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50話 鹿児島支部に向かうネリー達

なんだかんだ50話まで来ることが出来ました。


ここまでの読んでくれた読者の皆様ありがとうございます

滑走路の端に、黒く塗装された軍用ヘリが待ち構えていた。

二枚のローターはまだ静かに止まっているが、その威圧感は生き物のように迫ってくる。


ネリーは思わず眉を上げて小さく呟いた。


「……思ったより、小さいのですね」


胴体は四人も入ればぎゅうぎゅうになりそうな狭さ。

異世界で見た飛行船のように甲板を歩ける広さなどまるでなく、まさに“鉄の鳥かご”だ。


志藤が淡々と補足する。

「これは旅客機じゃなくて――小型輸送用のヘリコプターだからな。滑走路を使わずに離着陸できる。特殊任務じゃこっちのほうが便利なんだ」


ミーナが口の端を吊り上げてにやりと笑う。

「ははっ、ネリーの頭ん中じゃもっとデッカい飛行船でも浮かぶと思ってたんじゃねぇの?」


ネリーはこくりと頷き、少し照れくさそうに続けた。

「……ええ、異世界の飛行船はもっと大きく、甲板を歩けるほどの広さがありますから。ほかにも竜やワイバーン、グリフォンに跨る者もおりましたし」


「ワイバーン……! ファンタジーの世界は迫力がありますね。」志藤が目を丸くする。


ネリーは視線をヘリに戻し、小さく息を吐いた。

「……けれど、人の力ではなく科学で、この鉄の塊を空に浮かべるというのは……やはり、不思議で。そしてすごいことですわ」


ミーナはにやにやしながら工具箱を軽く叩く。

「まぁ、初めてならそうだろうな。でも安心しな。整備はバッチリ――落ちたりはしねぇよ、多分な」


「……“多分”という言葉で安心できるわけがありません。」

ネリーがむっと睨むと、志藤が慌てて両手を振った。

「ちょっとミーナさん、冗談はやめてください。安全性は保証されてるから心配しないでください。」


ようやく息を吐き、ネリーは胸の前で両手を握り込む。

「……わかりました。では、信じて乗りましょう」


そう言って一歩踏み出すと、タラップ代わりの簡素なステップの先で開いたドアが、彼女たちを待ち構えていた。



乗り込むや否や、操縦士にヘッドホンを手渡された。

「これを付けろ。外すと声が聞こえないぞ」


ネリーはおそるおそる耳に当てる。

直後、ローターが唸りを上げて回転を始めた。

轟音が機体全体を震わせ、座席の背もたれに伝わってくる。


「っ……な、何ですの!? ワイバーンもグリフォンも、こんなにうるさくはありませんわ!」

思わず声を張り上げたが、自分の声すらかき消されそうだ。


志藤がヘッドホン越しに苦笑混じりの声を返す。

「慣れてください! これでも消音されてる方なんです!」


ミーナがにやにやしながら付け足す。

「安心しろ、ネリー嬢。うるさいだけで落ちはしねぇ。耳栓代わりのヘッドホンもしっかりしてるしな。」


ネリーは肩をすくめ、窓の外へと目をやる。

やがて機体がふわりと浮かび上がり、地面がみるみる遠ざかっていった。


胸の奥に、恐怖と高揚が入り混じったような感覚が広がる。


「……やはり、これは……不思議ですわ」


空の景色を眺めながら乗ること2時間。


ヘリが旋回し、錦江湾を臨む仙巌園の裏手へと降下していく。


かつて小さな遊園地があったという高台――今は一般人立入禁止の区画に、灰色の鉄柵と古い建物が並んでいた。


轟音とともに機体が着地すると、巻き上げられた風が砂利をはじき飛ばし、ネリーの髪とスカートを荒々しく揺らした。


「きゃっ……!」


耳に押し付けられたヘッドホン越しでも、プロペラ音は容赦なく鼓膜を叩いてくる。


「……やはり、こちらの空を飛ぶ道具は、ワイバーンや飛行船よりも随分とうるさいですわね。」


思わず顔をしかめるネリーに、操縦席から降りてきた志藤が肩をすくめた。


「しかたありません。これがこっちの科学と言うもので構造上の問題ですし。」



タラップを降りると、既に三人の姿が待っていた。

先頭に立つのは――白髪を後ろで束ね、堂々とした立ち姿の男。漆黒の胴着に袴をまとい、腰には反りの深い刀を佩いている。鋭い眼光と圧のある気配に、ネリーは息を呑んだ。


男は静かに一歩前へ出ると、低く落ち着いた声で名乗った。

「……島津連真。“必滅の剛剣”と呼ばれておる。鹿児島支部のSランク、以後よろしく!」


その隣で短髪の青年がにかっと笑みを浮かべ、勢いよく頭を下げる。


「俺は久我隼人っす! Aランクで、連真兄貴の直弟子ってところです! ま、よろしくお願いします!」


最後に深緑の袴姿の女が一歩前に進み出る。薙刀の柄を軽く押さえ、澄んだ声で言葉を紡いだ。


「早乙女静。Bランクのエージェントです。……場違いに見えるかもしれませんが、これが私の戦闘服ですので。」


三者三様の挨拶。だが共通していたのは、揺るぎのない武の気配だった。

ネリーはその三人を順に見つめ、微笑を浮かべる。

「……なるほど。どなたも、なかなかの強者ですわね」


連真は一歩前へ出ると、鋭い視線でネリーを射抜く。

数瞬の沈黙ののち、低い声が格納庫に響いた。


「……なるほど。お主、かなりの強者とお見受けする」


ネリーは表情を崩さず、ただ静かに微笑んだ。

挑発でも謙遜でもない。ただ真っ直ぐに、その評価を受け止める。

その眼差しはまるで「あなたの見立ては正しい」と告げているようだった。


連真はわずかに目を細め、鼻で小さく笑う。

「……ふっ、面白い娘だ」



連真が湯呑を置き、静かに言葉を重ねる。

「……うちの支部にも異世界の人間は何人かおる。だが、戦闘よりはサポートが多い。癒し手や魔法技師……そういう者たちだ。後々紹介するがな」


ネリーはそっと袖をまくり、手首の銀色の腕輪を示した。淡く光る魔力回路が、静かに脈打っている。

「けれど、私はあくまでも“取引”で手伝っているだけですわ。それに……ご覧の通り、これが付いておりますから」


彼女の口調は冷静だが、含みがあった。戦闘力の高い異世界人を管理するための措置であることを、わかっている──という言い回しだ。場の空気が一瞬だけ引き締まる。静は目を細め、志藤は言葉を選ぶ仕草をした。


隼人は視線を伏せ、短く息をついて肩をすくめた。

「……まぁ、確かに仕方ねぇっすよ。危なっかしい奴を野放しにしとくわけにもいかねぇし」


連真が低く頷き、続ける。

「世の理に抗うのは容易ではない。だが――それでも抗う者が真に強き者だと、わしは思うがな」


ネリーは小さく笑みを浮かべ、淡い諦めともいうべき表情で付け加えた。

「――まあ、わたくしも目的さえ果たせればどうでも良いですし、大して気にしておりませんのよ」


その滑らかな言葉に、一瞬だけ場が凍る。だが彼女の口元には、嫌味にも虚勢にも聞こえない、どこか達観した余裕が残っていた。連真は鼻で短く笑い、隼人は苦笑を漏らす。志藤はさりげなく視線を逸らし、静は無言で微かに眉を動かした。


連真は最後に静かに言葉を落とした。

「契約も監視も必要だ。だが、それがあっても、共に戦う意思があるならば、それでいい。やるべきことをやるだけだ。」


「ええ、こちらこそよろしくお願いしますわ。」


ネリーはその言葉を受け止めるように深く頷き、澄んだ瞳の奥に小さな決意を灯した。


「……よし、夜まで時間がある。訓練場で汗を流すとするか」

連真が湯呑を置き、低くも落ち着いた声を落とした。


隼人がぱっと顔を輝かせる。

「兄貴! じゃあ今日こそ一本もらいますから!」


その目は子供のようにまっすぐで、しかし闘志の炎を宿していた。

連真は鼻で笑い、鋭い眼差しを弟分に向ける。

「よしかかってこい。遠慮は無用だ、全力で来い」


「押忍!」と隼人が拳を握り、背筋を伸ばす。

その気迫は訓練場へ向かう前から熱を帯び、まるで勝敗などどうでもいい、ただ師を越えたいと願う少年のようだった。


静は薙刀を背に掛け直し、淡々と口を挟む。

「……手加減を期待しているようなら、今のうちに引いたほうがいいでしょう」

その声音は氷のように冷たく、だが隠し切れない闘志が滲んでいた。


志藤が小さく笑い、肩をすくめる。

「やれやれ、こっちは移動疲れがありますが。まぁ、遊びに来たわけではありません。

薩摩流の鍛錬ってやつを見学させてもらいましょうか。」


足音が板張りの廊下に響き、四人は訓練場へと向かっていった。

その背中には、厳しさと同時に、弟子や仲間を導こうとする面倒見の良さがにじんでいる。

「剛剣」の異名を持つ男が、ただの冷徹な刃でないことを示す光景だった。



ネリーは応接間に残り、ひとりその背を見送った。

(……私は、隊員ではありませんから訓練なんて興味もありませんが。)

小さく吐息を漏らし、袖に隠れた腕輪へと無意識に触れる。

そこから伝わる淡い魔力の脈動は、彼女をこの場に繋ぎ止める鎖のようでもあり、守る枷のようでもあった。


やがて外へ出ると、夜の空気が頬を撫でた。

仙巌園の裏手、庭石の並ぶ道を抜けると、視界いっぱいに錦江湾の夜景が広がる。

海風は潮の匂いを運び、月光は波頭に銀の筋を描いていた。


その向こう、堂々と聳える桜島の稜線。

黒々とした影を月明かりに浮かべ、山頂からは白い噴煙がゆるやかに立ち昇っている。

生きている大地の呼吸が、静かな夜空へ溶けていく。


ネリーは胸の前で両手を組み、ぽつりと呟いた。

「……随分と雄大ですわね」


異世界の天空に浮かぶ浮島も、竜が舞う空も確かに壮観だった。

けれど、この火山と海の共存する景色には、不思議と心を奪われる力があった。


ふと、心に浮かぶのは一人の少女――ミツキ。

「……どこにいらっしゃるのでしょうか、ミツキさん」


その声は夜風にさらわれ、波音にかき消されていく。

遠く離れた街で、彼女は今、何をしているのだろう。無事でいてくれるのだろうか。


胸の奥にわずかな痛みと、確かな温もりが同居する。

ネリーはそっと微笑み、夜空を仰いだ。

「……また、きっと会えますわよね」


桜島を照らす月明かりが、静かに海面にきらめきを落とす。

その光景は、遠く離れた誰かへと繋がる道標のように思えた。



感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

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