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30話 決着

魔素と冷気が交錯する戦場。

カーティスの両手に握られた蒼い双青竜刀が、残光を幾重にも走らせる。

斬撃は波となり、床も壁も容赦なく抉り取った。


銀狼――ミツキは必死に受け流すが、肩や腕に浅い傷が刻まれていく。

氷の鎧は削ぎ落とされ、肌を刺すような切創が赤い筋を描いた。


「っ……クソ、速ぇ……!」


カーティスの攻めは暗器の域を超え、双剣の緩急が自在に変化する。

一撃ごとに重さが変わり、目に見える全ての動きが“死”へと繋がっていた。


(……50%じゃ、押し返せねぇ)


肺の奥で練った冷気が外へ漏れ、足元の氷も崩れる。

攻防を続ければ続けるほど、力の差が広がっていく。


カーティスが余裕の笑みを浮かべた。


「どうしました? その程度では、わたくしの“試し斬り”にすらなりませんよ」


挑発を受け、ミツキは舌打ちする。


「……やっぱ抑えすぎか。しゃあねぇ……少し上げるぞ」


――ゴッ。

心臓が鳴動し、白銀の冷気が爆ぜた。

足元の床を一瞬で凍らせ、氷晶の連鎖が広がっていく。


蒼白の光が身体を覆い、圧が戦場に走った。

魔素すら押し返す、異質の“力”。


「身体強化――80%」


その言葉と同時に、空気が変わる。

静かに立っているだけで、獣の気迫が全てを呑み込む。


背後で観戦していたフェンリルが、無邪気に口笛を吹いた。


「おおっ、やっとやる気じゃん! にひひっ、いいぞミツキ! その調子でぶっ飛ばせぇ!」


カーティスのサングラスの奥の目が細められる。


「……ふむ。さっきまでとは明らかに違いますな。まるで別人のようだ」


「別人? ……ああ、間違ってねぇな」

ミツキは白銀の尾を揺らし、冷たい笑みを浮かべる。


「ここからは、“狩る側”だ」


――カァンッ!!


蒼い刃と氷纏う拳が正面でぶつかり合った。

甲高い衝突音が耳を裂き、衝撃で周囲の氷と瓦礫が弾き飛ぶ。


拳の皮膚が裂け、カーティスの刃先にもヒビが走った。

互いに即死級の一撃。だが、どちらも退かない。


(……っ。速ぇ……! 剣筋が見えねぇのに、身体が勝手に動く……!)


ミツキは肩で息をしながらも、さらに一歩踏み込む。

氷晶が足元で砕け、霜が弾丸のように飛び散った。


「くははっ! いい。そうでなくては!」

カーティスの口元が吊り上がる。

双青竜刀を交差させ、氷拳の連打を受け流し、火花と冷気が交互に弾け飛ぶ。


――ガキィン! ギャリィィンッ!!


拳と刃が重なるたびに、空間が軋む。

音が遅れて聞こえるほど、動きは速い。


フェンリルが氷片の観客席から、笑いながら叫ぶ。

「にひひっ! いいねぇその顔! あんたも、そっちの蛇野郎も! 必死すぎて笑えるわ!」


――ヒュッ。


刃が右頬を掠めた。

熱い線が走り、血が霜に滲む。

一歩遅れれば、首ごと持っていかれていた。


「……っざけんな……!」

ミツキが反射でカウンターの膝蹴りを放つ。


ゴガァッ!!

膝と剣が噛み合い、火花と氷片が爆ぜた。


「惜しい」

カーティスの声が低く漏れる。

受け止めていなければ、腹を貫かれていただろう。


互いに読み合いは極限。

片目の動き、肩の揺れ、呼吸のリズム――その全てが次の一撃に直結する。


(……外せない。1手外したら……致命傷は俺だ)


ミツキの喉が上下し、冷気と血の匂いが混じる。

だが口元は、獲物を前にした獣のように笑みを浮かべていた。


「来いよ……カーティス」


その挑発に、蛇のごとき瞳が細められる。


「望むところだ、銀狼」


――ドガァァァンッ!!

衝突と共に、戦場全体が閃光に包まれた。



蒼い双竜刀を構えるカーティスは、先ほどまでの余裕を完全に捨て、殺意を剥き出しにしていた。


対するミツキは、白銀の尾を揺らしながら深く息を吐く。

80%の身体強化でも限界に近い。だが――胸の奥で熱が疼いていた。


(……悪かったな、カーティス。俺はずっとお前を侮っていた。けど、おまえは本気で来た。

なら、俺もそれに応えるだけだ)


氷を纏った瞳が鋭く光る。

フェンリルが脳内でにひひっと笑った。


「お、ついにやっちゃう? いいじゃんいいじゃん! やっとだよ、ミツキ!」


「――本気を見せたおまえに、敬意を示してやる。」


一歩前に踏み出す。床が砕け、冷気が一気に溢れ出す。

白銀の髪が舞い、瞳がさらに輝きを増す。


「……俺も、自身で出来る100%でやってやるよ。」


圧倒的な気配に、カーティスの喉がひくりと動いた。


「殺しても……文句言うなよ」


宣告と同時に、戦場全体が爆ぜるように白銀の冷気で覆い尽くされた――。



 ……空気が、変わった。


 さっきまでの銀狼は、ただ速く、ただ鋭いだけだった。

 だが今――目の前に立つその影は、まるで“捕食者”そのもの。

 白銀の毛並みが揺れるたび、空気が凍り、肺の奥に冷気が突き刺さる。


 呼吸をするだけで喉が焼けるようだ。

 魔素を押し返すほどの冷気が、ゆっくりと、だが確実に戦場を支配していく。


(……なんだ、この圧……。これまでの斬り合いとはまるで別物……!

いったいこの化物の底は何処まであるんだ!)


 額に汗がにじむ。

 青竜刀を構えても、恐怖心が消えない。

その恐怖心を払拭するべく私は先手を打った。

普段ならこんな事をするはずの無い私が。


 振り抜いたはずの斬撃は、ほんの首の傾きだけで空を切った。

 狙いを変え、死角から喉を裂こうと突き出す。

 確かな手応えが来る――はずだった。


 だが、次の瞬間。

 刀身が進まない。銀狼の小さな指先に掴まれ、動きを封じられていた。


「な……っ!?」


 力を込めても抜けない。

 刃が軋みを上げ、火花と冷気が迸る、銀狼の触れた場所から徐々に刀身が氷に包まれていく。

凍りつくのを恐れすぐさま、青竜刀を捨て慌てて距離を取る。

銀狼はその青竜刀を最後まで凍らせそのまま捨てた。


 白銀の瞳はただこちらを射抜き、表情ひとつ変えない。


 呼吸が乱れる。

 周囲の魔素が、銀狼の周りだけ拒むように避ける。


 まるで散歩するような緩慢な動作。

 だが、その一手一手が確実に“死”を拒む圧倒的な壁だった。


(……馬鹿な。私の攻撃を――まるで児戯かのように……!)



氷漬けにされ砕かれた一本の青竜刀が、床に虚しく転がっている。

 残るは片方――それでもカーティスの瞳は燃えていた。


「……フン、蛇に牙は二本要らぬ。残る一つで十分だ」


 深く息を吐き、残された蒼い刃に魔素を注ぎ込む。

 刀身が赤黒い光脈を走らせ、唸るように振動した。


「――《蒼蛇・断滅牙》!

しねぇぇぇぇえええええええ!!!!」


 残った青竜刀が奔流のように振り抜かれる。

 自身の魔力と蒼光が渦を巻き、獲物を呑み砕く蛇の顎のように迫った。


 しかし。


「……見切った」


 白銀の狼は一歩も動かず、氷の指で刃を掴み止める。

 ギィィィッ!! 火花と冷気が散り、刀身が悲鳴を上げた。


「な……に……っ!?」


 抵抗する間もなく――

 氷が一気に刃全体を侵食し、青竜刀はたちまち凍りついた。


 ミツキの拳が、刃ごとカーティスを叩き飛ばす。


 ――ドガァァァンッ!!


 そのまま壁に激突し、衝撃で空間全体が震えた。

 砕けた青竜刀は粉雪のように散り、最後の武器を失ったカーティスは血を吐いて崩れ落ちる。


「……これで終わりだ。」


 銀狼の氷の拳がゆっくりと振り下ろされ、トドメをさしにくる。

 だが拳先が、彼の額すれすれで止まった。


「……トドメは刺さねぇ。

お前には聞かねぇといけねぇことが、山ほどあるからな。」


 白銀の瞳が、冷たくも揺るぎない光を放つ。

 

 カーティスは血に濡れた唇を吊り上げ、乾いた笑いを零す。


「……やはり……そう来ますか……。

だが、それは甘い!!」


足払いを銀狼は危なげものく避け、その隙に距離を取った。

 最後の一振りを失った彼は、自ら地に手をつき、崩れゆく虚空を見上げる。


「……今止めを刺さなかった事を……後悔するがいい。」


 突如空間が避け始め、地面に崩壊が訪れた。

銀狼と私の場所がヒビがはしり、たちまち崩れ去る。



 私はふらつきながらもその縁に立ち、最後に振り返る。


「……見事でした、銀狼。――ゆえに、ここは引きましょう。」


 笑みを浮かべたまま、私は虚空へと身を投げた。


「待てっ……!」


 ミツキの声は届かない。


 次の瞬間、星の狭間そのものが大きな地震と共に崩れ始めた。


 天と地が反転し、足元の大地が崩れ落ちる。

 光と闇が混ざり合い、すべてを呑み込む渦と化していく。


「ミツキ! もう戻るぞ! ここに長居したら巻き込まれる!」


 フェンリルの声に我へと返り、ミツキは裂け目を駆け抜ける。

 背後で、カーティスの姿は二度と見えなかった。


 ――そして。


閃光と共に現実へと舞い戻った瞬間、背後で星の狭間が音もなく潰えた。


 残されたのは沈黙だけ。


感想がありましたらぜひよろしくお願いします。


誤字脱字や設定がおかしいなど些細なことでも書いていただけたら嬉しいです

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