66話 部隊B
部隊B隊長 桂 竜太郎
有馬 徹平
園崎 凛
の3人パーティーです
風が生暖かく、焦げた匂いが鼻を突く。
折れた街灯が地面を照らし、積み荷を散乱させたまま放置されたトレーラーが横転している。
その隙間を、三つの影が走り抜けた。
「こちら桂了解。これより現地確認に入る。」
短く通信を返すと、竜太郎は手信号を送る。
「徹平、後方確認。凛、左斜め前方を警戒。何か来るぞ。」
「了解。」
「了解、隊長。」
舗装のひび割れた道路に、彼らのブーツ音が響く。
息が白くなり始めたのを感じた瞬間――
『――反応値が上昇……いや、待って。おかしい……!』
結衣の声が、ヘッドセット越しに震えた。
『……嘘! 反応が――消えた!?』
「なに?」
竜太郎の眉が動く。
有馬が慌ててタブレットを確認するが、波形は途切れていた。
「通信ノイズもない……完全に消えたんだ。」
その瞬間――。
バゴォォォォォンッ!!
背後から、爆発のように弾けた音が響いた。
アスファルトが陥没しひび割れ、白い粉塵が一帯を覆う。
有馬が振り返る暇もなかった。
「――なッ!!?」
ドゴォッ!!!
衝撃。
視界の端で、徹平の体が宙を舞った。
鉄骨を巻き込みながら十メートル以上吹き飛び、道路の中央に叩きつけられる。
アスファルトが割れ、地面が沈む。
「徹平ッ!!」
竜太郎が叫ぶより早く、凛が駆け出した。
だが、その視界の先――粉塵を切り裂いて、黒い巨影が姿を現した。
「ガァハハハハハッ!! 反応だの波形だの、チマチマしたもんで戦うのかァ?
そんなもんより――“勘”で動けやァ!!」
声が地を震わせた。
月明かりの下、道路の中央に立つのは――熊の獣人。
全身を覆う黒毛、隆起した筋肉、拳より太い指。
赤い瞳が三人を見下ろしていた。
「……こいつが反応の正体……!」
凛が息を呑む。
ザクロが肩を鳴らした。
筋肉が唸りを上げ、皮膚の下で血管が隆起する。
「“リュカオン”が好きに暴れて良いって言ってはいたが人が全然いねぇ。妙に暗いしよ……。
人間を潰せなくてイライラしてんだよなぁ!!」
「コイツ……!」
竜太郎が低く唸る。
「俺は“リュカオンの右腕”、ザクロ様だ。
……どいつもこいつもあの銀狼とか言う奴の魔力圧にびびりやがって、情けねぇ。」
ゆっくりと踏み出す。
その足音だけで、道路が沈み込む。
「お前らSIDとかいうのを、俺様が1人残らず潰してやるよぉ!!」
「……こいつ危険すぎる早めに討伐しなければ街に被害が!」
竜太郎が呟いた。
「だが、1人コイツに徹平がやられた、撤退するかしどうする!」
「ハッ、もう始めようぜ!!」
ザクロの瞳が輝いた瞬間、
地面を蹴り砕くような音と共に巨体が跳ねた。
「――来るっ!!」
凛が符を展開。
瞬時に《防壁符》が輝きを放つ。
ガギィィィィンッ!!
衝撃。
だが一撃で壁が砕けた。
凛が吹き飛ばされ、トレーラーの残骸に叩きつけられる。
「くっ……!凛!」
「ハハハハハッ!! どうしたァ! 人間ども、もっと抗えや!!」
竜太郎が刀を抜く。
光が走る。
「――くそ!徹平はまだ生きてるか!」
「う、動けません……! 骨が……ッ!」
地面に転がる徹平の声が、震えていた。
竜太郎の眉が険しくなる。
「……くそ、俺が時間を稼ぐ!」
ザクロが鼻を鳴らした。
「一人で? いいねぇ、何秒耐えられるか見物だなぁ。」
バカにしような顔でそのまま拳を振り下ろす。
風が爆ぜる。
竜太郎は踏み込み、刀を真横に振り抜いた。
ギィィィィンッ――!
金属を叩いたような硬い手応え。
刃は確かに当たった。
だが毛皮が鎧のように弾いた。
「なっ……!」
「お前の玩具みてぇな剣じゃ、通らねぇ!」
咆哮。
ザクロの拳が再び突き出される。
竜太郎が受け流し、火花が散る。
衝突、爆音、粉塵。
建物の影で凛が立ち上がる。
「……竜太郎隊長ッ!!」
符を構え、詠唱を走らせる。
「《氷槍連陣》!」
数十本の氷槍がザクロを包み込むように突き刺さる。
しかし――。
ガガガガガガッ!!
全て砕け散った。
「……効かねぇなぁ。」
ザクロが笑い、腕を振る。
凛の身体が再び吹き飛び、建物に叩きつけられた。
竜太郎の顔が歪む。
「凛――ッ!!」
返事はない。
血の匂い。
そして――巨体が近づく足音。
「次はお前だ、人間。」
「……黙れ。」
刀を握り直し、竜太郎は立ち上がる。
目の奥で炎のような光が揺れた。
「俺は桂竜太郎。SID部隊Bの隊長だ!
お前みたいな怪物は、ここで止める。」
「威勢がいいな。けど――遅ぇ。」
ザクロの拳が閃く。
衝撃波が交差点を吹き飛ばす。
竜太郎が受け止め、骨が軋む。
「ぬうぅぅぅっ……!」
「悪くねぇな! でもまだ軽い!」
再び振り下ろされる拳。
竜太郎の身体が宙を舞い、アスファルトに叩きつけられる。
『……竜太郎!? 大丈夫返事して!!』
結衣の声が震える。
竜太郎は血を吐きながら無線を掴んだ。
「……こちら……桂竜太郎……ッ! ザクロと交戦中……! 強すぎる……応援を要請する!!撤退は不可能。」
『すぐに部隊Aを向かわせるわ! 持ちこたえて竜太郎!』
「なるべく……早く…頼む。」
ノイズ混じりの通信。
その声をかき消すように、ザクロが笑った。
「持ちこたえる? 無理だな。
人間の骨はよォ……砕ける音が一番気持ちいい。」
拳を構えた瞬間――風が止まった。
月光が、静かに交差点を照らす。
ザクロが眉をひそめる。
「……何だ、この魔力……?」
暗闇の奥から、涼やかな声が響いた。
「まったく……。ミツキさんに怒られてしまいますわ。」
黒い日傘を差した少女――
ネリー・カーミラが、月下に姿を現した。
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