76話 一難去ってまた一難
倒したリュカオンの場所に、大きな空色の宝石が落ちていた。
ゆっくりとそれを拾う。
「ラプラスの棺を開くための鍵か。」
『ラプラスの棺なんて、あるのかなぁ?』
「わからない。だけど、それを得るためにカラミタスがこんなことをしているのなら、本当にあるんだろう。」
『ふーん、まぁ私は興味ないからどうでもいいんだけど。ところで、そこにいるアイツはどうするの、ミツキ?』
俺たちの戦闘の余波で、最初の位置とは違う場所に倒れているSIDの戦闘員を示した。
「やべぇ、すっかり忘れてた。すぐに生きてるか確かめねぇと。」
『生きてるかなぁ? あの傷で生きていたら相当タフだよ。』
慌てて近づき、仰向けにひっくり返して胸に耳を当てる。
全身傷だらけ、服はボロボロで、額と口から血を流している。見ていて痛々しい。
胸に耳を当て、微かにだが鼓動はあることを確かめた。
「おっ、生きてるわ!! すげぇな。普通なら死んでもおかしくない怪我なのに。」
『案外丈夫だね、こいつ。』
だが、どう運ぶかが問題だ。こいつの身長と俺の身長じゃ背負うことはできないし、小脇に担ぐにも引きずるしかない。
早急に手当てしないとまずいのは確かだが、回復魔法も道具もない。
『凍らせて持ち上げれば?』
「それしかないか。」
そんなことを悠長に考えていると、突如地震が起きた。
この空間の奥の方から、どんどん崩れ始めている。
『ねぇ、ミツキ、やばくない?』
「ヤベぇ、早く逃げねぇと! ダンジョンが崩壊し始めてる! 急いで出るぞ! 《フリーズ》!」
すぐさまSID隊員を氷で包み、頭の上に担いで走り出す。
『まずいまずい! 入口が閉じかけてるよ!!』
「見れば分かるわ!! こうして急いで走ってるだろうが!!」
足元にヒビが入り、構造が崩れ始める。
俺は地面が落ちる前に入口へ飛び込んだ。
「届けぇ!!」
入口の亀裂にぎりぎりで滑り込み、星の狭間から脱出する。
「あぶねぇ! 危うく狭間に取り残されるところだった。」
『おお!! ナイス脱出。』
安心したのもつかの間、ダンジョンの崩落が本格化し、俺たちは再び走り出した。
ダンジョンの出口を抜け、桜島の麓に出たと同時に、い・ろ・は・すから着信が入る。
『銀狼様!! やっと繋がりました!』
「おお! いろは、終わったぞ。心配だったのか?」
『心配しましたよもちろん!! ですがそれどころじゃないんです!』
「どうした!」
『今、ダンジョン化が終わったせいで、大噴火が約5分ほどで起きそうなんです。データをSIDからハッキングしながら見ているんですけど。』
「ダンジョン化を終わらせたのにか!?」
『ダンジョン化の影響でエネルギーがマグマ溜まりまで侵食していたようで、そのエネルギーの逃げ場が無くなったせいで、上に行くしかなくなったみたいなんです!』
『後、何分後だ?』
『詳しくは出てませんが、あと5分から10分の間に噴火する可能性が高いらしいです。SIDも救援に航空機を出そうとしていますが、どこまでできるかは不明です。向こうも混乱しているようです。』
くそ、かなりマズい状況だ!
どうする、俺一人でマグマを凍らせられるか。
だが、俺一人で噴火を凍らせて失敗したら、今氷漬けになっているこいつと共に逃げるくらいはできるが、この下に住んでいる人たちを見捨てるわけにはいかない。
『噴火を凍らせるんでしょ? 私たちなら簡単じゃない。』
「確かにできなくはないかもしれないが、噴火のレベルがわからない。噴火口だけの噴火なら何とかなるかもしれないが、溢れ出したマグマまで対応するのは無理だ。」
少なくとも万全を期すなら、俺以外にもう一人必要だ。
誰か、いないか――魔法の達人が……いる!! ネリーがいる!!
だがネリーは向こうの街に置いてきた。向こうの街に向かっている時間はない。もしかしたら片付けてこっちに向かった可能性もあるが、期待はできない。
いや、ひとつ方法がある! 叫ぶんだ!
俺は大きく息を吸い、肺に限界まで空気を溜め込んだ。
『ネネネェェェェェェェェェェェエエエリリリィィィィィィィーーーーーーーーーーーー!!!!!!』
大地を震わせるほどのハウリングを空に向かって放った。
――誰かが、わたくしを呼んでいる声が聞こえる。
いったい、誰が……。
わたくしは、何をして……。
ゆっくりと瞳を開けて……気付いたら、岸に打ち上げられていた。
「ここは……っ、…………いっ!」
起き上がろうとした瞬間、お腹の痛みに思わず声が漏れた。
そうですわ。怪しい執事の男にやられたことを思い出しました。
傷の治りが遅い……おそらく聖銀を持っていたのでしょう。
もしわたくしが普通の吸血鬼ならやられていたでしょうが、わたくしはそう簡単には死にません。気絶はしてしまいましたが。
「こぉぉぉぉこぉぉぉぉにぃぃぃぃぃ、きぃぃぃてぇぇぇぇくぅぅぅぅれぇぇぇぇ!
ネェェェェリィィィィ!!!!!」
ミツキさんが、あっちで呼んでいますわ!!
痛みにお腹を押さえながら、背中から翼を出して飛び上がった。
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