61話 銀狼夜を駆ける
お休みをありがとうございます
今年残りが少し予定が多く毎日投稿出来るか難しいですが出来るだけがんばります
――屋根を蹴った瞬間、夜の街が線になった。
風を裂く音が鼓膜を打ち、街灯が流星のように背後へ飛んでいく。
全身から、わざと魔力を感じ取れるように馬鹿みたいに漏らしながら威圧を放つ。
この魔力を感じながら人間狩りをしようとは思わないだろう。
俺から逃げることを第一に考えるはずだ。
街から逃げ出そうとする奴から先に潰して、途中でSIDを見かけたら、敵を誘導してぶつけてやる。
『にひひっ、いいねぇミツキ! 馬鹿の匂いが漂ってきたぞ〜♪』
「黙れ。まだ始まってもねぇ。【魔力感知】」
海側にいた敵がバラバラに逃げ出した。
一人、街の方から遠ざかろうとしている奴を感知する。
『おお? アイツ逃げようとしてる、ミツキ?』
「わかってる! そいつから潰す!」
一気に速度を上げた。
空気の抵抗が獣耳を切り裂き、尾が遅れて風を裂く。
視界の下で、黒い影が二つ動くのを見た。
建物の陰、暗闇の中に武装した人影。
侍? 胴着と袴を着た人物が、男は刀を腰に下げ、女の方は薙刀を構えている――見覚えのない装備。
(……誰だ?)
『おやおや〜、人間にしちゃずいぶん物騒じゃん。あれ、SIDじゃない?』
「SID……やっぱり鹿児島にもいるのかよ。」
初めて見る顔だ。
だが、武装と立ち振る舞いで判断はついた。
あれは訓練を受けた動きだ。
――間違いなくSIDだ。
男の方がこちらに気づき、隣の女性に何かを告げる。
その瞬間、銀狼の瞳と彼らの視線が交わった。
「……おい!! そこ――!」
呼びかけられたが、無視する。
今はそんなことより、逃げ出そうとする奴をやらなければ他の街に被害が出る。
フェンリルがくすりと笑う。
『ねぇ、何か言ってるよ? いいの?』
「俺が狩るのは“人間狩り”の方だ。先に逃げてる奴からやる。この街から逃げられないと教える。」
屋根を蹴り、二人の頭上を疾風のように通り抜けた。
わずかに残る魔力の残滓が、夜気を揺らす。
その銀の閃光に、下の男――久我 隼人が目を細めた。
「っ……今の、まさか?」
「待って、隼人くん! 今は追わないで!
今はあの銀狼らしき姿より他の敵を警戒しないと!」
「ちっ! 『こちら部隊A! ものすごいスピードで屋根の上を駆け抜けた――女の獣人が通りすぎた! 奴が銀狼か!?』」
だが銀狼はすでに、彼らの会話を風の向こうに置き去りにしていた。
――前方。
(一番乗りは……猪か。)
俺の姿を見た瞬間、逃げられないと悟り、地を踏み割って突進してくる巨体。
皮膚の下で筋肉が波打ち、剛毛が槍のように逆立っている。
猪型の獣人が、咆哮を上げた。
「グルァァアアッ!!」
その雄叫びを正面から受けて、銀狼は小さく息を吐いた。
「吠えるな、うるせぇ。」
跳躍。
回し蹴りが弧を描き、獣人の顔面を砕く。
轟音とともに壁が崩れ、猪の巨体が吹き飛んだ。
建物が軋み、粉塵が街灯を覆う。
一撃。終了。
「ついでに動けねぇように凍っとけ。【フリーズ】」
氷の塊となった猪がその場に出来上がった。
『おぉ〜! 一発で黙らせた! やっぱりミツキの蹴りは最高だねぇ〜♪』
「お前の実況いらねぇ。次はどれだ。【魔力探知】」
山の方に逃げようとする気配を感じた。
『あぁー、向こうの奴も逃げそう!』
「くそっ、逆にめんどくさくなりやがった!
魔力感知だけして襲えばよかった。急いで向かうぞ!」
すぐに地面を蹴り、屋上に跳び弾丸のように走り出した。
再び向かう先で、また違う人影を見かけた。
「また違う部隊か!」
『今度は三人だね。』
俺の姿をなんとか見つけた一人が、急いでインカムに何かを叫んでいた。
山に逃げようとしていた鳥の獣人を視認した瞬間、左上から影。
猿型の獣人が飛びかかってくる。
そして、こちらに切り返してきた鳥の獣人も鉤爪の蹴りを放つ。
「待ち伏せか! 考えたな。」
だが銀狼は空中で無駄のない動きで蹴りと拳を避け、その反動で猿の顔面を踵で殴り、鳥の足を掴んで地面に叩きつけた。
「だが甘いな。」
『まだまだだねぇ。鍛え方が雑魚すぎ。』
猿はそのまま気絶して地面に落ち、アスファルトにヒビを入れながら、全身を打ち付けた鳥が死にかけのように痙攣している。
両方ともその場で氷像にしておく。
「残りは……。」
残る気配はあと四つ。桜島にいる大きな気配が一つ。これがリュカオンか。
それぞれが街を広く散り、同時に動き出している。
「チッ……厄介な散り方しやがって。」
屋根から飛び降り、狭い通りを駆け抜ける。
街の灯が風圧で滲み、視界の端でフェンリルがにひひと笑った。
『いいねぇ、ミツキ。まるで昔みたいじゃん。血の匂い、魔素の揺れ、そして――あの鼓動!』
「……余裕はないぞ。あいつらが片付いたら次が残ってるんだ。」
風が一瞬止まる。その刹那――。
上空から巨大な影が落ちてきた。
犬の獣人。
犬というにはあまりにも筋肉質で、ドーベルマンの顔をしていた。
「ウゥゥゥゥ! よくも仲間をやってくれたな!」
「何だ? 敵討ちか?……来いよ。」
俺は手招きして挑発する。
「舐めるなよ、ガキが!!」
奴は一瞬で背後に回り込み、スレッジハンマーのような一撃を仕掛けてきた。
「叩き潰してやる!」
だが、そんな攻撃なんて遅すぎる。
「どうした? その程度で勝てると思ってるのか。」
俺の片腕に掴まれたドーベルマンの両手が、びくともしなくなった。
「馬鹿な……! そんな体のどこに、これだけの力が!」
「相手が悪かったな。寝てろ。」
ドーベルマンの両手から徐々に凍らせていく。
「……くそ! 離せ!!」
すかさず奴が蹴りを放つが、俺は危なげなく掴み、その足も凍らせていく。
「や、やめろ! 俺が悪かった! あんたの下につく! だから助けてくれ!!」
ドーベルマンが必死に命乞いをするが、俺は許すつもりもない。
「お前は人間狩りをしていたんだろ? なら、お前が襲った人間が命乞いをしたとき、助けたのか?」
「……く! 俺だってやりたくなかった! だがやらねば、リュカオンの奴に殺される!」
「……そうか。だからといって助ける理由にはならねぇ。」
「やめろォ……!」
俺は容赦なく、そのまま凍らせて地面に倒れたドーベルマンを放置した。
フェンリルがくすぐったそうに笑う。
『この調子だと、朝までに終わりそうじゃん♪』
「あと三人か。このペースならすぐに終わらせられるな。だが、問題はリュカオンだ。」
その瞬間、耳がピクリと動いた。
――足音。
振り向いた先、路地の影から白い髪が揺れる。
「……ミツキさん!」
「え?」
振り向いた先――紅い瞳の少女。
ネリー・カーミラが、こちらを空から見下ろしていた。
驚愕と歓喜を入り混ぜた声を漏らす。
「ミツキさん……! 本当に……!」
時間が止まったように感じた。
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