4話、銀狼の人助け
──SNS『DoveCall』/トレンド
#1 #銀狼の影
#3 #秋ヶ原中央アーケード
#6 #屋上ジャンプ
#9 #これは合成か本物か
@akg_watch :秋ヶ原の中央アーケード上空で“なんか”跳んでた。動画バズり中 #銀狼の影
@tokuteihan :看板「NEO-CHIP」「DENKI☆BOX」→秋ヶ原・電気街北ブロックの屋根で確定
@deepanalyzer :露光/影/ブラー一致。スマホ手ブレ込みで破綻少→合成より“撮ってる”
@cosplay警察 :はいはいコスプレ乙
@現場ニキ :今この通りいるけど屋上にマジで人影いた
@オカルト部 :都市伝説“銀狼”再来か?
@通報勢 :通報した
【速報】秋ヶ原に“銀狼の少女”出現【ケモ耳】
1 :名無しの屋根勢:202X/04/09(月) 01:58:32.11 ID:aBcDe12
動画 → https://dovecall.example/xxxxxxxx
耳ぴくってて草w
2 :名無しの現実派:202X/04/09(月) 01:59:10.55 ID:Z9yZ9yZ9
合成だろ
3 :名無しの特定班:202X/04/09(月) 02:00:44.03 ID:T0KuTei
背景看板で位置確定。秋ヶ原電気街北
4 :名無しの通報厨:202X/04/09(月) 02:01:22.64 ID:POLiCe1
通報した(2回目)
5 :名無しの検証勢:202X/04/09(月) 02:03:07.90 ID:NmINeMI
着地で梁が沈む挙動が自然。人間?
6 :名無しのAA民:202X/04/09(月) 02:04:51.28 ID:AAaaAAa
∧_∧
( ・ω・)< 銀狼タソ…
( つ旦O
と_)_)
――――
──朝。高校一年の教室は、新しい匂いがした。
「なぁなぁ、一樹。これ見ろって」
肩越しに差し出された悠真のスマホ。画面で跳ぶのは、白銀の髪と狼の耳――ミツキ。月とネオンを背負い、看板から屋根へ、屋根から梁へ。ぴくり、と耳が動き、尾が呼吸と歩幅に合わせて揺れる。最後、薄く赤みを帯びた瞳がカメラをかすめた。
(……っ! 声、出るな)
喉が跳ねるのを奥歯で噛み潰し、肩をすくめて無関心を装う。
おいおい、何でこんな事なってる。
「……なんだよそれ。撮影か、AIじゃね?」
「合成なら職人芸。ここ、梁に乗った瞬間の沈み込み、ブレと一致してる。……なぁ一樹、こういうの好きだっけ?」
「別に」
悠真の口元は笑っている。
チャイムが鳴り、悠真は「続きはあとで」と席へ戻った。
『深呼吸〜。顔、固い固い。ミツキ、呼吸ー』
(お前のせいだろフェンリル! 何勝手に出歩いてんだ!!てか、何で俺の体を動かせた??)
『えー? しらなぁーい?ミツキが寝たら何か動けちゃった。
夜風あびて“ちょっと”散歩しただけじゃん。健康第一?』
(健康とか言いながら、街中で跳ね回って! おまえのせいで俺の平穏が崩れそうなんだよ!!)
『ふーん? でもさぁ、退屈は悪。刺激は善。常識〜』
(お前の常識で命が縮む!)
教卓の前、担任が出席を取り始める。ざわめく新クラス――一年A組。俺は新しい名札を爪でなぞった。
「ねぇ見た? “銀狼”の動画」
「秋ヶ原らしいね」
「誰なんだろう……ちょっと見たいかも」
小声が流れる中、教室の空気がふっと整った。窓際に座る女子が、立ち上がって前を向いたからだ。黒髪は光を吸い、横顔は静謐。天城いろは――昨日の入学式で、新入生代表のスピーチを務めた子だ。
「……あの子、代表の」
「声、落ち着いてたよな」
「マドンナ確定だろ」
(クールビューティー、ってやつか)
『ミステリアス。嫌いじゃない〜』
(お前の“嫌いじゃない”は信用できない)
休み時間。俺が教科書を揃えていると、斜め前から視線を感じた。顔を上げると、いろはがこちらを一瞬だけ見た……気がして、すぐ窓の外へ視線を戻した。静かな湖面に小石が落ちたみたいに、胸の内に波紋が広がる。
(……どんな子なんだろう)
昼。いろはは騒がず、笑わず、無駄口を叩かない。弁当を丁寧に畳み、席を立つまでの所作も綺麗だ。クラスの中心にいるのに、どこか距離を保っている。
放課後。「ゲーセン寄る?」と悠真。だがスマホの通知を見た瞬間、表情が一度だけ消える。
「悪い、用事。今日は帰る。また明日」肩を軽く叩いて去っていった。
『ふふん。で、夜は――あたしの番♡』
(勝手に出歩くなっての!! 本気で!)
『はいはい、わかったって〜(わかってない)』
――夜。一樹の意識がすとん、と闇に沈む。
銀の光が胸の奥で花開き、黒髪は雪の色にほどけ、白い耳がぴょこんと立ち、尾がふわりと揺れる。身長は縮み、肢体はしなやかな獣人少女――ミツキへ。
「ふふーん……自由時間。昨日は東だったし、今日は西の屋根筋だよね〜。風、機嫌いいじゃん」
窓枠を蹴って夜に溶ける。屋根から屋根へ、梁から梁へ。足音は風より小さく、影より速い。お気に入りの高層ビルの縁に立ち、秋ヶ原のネオンの川を見下ろす。
「飴色、かわよ。ミツキならここで膝ガク〜。にひひ、でもちょっと物足りないなぁ。」
身をひねり、次の屋上へ――その時、下から飛沫のような声。
「やだっ、離して!」
「静かにしてろ」
「写真一枚で済ませてやるからよ」
細い路地。三人に、物陰から二人が加わり、合計五人が半円に広がって黒髪の少女を壁へ追い詰めている。握られた鞄。強張った肩。月光が頬のラインを白く撫でた。
フェンリルはわざと“コツ、コツ”と靴音を響かせて背後から歩く。明かりの縁で止まり、あざとく首をかしげ、上目遣い。
「……おにーさんたちさぁ、なにしてんの〜? それ、モテると思ってんの? だっさ♡」
「はぁ? なんだコスプレのガキは」
「待て。これ昨日の“銀狼”の……だろ」
「お〜、知名度あるじゃん。サインは後でね? にひひ」
一人が苛立って腕を伸ばす――瞬間、時間が薄くなる。音が遠のき、影が伸びる。白がすっと溶け、次に見えた時、男の手は“ほどかれて”空を掴み、本人は片膝。
「……え?」
「握り方、雑。はい次〜」
背後から抱きつこうとした二人目。フェンリルの姿がふっと消え、足首の外側に“コツン”。重心が崩れ、尻もち。三人目の拳は前腕で軌道を撫でられ、肩の線が抜け、そのまま自分で壁にペタン。四人目は踏み出しに足をかけて、転ける瞬間を胸骨の端を指先で“ちょん”。息が勝手に抜けて膝から落ちる。
「な、何なんだこいつ……っ!いったいどうやってこの人数を。」
「見るとこ、間違ってる。拳じゃなくて、腰。音じゃなくて、予備動作。お勉強になった? にひひ」
最後の一人は逃げ腰。フェンリルがそのままスッと近づいて首の後ろを撫でるように殴り意識を奪った。
襟をつまんで路地の端に“整列”。五人とも痛みは最小、動けないだけ。
「はい、おしまいっと。――嬢ちゃん、大丈……」
黒髪の少女が肩で息をして、こちらを見る。
月光で潤んだ瞳が一瞬だけ大きく開いた。次の瞬間、弾ける。
「か、可愛いっ……! 耳、ほんとに生きてる……! 今ぴくって二回、反応がズルい! 跳躍の足首の返し、フレーム単位で綺麗すぎ! 着地音ほぼゼロって何!? 尾の揺れ、歩幅と呼吸に完全同期は反則! はぁ……近くで見ると尊みが強すぎて語彙が……!」
「ちょ、ちょっと待って、あんた息! 距離! 近い近い近い!」
「どうしよう……推し、見つけちゃった……あの、写真――いや違う、名前! 名前なに!? お願い、せめて名前だけでも!」
「おし……って、押すの? 棒で? 文化むず……えーと、名前は――」
対面の屋上で小さな光が瞬いた。スマホのレンズ。こちらを向く“目”。
「撮られてる。ごめん、今日はここまで。
早く家に帰りな。」
「ま、待ってっ! 行かないで……せめて、名前だけでも……!」
伸びた声が夜気に震える。フェンリルはフードの影でウインクをひとつ。
「また今度。ちゃんと会えたら、その時に」
ひらりと屋上へ跳び上がり、風に尾を泳がせる。下の路地では五人がまだ座り込んだまま、状況を理解できずにいた。
ネオンの川を見下ろしながら、ぽつり。
「……なんかさ。ミツキのこと、めちゃくちゃ大好きな“ネリー”みたいじゃん。温度、似てる」
異世界で共に戦っていた仲間の1人を考えながら帰り道を駆ける。
「ミツキ、めんどい未来来るかもね? にひひ」
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