81話 祈りの果て
夜。
風も息を潜めた廃れた教会に、足音がひとつ、静かに響いた。
古びた扉を押し開け、黒い燕尾服の男――クラウスが、蝋燭の灯る祭壇の方へと進む。
教会の奥のステンドグラスに祈りを捧げる1人の姿が。
「お久しぶりでございます。セラフィナ様……ご報告に上がりました。」
低く、老いた声が礼拝堂に落ちる。
祭壇の前で祈っていた黒衣のシスターが、ゆっくりと顔を上げた。
「神の膝元たる、神聖な場所にわざわざ何のようですか。
プライベートは守るお約束のはずですが。」
ヴェールの隙間から覗く唇が、静かに震える。
「リュカオン様がお亡くなりになりました。」
「まさか……No.5が……?」
「ええ。確認いたしました。
リュカオン様の肉体は完全に消滅いたしました。」
執事は深々と頭を下げる。
祭壇の十字架の下、乾いた血痕がいくつも広がっていた。
シスターは立ち上がり、震える手を空へと持ち上げる。
小さく唇が動く。
「……あぁ、主よ。
また1つの魂が、あなたの御許へと還りました。
忠実な獣と、狡猾な商人。どちらも、この世には不要と……そう仰るのですか。」
その声は祈りのようであり、しかし悲嘆よりも恍惚に近かった。
「――ですが、彼らは確かに働きました。
“門”は動き、“鍵”はまた一つ欠けた。」
彼女はヴェール越しに夜空を見上げた。
砕けたステンドグラスの隙間から、月の光が差し込み、青白く頬を照らす。
「残る鍵は、あと五つ……。
神は、まだわたくしたちに“試練”を与えるおつもりなのですわね。」
執事は沈黙したまま、一歩だけ後ろに下がる。
シスターはゆっくりと祭壇に片膝をつき、数珠を握りしめた。
「銀狼は神ともうしておりました。」
「………!!」
その瞬間、蝋燭の炎がわずかに揺れた。
まるで神がその言葉に応えるかのように。
「神を名乗る愚か者をこの手で抹殺いたしましょう。
神は、私の信仰する1人のみなのです。」
祈りの声が教会に反響し、風が静かに吹き抜ける。
ステンドグラスの破片が月光を反射し、床に散ったそれが、まるで涙のように光った。
執事はその背中を一礼し、静かに扉の外へ消えていく、その笑みに気付くこと無く。
残されたシスターは、独りごとのように微笑んだ。
「……銀狼、貴方は侵してはならない罪を重ねました。
ですが神は貴方の命をもって許しをお与えくださるでしょう。」
最後の蝋燭が音もなく消える。
闇に包まれた礼拝堂の中、十字架の影が歪んで見えた。
やがて、微かな笑い声が夜風に溶けて消えた。
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「へっ!くしゅん!!」
「あら、どうしましたかミツキさん。
風邪ですか?」
「いや、分からない何か寒気がしたような気がして。」
『あは♡誰かに噂されてんじゃなぁい。』
「誰にだよ。」
「フェンリル様は何と?」
「あぁ、噂されてんじゃないかって。」
「それもあるかもしれませんね。SIDがわたくし達の事を探してるのかもしれません。」
「そうなのか?まぁ、いいや風邪だといけないし俺は寝るか。」
『私はどっか遊びにいく!!』
「大人しくしとけ!!ネリーフェンリルが俺の体使って勝手にどっかいくかもしれないから捕まえといて。」
「わかりました。」
『えぇ!!あんまりだよぅ。』
俺はネリーに監視してもらい、ゆっくりと寝ることにした。
窓の外では、秋の風が静かに木々を揺らしていた。
その夜、まだ誰も知らない――新たな“聖女の影”が動き出していた。
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