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73話 ミツキ突入

ダンジョン内は、まるで心臓の中に入り込んだようだった。

岩の鼓動が響き、赤熱した空気が皮膚を刺す。

けれど――妙に静かだ。

生き物の気配が、どこにもない。


「……魔素の濃度、異常に偏ってるな。」

『うげ、息苦しい。空気がドロドロしてんじゃん。』

「魔素耐性があるからな。お前のおかげで。」

『ふふん、もっと感謝しなさいっての! ――あ、でもマジで変だなこれ。』


フェンリルが鼻を鳴らす。

『魔物の匂いがねぇ。血と、焼けた鉄と……なんか、踏み潰された石ぐらいしか。』

「潰された……?」


ミツキは一歩進み、崩れかけた通路を見上げた。

壁一面が押し潰されたように凹み、そこから熱が抜けている。

岩肌には斬り裂いた跡――だが、線は粗く、まるで“押し切った”ような削れ方をしていた。


「斬撃……いや、違う。これは力任せに叩き潰した跡だ。」

『魔法の痕跡も微かにある。でも爆発でもないし……誰かが、素でこれやったっての?』

「……誰かが、先に入ってる。SIDの隊員だろ、こんなところに来る奴なんて。」

『へぇ、単騎でここ入るとかバカじゃん。』

「単騎で行くしかなかったんだろ、人間狩りのせいで。だが――単騎で行ける実力者がいたということだ。」

『ふーん、命知らずねぇ。』


さらに奥へ。

空気の熱が突然落ち、代わりに冷気が混じった。

赤かった壁が、今は黒光りしている。

地面には焼け焦げた溶岩の跡、その中央――巨大な影があった。


「……レッドドラゴン……の死体か。」


それは、かつて灼熱を支配していたはずの支配者。

今は胸元から真っ二つに割れ、巨体を横たえていた。

切り口は、刀ではなく――拳か何かで押し潰したような粗さ。

鱗が剥がれ、内部のコアは砕けて光を失っている。


「戦闘から時間は経ってないな……まだ魔素が流れてる。」

『へぇ、トカゲ倒せたんだ……。なかなかじゃない。』

「答えは一つだ。並外れた実力者がここを通ったのは確かだ。」


フェンリルが目を細める。

『……あんたの顔、ちょっと険しいぞ?』

「嫌な予感がする。まだ終わってない。」

『ふふん、そりゃそうだろ。こんだけ派手に壊しておいて、コア反応が残ってんだ。普通じゃねぇ。』


その瞬間、足元の岩がわずかに震えた。

ヒビが、音もなく走る。

赤い岩盤の隙間から、青白い光が漏れ出す。

熱ではない――冷たい光。


「……ここにも出たか。カラミタスが言っていた“星の狭間”か。」

『行くしかないんじゃん?』

「行かない理由はない。これは放っておけない。」

『リュカオンがこの先にいるかもしれないしねぇ。』

「分かってるなら行くぞ、フェンリル。」

『へいへい、フェンリル様のお通りっと♪』


ヒビが拡がり、岩の床が割れた。

空気が反転する。

重力が裏返り、熱気が引きずり込まれる。


ミツキの体が光に呑まれる直前――

『さて、やっとリベンジできるねぇ。』

「……暴れた落とし前をつけさせるぞ、リュカオン。」


――そして、世界が裏返った。

光の先にあったのは、灰色の海と、静かな波音。

前回の場所とはまるで違う。

ここは、静かで――どこか悲しい場所だった。


その中央に、黒い獣がひとり立っていた。

足元には、血の跡。

もう動かない男――連真の姿が、そこにあった。


「ちっ……遅かったか。」

『あちゃー、ちょっとマズくない?』


黒狼が振り返る。

金の瞳が、冷たく笑った。


「やっと来たか。――お前が遅ぇから、退屈してたんだよ、銀狼。」


灰色の波間に、黒狼の声が低く響く。

リュカオンは片腕をだらりと下げ、もう片方の手で指先の血を弾いた。

その血は空中で蒸発し、淡い青の光を残す。


『……やっぱりいたじゃん。』


フェンリルの声が、軽く、しかし殺気を孕んで響いた。


『ま、1度は軽く遊んだけど。それで――あんた、何してくれてんのよ? 人間潰して楽しいの?』


「てめぇ!!」


リュカオンは顎をしゃくり、足元の連真を見下ろした。


「コイツか? ただの寄り道だ。俺の邪魔をしたから、ちょっと黙らせただけだ。」


ぐったりとした体。顔は血だらけで、腕が変な方向に曲がっている。

正直、ここからでは生きてるかもわからない。


「……殺したのか。」


「はん? 知らねぇな。

だが、悪くねぇ拳だったぜ。あと一歩届けば、少しは俺の毛を焦がせたかもな。」


その口調には、敬意でも後悔でもない。

ただ、“暇潰しに玩具を壊した”という感覚しかない。


ミツキはゆっくりと腰を落とし、いつでも距離を詰められるように足に力を込める。

フェンリルが小さく鼻で笑う。

『はん、雑魚呼ばわりとかマジでムカつくなぁ。どうするミツキ、言っちゃう?』


「言うまでもない。」


ミツキの瞳が、わずかに光を宿す。


「――お前の目的は何だ。なぜ、こんな場所で“鍵”を集めている。」


ミツキは一歩前へ出て、静かに拳を構えた。

その向かい、黒狼――リュカオンは金の瞳でじっとこちらを見つめていた。

そして、空色の宝石をつまみ、見せつけてきた。


「……それは鍵か!」


俺が手にしたトパーズとはまた違う綺麗な宝石だ。

やはりこの不思議な狭間には違う鍵が存在するのか。


リュカオンの口元が、ゆるく歪む。

「知ってるのか? ……それなら話が早い。これは“棺”を開けるためのものだ。これを含め七つの鍵が要る。」


「棺?」

ミツキが眉をひそめる。

フェンリルがあくび交じりに言う。

『なにそれ、墓でも開けんの?』


リュカオンは空を見上げ、灰の雲を見透かすように言った。

「――“ラプラスの棺”。この世界のどこかに存在する。

開けた者は、世界を変えるほどの“望み”を手に入れる。」


ミツキは無言で睨み返した。

意味は分からない。ただ、その言葉に底知れぬ危うさを感じた。


「お前、それを……本気で信じてるのか。」

「あぁ。俺はそれを開ける。そのために鍵を集めてる。」

『アホじゃん。ホントに存在するわけないでしょ、そんな都合のいい棺なんて。』


リュカオンは、ゆっくりと歩き出した。


「お前も感じてるはずだ。この世界は歪んでる。

生まれも、命も、強さも不平等だった。俺たちは“獣人というだけで”迫害されてきた!!

俺は――そんなくそみたいな世界を壊したいだけだ。」


ミツキは静かに息を吐く。

「……だから、そんな訳のわからない棺を、人を殺してでも開くのか。」


「あぁ。望みを掴むためにな。」


『そりゃあ、めちゃくちゃな理屈だねぇ。

けど――そういう奴、嫌いじゃないよ。ぶっ飛ばす側としては最高。』

フェンリルがにひひっと笑う。

ミツキは拳を構え直した。


「持ってるだろ、銀狼。お前も鍵を!」

「お前のような奴に鍵は渡さない。」

「そうか。じゃあ、奪うだけだ。」


灰の波が逆巻いた。

砂が跳ね、風が止む。


『行くよ、ミツキ! 気を抜いたらマジで持ってかれるよ!』

「分かってる――! 噴火が起きる前に倒すぞ!!」

『にひひっ、しょーがないなぁ! 暴れようぜ、相棒!』


ミツキの体に光が走る。

白銀の尾が風を裂き、拳が赤熱する。


リュカオンの足元で、砂が黒く焦げた。

「……前回は遊びだったが、今回は殺してやる。」


「上等だ、リュカオン。」


拳と拳がぶつかる瞬間――

灰色の世界が、音を失った。

感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


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