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62話 再開

――氷が砕け散る音を背に、夜風が頬を撫でた。

空気がざわめく。

その瞬間、背中に“懐かしい匂い”が乗った。


「……ミツキさんっ!!!」


反射的に振り返った。

そして――時間が止まった。


月光を受けた白銀の髪。

紅い瞳。

肌は透き通るほど白く、微かに牙が覗く。


「……ネリー!?どうしてここに。」


あり得ない。

異世界に置いてきたはずの仲間が、

まさか――この世界に。


次の瞬間、ネリーは駆け出していた。

夜の街を突き抜け、まるで飛ぶように。

そして勢いのまま、俺の胸に――飛び込んできた。


「ミツキさんっ……! 本当にミツキさんですのね!!!」


「うわっ、待っ、ちょ、落ち着け!?」


俺の言葉なんて聞いちゃいない。

ネリーは胸に顔を埋め、震えるように息を吸い込んだ。


「ふふ……やっぱり……この匂い……。

懐かしくて……懐かしくて……まるで夢を嗅いでいるみたいですわ……」


「な、なに匂い嗅いでんだよっ!? 落ち着けっ! てか、やめろ!!」


「落ち着けませんっ!」


その声は涙まじりで、それでも嬉しそうだった。


『あ〜あ、完全に理性飛んでんじゃん。恋する乙女だねぇ〜♡』


「どこがだよ!!!」


頭の中で響くフェンリルの笑いを無視して、俺はネリーの肩を掴んだ。


「どうやって来た!? こっちの世界に来られるはずが――」


ネリーは顔を上げ、紅い瞳でまっすぐ見つめ返す。


「貴方が魔王討伐のあと行方をくらませて、皆“死んだ”と言っていました。

ですが私は信じませんでした。死体すら見つからないなんて、おかしいと思ったんです。

だから私は世界を旅して――貴方を探す魔法を探しました。

けれど十年間、どこを探しても見つからず……。

途方に暮れた果てに、ダンジョンの奥で“世界渡りの書”を一冊見つけたのです。」


「……っ!」


胸の奥がきしむ。

あのネリーが、次元を越えてまで――。


「その本には、“行きたい世界を明確に意識し、魔力の半分を犠牲にすることで転移が可能”とありました。」


フェンリルがくすくす笑う。

『うわ、魔力半分とか、ためらいゼロじゃん。愛ってやつは怖いねぇ♪』


「ミツキさん……」

ネリーが胸に手を置く。


「今度こそ、置いていかないでくださいね。

だって私――あなたを、愛していますから。」


「な……!」


鼓動が跳ねた。

息が詰まるほどの距離。

目の前の少女の熱が、冷たい夜風の中で痛いほど伝わる。


(……やめろよ、こんな時に……)


遠くで爆音。SIDの通信にノイズが走った。

戦いが始まったようだ。


「……ネリー、お前まさか、SIDの一員なのか?」


「え? あぁ、全然違いますよ? ミツキさんを探すまでの“協力関係”ですから。

――あ、そういえば。」


するとためらいもなく、自分の手首についた腕輪を爪でなぞり、そのまま切り落とした。

滴る血が再び形を取り、新たな腕が再生する。


「ふぅ、いい加減邪魔でしたわね。」


「おいおい……いくらなんでも治るからって、ためらいなさすぎだろ。」


「え? あぁ、でも無理に外せば電波が流れて、警報がなるか爆発する落ちでしょうし? これが正解ですわ。」


「いや、だからって……。」


まったく、目の前で手を落とすなっての。

そうだ、ここにネリーが居るということはこの事態をまかせれば俺はリュカオンの所に迎えるのでは!


「ネリー、ここを任せることはできるか?」


「……わたくしに、どうしろと?」


「俺はリュカオンと決着をつけてくる。

だから残りの残党を、できるだけ街に被害を出さずに片付けてくれ。」


「うぅ〜ん、せっかくミツキさんに会えたのですから、そのままついて行きたいのですけど……。」


するといきなり、インカムからピピピと音が鳴った。


『ぎ、銀狼さま!! 大変です!』


「どうした、いろは! 何かあったのか!」


『それが、桜島がダンジョン化した影響だと思われるんですけど、

破壊的な大規模噴火の可能性がありそうなんです!』


「なにっ!?」


『今、SID側の情報をハッキングしてるんですけど、

山体が膨張しながら火山内部の温度が上がり続けてるみたいで……!

このままでは、桜島付近の住民が巻き込まれる可能性があります!』


「ちっ……わかった。急いでダンジョン化を止めに行く!!」


通信を切り、ネリーに向き直る。


「俺は急いで桜島に向かう。」


「ミツキさん。」


「なんだよ。」


「誰ですか、その女!!」


「はぁ!?」


「ミツキさんは、わたくしがいなくなった途端に新しい女を引っかけたんですかっ!!」


「いや、なに言ってんだお前!!」


「まったく! 私が目を離したばかりに余計な虫がミツキさんに……!

これだから油断も隙もありませんわっ!!」


「だから、そんなこと言ってる場合じゃねぇんだって!!」


「こっちに来てください!!」


「はぁ!? だから――」


「いいから来てくださいっ!!!」


有無を言わせない声に、俺は渋々従った。


「これをつけて行ってください。」


そう言うと、ネリーは俺の右手の薬指に、質素な指輪をはめた。

……なんで薬指なんだよ。


「な、なんだこれ?」


「お守りみたいなものですわ。気にしないでください。

わかりました。今回はミツキさんの言う通りに従いましょう。

ですが――後で、きっちり、すべて、ええ、全部教えていただきますからね。」


「わ、わかったよ……。」


あまりにも鬼気迫る勢いに負けて頷いてしまった。


「ミツキさんが負けることはないでしょうけど、どうかお気をつけて。

あとはわたくしにお任せくださいませ。」


ネリーは「仕方ありませんわね」と言わんばかりの表情で俺を見送る。


「ありがとう、ネリー。行ってくる。」


『何か恐くて私も口を挟めなかったわ。』


俺は屋根を蹴り、桜島の方向へと駆け出した。


「まったく……ミツキさんにも困りましたわね……。」


その愚痴が、風に乗って微かに聞こえた。


感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

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