表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/86

38話 買い物

セントラルスクエア。

ゴールデンウィーク前ということもあって、広いフロアは家族連れや学生で賑わっていた。あちこちから笑い声やBGMが混ざり合い、休日の熱気で空気が少し重い。


「で、何から買うんだっけ?」

悠真が頭の後ろで手を組みながら歩く。


「……キャリーケースだな。家にあるやつ、キャスター壊れて動かねーんだよ」

一樹は少し面倒そうに答えた。


「おぉっと旅行あるある! じゃあ新品デビューだな」

悠真はにやっと笑い、真っ先に売り場へ向かう。


壁一面に色とりどりのキャリーが並び、金属の光沢が照明を反射して眩しい。


「ほらよイツキン!」

悠真が掴んできたのは――どピンク。

「これ似合うんじゃね? 可愛いぞ~?」


「……絶対に選ばねぇ色だろ、それ」

一樹は心底嫌そうな顔をする。


「え、似合わない?」悠真はわざとらしく首をかしげる。

「ま、冗談冗談。……でも目立つのは大事だぜ?」


「その目立ち方は社会的に死ぬ」


そこに、ふわりと柔らかな声が割り込んだ。


「鏡くん、こっちはどう?」


いろはが手を添えていたのは――銀色のキャリー。金属質な輝きが控えめなのに目を引く、落ち着いたデザインだった。


「シルバー……?」

一樹は思わず目を瞬かせる。


「うん。シンプルだし、遠目からでも見分けやすいと思うの。それに……鏡くんらしい色だと思うよ」


「……俺らしく?」

不意に言われ、言葉が喉に詰まった。


悠真が割って入る。

「銀ならさ、他のやつと被らねーし。タグ付け忘れても一発で見つかるぞ? 便利じゃん」


「お前、さっきまでピンク推してたろ」

一樹がジト目を向けるが、“被らない”というのは確かに無視できない。


「……まぁ、悪くはねぇけど」

黒キャリーを棚に戻し、渋々銀のキャリーを手に取った。


「目印はどうする?」悠真がキャリーを覗き込む。


「……家にある人形でもつけるわ」


「人形?」

「……狼のぬいぐるみ。いつの間にか部屋にあったやつ」


(そういやあれ、フェンリルが得意げに持ってきてたな……)

一樹が思い返した瞬間、頭の奥に声が響く。


『にひひっ♪ 知らない奴が勝手に取ってくれたんだよー。ラッキーじゃん?』


(……余計に怪しいだろそれ。絶対なんかやったな)


キャリーを選び終えると、いろはが小さく手を挙げた。

「ごめんね、私ちょっと見たいものあるから……少し行ってくるね」


にこやかにそう告げ、手提げを抱えたまま足早にレディースフロアへ消えていった。


「……女子は大変だな」

一樹がぽつりと呟くと、悠真がニヤニヤしながら肘で小突いてきた。


「下着だろ下着。わざわざ言うわけないじゃん」


「声に出すな馬鹿!」

周囲に聞こえたらどうするんだと慌てて睨む。


悠真は肩をすくめ、「じゃ、俺らは俺らでパジャマとかタオル見に行こうぜ」と気楽に歩き出した。


悠真はにやにや笑いながら、パジャマ売り場のハンガーを物色していた。

「なぁイツキン、これどうよ? ピンクのハート柄! インパクト大だぞ?」


「着るか!」


「じゃあこっちは? 全身ヒョウ柄! 絶対ウケるって。お前が着れば芸能人デビュー!」


「なれるか!」


「ほら、文化祭の一発芸に使えるって!」


「俺は芸人じゃねぇ!」


売り場に響くやり取りに、近くの親子連れがクスクスと笑いを漏らしていく。

一樹は耳まで赤くしながら、無難な黒のパジャマを手に取った。


「……俺はこれでいい」


悠真は肩をすくめつつも笑いを隠せない。

「つまんねーやつ。でもそういうとこ嫌いじゃないけどな」


その時、悠真が手をポンと打った。

「――あ! そうだ、必要なもん思い出した!」


「は? 急にどうした」


「姉ちゃんに頼まれてたのがあったんだわ。……悪ぃ、ちょっと行ってくる!」


「おいおい……」


悠真は手を振って人混みに消えていった。


静かなベンチに腰を下ろすと、頭の奥から声が飛んできた。


『ミツキぃ~! 入ろうよ入ろうよ! あの店! わたしもこの世界の服ほしいんだってば!』


「バカ言え。俺が女子服売り場でウロウロしてみろ、社会的に死ぬわ」


『ちぇー……。じゃあミツキが着てくれればいいじゃん。絶対似合うって!』


「着るか!!」


素通りしながら必死にツッコむ一樹。だがフェンリルは諦めない。


『いいなぁ……。あの短パン可愛い……。ほしい……ほしい……』


「駄々こねるな! 大体耳と尻尾どうやって隠す気だよ」


『じゃあさ、そのスマホで買えるんでしょ? ねぇねぇ、見せて見せて!』


「……さっきからうるせぇ。そんなもん買ってどうするんだよ」


『見せろって! スマホなら誰にも見られないじゃん! ほら!』


ため息を吐き、しぶしぶスマホを開く。


「……ちょっとだけだぞ」


画面をスワイプする指。フェンリルの声が弾む。


『おっ♪ これこれ! キャミソール! 布少なっ! 絶対わたしに似合うって!』


「無理だ。耳と尻尾出してそんな格好で歩いたら、即SIDに連行だ」


『じゃあこの背中ざっくり空いてるドレス! 髪と尻尾が映えるでしょ!』


「映えてどうすんだよ!」


『ちぇっ……。あ、これ! 黒パーカーにショートパンツ! ゲーセン行くときピッタリじゃん!』


「勝手に行くなって言っただろ!」


フェンリルはにひひっと笑い、悪戯っぽく言い放つ。


『……だからミツキはモテないんだよ。センスねぇ~』


「うるせぇわ!」

一樹は思わず声を荒げ、通行人が驚いて振り返る。


「……鏡くん?」


振り向けば、袋を抱えたいろはが立っていた。不思議そうにこちらを見つめている。


「な、なんでもねぇ!」

一樹は慌ててスマホを閉じ、真っ赤な顔を隠すように背もたれに沈み込んだ。



---

感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ