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79話 噴火


ひとまず2章はこれで終わりました。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


3章は構成がまとまり次第投稿します。

この後は後日談を乗せて投稿がしばらく止まりますご了承下さい

桜島がうなりを上げ、山肌が真紅に裂けた。

地鳴りが天を揺らし、マグマの光が夜空を照らす。

その中心に、俺は跳び込んでいた。


吹き荒れる熱風の中、体を包む冷気が逆巻く。

全身の魔力を両手の中に集中させ、フェンリルの声が重なる。


「『――沈め・すべての存在よ。

星々の息吹すら凍てつかせる・静寂なる氷園。

命の脈動を止め・時を凍らせ・魂の光を奪え。

我は極点・万象を封ずる終焉の零。

――《アブソリュート・ゼロ》!』」


両の掌の間に生まれたのは、白銀の光――いや、熱を喰らう“虚の光”だった。

それが放たれた瞬間、世界の色が変わる。


轟音が消え、風が止まった。

次いで、灼熱のマグマへ白い霧が降り注ぐ。

霧は触れた瞬間、音もなくすべてを凍りつかせた。


まずは火口の縁。

真紅の岩肌が一瞬で白へと変わり、表面に氷紋が走る。

そこから蛇のように凍結の線が走り、岩壁を伝いながら、ゆっくりと――確実に山全体を侵食していく。


噴き上がるマグマが空で凍り、

その一粒一粒が氷塊となって雨のように降り注いだ。

黒煙が白い氷煙に変わり、

空を焦がしていた赤光が、青白い輝きへと変わっていく。


「間に合ったか……!」


冷気が山腹を覆い、氷の柱が噴出口を塞いでいく。

だが次の瞬間、地の底からゴウッ――と反発するような唸りが響いた。


地面が悲鳴を上げ、第二の噴火が始まる。

氷の壁が爆ぜ、光の柱が弾けた。

火口の中心から真紅の閃光が空を裂き、押し寄せる熱風に全身の皮膚が焼けつくような痛みを訴える。


「くっ……まだ……まだだっ!」


俺は両腕を突き出し、残る魔力を限界まで解き放った。

氷の奔流が再び噴火口へと叩きつけられ、瞬く間に熱流を覆い尽くす。


だが、完全には押さえ込めない。

氷の表面に亀裂が走り、パキ……パキパキ……と不穏な音が広がる。

冷気の膜が軋み、マグマの圧力が下から押し上げてきた。

氷の結晶が飛び散り、白い光が火花のように弾ける。


「『ネリー、早めに頼む! 結構厳しいッ!!』」


声は風に飲まれながらも、確かに届いた。

彼方――空を飛ぶ黒翼の少女が、それに反応する。



---


桜島の空が、黒く歪んだ。

地の底から吹き上がる灼熱を、ミツキの氷が必死に押さえ込んでいる。

だが――限界は近い。山全体が悲鳴を上げていた。


その声を聞き、ネリーは息を飲む。

わたくしがやるべきことは一つ。噴火そのものを「無かったことに」する。

つまり――出たもの全部、世界ごと“吸い込む”。


(消滅魔法……この規模で使うなんて、正気の沙汰じゃありませんわね)


それでも、ミツキさんが時間を稼いでくれている。

今しかない。この三十秒で、完成させるしかない。


両手を広げる。指先に黒い魔方陣が浮かび上がった。

空気が震え、音が遠ざかっていく。


(ほんの一瞬のズレで、全部吹き飛ぶ。わたくしも、ミツキさんも、世界も――)


心臓の鼓動が耳の奥で鳴る。

魔力を圧縮、さらに圧縮。空間が悲鳴を上げた。

黒が濃くなり、風が止む。夜空が吸い込まれるように沈んでいく。


(これが“虚無”……真祖にだけ許された闇の極致。暴れないで。まだ――ですわ)


喉が乾く。それでも、唇には笑みが浮かんだ。

(美しい……この瞬間こそ、死と創造の狭間。わたくしの掌の中で、神を葬る)


そして、そっと呟く。


「――黒月よ、抱け。

 集え、無の核。

 渦巻け、虚無の胎動。

 黒き花弁にて、すべてを喰らい尽くせ。

 ――《黒月葬華こくげつそうか》!」


詠唱が終わると同時に、夜空が裏返った。

音が、消えた。

風も、熱も、光も――すべての存在が吸い込まれていく。


マグマの奔流が、まるで糸を引かれるように上へと逆流しはじめた。

赤い光が闇に溶け、火山の噴煙すら黒い渦の中へ飲み込まれていく。


(まだ……終わってません。安定しなさい、お願いだから暴れないで!)


指先が震える。体の内側から血のような熱がこみ上げる。

制御を失えば、島ごと消える。それでも止めない。

黒い球が小さく唸り、さらに膨張していく。


空気が歪み、雲が千切れた。

轟々と噴き上がっていた炎が、糸を引かれるように渦へ吸い込まれていく。

白い氷の山肌が震え、ミツキの冷気と闇の重力が共鳴した。


(……これで、届く。ミツキさん、あとは――任せてくださいまし)


最後の力を込めた瞬間、球の縁がうねり、そして――収束。

闇はひとつに絞り込まれ、音もなく“折り畳まれる”ように消えた。


ただ、夜空に黒い花弁が一枚、静かに舞い落ちる。

桜島の噴火は、まるで最初から存在しなかったかのように沈黙した。


ネリーは膝をつき、肩で息をした。

手のひらから魔方陣が消え、残ったのは焼けるような痛みと――誇らしさ。


(ふふ……どうですか、ミツキさん。これで、完璧ですわよ……)


空から降りてきた銀狼が、ふわりとネリーを抱きとめた。

「『ナイスだ、ネリー。助かった。』」

「……あら、もう少し褒めてくださってもいいのに。」

小さく笑うその声を聞きながら、俺はゆっくりと息を吐いた。

 空はまだ灰色で、凍てついた山肌の向こうから、淡い光が差しこみはじめている。


 氷に覆われた桜島の頂が、朝焼けに照らされてきらりと光った。

 赤ではなく、蒼――夜明けの色に包まれたその光景は、まるで世界が一度死んで、また生まれ直したように見えた。


 風がやさしく吹く。

 黒い翼をたたんだネリーの髪が揺れ、フェンリルの尾が静かにひと振りする。


『やれやれ……やっと終わったか。』

「……ああ。長い夜だったな。」


 凍った地面に降り立ち、空を見上げた。

 雲の切れ間から、金色の朝日がのぞく。

 その光は、まるで「よくやった」と言ってくれているようで。


「……終わったな。桜島も、俺たちの鹿児島の旅も。」


 静かに笑って、目を細める。

 冷たい風が吹き抜け、氷の花びらが空へ舞った。


 夜明けの光が、俺たちの影を長く伸ばしていく。

 それはまるで、この戦いの終わりと――次の物語の始まりを告げるようだった。


第二章《リュカオン編》 完

感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

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