40話 会議
――SID東京支部・作戦会議室。
長机を囲み、数名のエージェントが腰を下ろしていた。
壁際のスクリーンには衛星写真と地図が映し出され、その上には赤いマーカーで「南方山岳地帯」と示されている。蛍光灯の冷たい光が会議室を照らし、重い空気をさらに硬質にしていた。
「それでは――本部からの通達を確認します」
議事を進めるのは、灰色の瞳を持つ女性エージェント・久遠。支部長・鷲津の右腕として会議進行を任されることが多く、この場でも淡々と資料を捌いていた。
「巫女の予言によれば、近日中に“南の山”で異変が発生するとのことです。規模は不明ですが、本部は広域での監視と警戒を決定。各支部に協力体制を要請しました」
スクリーンが切り替わり、九州南部の地図が拡大される。広大な山岳地帯、そして市街地との境界線が赤で塗られていた。
「我々東京支部には――鹿児島支部への応援任務が割り当てられています」
その一言に、会議室の空気が揺れる。遠征任務。それも九州。距離も環境も厳しい。
「だが、全戦力を送るわけにはいかん」
低い声で割って入ったのは支部長・鷲津だ。
「秋ヶ原の監視も継続する必要がある」
久遠が頷き、続ける。
「よって派遣メンバーは――茜隊員、悠真隊員。さらにオペレーター1名、技術班1名、医療班1名を加えたチームを編成します。連城隊員は東京に残り、市内の監視任務を継続してもらいます」
「了解しました」
連城の返答は短い。だがそこに不満はなく、ただ責務を受け止める重みがあった。
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久遠は新たな資料を取り出し、声を低める。
「さて、問題は――ネリー・カーミラの処遇です」
その名が出た瞬間、会議室に再び緊張が走った。
拘束中のヴァンパイアの少女。尋問の場で“銀狼の親友”と名乗り、何度も“ミツキ”の名を口にした異質な存在。
「測定の結果、魔力量は5,000超。安定しているが、人間とは桁が違います。
ランクはSとも言えますが、現状の協力的な姿勢を考慮しAと定めています。」
スクリーンに魔力量のグラフが表示され、鋭い山が突き抜けていた。
連城が机を叩く。
「Aランク相当だと? ふざけんな。あの数値ならS寄りのA、下手すりゃS判定だろう。まともに暴れりゃ部隊が一個潰れる」
「……ですが協力的な態度も確認されています」
冷静に返したのは悠真だった。
「尋問のときも素直に答え、戦闘意志を示さなかった。数字だけで判断するのは危険です」
室内が静まり返る。
茜は黙ったまま机を見つめていた。握りしめた拳はわずかに震えている。前回、自分は力及ばず、仲間を守れなかった。その無力感が言葉を封じていた。
――だからこそ、背負わねばならない。支部長として、生徒会長として。口を開くよりも深く沈黙することで、その決意を抱え込んでいた。
「提案としては――GPS腕輪の常時着用を義務化し、茜隊員の監視下で作戦に同行させる」
久遠が結論を口にする。
「反対意見は?」
鷲津が全員を見渡す。誰も手を挙げなかった。
「……決定だ」
支部長の声が重く響く。
「我々が約束を破れば、向こうがどう出るかは未知数だ。最低限、こちらも約束は守る。それが取引の基本だ」
こうして、ネリー・カーミラがSIDの作戦に同行することが正式に決まった。
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場の緊張を切り替えるように、久遠が次の資料を映した。
「鹿児島支部について説明します。今回、彼らの指揮下で任務に当たります」
スクリーンに映し出されたのは、長身で屈強な男の写真。豪快に笑う顔は威圧感よりも親しみを漂わせていた。
「“必滅の剛剣”の異名を持つ、Sランクエージェント――島津連真」
その名に室内がざわめく。
「……あの連真か」「心強いな」
誰もが畏怖と安心を同時に覚えた。
「彼はSランクの中でも人格者として知られています。豪放磊落で、仲間を守るためなら命を惜しまない男です。今回の作戦では彼の指示を受けて動いてもらいます」
悠真が口を開いた。
「……ひとつ確認していいですか。俺たちはまだ学生でもあります。校外学習と重なった場合、どうするんです?」
久遠はすぐに答えた。
「基本はSID任務を優先。ただし――学校生活も無視できません。悠真、君は常時インカムをつけて連絡を受けられるようにしなさい。昼間は授業に参加して構わないが、夜は鹿児島支部に待機すること」
「……了解です」
悠真は頷いた。
「茜隊員については、生徒会長としての立場を利用します。校外学習の引率という名目で同行。これなら不自然さはないでしょう」
茜は静かに頷いた。その瞳には疲れが宿っていたが、代わりに「背負う者」の決意が揺らぎなく光っていた。
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会議も終盤に差し掛かる。
鷲津が椅子から立ち上がり、場を見渡した。
「以上をもって、今回の会議を終了する。……だが、もう一つあった」
全員の視線が集まる。
「前回のダンジョン攻略報酬をまだ渡していなかったな。技術部が新たな武器を作成した。この後、茜・悠真・連城の三人は必ず顔を出せ」
会議室の空気が一段と引き締まる。
――次なる戦いに備え、彼らに託される“力”が待っている。
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