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39話 天城いろはの思い

買い物パート2つ先に出します

セントラルスクエアのベンチ。

買い物袋を足元に置き、一樹はいまだに戻ってこない悠真を待ちながら、大きく伸びをした。


「……悠真、すぐ帰ってくるって言ってたのにな」


ぽつりと漏らした言葉に、隣に座っていた天城いろはが小さく笑った。


「御影くん、そういうところありますよね。ふらっとどこか行って、寄り道ばっかり」


「だろ? あいつ、落ち着きねーんだよ」

一樹は肩をすくめる。

なんとなく会話が途切れ、二人の間に気まずい沈黙が落ちた。


(……なんか喋らねーと)


頭をひねっていると、いろはの方から口を開いた。


「……鏡くん。少し、変なことを聞いてもいいですか?」


「ん? なんだよ」


「……銀狼について、どう思ってます?」


唐突な問いに、一樹は思わず固まる。

横目でいろはを見ると、彼女は真剣な瞳でこちらを見つめていた。


「な、なんで急に……」


いろはは少し視線を伏せ、そしてぽつりと続けた。


「……御影くんに頼むのは駄目だと思ったんです。

 御影くんのお姉さんが生徒会長ですし……この前はすこし怖かったですし」


一度言葉を切り、まっすぐに一樹を見つめる。


「だから、鏡くんに話そうって決めたんです」


一樹の胸がざわつく。だが、返す言葉が出ない。


「港に……鏡くん、あの時いましたよね昼間」


いろはの声が、さらに鋭く心に刺さる。


「銀狼様が戦っていた夜。――関係があったんじゃないですか?」


「っ……!」

息が詰まる。言い訳を探そうとしても、言葉が喉に引っかかって出てこない。


いろははそこでスマホを取り出し、画面を差し出した。

暗い港で、銀狼がSIDの隊員と戦闘している場面が映っていた。


「……これ、たまたま夜に撮れた映像なんだけど。

ネットに上げたら、すぐ削除されちゃったの」


声は落ち着いているのに、抑えきれない熱がこもっていた。


そして、決定的な一言。


「鏡くんは、本当は……銀狼様のこと、好きなんでしょ?」


「……いや、別に好きと言う訳では……」


一樹は答えに詰まり、視線をそらす。

脳裏でフェンリルの笑い声が響いた。


『にひひっ♪ 好きと言うか本人なのにね、ミツキ~』


いろはは小さく息を整え、真っ直ぐに言葉を続けた。


「……私、銀狼様に助けられたんです。

 あの夜、もし彼女が来てくれなかったら、私はどうなっていたか分からない」


「……」


「だから――恩返しがしたいんです。

 でも、それだけじゃなくて……」


いろはの瞳に強い光が宿る。


「銀狼様のことを“危険だ”とか、“怪物だ”とか、そうやって否定する人がいる。

 そんなの、許せない。だってあの人は誰よりも誰かを救うために戦っているのに」


言葉はまっすぐで、熱を帯びていた。


「好きな存在が、理不尽に否定されるのが許せないんです。

 私は――銀狼様を、この世界のヒーローにしたい」


一樹の心臓が大きく跳ねた。


「だから……もしよかったら、協力してほしい。返事は今じゃなくていいです」


そして微笑みながら付け加える。


「後で……連絡、待ってますから」


ちょうどそのとき――


「おーい! 待たせたな!」

遠くから悠真の声が響き、袋をぶら下げながら駆け寄ってくる。

一樹は慌てて姿勢を直したが、胸の奥に残ったざわめきは消えなかった。


セントラルスクエアでの買い物を終え、悠真といろはと駅前で別れた。

「じゃ、また明日な!」と悠真が手を振り、いろはも微笑みながら「気をつけて帰ってね」と言う。

一樹は曖昧にうなずき、二人と背を向けた。


夕暮れの風は少し涼しく、買い物袋のビニールが小さく鳴る。

(……結局、普通に日用品とキャリーだけで終わったな)

けれど頭の片隅にずっと残っているのは、いろはの言葉だった。


――「銀狼様を、この世界のヒーローにしたい」


胸の奥がざわつく。足取りは軽いはずなのに、靴が重く感じられた。



---


自宅。

玄関に荷物を置き、制服を脱いでシャワーを浴びる。

体の疲れはすぐに流れたのに、心のざわめきは消えない。


リビングに戻ると、ソファの上にキャリーケースを広げて荷物を詰め始めた。

着替え、タオル、日用品。無難なものばかり並べていくが――途中で手が止まる。


「……ミツキの時の服、どうすりゃいいんだ」

頭を抱える。

(さすがに鹿児島で変身なんてしたら終わりだろ……でも、もし何かあったら)


そのとき、脳内に甲高い声が割り込んだ。


『ほらほら~、ミツキ! どうせならオシャレ服も入れとけって! あたしも旅行気分味わいたいんだよね~♪』


「バカ言え。旅行って……お前、出先で変身なんてしたらバレるリスクが上がるんだぞ!」


『にひひっ♪ だって楽しそうじゃん? どうせ不良狩りは下火なんだし~』


「……頼むから大人しくしてくれ」


ため息をつきながらスマホを見やる。

そこに、見慣れない通知がひとつ。


PawTalk――いろはからのメッセージだった。


【銀狼様を、この世界のヒーローにするために――協力していただけますか?】


短い一文に、一樹は深く息を吐いた。


「……もう俺は、平穏に過ごすって決めたんだ」


そう小さく呟き、スマホを伏せようとした瞬間――


『私思うんだけどさ、あんたはもうすでに巻き込んでる可能性があるんだよ?』


頭の奥で、フェンリルの声が鋭く響いた。


「……っ」


『“知らなかったから”って言い訳するんだろ? でもさ……あんたも薄々気づいてるんじゃない?

 あの時の無線ジャックの“い・ろ・は・す”――あれ、天城いろはがやった可能性あるでしょ』


「そんなの、いろはがやった証拠はないだろ」


『でも、あそこまで銀狼――というか、私達に執着して行動する存在なら、可能性はゼロじゃない。

 だって私達がSIDと戦っている動画を撮るほどの行動力でしょ?』


「それは……」


『だったら今後も危険な場所に顔を出すかもしれないよ?』


返す言葉が喉に詰まる。


『もしそこで死んだら? ミツキ、絶対後悔するじゃん。

 だったら最初から“協力するフリ”して監視してた方がよくない?』


一樹は黙り込み、スマホを強く握りしめた。

画面には、未読のメッセージが光り続けている。



感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

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