魔王の子供は双子の娘
魔王の子供は双子の娘。
けれど、その姿を見た者は、だあれもいない。
白い肌に滴る血の紅を見たなら、あなたの運命はもうおしまい。双子の微笑みに囚われたなら、命さえ惜しくなくなる。
あなたに両腕があるのなら、右手は姉に、左手は妹に。
あなたに両脚があるのなら、右足は姉に、左足は妹に。
あなたに瞳があるのなら、右眼は姉に、左眼は妹に。
薄闇の中で揺れる髪、合わせ鏡のような笑顔に遊ばれ、奪われ、切り刻まれ、この世からそっと消えていく。命を惜しむなら、魔王城の影に足を踏み入れないで。それは魔族すら恐れる、破れぬ掟。
魔王城の膝元に広がる「黒薔薇草原」。その名は、かつて魔王が敵を葬り、血と魔力が土に染み込んで咲いた幻の花に由来する。麗らかな陽射しが降り注ぐ午後、双子のアリスとリリスは草原を並んで歩いていた。十四歳ほどの可憐な姿。合わせ鏡のようにそっくりな二人は、魔王の娘にふさわしい息を呑むような美しさを備えている。粉雪のようにきめ細やかで白い肌。アッシュグレーの姫カットが風に揺れ、長い睫毛が大きな瞳を縁取る。唇の端に覗く八重歯は、魔族の血を誇る証。
アリスは純白のロリータドレスを纏い、リリスは純黒のゴスロリドレスを身にまとっている。デザインは寸分違わず同じ。たっぷりのフリルがスカートを飾り、裾には繊細なレースが波のように揺れる。コルセットが細い腰を締め上げ、パニエがスカートをふわふわと膨らませて、まるで花束のようなシルエットを作り出す。頭には小さなヘッドドレスが乗っており、アリスは白い薔薇、リリスは黒い薔薇があしらわれている。陽光に照らされた二人は、歩くたびに影と光を織り交ぜ、草原に不思議な絵画を描き出していた。
双子が草原を散歩していると、視界にネモフィラの群生が広がった。青い花々が風にそよぎ、まるで小さな海が波打つよう。
「「まあ、綺麗」」と双子は声を合わせて、ネモフィラ畑へそっと近づく。
双子がネモフィラ畑へ近づくと、ネモフィラの中に小さな妖精が眠っているを見つけた。妖精の寝顔は可憐であどけなく、睫毛は作りたての球体関節人形のように長く整っている。頬は淡く、熟する前のさくらんぼのような色味をしており、まるで何百枚ものネモフィラの花びらをミルフィーユのように幾層も重ね、ドレスにしたような召し物を着て、その矮躯を抱くようにして、赤子のように眠っていた。
「あら見て、アリスとっても可愛いわ」
「そうね。リリスとっても可愛いわ」と双子は言った。
「まるで路草を宿にとる妖精のよう。あまあい甘露で喉を潤し、柔らかく良い芳香な花弁をベッドにして、すやすやと眠るのね」
「まるで鮮花に住まう春の妖精のよう。豊潤な蜜で喉を潤し、燦爛たる花びらのドレスに身を包むのね」双子はそれぞれの想像に浸り、恍惚の表情を浮かべた。瞳が細まり、唇がわずかに歪む。
「ね、リリス。摘んで帰りましょう?」
「ね、アリス。お部屋に飾りましょう?」
「でも、お花を摘むと死んじゃうのじゃなくて?」
「死んでしまうのかしら?」
「きっと、花束のように枯れてしまうわ」
「…でも、お花が綺麗なのはほんの一瞬よ。きっと、この子が美しいのも一瞬ね」
「なら、人間のように、その儚い命を自分勝手に摘み取ろうとも、構わないわね。この世は所詮、胡蝶の夢のようなものだから」
「ふふっ、そうね。アリス」
「ふふっ、そうよ。リリス」
双子は顔を見合わせて、邪悪に笑う。その悪巧みをする笑みさえ美しく、向かい合う姿を見ていると、その無限に続く合わせ鏡の中へ吸い込まれ、閉じ込められてしまいそう。
「うぅん…」ネモフィラの花の中で、小さな寝息を立てていた妖精が、かすかに唸った。蒼白い月光が夜明け前の草原を染める中、双子は合わせていた視線をそらし、妖精へと目を向ける。小さなつぼみが朝露に濡れてゆっくり開くように、妖精は寝ぼけ眼を開いた。まんまるな瞳が月光を映し、りんごのようにあどけない頬を擦る。幼い声が、静寂をそっと破った。
「……ママ?」
「「…まあ」」アリスとリリスは声を揃え、再び顔を見合わせる。白と黒のドレスが月下で揺れ、まるで影が踊っているかのよう。
「「…なんて可愛らしいの」」
二人の声が重なり、微かな笑みが唇に浮かぶ。
「どちらがママなのかしら、ね? アリス」
「ママがひとりでなきゃいけない法律があるの?リリス」
「ママが二人いても、誰も気にしないんじゃない?」会話が軽やかに跳ね、双子の瞳が悪戯っぽく光る。
「…あなたたち、わたしのママなの?」ネモフィラの妖精が、小さな首をかしげて聞いた。
アリスとリリスは口元に手を当て、くすりと笑う。悪戯な微笑みが、月光の下で一層妖しく映えた。
「そうね。アリスはあなたのママよ。キャベツ畑であなたを見つけたの」
「そうね。リリスはあなたのママよ。コウノトリがあなたを運んできたの」
妖精は目を丸くし、「…キャベツ? コウノトリ?」と呟く。人差し指を唇に押し当て、首を傾げる姿は、まるで壊れかけのガラス細工のように繊細だ。
「「あら、あなたは何も気にしなくていいの。こんなに可愛くて美しいのだから」」
双子の声が柔らかく重なり、草原の花を撫でる子守唄のように響く。
「そうね。『グレートギャツビー』のデイジーが言っていたみたいに…」
「女の子はばかな子がいいわ。ばかなのが一番いいの。とびっきり美しくてばかな子が…ね?」アリスとリリスは顔を見合わせて、くすくすと楽しそうに笑った。月光が二人の八重歯を照らし、魔族の血が宿っていることを静かに示す。妖精はますますきょとんとした表情になり、小さな唇をわずかに開けた。
「…? よくわかんないけれど、あなたたちはわたしのママなのね」
「「ええ」」
「わたし、さっき咲いたばかりなのよ。ついさっきまで蕾の中で夢を見ていたの。とっても美しい夢だったわ。この世界にある綺麗なものをぜんぶ集めて、むせ返るほど大きな花束にしたような夢…きっと、ママたちも出てきたわ。だって、ママたちって本当に美しいもの」妖精の声は無垢で、まるで風に揺れる鈴の音のようだ。
双子は目を細め、優しげに微笑む。
「それにこの辺りって、とっても雨露がおいしいね。土壌にもたくさんの魔力があるわ」妖精が無邪気に言うと、アリスとリリスは顔を見合わせた。
「そうね。この魔王城の周囲では幾多の魔族が土へ還っていったもの。血と骨が溶け合い、お父様が切り刻んだ亡魂たちがこの土を肥やしたのね。幾千の骸が眠る大地、たっぷりお上がり?」双子はくすくすと笑い、秘密を共有する姉妹のように首を寄せ合う。
「…? わたし、難しいことは分からないわ」妖精は目をぱちくりさせ、小さな肩をすくめた。
「あら、あなたはなーんにも気にしなくていいわ。この土壌の魔力は全部あなたが好きにしていいのよ」
「ほんと! うれしい。ママ大好き!」妖精は両手を広げ、ネモフィラの花びらが舞う中で跳ねる。その姿は、ノヴァーリスが求めた幻の青い花のよう。
「ところで、私たちがママなら、あなたに名前をつけてあげなくちゃね」
「そうね。いたいけなあなたには、可憐な名前が似合うわ」
「わたしに名前をつけてくれるの?」妖精の瞳がきらりと輝く。
「「ふふ。親は子を縛るために名前をつけるのよ。名は体を表すって言うでしょう? 名は親が子に最初に押し付ける希望と呪い。お父様が私たちに『アリス』と『リリス』をつけたみたいに…ね?」」双子は顔を見合わせて、またくすくすと笑う。声が重なり合い、まるで不協和音のように響き合った。
「よくわかんないけれど、ママたちがわたしに素敵な名前をつけてくれるのね?」
「そうね…あなたはネモフィラを並べ替えて、ラフィネ」「そうね…あなたはラフィネ。いたいけな妖精、ラフィネ」
「でもね、ママ…ネモフィラを並べ替えるんだったら、『モ』が足りないよ?」ラフィネは小首をかしげた。その愛らしい姿は百本の薔薇の花束さえ霞ませるほどだ。
「「可愛いラフィネはなーんにもわかってないわ」」
双子の声が軽く跳ね、嘲るような優しさが混じる。
「うー…」ラフィネは少し悲しそうに呟き、唇をとがらせた。
「『モ』を入れたら可愛くなくなるじゃない?」「『モ』が入ってたらバランスが崩れるわ」双子はさらりと言い放ち、互いに目を合わせて笑う。
「そうなの? …うー…世界って難しいことばかりね。ラフィネ、分かんない」ラフィネは首をかしげ、頬を膨らませる。その赤ん坊のような仕草さえ、残酷なほど愛らしい。
「ママたちがラフィネに教えてあげる。この世界がどれほど残酷で、どれほど美しいか、どれほど哀しくて、どれほど愛おしいか」双子の声が低く響き、月光の下で影が長く伸びていく。
「…? よく分かんないけど、ママに名前をつけてもらえて、ラフィネ嬉しい! これから、よろしくね? ママたち!」ラフィネの笑顔が弾け、ネモフィラの花々がそっと揺れた。
不意に、ラフィネのお腹が小さく鳴った。彼女は小さな手をそっとお腹に当て、恥ずかしそうに目を伏せる。ネモフィラの花びらが風に舞い、彼女の周りを薄い青のヴェールのように包む。やがて、はにかんだ笑みを浮かべて顔を上げた。
「…ラフィネ、おなかがすいたみたい」
「ね、アリス。ラフィネがおなかすいたって」
「ね、リリス。ラフィネはおなかすいたみたいね」双子の声が軽やかに重なり、月光の下で微かに揺れる。
「ラフィネは何を食べるのかしら?」「ラフィネは土から魔力を吸い上げるんじゃない?」二人の瞳が好奇心に輝き、合わせ鏡のように互いを映す。
「あのね…ラフィネね。土の魔力だけじゃ足りないよう」ラフィネの声は小さく、どこか甘えるような響きを帯びていた。
「ね、アリス。ラフィネは土の魔力じゃ足りないみたいよ」「ね、リリス。ラフィネは他に何か欲しがってるみたい」双子の言葉が跳ね合い、微かな緊張が空気に混じる。
「ラフィネは何を求めているのかしら?」
「ママたちの血をちょおだい。あまあい、あまあい。ママたちの血をちょおだい」ラフィネの瞳がきらりと光り、無垢な笑顔に不思議な影が差す。
「アリス。ラフィネが血を欲しがってるわ」「リリス。ラフィネは血を飲むのかしら」双子の声が一瞬低くなり、互いに探るように見つめ合う。
「あら、ママたち知らないの? 赤ちゃんは母乳を飲むでしょう? 母乳って血からできてるの。ふふ」ラフィネは小さな手を口元に当て、くすりと笑った。その仕草は愛らしく、だがどこか冷たく響く。
「「ラフィネは私たちの血を欲しがってるのね…」」
「アリス…」
「リリス…」
アリスとリリスは互いの手を絡め合い、月光の下で静かに見つめ合う。白と黒のドレスが風に揺れ、まるで二人の影が溶け合うようだ。そして、双子はそっと口づけを交わす。次の瞬間、二人は互いの舌を噛み合った。鮮血が滲み、甘い香りが夜気に広がる。二人の血が混じり合い、重なった舌先で赤い雫が膨んでいく。双子はそれをラフィネへ向けて垂らした。
ラフィネは親鳥から餌を待つ雛鳥のように口を尖らせ、天を仰ぐ。滴る血を舌で受け止め飲み干した。彼女の瞳が細まり、うっとりとした表情が月光に浮かぶ。
「…あまあい! ママたちの血、とっても、おいしいのね」
「アリス。あなたの血ってとっても甘いらしいわ」「リリス。あなたの血ってとっても甘いみたいね」二人は顔を見合わせ、まん丸い瞳で互いを覗き込む。頬がほのかに上気し、淡い紅が雪のような肌に滲んだ。
「そんなにあまあい血なら、アリス、わたしにもちょうだい?」
「そんなにおいしい血なら、リリス、わたしにも頂戴?」双子は再び唇を重ね、舌から滴る血を絡め合う。互いの血を味わい、口の端から赤い糸が引く。歓喜の表情が二人の顔に広がり、まるで白昼夢でも見ているように揺らめいた。
「アリスの血、あまあいのね」「リリスの血、あまあいのね」二人の頬は桜の花びらが散った後のように染まり、月光に映える。
「ずるい! ママの血はラフィネの血なのに…」ラフィネが頬を膨らませ、子供っぽく駄々をこねる。
「あら、わたしのすべてはアリスのものよ? それをラフィネに分けてあげてるだけ」「あら、わたしのすべてはリリスのものよ? それをラフィネにおすそ分けしてるだけ」双子の声が軽く跳ね、どこか挑発的な響きを帯びる。
「そうなの?」ラフィネの瞳が一瞬曇り、小さく首をかしげた。
「ええ、わたしは頭からつま先までアリスのものなんだから」
「ええ、わたしの最愛は永遠にリリスだけなんだから」二人の言葉が重なり、まるで呪文のように響き合う。
「ラフィネはママたちの一番がいい!」ラフィネは頬を膨らませ、拗ねたように叫ぶ。
「ふふ。ラフィネの一番はラフィネが見つけるのよ。わたしがアリスを選んだように」
「ふふ。そうね。ラフィネの最愛はラフィネが見つけなさい。わたしがリリスを見つけたみたいに」双子は優しげに微笑む。
「うー…ラフィネ、ママたちの一番が良かったな…でも、いいわ。いつか、ラフィネはママたちを手に入れるもの」ラフィネは悪戯を思いついた子供のように微笑んだ。月光が彼女の小さな八重歯を照らし、無垢さと残酷さを交差させていた。
「「?」」双子は顔を見合わせ、不思議そうに眉を寄せる。だが、すぐに夜空を見上げ、「「あら、もうこんな時間」」と声を揃えた。魔族は月を時計とし、その満ち欠けで時を刻むから。
「ラフィネ、ママたちはもう帰らなきゃいけないわ」「ごきげんよう、ラフィネ。また明日ね」双子はラフィネに手を振ると、踵を返し、並んで黒薔薇草原の闇へと消えていく。白と黒のドレスが風に揺れ、まるで幽霊の舞踏のように遠ざかった。
「あ、ママ…」一人残されたラフィネは、ぽつりと呟く。満開のネモフィラが黒薔薇草原を彩り、華やかな青の絨毯が広がる。だが、その中心に佇む小さな妖精は、果てしない宇宙に漂う孤独な星のように小さく儚い。彼女は月を見上げ、拗ねたように唇を尖らせた。「…いいもん。ママたちの血はもらったもん」
だが、次の瞬間、ラフィネの口の端がゆっくりと吊り上がった。「…すぐにラフィネと一緒になれるよ。可愛くて美しいママ?」その微笑みは、双子と過ごした時とはまるで別物だった。月光が彼女の顔を照らし、邪悪で美しい輪郭が浮かび上がる。ネモフィラの花々がざわめき、まるで彼女の企みに応えるように揺れた。
「それはバンシーの一種でしょうね。近寄らない方が身のためです」
魔王城の大広間で、アリスとリリスは晩餐を囲んでいた。広間は果てが見えないほど広く、黒大理石の床に月光が冷たく反射している。天井は大聖堂のように高くそびえ、尖塔から垂れるシャンデリアが無数の燭台を揺らし、影を踊らせていた。双子の傍には執事のアルフレドが控え、静かに忠言を投げかける。
「「あら、つまらないことを言うのね。まるで唐変木の朴念仁ね。アルフレド」」双子の声が軽やかに響き合い、大広間の静寂を切り裂く。
晩餐のテーブルには豪華な料理が並んでいた。子羊のローストにトリュフの香りが漂うソース・ペリグー、フォアグラのテリーヌが薔薇の花びらのように薄く削がれ、黄金色のシャブリと共に供されている。だが、アリスとリリスはそんな饗宴を前にしても、雀の涙ほどしか口に運ばない。白と黒のドレスが燭光に揺れ、まるで食事を嘲笑うかのように優雅に佇んでいた。
「何処に生息しているのでしょうか? 雑草は私が殺処分しておきましょう」アルフレドが冷静に言い放つ。黒い燕尾服の裾がわずかに揺れ、彼の言葉に冷たい刃のような鋭さが宿る。
「「ダメよ、アルフレド」」アリスとリリスは声を揃え、まるで歌うように否定した。
「何故で御座いましょうか?」アルフレドの眉がわずかに上がり、探るような視線を双子に送る。
「「ラフィネは可愛いもの」」二人の瞳が悪戯っぽく光り、唇の端に八重歯が覗く。
「お言葉を返すようで恐縮でございますが、忠言を差し上げますと、バンシーは死を予告する妖精で御座ります。アリス様とリリス様の身に危険が及ぶかもしれません」アルフレドの声は低く、警告の響きを帯びていた。
「「あなたが助けてくれればいいわ」」双子の声が軽く跳ねる。
「身に余るご期待は誠に嬉しゅうございますが、私はお嬢様方の執事として、危険の芽は事前に摘んでおくのが職務でございます」アルフレドは姿勢を正し、冷徹な忠誠を滲ませる。
「「アルフレド。あなたには情緒と遊び心が欠けているわね」」
「私は理性的で意味のある行動を取ります。無意味なリスクは取りたくないのですよ。まだ、お嬢様方を失いたくないものですから」アルフレドの声に微かな感情が混じり、普段の無機質な口調に僅かなひびが入る。
すると、双子はアルフレドを嘲笑するように微笑んだ。
「あら、意味とか無意味とか言うけれど、この世界に意味なんてないわ。すべて無意味よ」
「意味なんて、徹頭徹尾、どこの馬の骨とも分からない輩が勝手に付けたもの。そんなの金輪際、リリスとは関係ないもの」
「この世のことに普遍的な意味をつけるなんて、そんなのナンセンスよ。意味なんて、アリスの運命に何の関わりもない他人が決めたものに従うなんて、つまらないわ」
「リリスが何を美しいと思うか、それを知っているのはリリスだけだもの。美しいものは無意味で、可愛いものは無意味なのよ、アルフレド」
「だから、ラフィネは美しいの。アリスがラフィネを美しいと思うから、ラフィネは間違いなく美しいの。分かる?」
「美しいと思ったものに、リリスがいつまで身を焦がしていられるか、その熱をいつまで保っていられるか。私たちはただそれだけなのよ?」
二人の長広舌はまるで一人の言葉のように途切れず流れ、大広間の冷たい空気を熱で満たした。シャンデリアの光が揺れ、双子の白い肌とアッシュグレーの髪に淡い影を落とす。
「…大演説ありがとうこざいます。言いたいことは分からないでもないですけれどね」アルフレドはぱちぱちと気のない拍手をして、呆れた様子で息をつく。だが、その目には微かな苛立ちがちらつく。
「「あなただって、私たちのお父様への怒りや憎しみという、無意味な情熱に突き動かされているでしょう? アルフレド」」双子の言葉が鋭く刺さり、アルフレドの表情が一瞬固まる。図星を突かれたような苦い影が顔をよぎるが、すぐにいつもの無表情に戻った。
「いいでしょう。お嬢様方がそれほどバンシーにご執着であれば、私はただ見守るだけでございます」アルフレドは深々と頭を下げ、礼儀正しく退く。その仕草にはどこか諦めと忠誠が混じっていた。
双子はそれを見届けると、「分かればいいわ」とばかりに微笑んだ。白と黒のドレスが揺れ、まるで勝利を祝う舞踏のように優雅に映える。燭台の炎が最後に揺らぎ、二人の影を長く伸ばした。
その日も、その次の日も、双子はラフィネの元へ足を運んだ。黒薔薇草原の中心、ネモフィラが群生する青い海の中で、ラフィネは一輪の花にちょこんと座っている。月光が彼女の小さな姿を照らし、ぼんやりと夜空を眺めるその瞳は、双子の訪れを待ち焦がれていた。花びらが風にそよぎ、まるで彼女の寂しさを慰めるように揺れる。
「ラフィネ、ママよ」
「ママ! 会いたかった! 寂しかったよう…」ラフィネの声が弾け、双子に飛びつくように花から身を乗り出す。
「ふふ。ママもラフィネに会いたかったわ」アリスとリリスは微笑み、白と黒のドレスが月下で優雅に揺れた。
「…ママ。今日もラフィネに血を頂戴? あまあくて、濃厚な魔力を秘めた、ママたちの血を頂戴?」ラフィネの瞳がきらりと光り、無垢な笑顔に不穏な影が宿る。
「ふふ。ラフィネはアリスのあまあい血が好きなのね」「ふふ。ラフィネはリリスのとろける血が好きなのね」双子は顔を見合わせ、そっと唇を重ねる。舌が絡み、血が滲み、赤い雫がラフィネへと滴り落ちる。
双子は今日もまた、彼女に血を分け与えた。
やがて、双子は眠りに囚われるようになった。魔王城の双子の部屋。天蓋付きのベッドが月光に照らされ、黒いレースのカーテンが風に揺れている。二人は向かい合い、手を握り合ってうとうとと微睡む。粉雪のような白い肌が薄闇に浮かび、アッシュグレーの髪が枕に広がる。
「眠くて眠くて仕方がないの」
「まるで森深くに群生するいばらの棘に刺されたみたい」
「私たちは眠り姫みたい?」
「眠れる森の美女ね。でも、美女って言葉は嫌い。少女はみんなすべからく美しいのだから…」双子の声が重なり、夢うつつの間でかすかに響く。
ベッドサイドでアルフレドが静かに見守る。燭台の炎が彼の影を長く伸ばし、執事の無表情な顔に微かな緊張が走る。
「アリス様、リリス様。バンシーは何処にいらっしゃいますか?」
「バンシーじゃないわ。ラフィネよ。ラフィネは私たちの可愛い可愛い子供なの」「子供の産めない私たちにできた、愛おしい子供なのよ。だから、アルフレドには教えてあげないわ。自分で探してごらんなさい?」双子の声が軽く跳ね、挑発的な笑みが唇に浮かぶ。
「軽口を叩いている場合ではございません。このままではアリスお嬢様とリリスお嬢様はバンシーに取り込まれてしまいます。一刻を争うのです」アルフレドの声が低く、抑えた怒りが滲む。
「でも、お父様なら、私たちを助け出してくれるわ」双子の瞳が悪戯っぽく光り、アルフレドの表情が一変する。憎悪が顔を染め、冷徹な仮面が剥がれ落ちた。
「……あなたがお父様を討ち取りたいなら、ラフィネを探し出してご覧なさい?」そう言い残し、アリスとリリスは目を閉じる。小さな寝息が響き、二人の姿は寄り添うつぼみのよう。月光がその可憐な寝顔を照らし、まるでその場に永遠に封じられた絵画のようだった。
アルフレドはベッドを見下ろし、苦渋に満ちた顔で立ち尽くした。大窓から差し込む月光が部屋を蒼く染め、双子の影を床に刻んだ。
双子の意識は夢とも幻ともつかぬ世界に漂っていた。そこは歪んだ鏡のように揺らめく空間。空は血のように赤く、地面はネモフィラの花びらが無限に積み重なった絨毯。遠くには黒薔薇草原が霞み、風が花びらを巻き上げては渦を成す。
突然、ラフィネが現れる。いつもの小さな花の中の姿ではなく、人間の幼子ほどの大きさに成長していた。ネモフィラの花びらが幾重にも重なったドレスが彼女を包み、長い睫毛が月光を映して輝く。ラフィネは双子に微笑みかける。
「ここはラフィネとママたちの心象世界よ。ラフィネ、ママたちからたくさん血をもらって、やっとママたちと繋がることができたの」
「そう。ラフィネは私たちと繋がったのね。じゃあ、後はラフィネに吸い尽くされるだけ、という訳ね」アリスが静かに笑った。
「ええ、だって。ラフィネはお花だもの。ラフィネの根はもうママたちを絡め捕ったのよ。身体の隅から隅まで、絡みついてママの全てを掴まえたんだから。もう離さないよ? もうどこにも行かないでね、ママ? ラフィネをひとりぼっちにしないでね?」ラフィネの声が甘く響き、双子の手をそっと握る。
「わたしとアリスはどこへも行かないわ」
「そうね。わたしとリリスはどこへも行かないわ。でも、私たちを彼岸へ送り込もうとしているのは、ラフィネでしょう?」リリスが微笑み、冷たい光が瞳に宿る。
「…植物はね。土に根を這わせて栄養を吸い取るの。ラフィネもただそうしてるだけなのよ。ママたちに根を張り巡らせて、いろんなものをもらってるだけ。だって、母は子に全てを捧げるものでしょう?」ラフィネの瞳が細まり、無垢な声に不穏な響きが混じる。
「子から全てを奪い尽くそうとする母だっているわ」「子に寄生して共依存しながら、互いに痩せ細っていく親子だっているわ」双子は顔を見合わせ、くすくすと笑う。
「それは人間や魔族の話でしょう? ラフィネは植物だもん。前の世代が死んで栄養になったら、その栄養をもらうだけよ」ラフィネが首をかしげ、その仕草さえ残酷なほど愛らしい。
「可愛いラフィネ。あなたの好きにするといいわ」
「ラフィネはその土地に縛り付けられて動けないもの。ほとんどをネモフィラの花の中で暮らすの。だから、ママと繋がって魔力と知識をもらってるのよ」
「でも、ママたちって訳分かんないね。だって、二人とも繋がってるもの。分かちがたく繋がってる。二人で一つ。光と闇、表と裏。ママたちは魂まで双子なのね」ラフィネが目を丸くし、双子の手を強く握る。
「ふふ」
「ね、ラフィネ。ママたちのこと大好きよ」
「アリスもラフィネのこと、リリスの次に好きよ」
「リリスもラフィネのこと、アリスの次に好きよ」
「ラフィネ、ママたちの一番がよかったな…」ラフィネが寂しそうに呟き、瞳が曇る。
「ふふ。わたしとアリスはこれから死んでいくのよ」
「ふふ。わたしとリリスはこれから死んでいくの」
「だから、ラフィネの一番はラフィネで見つけなさい?」
「そうね。ラフィネが私たちを殺すのだから、ラフィネの一番はラフィネで見つけなさい?」双子の声が重なり、静かに響き合う。
「かなしくて、さみしいね。生きていくのって、とっても辛いのね」ラフィネの声が震え、瞳に光るものが浮かぶ。
「そうよ。ラフィネ。生きることって、悲しくて、寂しいの」「そうね。ラフィネ。生きることって、悲しくて、寂しいの」双子の言葉が優しく、だが冷たくラフィネを包む。
「ママたちが死んじゃっても、ラフィネ忘れないよ。ママたち大好き」ラフィネの瞳から涙が溢れ、防波堤を越えた雨水のように頬を伝う。月光がその雫を照らし、まるで小さな星が散るようだった。
「ようやく見つけましたよ」アルフレドの声が、黒薔薇草原に静かに響いた。ネモフィラの群生が月光に青く輝く中、彼はラフィネの前に立っている。風が花びらを巻き上げ、まるで蒼い雪が舞うよう。ラフィネは小さな花の中からアルフレドを見上げ、その瞳に好奇と警戒が混じる。
「…だあれ? あなたは」ラフィネの声は無垢で、だがどこか不穏な響きを帯びていた。
「アリスお嬢様とリリスお嬢様を返してもらいに来ました。おとなしく二人をあなたから解放してくれませんか?」アルフレドの口調は落ち着いていた。まるでネモフィラが綺麗だから、少し立ち寄ったとでも言うような口調だ。
「ふふっ、知らないお兄さん。それはダメよ」ラフィネがくすりと笑い、ネモフィラの花びらが彼女の周りでそっと揺れた。
「何故でしょうか?」
「ラフィネ、ママたちから魔力を吸い尽くすの。それでラフィネは大人になるの。ラフィネ、ママになるのよ。お花はずっとそうやってきたわ。前の世代が枯れて、土に還って、栄養になる。次の世代がその栄養を吸って、大きくなるの。ラフィネはただそうしてるだけ。なにが悪いの?」彼女の声は甘く、だが冷たく草原を包む。
「別に何も悪くありませんよ。あなたはただバンシーとして生まれ、生きているだけなのだから。ですが、これは私の好みと偏見と利害です。私はあなたよりもアリス様とリリス様を優先する。ただそれだけですよ」アルフレドの瞳が鋭く光り、月光が彼の輪郭を冷たく縁取る。
「そう。ラフィネだってママたちが大好きなのに…哀しいね。ママたちの言う通り、生きることって哀しくて、寂しいのね。でもね、ラフィネ、良いことを思いついたの」ラフィネの唇が吊り上がり、邪悪な微笑みが浮かぶ。
「なんでしょう?」
「ママたちの魔力を吸い尽くす前にお兄さんを殺すの。ラフィネがあなたの魔力を全部吸い取るわ。そうすれば、ママたちの命はあなたの魔力分、永らえるでしょう? ママたちがラフィネの子供を見られるまで生きられるかもしれない。ね、大好きなママたちのために死んでくれる? ママたちの命をもう少し長らえさせてくれる?」ラフィネの瞳が輝き、無垢さと残酷さが交錯する。
「寝惚けたことをおっしゃいますね。私は死ぬつもりなどありません。もちろん、アリス様もリリス様も殺させません。単純なことですよ。あなたが処理されればいいだけですから」アルフレドの声に嘲りが混じり、足元に影が長く伸びる。
「嫌よ。ラフィネ、あなたに殺されたくなんてないわ。あなたが死んじゃえばいいの。だって、ラフィネ、あなたのことなんてどうでもいいもの。いいわ、相容れないなら、殺しちゃえ…!」
ラフィネが叫ぶと、地面が震え、土の中からネモフィラの太い根が蔓のように飛び出した。月光を切り裂き、鋭い鞭のようにアルフレドへ襲いかかる。だが、彼は軽やかな足運びでそれを避け、まるで風に舞う影のようだった。
「…地金が現れたようですね。アリスお嬢様もリリスお嬢様も、あなたのその自分勝手な本性を見れば、考えを改めたでしょうか?」アルフレドの声が冷たく響き、蔓の間を縫う。
「自分勝手でどうしていけないの? この世界はみんな殺し合って捕食し合ってるじゃない? 殺して、奪って、生き延びる。そんな風にラフィネを作ったのは神様でしょう? ラフィネは天の神様の言う通りにしてるだけよ。ラフィネは自分が可愛いから、あなたを殺すの」ラフィネの声が跳ね、何本もの蔓が再びアルフレドを襲う。だが、彼はわずかに身体を傾けるだけでそれを躱し、冷笑を浮かべた。
「笑わせないでください。あなたの世界観に則るなら、あなたは私に捕食される側でしょう?」
ラフィネは蔓を繰り出し続けるが、アルフレドはまるで舞踏のように軽やかに避ける。ネモフィラの花が彼女の怒りに震え、青い絨毯がざわめいた。ラフィネは花の中からその様子を黙って見つめる。なぜかその表情には余裕が漂う。
「そろそろね」ラフィネが呟くと、蔓が一瞬動きを止め、次の瞬間、アルフレドの左腕を絡め取った。彼がそちらに目をやると、右腕、右脚、左脚と次々に捕らえられ、四肢を封じられる。
「…やられましたね」アルフレドがラフィネを見据え、静かに呟く。
「そうね。気がつかないあなたが悪いの」ラフィネの声が甘く響き、花びらが彼女の周りで舞う。
「何かに身体の動きを止められました…どうやら、目に見えない何かをばら撒いていたようですね」
「ラフィネにこの蔓しか使えないと思ったの? ラフィネはお花なのよ。花粉に魔力を込めてばら撒けば、こんなことだってできるんだから」ラフィネが微笑み、蔓がアルフレドをそばへと引き寄せる。
「ね、悔しい? お兄さん、今からラフィネに捕食されるのよ。ラフィネの栄養になるの。ラフィネを処分するって言ったけど、あなたが処分されちゃうね。…ううん、ラフィネはあなたを処分なんてしないわ。栄養にするんだもの。ね、悔しいよね? ふふふ」ラフィネの瞳が輝き、残酷な喜びが溢れる。
「…あなたは私に勝てませんよ」アルフレドの声が低く、かすかな笑みが混じる。
「ふふ。お兄さんはもう負けたのよ。ラフィネに全て吸い尽くされて、ミイラになっちゃうの。でも、良かったね。ママたちの役に立てるんだもの。光栄に思ってね?」
ラフィネの言葉と同時に、地面から新たな蔓が飛び出し、アルフレドの身体を覆い尽くす。蔓は脈打つように蠕動し、まるで生き物のように膨らんだ。魔力が吸い取られ、ネモフィラの根へと流れていく。
「わあ! お兄さんの魔力すごいね。ママたちの血は甘くておいしいけど、お兄さんの魔力はとっても力強い味よ」ラフィネが手を叩き、嬉しそうに笑う。
「これなら、ママたちにラフィネがママになった姿を見せられるかもしれない。ラフィネ、たくさん子供を産んで枯れる日がきたら、ママたちと子供たちの栄養になれるかも…そうだったら、ラフィネの最期は独りじゃなくて、ママたちと一緒なのかも…嬉しい」ラフィネは両手で頬を挟み、はにかんだ笑みを浮かべる。
だが、突然蔓から流れる魔力の流れが緩やかになり、やがて止まってしまった。アルフレドを包む蔓の固まりが静まり、動かなくなる。
「どうしたの? ネモフィラ。早く吸い取って。ママとラフィネの子供たちのために、お兄さんがミイラになるまで吸い尽くして?」
蔓が再び動き出すが、その様子がおかしい。先ほどはアルフレドから流れていた魔力が、今度はネモフィラの根から逆流し、彼の方へと流れ始めた。
「あ、あれ? どうしたの」ラフィネの声に動揺の色が混じる。
「早く、アイツから魔力を吸い取ってミイラにしちゃってよ!」ラフィネが叫ぶが、魔力の逆流は止まらない。勢いを増し、ラフィネの魔力が急速に失われていく。
「わわっ! 早くお兄さんを解放して! 早く離さないと私の魔力が吸い取られちゃうよう!」ラフィネの叫びに蔓が解け、蔓の中のアルフレドが姿を現す。
「おや? 私を吸い尽くすのではなかったのでしょうか?」アルフレドの口から鋭い牙が覗き、月光がその輪郭を冷たく照らす。
「…お兄さん、ヴァンパイアだったのね? 私の魔力も、ママにもらった血も吸い取ったのね?」ラフィネの声が震え、瞳に怒りが宿る。
「ええ。悪戯が過ぎる魔族から魔力と血を頂くのが、ヴァンパイアの役目ですからね」アルフレドがニヤリと笑う。その笑顔は悪魔そのものだった。
「許せない。私とママを繋げる血を吸い取ろうとするなんて、絶対に許さない!」ラフィネの身体が怒りでわなわなと震え、ネモフィラの花がざわめく。
「許せないならどうするんですか? もう一度、私と魔力の奪い合いで勝負しますか? ま、勝負は最初から見えていますがね」
「うるさい! ラフィネとママを引き離そうとするやつなんて、嫌い! 大嫌い! お前なんて死んじゃえ!」ラフィネが叫び、大量の蔓をアルフレドへ放つ。だが、彼は両手の爪でそれを切り裂き、まるで紙を裂くように軽々と凌駕する。
「あなたは最初から負けていたんですよ。私がヴァンパイアと気づいた時点でお嬢様を解放するべきでしたね」
「やだやだ! 絶対にやだもん! ママたちはラフィネのだもん! ママだけがラフィネと一緒にいてくれたんだもん! ラフィネ、独りぼっちで寂しかったんだよう。なんで、お兄さん、意地悪するの? なんで、ラフィネとママの間に割って入ろうとするの!」ラフィネの声が涙に震え、無数の蔓が草原を埋め尽くす。だが、アルフレドはそれを次々と切り裂き、彼女に迫る。ネモフィラ畑は蔓の残骸で荒れ果て、月光がその惨状を冷たく照らした。
「なんで…なんで…」ラフィネは涙を溜めた瞳でアルフレドを見上げる。彼はもう手の届く距離に立っていた。
「なんで…? ラフィネとママの邪魔をするの? あんたなんて捕食して、ラフィネとママの栄養になるはずだったのに…」
「勘違いするな、下級魔族。お前は最初から捕食される側なんだよ」アルフレドが冷たく言い放つと、ネモフィラの花ごとラフィネを長い爪の手で握り潰し、その小さな身体を口へ放り込んだ。月光の下、草原に静寂が戻り、ネモフィラの青が再び穏やかに揺れた。
アルフレドが魔王城へ戻り、双子の寝室へ足を踏み入れると、アリスとリリスは揃って椅子に腰掛け、紅茶を飲んでいた。部屋にはマリアージュフレールのマルコポーロの芳香が漂い、甘く濃厚な香りが月光と混じり合う。天蓋付きのベッドには黒いレースが揺れ、大窓から差し込む蒼い光が二人の白い肌を照らしていた。
「アリス様、リリス様…おはようございます」
アリスとリリスはアルフレドを一瞥すると、一瞬哀しげな表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。アルフレドが双子にお辞儀をする。
アリスとリリスはアルフレドを一瞥する。一瞬、その瞳の奥に揺れる哀しみが見えたが、すぐに静かに微笑んだ。その微笑みは魔族として生まれた影が滲んでいるように見えた。
「「おはよう、アルフレド」」




