどそと日差ひざしが明媚めいびだ(ゆめなかはいつも天気てんきだ)。謝天名とシャン・ウーコン(Shang Wukong)の二人ふたりがいた。謝天名はまないたうえでジャガイモを手際てぎわよくっていて、手技てわざ熟練じゅくれんしていた。シャン・ウーコンはそばうたきながら、みどり野菜やさいあらっていた。二人ふたりあいだにはおおくの言葉ことばはなかったが、ひとつの目配せ(めづかせ)、ほそかい動作どうさたとえば謝天名がすぐにウーコンがわたしたおさらけ取ったり、ウーコンが自然しぜんかた天名てんめい轻轻ささやかたたいたりするだけで、言葉ことばがいらない默契もっけつ親密しんみつさがながれていた。


食事しょくじの香り(かおり)がまるでゆめとうじてつたわってくるようだった。とても家庭的かていてきで、安定あんていしていた。


馮愛冶はっていた。この単純たんじゅん直接的ちょくせつてきあたたかさとたよりになるかんじは、彼が渇望かつぼうしていたが、自分じぶん複雑ふくざつ家庭かていなかでは完全かんぜんられないものだった。


ゆめ場面ばめんわり、二人ふたりはキッチンからようとしていた。馮愛冶の好奇心こうきしんが彼をついてきたいとおもわせた。


就在这时(この時)、つめたくてもやわらかい轻轻ささやかに彼の「かた」にかれた(ゆめなか感知かんち)。


馮愛冶はおどろいてり返った。


紫鬼(Purple Ghost)だった。彼はいつのにかこのゆめにもはいっていて、依然いぜんとしてしんちょう紫色むらさきいろ寿衣じゅいながかみかおおおっていたが、気配けはい温和おんわだった。彼は馮愛冶に(ゆめなかでは彼らはたがいに感知かんちして会話かいわができる)くびり、幽霊ゆうれいのようなこえ直接ちょくせつに馮愛冶の意識いしきなかひびいた:「子供こどもにはせられないものがある。ついてないで」。


こえちた瞬間しゅんかんゆめ場面ばめん一瞬いっしゅんわった。キッチンはえ、わってあらわれたのははる息吹いぶきがあふれる野外やがいだ。みどりくさあつしげり、とおくにせせらぎの小川おがわがあり、ちかくにはそこまでえるちいさないけがあり、数匹すうひきあかちいさなさかな水草みずくさあいだあそんでいた。日差ひざしはあたたかく、そよかぜほおたった。


紫鬼は馮愛冶(ゆめ形態けいたい)のにぎり、ゆっくりといけそばあるいた。


愛冶あいや」、紫鬼のこえには長輩ちょうぱい無念むねん告戒こくかいざっていた。「他人たにんゆめのプライバシーを尊重そんちょうすることをっていなければならない。ふかさがむのは、いことではない」。からだよこけ、かおえなかったが、馮愛冶は彼が自分じぶんを「て」いる視線しせんかんれた。「だから君は昼間ひるまいつもねむたくてベッドからられないのか?毎夜まいよこんそと彷徨さまよっているのだね。そうだろ?」。


馮愛冶はすこし照れくさそうに、紫鬼のはなしていけそばうずくまり、ばして水中すいちゅうちいさなさかなをかきまわした。ちいさなさかなおどろいてのがげた。「うん……だいたいそうだね。大人おとなゆめは、とき面白おもしろいけど、とき々……すごくこわいよ」。ソフィアの悪夢あくむおもしてふるえた。


「愚かな」。紫鬼はためいきをついて彼のそばいた。「君はまだとしすくなく、霊識れいしき特殊とくしゅだ。さらに根本こんぽんかため、精力せいりょく大切たいせつにしなければならない。世中よのなかことは、おおくが因果関係いんがかんけいがあり、ゆめ例外れいがいではない。君が勝手かってはいむと、ちょうるように、未知みち波乱はらんこすおそれがある」。低(ひ

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