36話 何してんねん
チャイムが鳴り終わると同時に、教室の空気は一気に緩んだ。
机を片付ける音や「遊び行こー!」なんて声が飛び交い、連休前らしい浮かれたムードが広がっている。
「よーし、イツキン!」
悠真が椅子を半回転させて振り向き、にかっと笑った。
「明日さ、ショッピングセンター行こうぜ! 旅行の買い物!」
「……旅行?」
一樹は片眉を上げる。
「校外学習だよ校外学習。しおりに“必要な持ち物は各自準備”って書いてあったろ? せっかくだからデカいとこ行って、一気に揃えたほうが早いじゃん」
「……別に近場でよくないか」
「はぁ? お前のそういうとこつまんねーんだよ。どうせなら映画館もゲーセンもある“セントラルスクエア”に決まってんだろ!」
一樹が首を傾げる。
「あそこ……通行止めになってなかったか?」
「何言ってんのイツキン。一週間前に解除されたじゃん。ニュースとか見てないの?」
「俺はテレビはあんまり興味ないんだよな。アニメかCultly見るか、ゲームしてるかだな」
悠真が呆れ顔で肩をすくめる。
「……現代っ子だねぇ」
「お前も同い年だろ!」
くだらないやり取りに、天城いろはが小さく笑った。
「もしよかったら……私も、ご一緒してもいい?」
一瞬、悠真が「おっ」と目を輝かせる。
「もちろん! な、イツキン?」
「……何で俺に振るんだよ」
一樹は机に突っ伏したくなる気分を堪えながら答える。
こうして、明日――セントラルスクエア行きが決まってしまった。
「そうだ」悠真がポンと手を打つ。
「せっかく同じ班なんだし、連絡先交換しとこうぜ。俺とイツキンはもう繋がってるから……天城さん、Portalkやってる?」
「うん。やってるよ」
いろははスマホを取り出し、すぐに操作する。
数秒後――ピロン、と一樹のスマホが震えた。
画面には【天城いろは】の名前が新しく追加されている。
「これで安心だね」
いろはが柔らかく微笑む。
(……クラスの人気者と連絡先交換とか、場違いすぎだろ俺)
一樹は内心でため息をついた。
「じゃあさ、集合は……セントラルスクエアの入口で、朝の11時くらいでいいな?」
悠真が指を立てる。
「……了解」
一樹がうなずくと、いろはも「わかりました」と頷いた。
「よし決まり! じゃ、イツキン、帰ろうぜ」
悠真が鞄を肩にかけて立ち上がる。
「天城さんは?」
一樹が問いかけると、いろはは小さく笑みを浮かべて答えた。
「私も……正門までご一緒していい?」
「もちろん!」悠真が即答する。
三人並んで教室を出る。
連休前のざわめきに包まれた校舎を抜け、夕暮れに染まる廊下を歩きながら――一樹はほんの少しだけ、これも“平穏”の一部なのかもしれないと思った。
――
帰宅してしばらく部屋でのんびりしたあと飯を食べ、直ぐに風呂。いつもの平和な日常に満足し、濡れた髪をタオルで拭きながらベッドに腰を落とす。
「……明日、悠真が11時にセントラルスクエア集合、とか言ってたけ?」
悠真といろはの顔が頭に浮かぶ。思い返してちょっとだけため息。
布団に転がり、スマホを取り出す。画面をスワイプして開いたのは、いつものオカルト掲示板だった。
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【秋ヶ原都市伝説スレ 17】
1 名前:名無しさん
昨日セントラルスクエア辺りで“謎の美人”見た奴いる?
2 名前:名無しさん
紫髪ロングで日傘差してた子だろ? モデル並みにスタイル良かった。
3 名前:名無しさん
俺も見た。あれ絶対外人だわ。顔が彫刻みたいだった。
4 名前:名無しさん
でも喋ってる言葉が全然わかんなかったぞ。英語ですらない。
5 名前:名無しさん
異世界語きたwwwww
6 名前:名無しさん
声かけたけど全く通じなくて詰んだわ。ナンパ人生で初めて「言語の壁」で撃沈www
7 名前:名無しさん
草wwwwwwwwww
8 名前:名無しさん
盗撮っぽい画像上がってたけど秒で消されてたな。SID案件か?
9 名前:名無しさん
SIDとか陰謀論厨乙www
流石にプライバシーの侵害だろ。
10 名前:名無しさん
でもガチで綺麗だったのは確か。あんなの秋ヶ原にいたらすぐ噂になる。
11 名前:名無しさん
最近“銀狼”の話題減ったのに、今度は謎の美人かよ。オカルト供給多すぎw
12 名前:名無しさん
そういや銀狼って最近どうしてんの?
13 名前:名無しさん
暴行事件なくなったしなww 平和平和www
14 名前:名無しさん
逆にアイツ、ただ不良狩りしてただけ説w
15 名前:名無しさん
……と思ったら、昨日ゲーセンで見たんだがw
16 名前:名無しさん
は???
17 名前:名無しさん
証拠は??ww
18 名前:名無しさん
ほら(※画像添付)
→黒パーカーに紺の短パン姿で、格ゲー筐体に座る銀狼の後ろ姿
19 名前:名無しさん
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
20 名前:名無しさん
なんで格ゲーやってんだよアイツwwwww
21 名前:名無しさん
「暴行事件がなくなったと思ったら、ゲーム事件始まってて草」
22 名前:名無しさん
しかもパーカー姿かよ、完全に本人で笑う。
23 名前:名無しさん
秋ヶ原の平和は今ゲーセンで守られている(物理)www
「…………」
俺はスマホを握りしめ、思わず叫んだ。
「何してんだおまえぇぇぇ!!」
頭の奥から、あの甲高い声が響く。
『あ? バレちゃった? にひひっ♪』
「にひひっ♪じゃねぇ!!なんでゲーセンなんか行ってんだよ!」
『だってさー、最近の不良、わたしの顔見ると速攻で逃げんだもん。ザコばっかでつまんないんだもん。』
「……おまえがやりすぎるからだろ!」
『だからさ、代わりに格ゲーやってみたの。おもしろかったよ? あんたと悠真がさ、やってたでしょ? それを思い出してさ。』
「おもしろかったじゃねぇ! 筐体壊すんじゃねぇぞ!」
『あー……うんダイジョウブ。』
「おい……何した」
『えへへっ☆ ちょっとパンチマシーン殴ったらさぁ、ヒビ入っちゃってさ。まぁ大丈夫大丈夫~♪』
「それは壊れて当たり前だろ!!」
『にひひっ♪ でもさぁ、喧嘩するよりマシじゃん? 秋ヶ原も平和平和、ってやつでしょ?』
「………………」
俺は布団に突っ伏し、頭を抱えた。
(……俺の平穏、返してくれ)
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