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63話 リリーVS部隊C

――鹿児島市・港湾区南東側、封鎖エリア境界。


夜の街は静まり返っていた。

だが、ヘッドセット越しの通信だけが緊張を破る。


『……魔力反応です、散らばった反応の1つが茜隊長のそばを通ります! 今すぐ向かえば鉢合わせできます!』


「位置は?」


茜が短く問う。

声は落ち着いているが、瞳は鋭い。


『そこから6時方向、距離およそ五百メートル! 反応は高速で移動中です!』


「了解。全員戦闘準備。悠真、前方警戒。ネリー、魔力探知を。」


「了解、姉ちゃん。新しい武器の性能でも試しますか。」


悠真が銃の安全装置を外し、黒いマガジンを装填する。

その音がやけに乾いた夜気に響いた。


ネリーは少し遅れて頷いた。

だが、紅い瞳はどこか落ち着かない。

視線は遠く、空の向こうを見ている。


「ネリー、何をしている。」


「………。」


その声は微かに震えていた。


次の瞬間、ネリーの肩がピクリと跳ねた。

まるで雷に撃たれたかのように息を呑む。


「……この魔力……この懐かしい気配、まさか――!」


「どうした?」


「……ミツキさん……!」


その名を口にした瞬間、ネリーの背中から蝙蝠の羽が飛び出した。

紅い粒子が彼女の身体を包み込む。

小さな羽が羽ばたくと、ふわりと重力が反転するように――

ネリーの身体が宙へと浮かび上がった。


「おい、ネリー!? どこへ行く気だ! 止まれ、じゃないと撃つ!」


悠真が警告を発し、P90mを構えトリガーに指をかける。

だがネリーは全く意に返さない。


「悠真!」


「くっ!」


パンッ――。

放たれた弾丸がネリーの後頭部に迫る。

だが、乾いた金属音が響き、弾丸は弾かれ、

悠真の近くの地面に弾痕を残した。


「武器も無しに弾き返された……だと?」


ネリーはそのまま夜空へと舞い上がる。

まるで空気そのものが紅に染まるように、

血のような魔力の尾が軌跡を描いた。


『こちら志藤! 何がありましたか!? ネリーが離脱しています!』


「ネリーが勝手に飛んだ! ……おそらく、あの銀狼の反応を追ってる!」


『!? 了解しました。幸いGPS信号により位置はこちらで把握しています。』


茜は息を吐き、首を振った。


「悠真、ネリーは放っておけ。

 今は目の前の反応を潰す。急いで向かうぞ!」


「了解。」


――ポイントへの移動中。


耳の奥で、獣のような低い唸り声が聞こえた。

気配はすでに背後にある。


「……来たか。」


暗がりの中から、一歩、また一歩と影が現れる。

光沢のある黒い毛並み。

しなやかな四肢。

目だけが黄金に光を宿していた。


「チッ、誰かと思えばSIDか……。

 あの化物が魔力を撒き散らしてるせいで、お前らが分かりにくいなぁ。」


リリー――豹の獣人。

艶やかで冷たい声が夜を裂いた。


悠真が即座に照準を合わせる。


「敵影確認! 一体、豹型の女獣人!」


茜は一歩前に出る。

静かに《紅桜》を抜き、黒い刀身が綺麗な赤色に染まる。


「……止まれ。大人しく投降しろ。」


リリーが唇を吊り上げる。


「フフ……面白い冗談を言うね、人間が。

 まぁいいや、憂さ晴らしにあんたらを殺しちゃうか。

 私のスピードについてこられるかな?」


「なら、試してみろ。」


風が止まる。


次の瞬間――


「――行くぞッ!」


茜の掛け声と同時に、地を蹴る音が響いた。

《紅桜》の刀身が閃き、夜気を裂いて一条の紅が走る。

だがその軌跡の先にあったはずの標的――リリーの姿は、もうなかった。


「――速い!」


風が鳴った。

刹那、背後からの気配。

茜は反射的に身を捻り、背中に迫る鋭い爪を受け流す。

爪と刀が擦れ合い、金属の悲鳴とともに火花が散った。


「へぇ、反応は悪くないね? でも――」


リリーが嗤う。

その姿が霞のように揺らめき、次の瞬間にはもう数メートル先にいた。

豹獣人特有の筋力と瞬発力――

その速度は人間の視覚を置き去りにするほどだった。


「悠真、援護!」


「了解――!」


悠真がすかさず動く。

姿勢を低くし、P90mを肩に構える。

HUDの照準がリリーの軌跡を補足し、トリガーが引かれた。


バリバリバリッ――!

魔封弾が唸りを上げて連射される。

だが、リリーは軽く身を翻し、

弾丸の雨をまるで風のようにすり抜けていく。


「なっ……反応が早すぎる!」


「悠真、牽制を続けろ! 少しでも止めれば――!」


「了解!」


悠真は射線を散らしながら、地面を穿つように撃ち込む。

弾丸がアスファルトを砕き、破片が閃光のように飛び散る。

衝撃波がリリーの足元を削り、瞬間、動きが鈍る。


「……っ!」


茜がその隙を逃さない。

《紅桜》の刀身が紅を纏い、空気が震える。


「御影流――二の太刀、《霞斬かすみぎり》!」


ヒュッ――シュバァァッ!

光の帯が弧を描き、リリーの肩を掠めた。

焼けるような痛みとともに、血が噴き出す。


「チッ……っぐ!」


「悠真、右へ回れ! 十時の角度!」


「了解!」


茜と悠真が左右から挟み込む。

だがリリーがニヤリと口角を上げた。


「いい連携ね――でも、それじゃ獣は止められない!」


ズドンッ――!

地面を砕いて跳躍。

次の瞬間には悠真の背後に。


「なっ――!」


爪が閃き、風を裂く。

しかし、悠真は左腕を突き出して閃光弾を起動させた。


バンッ――ッ!

白光が夜を裂き、リリーが目を細めた一瞬。


「御影流――一の太刀、《閃華せんか》!」


閃光と同時に、茜の紅桜が抜かれる。

稲妻のような斬閃がリリーの胸を浅く裂いた。

紅い線、焦げる匂い、そして咆哮。


「ぐぅああああッ!!」


リリーの魔力が一気に爆ぜた。

地鳴りが起こり、破片が宙を舞う。

悠真は後方へ吹き飛び、コンクリートを滑った。


「悠真っ!!」


「ぐっ……問題ねぇ……生きてる……!」


それでも立ち上がる。

だがリリーはもう限界を超えていた。

体表を黒い紋が走り、暴走気味の魔力が肌を焦がす。


「姉ちゃん、魔力値が跳ね上がってる! 自己強化極限だ!」


「分かってる……ここで止める!」


リリーが再び四足で駆け出した。

地面を裂き、風を切り裂き、影のように迫る。

茜が腰を落とし、紅桜に魔力を集中させる。


「御影流――四の太刀、《断空だんくう》!」


ズバァァァァン――!

轟音。

真空の刃が放たれ、火花と衝撃波が一帯を吹き飛ばした。

リリーの身体が後方へ弾かれ、壁に叩きつけられる。


コンクリートが砕け、静寂。


「……やった、か……?」


茜が息を整えながら、紅桜を構えたまま近づく。

瓦礫の中、リリーの姿がうずくまっていた。

呼吸は荒く、動きはない。


「……生きてはいるな。悠真、拘束を。」


「了解!」


バチバチッ。

悠真がN-01《スタンパルス・グローブ》を起動し、リリーの四肢に拘束具をかける。

魔力抑制の光が点滅する。


「……これで、ひとまず――」


その瞬間。


――パキィン。


乾いた音。

拘束具の亀裂が、夜に響いた。


「姉ちゃん!? 今の音――」


ズシャァッ!!

瓦礫の中から、リリーが跳ね起きる。

片目を血に染め、牙を剥き、喉の奥から低く唸った。


「舐めんなよ……人間ッごときが!」


ガキィンッ!

鋭い爪が茜の腹を掠める。

反射的に後退するも、制服の下に熱い痛みが走った。


「くっ……!」


悠真が叫ぶ。

「姉ちゃん!!」


パンッ、パンッ、パンッ――!

魔封弾が連続発射され、火花と硝煙が弾ける。

だが、リリーはその反動を利用して後方へ跳躍。

瓦礫を蹴り、闇の中へと飛び去った。


風の音と共に、夜が戻る。

茜が膝をつき、傷口を押さえた。


「……逃げられた……!」


「……姉ちゃん、大丈夫か!」


「……平気。浅い……それより、奴……を追わねば……」


悠真が舌打ちしながら銃を下げる。

二人の息が荒く、静寂が戻った。


「姉ちゃん、動けるか。」


「ああ、ひとまず傷の応急手当だ。

その後奴を追う、深傷を負ってるはずだ

そう遠くまでは逃げられないだろう。」


「志藤聞こえるか、こちら茜敵に逃げられた。」


『了解、敵をマッピングしてあります。

かなり魔力を絞って逃走しています。その為ピンが少し荒いですが。

………敵が止まりました…??いえこれはピンの動きが不自然です、同じ距離を何度も繰り返しています?これはいったい。』


「了解した、ひとまず応急手当も終わった、そこに案内してくれ。」


『了解しました、ナビゲートします。』


「行くぞ悠真!」


「はいよ、姉ちゃん。」


二人は血の匂いを残したまま夜の路地を駆け出した。

通信のノイズが混じり、魔力探知の波形が微かに歪む。


(……何かが、おかしい。

いったい誰が…まさか!)


茜がそう呟いたとき――

街のどこかで、もう一人の“狩人”が息を潜めていた。

感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

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