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70話 ダンジョンボス

熱風が、まるで生き物のように肌を舐めてくる。

連真は、焦げつく空気を肺に押し込み、吐き出した。

岩盤の裂け目を抜けた先には、さらに深い空洞が広がっていた。

マグマの流れは濃く、赤黒く光を帯びている。


「……どうやら、そろそろ終点が近いな。」


足元で石が割れ、熱波が噴き出した。

中層を越えてから、魔素濃度は急激に上がっている。

ただの火山熱ではない。空間そのものが燃えているような圧。

ダンジョンそのものが呼吸している。

魔物の発生速度も異常だった。


左方の岩陰から、赤熱した鱗を光らせて蜥蜴が這い出す。

焦熱蜥蜴ヒートリザード。一匹、二匹、いや十匹はいる。

地面に散るマグマを舐めながら、連真を取り囲むように距離を詰めてきた。


「……群れか。面倒だな。」


腰を落とし、ナミヒラを抜く。重さが骨へ沈む。踏み込み一つ。


ズバン――。


音より速く、空気が潰れた。先頭の二匹が真横に両断され、熱の壁ごと消え失せる。

残りの個体が本能で飛びかかるが、連真は顔をしかめることもなく、刃を返して横薙ぎに払った。

灼熱の血が霧散する。


「……まだ余裕の範囲だが、厄介なのが増える前に進まねぇと。」


その残骸の中で、ひときわ赤く光る小さな石が転がった。

連真はそれを指で拾い上げ、軽く息を吹きかけて熱を払う。


「……中級魔石か。悪くねぇ。」


腰のポーチを開け、他の石と一緒に放り込む。

中にはさっきの階層で仕留めた魔物の魔石もいくつか転がっている。


「貴重な収入源だからな。しっかり持って帰らねぇと、オババがうるせぇんだよな。」


ぼやきながらも、口元にはわずかに笑みが浮かんだ。

こういう瞬間だけが、戦場の中でも少しだけ“人間”に戻れる時間だった。


ゴゥン、と金属の鳴動。奥の通路が赤く揺らめき、火を帯びた鎧が現れる。

炎甲兵フレイムアーマー。中に人間はいない。空洞の鎧が、魔素の光で擬似生命として動いている。


「ちっ、もう来やがったか。」


一体、また一体。五体が半円を描くように前進。

連真は唇の端を歪め、ナミヒラを地面に叩きつけるように構えた。


「一閃・豪破!」


刃が走るより早く、重力が沈む。

赤熱した地面が波打ち、炎甲兵ごと押し潰す。

衝撃の余波で、残る鎧も弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

金属が砕け、空気がうなった。だが連真はまだ刀を納めない。

胸の奥に、奇妙な違和感。

この空間――敵が死ぬたびに、脈動が強くなっている。


「……このダンジョン、成長が早すぎる。」


天井から落ちる岩片が、突然動いた。

それは岩ではない。うねりながら溶岩を泳ぐ蛇――岩喰蛇マグマサーペント

頭部には岩石の角、顎にはマグマが滴る。


「……進ませねぇつもりか?」


蛇が咆哮と共に、炎塊を吐き出す。

連真は踏み込み一つでそれを避け、刀を逆手に構える。

マグマの弾丸が壁を穿ち、爆煙が弾けた。


「――一閃・豪破!」


横薙ぎ。刀身が赤く輝き、斬撃が空気ごと潰す。

蛇の胴体がねじ切れ、飛沫のようなマグマが霧になって消える。

だがその切断面から、再び肉が生え始めた。


「……ちっ、厄介なタイプかよ。」


切り口を抑えるように地を蹴り、連真はもう一太刀叩き込む。

切断面が重力に引き潰され、再生が止まる。

断末魔の音が洞窟に響き、やがて静寂が訪れた。


その沈黙の中で――地鳴りが変わる。

ドクン……ドクン……。地の底で何かが脈動している。

魔素の波が呼吸のように広がり、空気が震える。

天井から落ちる火の粉すら、拍動に合わせて揺れていた。


「……雑魚に体力持ってかれる前に行くか。」


連真は額の汗を拭い、無線機を確認する。

ノイズだけ。通信は完全に遮断されていた。

孤立――それでも構わない。背にあるのはただ一振り、《ナミヒラ》。


「……なら、根っこを叩き潰すしかねぇな。」


灼熱の風が吹き抜ける通路の先。歩くたび、靴底が焼け、岩が軋む。

それでも前へ進む。酸素は薄く、喉が焼けつくように乾く。

だが、その熱は確かに“心臓の鼓動”と同じリズムを刻んでいた。


数分後、風の流れが変わる。

吹き抜ける熱気の向こうから、低い呼吸音が聞こえた。

ドゥウゥゥ……と、地鳴りのような呼吸。岩が震える。


「……ボスの呼吸音ってわけか。」


進めば進むほど熱はもはや「暑い」を越え、皮膚に針を押し当てられているみたいだ。

正面の拡がりは、天井が見えないほど高い溶岩窟。

円形闘技場のように縁が張り出し、中央に黒曜の島。

その中心で、巨大な影がゆっくりと息をした。


「……来たな。」


鱗が鳴る。岩に似た赤黒い板状の鱗が幾層にも噛み合い、熱で縁が白く焼けている。

縁には溶けた金属が固まっていた。金の瞳が二つ、こちらを穿つ。


「レッドドラゴンか。――相手にとっては不足なしだな。」


喉の奥が重く鳴った。

生きている火山そのものが唸るみたいに、洞窟じゅうの空気が共鳴する。


「確か危険度A+じゃなかったか、こいつは?

地竜タイプか。空を飛ばれないだけ楽だな。

まぁ、火炎と尻尾に気を付ければ何とか行ける。」


誰にでもない独り言。背のナミヒラが微かに軋む。

柄に手をかけ、腰を切る。重さが骨へ沈む――それが合図だ。


「悪いが、さっさとケリをつけさせてもらうぜ。

まだ、“リュカオン”とやらに会わねぇといけねぇんでな。」


連真の言葉に答えるように、レッドドラゴンの咆哮が洞窟を震わせた。

熱風が爆ぜ、炎が生き物のようにうねり、闘技場全体を覆い尽くす。


「――上等だ。」


連真はナミヒラを構えた。

刹那、二つの殺気が正面からぶつかり、灼熱の地獄に火花が散った。



感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


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