60話 鹿児島支部サイド
すみません、仕事が今すごく忙しく、3日ほど更新を止めます。
読者の皆様ご迷惑をおかけします
桜島方面へ向かう道路。
夜風を切り裂くエンジン音が、闇の中に低く唸りを上げていた。
バイクのヘッドライトが一筋の光となり、黒く染まる海沿いの道を貫く。
ハンドルを握る島津連真は、無言のまま速度を上げた。
(……間違いない。この気持ち悪さは、ダンジョン化が始まったか。)
リュカオンはダンジョンの奥にいるだろう。
人員が割けない以上、しらみ潰しにはできない。
ダンジョン化が始まれば、敵はおおよそダンジョン内にいるのは確定する。
“被害が出るのは仕方ない”なんて言葉は、使いたくはない。
だが、ひとりでできることにも限界がある。
それに、何か情報があればオババが知らせてくるだろう。
今は急いで向かう――バイクのスピードをさらに上げた。
背後――鹿児島支部のモニター室。
「現在、部隊A:久我 隼人・早乙女 静。
部隊B:桂 竜太郎・有馬 徹平・園崎 凛。
部隊C:御影 茜・御影 悠真・ネリー・カーミラの三部隊で、市街地を三角形に警戒しています。
未だ敵の反応はありません。
ですが、各部隊とも警戒を怠らないでください。」
現場に緊張が走る中、モニターのマップと数値を睨みながら、志藤と結衣が機械を操作していた。
その瞬間、壁一面に設置された大型スクリーンに赤い数値が次々と跳ね上がる。
「魔素濃度、上昇っ! ダンジョン化の傾向反応です!」
「ですが、市街地の大型探知器にはまだ反応がありません!」
志藤が端末を睨みつけ、低く息を吐いた。
「……おかしい。桜島側だけ異常値が出てるのに、街の探知器が沈黙してるなんて。」
「魔力測定器に引っ掛からないほどの魔力量なのか、それとも魔力を制限しているのか……。」
そのとき、奥で椅子に座っていた日鞠おばあさまが、ゆっくりと立ち上がった。
「まったく……人の作った機械はよう働かんのう。仕方ない。」
両の掌を合わせるように掲げ、目を閉じる。
次の瞬間、部屋全体が淡い光に包まれ、空気がわずかに震えた。
日鞠の周囲に円環状の魔法陣が浮かび上がり、光の粒が波紋のように広がっていく。
「む……見えた。街に七……いや、九つの反応がある!」
志藤と結衣が一斉に顔を上げる。
「九!?」
日鞠は目を細め、さらに念を込めるように言葉を重ねた。
「七人は固まって動いとる……おそらく敵の群れじゃろう。もう一人は山手側の大きなホテルの場所じゃ。銀狼かの?
そして……もう一つ――桜島に強烈な反応がある。」
「桜島にも……!?」
結衣の声が震えた。
「うむ。おそらく、リュカオンと名乗る奴じゃろう。あやつが動き出した。」
『連真ボス、桜島の可能性が大じゃ。』
『はいよ! オババ。』
『だからオババじゃなく、せめておばあちゃんと呼ばんか!! 早よ倒して帰ってこい! このバカタレ!』
乱暴に通信機を切り、再び椅子に座り直した。
志藤は即座に端末に指を走らせ、座標データを転送。
「座標を共有! 街の七人は海側、ホテル街に一つ、そして桜島に“主”が一人!」
結衣はすぐにマイクを取り、各隊へ通達する。
「こちらオペレーター結衣! 全隊に通達――市街地に八の反応あり、一つは銀狼の可能性。
桜島に一の魔力反応を確認!
部隊A、部隊Bは現在地点より海岸側の位置に、お互い援護できる距離で警戒を!」
『こちら部隊A、了解。』
『こちら部隊B、まかせとけ。』
志藤も秋ヶ原支部のチャンネルを開く。
「こちら志藤。部隊C、聞こえますか?
街の海側に七体、ホテル近くに一体――銀狼の可能性あり。
そして桜島にリュカオンと思われる反応が一つです。
茜隊長、その場所から南に約五キロ。
今なら三部隊で囲んで戦闘が可能です。」
『部隊C、了解した。』
モニター上の赤い光点が、波のように揺れながら移動していく。
その中心――桜島の座標が、突如として眩い光に包まれた。
「桜島の反応、急激に拡大っ! 魔素濃度が限界を超えます!」
「地殻振動を感知! これは……まさか!」
ドン、と遠くで爆音が轟く。
モニターが一瞬ノイズにまみれ、映像が乱れた。
「……ダンジョン化、進行を確認!」
志藤の報告に、結衣が息を呑む。
部屋の照明が魔力反応に呼応して淡く明滅し、緊張が走る。
その瞬間、通信越しに連真の低い声が響いた。
『こちら連真。桜島に到着。魔素濃度、予想を遥かに上回っている。
全隊、決して油断するな。これより俺は突入を開始する――今夜が正念場だ。』
室内の誰もが、ただ静かに息を呑んだ。
その声が切れたあと、誰も口を開けなかった。
まるで夜そのものが、世界を飲み込むのを見届けるように。
――その沈黙を破るかのように、ホテル側の端末が鋭く点滅した。
モニターに表示された魔力数値が、慌ただしく跳ね上がる。
「ちょ、ちょっと待て! ホテルエリアの数値が急上昇! 部隊A方面へ接近中です!」
『なんだと!』
結衣の声がわずかに震える。
画面の中、海側の赤点群が一斉に魔力測定器に反応した。
まるで何かに逃げ出すように、点の形がばらけて走り出す。
「敵が――動いた! あの反応は、あの七つの獣人たちだ!」
志藤の手が滑り、フロアマップ上のアイコンが点滅し始める。
「七人がそれぞれ別方向へ散開しています! 各自、一時その場に待機を!!」
『こちら部隊A! ものすごいスピードで屋根の上を駆け抜けた――女の獣人が通りすぎた! 奴が銀狼か!?』
マップに映る一つの点が、敵の一つと重なって消えた。
「た、倒された……!? こんな一瞬で……!」
そして再び、別の点に向かって進み出す。
『部隊B、こちらでも女獣人を確認した!』
「もうそんなところに!!」
再び別の敵の点を消していく。
「いったい現場は何が起きてるんだ!」
志藤たちは、モニター越しに“あり得ない速度”で敵を屠っていく銀狼に、ただ戦慄するしかなかった。
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